都市伝説 北京の霊界バス|深夜の末班車に潜む恐怖とは?

神話・歴史・文化

「終点は……あの世」
そんな恐ろしい都市伝説が、中国・北京で語り継がれています。

1995年11月のある深夜。
香山(シャンシャン)へ向かう末班車に乗った乗客たちは、二度と目的地にたどり着くことはありませんでした。

この記事では、中国で最も有名な都市伝説のひとつ「北京の霊界バス」について、その内容から派生バージョン、そして背景にある社会的な文脈まで詳しく紹介します。


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北京の霊界バスとは?

北京の霊界バスは、1995年に起きたとされるバス失踪事件をもとにした都市伝説です。
中国語では「北京375路公交車灵异事件」や「330路公交車事件」などと呼ばれ、中国のネット上で「十大霊異事件」に数えられるほど有名な怪談となっています。

舞台は北京市海淀区。
円明園(ユエンミンユエン)から香山へ向かう深夜の路線バスで、この不可解な出来事が起きたとされています。


霊界バスの物語

あらすじ

1995年11月14日の深夜。
その日は異常に寒く、風も強い夜でした。

円明園の公交総站(バスターミナル)から、香山行きの末班車がゆっくりと出発します。
車内には年配の運転手と若い女性の售票員(車掌)、そして数人の乗客がいました。

乗客は、若いカップルと老婆、そして一人の若い男性。
深夜の郊外路線だけあって、車内は静まり返っています。

奇妙な三人組

バスが北宮門駅を過ぎたあたりで、運転手が道端で手を振る二つの人影に気づきました。
バス停ではない場所でしたが、末班車ということもあり、運転手はバスを止めることにします。

ドアが開くと、三人の男が乗り込んできました。
二人の男が、真ん中の一人を両脇から支えるようにしています。
真ん中の男は頭を垂れ、ボサボサの長い髪で顔が見えません。

しかし、乗客たちが驚いたのは別のことでした。
三人とも、清朝時代の古い長袍(チャンパオ)を着ていたのです。
そして顔は、まるで死人のように青白い……。

售票員は動揺する乗客たちを落ち着かせようと言いました。
「大丈夫ですよ、きっと近くで時代劇の撮影をしていた役者さんでしょう。お酒を飲んで、衣装を脱ぐ暇もなかったんですよ」

老婆の機転

バスが進むにつれ、若いカップルや他の乗客は次々と降りていきます。
やがて車内に残ったのは、老婆と若い男性、そしてあの三人組だけになりました。

すると突然、老婆が若い男性に向かって叫び始めます。
「この泥棒!私の財布を盗んだでしょう!」

身に覚えのない若い男性は困惑しますが、老婆は引き下がりません。
「次のバス停で降りて、警察署に行くわよ!」

二人は次の停留所で下車しました。
暗い夜道で、若い男性は老婆に抗議します。
「どういうことですか!僕は何もしていませんよ!」

老婆は真剣な表情で答えました。
「私はあなたを助けたんです」

「彼らには足がなかった」

「さっきの三人、ずっと気になって見ていたんです。
窓から入ってきた風が、彼らの長袍の裾を吹き上げた時に見えました。
彼らには足がなかったんです

若い男性は言葉を失いました。
老婆は続けます。
「あれは人間じゃない。幽霊です。だからあなたを巻き込んで、バスを降りたんですよ」


事件のその後

翌日、バス会社は末班車が戻ってこないことに気づきます。
運転手も售票員も出勤していません。
バスは忽然と姿を消していたのです。

老婆と若い男性は警察に通報しましたが、「精神に異常がある」と相手にされませんでした。

しかし3日後、衝撃的な知らせが届きます。
香山から100キロ以上離れた密雲水庫(ミーユンシュイクー)付近で、失踪したバスが発見されたのです。
車内からは、3体の遺体が見つかりました。
運転手、售票員、そして身元不明の長髪の男——。

解けない謎

この事件には、いくつもの不可解な点があったとされています。

謎のポイント内容
移動距離一日分の運行後、100km以上を走る燃料は残っていないはず
燃料タンクガソリンではなく「血液」で満たされていたという説も
遺体の状態わずか2〜3日で高度に腐敗していた
監視カメラ水庫周辺の防犯カメラには何も映っていなかった

これらの「謎」は後から付け加えられた要素と考えられていますが、物語の恐怖度を格段に高める効果を生んでいます。


複数のバージョン

この都市伝説には、実は複数のバリエーションが存在します。

要素バリエーション
バスの番号330路、375路、302路、331路、333路、347路など
主人公老婆と若い男性 / 老人と若い女性 / 老人と若い男性
きっかけ「財布を盗んだ」と言いがかり / 「吐いた」と難癖
結末バスが発見される / バスは見つからない
幽霊の正体清朝の幽霊 / 殺人犯が死体を運んでいた

特に興味深いのは、「幽霊ではなく殺人犯だった」というバージョンです。
この説では、老人(または老婆)は元法医学者で、真ん中の男が「死体」であることを見抜いたとされています。
酔っ払いなら体は柔らかいはずなのに、支えられている男の体は硬直していた——つまり、すでに死んでいたというわけです。


都市伝説の起源をたどる

「張震講故事」との関係

この都市伝説のルーツを探ると、1990年代後半に遡ります。

1997年頃から放送された「張震講故事(ジャンジェンジャングーシ)」というラジオ番組には、「末班車」という話が収録されていました。
内容は北京375路バスの話とほぼ同じですが、具体的な路線番号や日付は含まれていませんでした。

テレビ番組「玫瑰之夜」

さらに遡ると、台湾の人気テレビ番組「玫瑰之夜(メイグイジーイェ)」に行き着きます。
1994〜1995年頃、この番組の「鬼話連篇」というコーナーで、歌手の那英(ナー・イン)が「死亡末班車」という話を披露しています。

内容は現在流布している北京375路バスの話とほぼ同じ。
つまり、この都市伝説はネット時代以前から口承で伝わっていた可能性が高いのです。

ネット時代の拡散

2000年代に入り、天涯論壇(テンヤーロンタン)や百度貼吧(バイドゥーティエバー)などの掲示板を通じて、この話は爆発的に広まりました。
2006〜2007年頃には「中国十大霊異事件」としてまとめサイトに掲載され、一躍有名になります。

拡散の過程で、具体的な日付(1995年11月14日)や路線番号(375路、330路)、密雲水庫での発見、油箱に血液が入っていたという詳細が追加されていったと考えられています。


実話なのか?フィクションなのか?

検証してみると……

この都市伝説を検証してみると、いくつかの矛盾点が浮かび上がります。

路線の問題
1995年当時の375路は、西直門から北宮門までの路線で、香山には行っていませんでした。
香山に行くのは330路や333路でしたが、これらも円明園始発ではありませんでした。
つまり、物語に登場する「円明園発・香山行き」の路線は、実際には存在しなかったのです。

報道の不在
1995年前後の北京の新聞記事を調べても、バス失踪事件を報じた記事は見つかっていません。
もしこれほど衝撃的な事件が実際に起きていれば、何らかの報道が残っているはずです。

時代背景との整合性
1990年代の中国では「車匪路霸」(バスや道路での強盗犯罪)が深刻な社会問題でした。
1995年は治安が特に悪化した年とされ、バスを狙った犯罪が多発していました。
この不安な社会情勢が、都市伝説の誕生に影響を与えた可能性があります。


世界に広がる「末班車」伝説

「深夜のバスや電車で死体を運ぶ犯罪者」という話は、実は世界各地に存在します。

1949年にはアメリカの作家シンシア・ローリーが、ニューヨークの地下鉄を舞台にした類似の話を発表しています。
酔っ払いに見せかけて死体を運ぶ二人組と、それに気づく乗客——という構図は、北京のバス伝説とよく似ています。

このような「都市伝説の国際的な共通性」は、民俗学的にも興味深いテーマです。
人が集まり、移動する公共交通機関は、世界中どこでも怪談の舞台になりやすいのかもしれません。


まとめ

  • 北京の霊界バスは、1995年に起きたとされるバス失踪事件をもとにした中国の有名な都市伝説
  • 深夜の末班車に乗り込んだ清朝の服を着た三人組が、実は足のない幽霊だったという話
  • 老婆の機転で若い男性は難を逃れるが、バスは乗員乗客ごと消息を絶つ
  • 路線番号は375路、330路など複数のバージョンが存在
  • 実際の路線や報道との矛盾から、創作である可能性が高い
  • 1990年代の治安悪化や「車匪路霸」問題が、伝説誕生の背景にあったと考えられる

真実かどうかはともかく、この都市伝説が30年近く語り継がれているのは、それだけ人々の心を捉える「何か」があるからでしょう。
深夜のバスに乗る機会があったら、隣の席の乗客をちらりと見てしまうかもしれませんね。
……足は、ちゃんとありますか?

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