八仙とは?道教を代表する8人の仙人と「八仙過海」の伝説を解説

神話・歴史・文化

「八仙過海、各顕神通」——この言葉を聞いたことはありますか?

直訳すると「八仙が海を渡るとき、それぞれが神通力を発揮する」という意味なんですが、これが転じて「みんなが自分の得意技を活かして目標を達成する」という意味で使われるようになりました。
日本でいう「十人十色」や「餅は餅屋」に近いニュアンスですね。

この言葉の元になっているのが、中国で絶大な人気を誇る「八仙」という8人の仙人たちです。

この記事では、八仙とは何者なのか、それぞれの仙人の特徴やエピソード、そして有名な「八仙過海」の伝説まで、わかりやすく紹介していきます。


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八仙とは?

八仙(はっせん)は、道教を代表する8人の仙人です。

中国では日本の七福神のような存在で、縁起物として絵画や陶磁器、刺繍、年画などに描かれることが多いんですね。
お祝いの席で「八仙祝寿」という題材が使われることも珍しくありません。

面白いのは、八仙の8人がそれぞれ「男・女・老・少・富・貧・貴・賤」を象徴していること。
つまり、あらゆる階層の人を代表しているんです。
将軍も乞食も、貴族も庶民も、老人も若者も——誰でも修行すれば仙人になれるという道教の教えを体現しているわけですね。

八仙の伝説は唐代や宋代から語り継がれてきましたが、現在知られている8人のメンバーが確定したのは明代のこと。
呉元泰が書いた小説『八仙出処東遊記』(一般に『東遊記』と呼ばれます)によって、今の形に固まりました。


八仙の8人を紹介

では、八仙のメンバーを一人ずつ見ていきましょう。

呂洞賓(りょどうひん)——八仙のリーダー

八仙の中で最も有名で、事実上のリーダー的存在です。
背中に剣を背負った書生の姿で描かれることが多く、青年あるいは中年男性として表現されます。

呂洞賓は唐代の人物とされ、名門の出身でした。
もともとは科挙(官僚登用試験)を目指していたのですが、ある日、宿屋で仙人の鍾離権と出会います。

鍾離権が黄粱(きび)を炊いている間、呂洞賓はうたた寝をしました。
夢の中で彼は科挙に合格し、出世し、良家の娘と結婚し、たくさんの子供をもうけます。
40年の栄華を極めた……かと思いきや、ある日突然重罪に問われ、財産は没収、家族は離散、自分は左遷されてしまいます。

目が覚めると、まだ黄粱は炊けていませんでした。
わずかな時間の夢で、人生の栄枯盛衰をすべて体験したんですね。

この「黄粱の夢」によって俗世の儚さを悟った呂洞賓は、鍾離権に弟子入りを志願。
10の試練を乗り越えて、ついに仙人となりました。

法器:宝剣(悪を退ける力を持つ)


鍾離権(しょうりけん)/漢鍾離(かんしょうり)——錬金術の達人

漢の時代の人物とされることから「漢鍾離」とも呼ばれます。
胸をはだけて腹を出し、長い髭を蓄えた姿で描かれるのが特徴。
なんだか豪快でユーモラスな風貌ですよね。

もともとは漢の将軍だったという説がありますが、後に出家して仙人となりました。
呂洞賓の師匠であり、八仙の中でも古参の存在です。

法器:芭蕉扇(起死回生の力を持つ)


李鉄拐(りてっかい)——体を借りて蘇った仙人

ボロボロの服を着て、鉄の杖をつき、片足を引きずる乞食の姿……。
八仙の中で最も特異な外見を持つ仙人です。

でも実は、もともとは立派な体格の道士だったんですよ。

ある日、李鉄拐は太上老君(道教の最高神)に会うため、魂を体から離して華山へ向かいました。
弟子には「7日経っても戻らなければ、体を焼いてよい」と言い残して。

ところが6日目、弟子の母親が危篤になってしまいます。
弟子は師匠の体を焼いて、故郷へ帰ってしまいました。

7日目に魂が戻ってきた李鉄拐。
自分の体はすでに灰になっている……。
仕方なく、近くにあった足の不自由な乞食の死体に乗り移って蘇ったのです。

これが、彼があの姿をしている理由なんですね。
ちなみに、この逸話は兵法三十六計の「借屍還魂」(他人の力を借りて復活する)の由来にもなっています。

法器:鉄杖と葫蘆(ひょうたん。万病を治す薬が入っている)


張果老(ちょうかろう)——ロバに逆向きに乗る老仙人

八仙の中で「老」を象徴する存在です。
白いロバに逆向きに乗るという、なんともユニークな姿で知られています。

このロバ、実は普段は紙の状態。
水を吹きかけると生きたロバになり、乗らないときはまた紙に戻せるという魔法のロバなんです。

張果老は唐代に実在した道士がモデルとされています。
数百歳まで生きたとか、一度死んでから生き返ったとか、さまざまな伝説が残っています。

法器:魚鼓(ぎょこ。竹筒の打楽器で、叩くと未来を予知できる)


何仙姑(かせんこ)——紅一点の女仙人

八仙の中で唯一の女性です。
蓮の花を手にした美しい姿で描かれます。

『東遊記』によると、彼女は唐代の武則天の時代、広州の何素という人物の娘でした。
生まれたときから六本の髪の毛が生えているという不思議な子だったといいます。

14、5歳のとき、夢に神人が現れて「雲母の粉を食べなさい。そうすれば身体が軽くなり、不死となるだろう」と告げました。
言われた通りにすると、本当に体が軽くなったんですね。

その後、李鉄拐と藍采和に仙術を教わり、最終的には白昼昇天して仙人となりました。

法器:蓮の花(修身養性の象徴)


藍采和(らんさいか)——謎多き風来坊

八仙の中で最も謎めいた存在です。
なんと、男なのか女なのかすらはっきりしません。

伝承によれば、片足に靴を履き、もう片足は裸足。
ボロボロの青い服を着て、手に花籠を持ち、拍子木を叩きながら歌い歩く……という風変わりな姿だったようです。

夏に毛皮を着て「寒い」と言ったり、冬に薄着で「暑い」と言ったり。
常識では計り知れない振る舞いをしていたとか。

歌の内容はすべて予言になっていて、後から聞いた人が「あれはこういう意味だったのか!」と悟ることになったそうです。

法器:花籠(神明と通じ、邪を払う力を持つ)


韓湘子(かんしょうし)——笛の名手

唐代の大文豪・韓愈の甥(一説には甥孫)とされる人物です。
若々しい姿で、笛を吹く姿で描かれます。

韓湘子は最初、叔父の韓愈に道教の修行を勧めましたが、儒教を重んじる韓愈はこれを異端として退けました。

そこで韓湘子は宴席で不思議な術を披露します。
酒を無限に注ぎ出す葫蘆を見せたり、火鉢の上で蓮の花を咲かせ、その花に「雲横秦嶺家何在、雪擁藍関馬不前」という文字を浮かび上がらせたり。

韓愈はそれでも信じませんでしたが、後に左遷されたとき、雪の中で韓湘子と再会。
その場所がまさに、あの花に書かれていた「藍関」だったのです。

法器:横笛(吹くと万物が生長する)


曹国舅(そうこっきゅう)——皇族から仙人へ

八仙の中で唯一、宋代の人物です。
「国舅」という称号が示すとおり、宋の仁宗皇帝の曹皇后の親戚でした。

貴族の中でも最高位の身分でしたが、曹国舅は権力や富に興味がありませんでした。
一方、彼の弟は身分をカサに着て悪行の限りを尽くします。

何度諫めても弟は聞き入れず、ついには罪のない人を殺害。
包拯(名裁判官として有名な包青天)によって裁かれることになります。

この事件を機に、曹国舅は俗世を捨てて出家。
山中で修行していたところ、鍾離権と呂洞賓に出会い、仙人となりました。

法器:玉板(または陰陽板。笏板の一種で、万物を静寂にする力を持つ)


八仙の法器(宝物)一覧

八仙がそれぞれ持っている法器は「八宝」とも呼ばれ、縁起物として図案化されています。
法器だけを描いて八仙を暗示する手法は「暗八仙」と呼ばれ、陶磁器や刺繍などの装飾に広く使われてきました。

仙人法器意味・効果
呂洞賓宝剣悪を退治する
鍾離権芭蕉扇起死回生
李鉄拐鉄杖・葫蘆病を癒し、民を救う
張果老魚鼓未来を予知する
何仙姑蓮の花修身養性
藍采和花籠神明と通じる
韓湘子横笛万物を生長させる
曹国舅玉板(陰陽板)万物を静寂にする

「八仙過海」の伝説

さて、いよいよ有名な「八仙過海」の物語です。

ある日、八仙たちは西王母の宴に出席した帰り道、東海の上空を通りかかりました。
海を見下ろすと、波濤が荒れ狂い、壮観な眺めが広がっています。

鉄拐李が提案しました。
「せっかくだから海の上で遊ぼう。ただし、雲に乗らず、それぞれの法器だけで海を渡ることにしよう」

こうして、それぞれが自分の宝物を海に投げ入れ、その上に乗って渡り始めました。

鍾離権は芭蕉扇の上に仰向けに寝そべり、悠々と漂っていきます。
何仙姑は蓮の花を投げ入れ、その上にすっくと立ちました。
張果老は紙のロバを本物に変えて乗り、呂洞賓は宝剣を踏んで波を切り裂きます。

八仙たちが海上で神通力を競い合う姿——これが「八仙過海、各顕神通」の由来なんですね。

ところが、この騒ぎが東海龍王の宮殿を揺るがしてしまいます。
怒った龍王は兵を出し、藍采和を捕らえてしまいました。

八仙は龍宮に乗り込み、龍王と大激戦を繰り広げます。
呂洞賓は龍王の息子を斬り、戦いはどんどん激しくなっていきました。

最終的には観音菩薩(一説には如来仏)が仲裁に入り、龍王は藍采和を解放。
八仙は無事に海を渡り終えたのでした。


八仙が現代でも愛される理由

八仙が中国で長く愛されてきたのには理由があります。

普通の神仙は生まれながらにして神であることが多いですよね。
でも八仙は全員が元・人間なんです。
しかも、将軍、皇族、乞食、文人、市井の娘……とバラエティ豊か。

さらに、完璧な聖人というわけでもありません。
鍾離権は胸をはだけて腹を出すし、呂洞賓は酒好きで女好きという一面も。
李鉄拐に至っては、見た目はボロボロの乞食です。

つまり、どんな身分でも、どんな境遇でも、修行すれば仙人になれる。
八仙はその可能性を体現しているんですね。

だからこそ庶民に親しまれ、今でも中国各地の道教寺院で祀られているのです。


まとめ

  • 八仙は道教を代表する8人の仙人で、男女老少・富貴貧賤のあらゆる階層を象徴している
  • メンバーは呂洞賓、鍾離権、李鉄拐、張果老、何仙姑、藍采和、韓湘子、曹国舅の8人
  • 現在の八仙のメンバーは、明代の小説『東遊記』で確定した
  • 「八仙過海、各顕神通」は、それぞれが得意技を活かして目標を達成することのたとえ
  • 八仙は全員が人間から仙人になった存在で、「誰でも修行すれば仙人になれる」という道教の教えを体現している

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