スヴィンフィルキングとは?オーディンが授けた「猪の陣形」をわかりやすく解説

神話・歴史・文化

「猪の鼻先」という名前の戦術を知っていますか?

ヴァイキングが敵の防御を食い破るために使った恐ろしい陣形——それがスヴィンフィルキングです。
上空から見ると、まるで猪が突進してくるような形をしていたことからこの名前がつきました。

この記事では、北欧神話の主神オーディンが考案したとされるスヴィンフィルキングについて、その仕組みや歴史的背景をわかりやすく解説します。


スポンサーリンク

スヴィンフィルキングの基本情報

スヴィンフィルキング(Svinfylking)は、ヴァイキング時代のスカンディナビアで使われた戦闘陣形です。
日本語では「猪陣形」や「楔形陣」と呼ばれることもあります。

項目内容
名前スヴィンフィルキング(Svinfylking)
意味「豚の陣形」「猪の鼻先」
使用時代鉄器時代〜ヴァイキング時代(8〜11世紀)
使用民族ヴァイキング、ゲルマン民族
別名シュヴァインスコップフ(独)、カプト・ポルキヌム(羅)
考案者主神オーディン(伝承)

名前の意味|なぜ「猪」なのか

「スヴィンフィルキング」という言葉は、古ノルド語の2つの単語から成り立っています。

svín(スヴィーン)= 豚、猪
fylking(フィルキング)= 陣形、軍勢

直訳すると「猪の陣形」。
英語では「Swine Array(豚の配列)」や「Boar Snout(猪の鼻先)」と訳されます。

興味深いことに、ローマ人もこの陣形を知っていました。
ラテン語では「caput porcinum(カプト・ポルキヌム)」、つまり「猪の頭」と呼んでいたのです。
ゲルマン人がローマ帝国と戦った時代から、この陣形は恐れられていたことがわかります。


陣形の仕組み|どうやって敵を突破するのか

スヴィンフィルキングは、三角形(または楔形)の陣形です。
上から見ると、猪の鼻先のように先端が尖った形をしています。

基本構造

先端には1〜2人の最強の戦士が立ち、後ろに行くほど人数が増えていきます。

    ▲ ← 先端:最強の重装戦士2名
   ▲▲▲
  ▲▲▲▲▲
 ▲▲▲▲▲▲▲ ← 後方:軽装の弓兵など
▲▲▲▲▲▲▲▲▲

12世紀のデンマークの歴史家サクソ・グラマティクスは、著書『デンマーク人の事績(ゲスタ・ダノールム)』の中で2種類のスヴィンフィルキングを記録しています。
一つは先頭2人から始まり各列が2倍に増える浅い楔形、もう一つは10列の深い楔形で、先頭2人、各列2人ずつ増え、最終的に110人で構成されるものでした。

戦い方

戦士たちは盾を組み合わせて楔を形成し、敵陣に向かって一気に突進します。
先端部分で敵の盾の壁を切り裂き、そこから後続の戦士がなだれ込んで敵陣を分断するのです。

まさに「怒り狂った猪の突進」。
13世紀のノルウェーの文献『王の鏡(Konungs skuggsjá)』には、この陣形が王の親衛隊によって敵陣を突破するために使われたと記されています。


オーディンとの関係|神が授けた戦術

北欧の伝承によると、スヴィンフィルキングを考案したのは主神オーディンだとされています。

オーディンは戦争と知恵の神。
戦士たちに勝利をもたらす戦術を授けるのは、彼にふさわしい役割でした。

ヴァイキングたちは、この神聖な陣形で戦うことで、オーディンの加護を受けられると信じていたのかもしれません。
戦場で死んだ勇敢な戦士は、オーディンの宮殿ヴァルハラに迎え入れられるという信仰も、彼らの士気を支えていました。


猪と北欧神話|なぜ猪が戦のシンボルなのか

スヴィンフィルキングに「猪」の名前がつけられたのは、単に形が似ているからだけではありません。
北欧神話において、猪は非常に神聖な動物でした。

フレイの黄金の猪グリンブルスティ

豊穣と平和の神フレイは、グリンブルスティ(黄金のたてがみ) という名の猪を所有していました。
この猪は空と海を駆け、どんな闇の中でも黄金のたてがみが輝いて道を照らしたといいます。

『散文のエッダ』によると、グリンブルスティはドワーフの名工ブロックとエイトリによって鍛造されました。
フレイは光の神バルドルの葬儀に、この黄金の猪に乗って参列したとされています。

フレイヤの猪ヒルディスヴィーニ

フレイの双子の姉妹フレイヤもまた、ヒルディスヴィーニ(戦いの猪) という猪を持っていました。
その名の通り、戦いと結びついた存在です。

戦士の守護者としての猪

ヴァイキング時代のスカンディナビアでは、猪は勇気、力強さ、そして戦いにおける神の加護の象徴でした。
アングロサクソンの戦士たちは、実際に猪をかたどった紋章を兜につけていました。

イギリスで発見された7世紀の「ベンティ・グランジの兜」には、頂上に猪の像が載っています。
有名な「サットン・フーの兜」にも、眉の両端に猪の頭が装飾されていました。

古英語の叙事詩『ベオウルフ』には、こんな一節があります。

「彼らの頬当ての上で猪の像が輝いていた」

戦士たちは猪の力を身にまとうことで、戦場での勝利と生還を祈っていたのです。


強みと弱点|最強の突破力と致命的な欠陥

スヴィンフィルキングは非常に強力な攻撃陣形でしたが、同時に大きな弱点も抱えていました。

強み

圧倒的な突破力
先端に戦力を集中させることで、敵の盾の壁を一点突破できました。
いったん穴が開けば、後続の戦士がなだれ込んで敵陣を崩壊させることが可能です。

騎兵への対抗
突撃してくる騎兵に対しても効果的でした。
外側の戦士たちが槍で馬を攻撃し、騎兵隊を混乱に陥れることができたのです。

複数配置による圧力
複数のスヴィンフィルキングを横に並べてジグザグ状の前線を形成し、敵に広範囲の圧力をかけることも可能でした。

心理的効果
突進してくる楔形陣は、まさに怒り狂った猪の群れ。
敵の士気を挫く心理的な効果もあったと考えられています。

弱点

側面攻撃に弱い
これがスヴィンフィルキング最大の弱点でした。
先端に戦力を集中させるため、側面の防御が手薄になります。
敵に回り込まれると、一気に陣形が崩壊する危険がありました。

持続力がない
この陣形は「一撃必殺」が前提です。
最初の突撃で敵陣を突破できなければ、戦士たちは体力を消耗し、陣形を維持できなくなりました。
長期戦には向かない戦術だったのです。

高度な訓練が必要
楔形を維持しながら突進するには、戦士たちの間に強い信頼と連携が必要でした。
同じ一族や血縁者が横に並んで戦うことで、士気と結束力を保っていたとされています。


歴史的背景|ゲルマン民族からヴァイキングへ

スヴィンフィルキングはヴァイキングの専売特許ではありません。
その起源はさらに古く、ローマ帝国と戦ったゲルマン民族にまで遡ります。

ローマとの戦い

ローマの歴史家タキトゥスは、著書『ゲルマニア』の中でゲルマン民族の戦い方を記録しています。
彼らは「クネウス(楔)」と呼ばれる陣形で突撃し、「バリトゥス」という雄叫びを上げながら戦ったと伝えられています。

その雄叫びは最初はくぐもった唸りから始まり、戦いが激しくなるにつれて岩に打ち付ける波のような轟音に膨れ上がったそうです。

ヴァイキング時代

8世紀から11世紀のヴァイキング時代には、スヴィンフィルキングは陸戦における主要な攻撃戦術として確立されていました。
特に敵の「盾の壁(シールドウォール)」を突破する際に重宝されました。

中世以降

楔形陣形はヴァイキング時代以降も使われ続けました。
中世ヨーロッパでは、フランドルやスイスの歩兵、ドイツの騎兵が同様の陣形を採用しています。

1450年のピレンロイトの戦いでは、両軍が楔形陣を採用して激突したという記録も残っています。


現代への影響|ゲームや創作作品での登場

スヴィンフィルキングは、現代のゲームや創作作品でもヴァイキング文化の象徴として登場します。

戦略ゲーム『Total War』シリーズでは、ヴァイキング軍が使用可能な陣形の一つとして再現されています。
ドラマ『ヴァイキング ~海の覇者たち~』やNetflixの『ヴァイキング ~ヴァルハラ~』でも、ヴァイキングの戦術として描かれることがあります。

北欧神話を題材にしたゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズや『アサシン クリード ヴァルハラ』でも、ヴァイキングの戦いの文化は重要な要素として描かれています。


まとめ

スヴィンフィルキングについてのポイントをおさらいしましょう。

  • スヴィンフィルキングは古ノルド語で「猪の陣形」を意味する
  • 三角形の楔形陣で、先端に最強の戦士を配置して敵陣を突破する
  • 伝承では主神オーディンが考案したとされる
  • 北欧神話では猪は神聖な動物で、豊穣神フレイの黄金の猪グリンブルスティが有名
  • 最大の強みは圧倒的な突破力、最大の弱点は側面攻撃への脆さ
  • ゲルマン民族の時代からヴァイキング時代、中世まで長く使われた

猪のように獰猛で、一点突破に命をかける——スヴィンフィルキングには、ヴァイキングたちの戦いに対する哲学が詰まっています。
「勝つか死ぬか」という覚悟を持った戦士たちだからこそ、この陣形は恐れられたのでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました