飛頭蛮とは?夜空を舞う首の妖怪の正体と伝承を解説

神話・歴史・文化

夜になると首だけが体から離れ、空を飛び回る——。
そんなホラー映画のような妖怪が、中国には古くから伝わっています。

その名は「飛頭蛮(ひとうばん)」。
実は日本で有名な「ろくろ首」のルーツとも言われている存在なんです。

この記事では、飛頭蛮の姿や特徴、古典に残るゾッとするエピソード、そして世界各地に伝わる「首だけで飛ぶ妖怪」たちについて紹介します。


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飛頭蛮ってどんな妖怪?

飛頭蛮は中国に伝わる妖怪です。
読み方は「ひとうばん」で、中国語では「フェイトウマン(Fēitóumán)」と発音します。

最大の特徴は、夜になると首(頭部)だけが胴体から離れて空を飛ぶこと。
昼間は普通の人間とまったく変わらない姿をしているのに、夜が来ると首がスポッと抜けて飛んでいってしまうんです。

朝になると首は元の体に戻り、本人は何が起こったか覚えていないことも多いとされています。
まるで夢遊病のような状態ですね。


飛頭蛮の姿と特徴

見分け方は「首の赤い筋」

飛頭蛮には、普通の人間と見分けるためのサインがあります。
それは首筋に赤い傷跡のような筋があること。

古い文献によると、首が飛ぶ前日になると、この赤い筋がはっきりと現れるそうです。
家族はこのサインを見て「今夜は飛ぶな」と警戒したのだとか。

耳を翼にして飛ぶ

飛頭蛮の飛び方はかなり独特です。
なんと耳を翼のように羽ばたかせて空を飛ぶとされています。

想像するとちょっとシュールですが、古典の記述にはしっかりと書かれています。

虫やカニを食べる

夜空を飛び回る飛頭蛮は、何を食べているのでしょうか?

意外なことに、人を襲うわけではなく、虫やカニ、ミミズなどを食べると伝えられています。
川岸に降りて、こうした生き物を捕まえて食べるのだそうです。

朝、首が体に戻ると、本人は夜のことを覚えていないのに、なぜかお腹がいっぱいになっている——。
なんとも不思議な話です。


飛頭蛮の別名

飛頭蛮にはいくつかの呼び名があります。

名称読み方意味・由来
飛頭蛮ひとうばん「飛ぶ頭の蛮族」の意
落頭民らくとうみん「頭が落ちる(抜ける)民」の意
飛頭獠ひとうりょう『太平広記』での呼び名
虫落むしおとし/ちゅうらくジャワ島での呼び名

「蛮」や「獠」という字が使われているのは、中国の中心部から見て南方の異民族に由来する妖怪だと考えられていたからです。


古典に登場する飛頭蛮の伝承

飛頭蛮は中国の古い文献にたびたび登場します。
中でも有名なエピソードをいくつか紹介しましょう。

呉の将軍・朱桓の下女の話

東晋時代(4世紀頃)に書かれた『捜神記』には、こんな話が残っています。

三国時代、呉の将軍・朱桓(しゅかん)に仕える下女がいました。
この下女は、夜になると頭が体から離れて飛び回る癖がありました。

ある夜、同室の女性が眠っている下女の布団がずれているのに気づき、親切心で布団を掛け直しました。
ところがこれが大変なことに。

首が戻ろうとしたとき、布団に遮られて体に戻れなくなってしまったのです。
首は苦しそうに喘ぎ、体はどんどん冷たくなっていく。
気づいた朱桓が慌てて布団を取り除くと、ようやく首は体に戻りました。

別の話では、誰かがいたずらで銅の盆を胴体にかぶせたところ、首が戻れなくなり、そのまま死んでしまったとも伝えられています。

飛頭蛮の弱点は「体を隠されること」だったわけです。

体をバラバラに飛ばす人間

『拾遺録』という文献には、もっとぶっ飛んだ話があります。

漢の武帝(在位:紀元前141年〜紀元前87年)の時代、南方に体をバラバラにできる人間がいたそうです。
なんと首を南方に、左手を東海に、右手を西の沢に飛ばし、夕方にはそれぞれが体に戻ってくるのだとか。

ただし、途中で風に遭うと海の上を漂ってしまうこともあったらしく、かなりリスキーな能力だったようです。


日本のろくろ首との関係

実は、日本で有名な「ろくろ首」の原型は、この飛頭蛮だと考えられています。

もともと「首が伸びる」妖怪ではなかった

現代の日本人がろくろ首と聞くと、「首が長〜く伸びる女性」をイメージする人が多いでしょう。
しかし、江戸時代以前のろくろ首は「首が体から離れて飛ぶ」タイプが主流でした。

このタイプは「抜け首」とも呼ばれ、中国の飛頭蛮の伝承が日本に伝わったものとされています。

鳥山石燕が「飛頭蛮」と書いた

江戸時代の妖怪絵師・鳥山石燕は、1776年に刊行した『画図百鬼夜行』で、ろくろ首を描きました。
このとき、漢字表記として「飛頭蛮」を当て、「ろくろくび」と読ませています。

つまり、当時は飛頭蛮とろくろ首が同一視されていたわけです。

なぜ「首が伸びる」イメージに変わった?

ではなぜ、現代では「首が伸びる」イメージが定着したのでしょうか?

一説によると、絵師たちが「抜けた首と胴体は霊的な糸でつながっている」という伝承を絵で表現しようとしたところ、その糸が「細長く伸びた首」に見間違えられたのがきっかけだとか。

誤解から生まれたイメージが定着してしまったわけですね。


世界各地の「首が飛ぶ妖怪」たち

飛頭蛮のような「首だけで飛ぶ妖怪」は、実は世界中に存在します。
特にアジアや南米には、驚くほど似た伝承が残っているんです。

東南アジアの妖怪

東南アジアには、飛頭蛮と似た妖怪が数多く伝わっています。
興味深いのは、多くが内臓も一緒にぶら下げて飛ぶという、さらに恐ろしい姿をしていること。

国・地域名前特徴
マレーシアペナンガラン首の下に胃袋と内臓をぶら下げる。妊婦の血を狙う
タイピー・ガスー(ガスー)内臓を垂らして飛ぶ。排泄物や死肉も食べる
カンボジアアープ呪術師が変身した姿とされる
ベトナムマーライ糞を食べ、呪術で人を殺す力を持つ
インドネシアレヤック、クヤンバリ島やカリマンタン島に伝わる
フィリピンマナナンガル上半身ごと飛ぶ。コウモリの翼を持つ
ミャンマーケフィンペナンガランと似た姿

ペナンガランは特に有名で、夜空を飛ぶ際に内臓が蛍のように光ると言われています。
元は悪魔と契約した助産婦だったという伝承もあり、妊婦や胎児の血を好んで狙うのだとか。

南米の妖怪

南米にも、首が飛ぶ妖怪の伝承があります。

名前特徴
ペルーウミタ他人の首を食べて、その人に成り代わる
チリチョンチョン大きな耳を羽ばたかせて飛ぶ。病人の血を吸う

チリのチョンチョンは、飛頭蛮と同じく「耳を翼にして飛ぶ」という特徴を持っています。
地球の反対側にいるのに、なぜこんなに似ているのでしょうか。

文化や言葉がまったく異なる地域に、これほど似た妖怪が存在するのは本当に不思議です。


まとめ

飛頭蛮についてのポイントをおさらいしましょう。

  • 飛頭蛮は中国に伝わる妖怪で、夜になると首だけが体から離れて飛ぶ
  • 首筋の赤い筋が見分けるサイン
  • 耳を翼にして飛び、虫やカニを食べる
  • 日本のろくろ首(抜け首)の原型とされている
  • 東南アジアや南米にも、首が飛ぶ妖怪の伝承が数多く存在する

「首が体から離れて飛ぶ」という発想は、どこか人間の根源的な恐怖に触れるものがあるのかもしれません。
だからこそ、世界中で似たような妖怪が語り継がれてきたのでしょう。

夜、ふと空を見上げたとき、何かが飛んでいるように見えたら……。
それは鳥ではなく、飛頭蛮かもしれませんね。


参考情報

本記事の作成にあたり、以下の古典文献の記述を参照しました。

  • 『捜神記』(東晋・干宝)
  • 『太平広記』(北宋)
  • 『酉陽雑俎』(唐・段成式)
  • 『南方異物誌』(唐代)
  • 『三才図会』(明代)
  • 『和漢三才図会』(江戸時代)
  • 『画図百鬼夜行』(江戸時代・鳥山石燕)

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