羽民とは?中国神話に登場する「翼を持つ人々」の正体と伝承

神話・歴史・文化

全身に羽毛が生え、卵から生まれ、空を飛ぶことができる——そんな不思議な人々がいると聞いたら、あなたはどう思いますか?

中国神話には「羽民(うみん)」という謎めいた種族が登場します。
彼らは人間のような姿をしながら、鳥のような特徴を持つ存在として古くから語り継がれてきました。

この記事では、羽民の姿や伝承、そして日本文化への影響までをわかりやすく解説します。


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羽民とは?基本情報をチェック

羽民は、古代中国の伝説に登場する「伝説上の人種」です。
読み方は「うみん」「はみん」のほか、中国語読みで「イュイミン(羽民・Yǔmín)」とも呼ばれます。

彼らが初めて登場するのは、古代中国の地理書『山海経(せんがいきょう)』。
この書物は紀元前4世紀頃から漢代にかけて編纂されたとされ、世界各地の不思議な国や生き物を記録した「古代のモンスター図鑑」のような存在です。

『山海経』の「海外南経」と「大荒南経」には、羽民が暮らす「羽民国」についての記述があり、ここから羽民の伝承が広まっていきました。


羽民の姿と特徴

羽民の外見は、時代や文献によって少しずつ異なります。
主な特徴をまとめると、こんな感じです。

『山海経』に書かれた羽民

『山海経』では、羽民について「人間の姿をしているが、体に羽毛が生えている」と記されています。
シンプルな描写ですが、「人間+羽毛」という基本的なイメージはここから始まりました。

『三才図会』に書かれた羽民

明代(1607年)に編纂された類書『三才図会』では、羽民の姿がより詳しく描かれています。

  • 鳥のようなくちばしを持つ
  • 赤い眼をしている
  • 白い髪が生えている
  • 体全体に羽毛が生えている
  • 背中に翼がある

さらに面白いのが「飛行能力」について。
羽民は空を飛ぶことができるのですが、長距離を飛ぶことはできないとされています。
ペンギンが飛べないように、羽民の翼もあまり実用的ではなかったのかもしれませんね。

卵から生まれる?

『三才図会』のもう一つの驚きは、「羽民は卵から生まれる」という記述です。
人間と鳥の中間のような存在だからこそ、卵生という設定が生まれたのでしょう。

頭が長い?

ちょっとユニークな設定もあります。
『鏡花縁』という清代の小説では、羽民は「頭が長い」と描写されています。
しかもその理由が、人からおだてられるとどんどん頭が伸びていくから、というもの。

「調子に乗ると頭がデカくなる」という、なんとも皮肉の効いた設定ですね。


羽民国はどこにある?

羽民が暮らす「羽民国」は、古代中国の世界観では南方の果てに位置するとされていました。

『山海経』によると、羽民国は「結匈国(けっきょうこく)」という国の東南にあるといいます。
結匈国は胸が窪んでいる人々が住む国で、羽民国と同じく「海外三十六国」の一つに数えられています。

海外三十六国とは、『淮南子(えなんじ)』に記された36の異国のこと。
どれも奇妙な特徴を持つ人々が住む国で、古代中国人が想像した「世界の果てにある不思議な国々」です。

羽民国はこの中でも、空を飛べる住人がいるという点で特にファンタジー色が強い国といえるでしょう。


羽民と仙人の関係

実は、羽民には「仙人」との深いつながりがあります。

中国語で「羽人(うじん・Yǔrén)」という言葉は、羽民を指すだけでなく、道教の仙人を意味する言葉としても使われてきました。

漢代(紀元前206年〜紀元220年)の墓の壁画や石像には、翼を持つ仙人の姿が多く描かれています。
仙人は不老不死の存在であり、天界を自由に飛び回れると考えられていたため、「翼を持つ」というイメージが定着したのです。

また、道教では仙人になることを「羽化(うか)」と呼びます。
文字通り「羽が生えて変身する」という意味で、羽民の伝承と仙人信仰が密接に結びついていたことがわかります。

つまり、羽民は単なる空想上の種族ではなく、「仙人になった人間の姿」を象徴する存在だったのかもしれません。


日本における羽民

羽民の伝承は、海を渡って日本にも伝わりました。

『和漢三才図会』への収録

江戸時代中期(1712年)に編纂された『和漢三才図会』は、日本初の図入り百科事典として知られています。
この書物は中国の『三才図会』を参考にしており、羽民についても図解付きで紹介されています。

大坂の医師・寺島良安が30年以上かけて編纂したこの百科事典により、羽民の存在は江戸時代の日本人にも広く知られるようになりました。

奈良絵本『異国物語』

奈良絵本とは、室町時代から江戸時代にかけて作られた絵入りの物語本のこと。
『異国物語』という作品には、羽民を含むさまざまな異国の人々が描かれており、当時の日本人が「外の世界」にどんなイメージを持っていたかがわかる貴重な資料となっています。

河鍋暁斎『朝比奈三郎絵巻』

幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師・河鍋暁斎は、1868年頃に『朝比奈三郎絵巻』という作品を描きました。

朝比奈三郎義秀は鎌倉時代の武将で、怪力伝説で知られる人物。
この絵巻では、朝比奈三郎が旅の途中でさまざまな異国の人々と出会う様子が描かれており、その中に羽民も登場しています。

男性の羽民だけでなく、赤ん坊を抱いた女性の羽民も描かれているのが特徴的です。


羽民の一覧表

項目内容
読み方うみん、はみん、イュイミン
出典『山海経』海外南経・大荒南経
分類伝説上の人種(海外三十六国の一つ)
住処羽民国(南方の結匈国の東南)
外見人間の姿+全身の羽毛、鳥のくちばし、赤い眼、白髪
特殊能力短距離の飛行が可能
生態卵生(卵から生まれる)
関連概念道教の仙人(羽人)、羽化
日本での紹介『和漢三才図会』『異国物語』河鍋暁斎の絵巻など

まとめ

羽民についてのポイントをおさらいしましょう。

  • 羽民は『山海経』に登場する、羽毛を持ち空を飛べる伝説上の人種
  • 鳥のくちばし、赤い眼、白髪という外見で、卵から生まれるとされる
  • 南方の「羽民国」に住み、「海外三十六国」の一つに数えられる
  • 道教の仙人(羽人)と深く結びついており、「羽化」の語源ともなっている
  • 江戸時代の日本にも伝わり、『和漢三才図会』などで紹介された

羽民は、古代中国人が「世界の果てにはどんな人々がいるのだろう?」と想像して生み出した存在です。
同時に、「人間が翼を得て空を飛び、不老不死になる」という仙人への憧れを形にしたものでもありました。

現代のファンタジー作品に登場する「鳥人間」や「翼人」のルーツをたどると、こうした古代の伝承にたどり着くのかもしれませんね。

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