都市伝説 下水道のワニ|ニューヨークの地下に潜む白いワニの真相

神話・歴史・文化

ニューヨークの地下深く、下水道の暗闘の中を巨大な白いワニが泳いでいる——。
こんな話を聞いたことはありませんか?

「下水道のワニ」は、アメリカを代表する都市伝説のひとつです。
フロリダのお土産として買われたペットのワニが、大きくなりすぎてトイレに流され、下水道で生き延びて巨大化したという話。しかも日光を浴びないまま世代を重ねた結果、目が見えない真っ白なアルビノになったというのです。

この記事では、この都市伝説がどのように生まれ、なぜこれほど広まったのかを紹介します。


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下水道のワニとは?

「下水道のワニ(Sewer Alligator)」は、アメリカの都市伝説です。
主な舞台はニューヨーク市ですが、パリなど他の大都市でも似た話が語られています。

伝説の基本的なストーリーはこうです。

1920年代〜1950年代、フロリダの土産物屋では赤ちゃんワニが売られていました。ニューヨークからの観光客はそれを買ってペットにしようとしますが、ワニはすぐに大きくなります。
手に負えなくなった飼い主は、ワニをトイレに流してしまう。
流されたワニたちは下水道で生き延び、ネズミやゴミを食べて繁殖。やがて巨大化して、下水道作業員を恐怖に陥れる——。

さらに話は膨らみます。
日光の届かない地下で何世代も過ごすうち、ワニたちは視力を失い、皮膚の色素も抜けて真っ白なアルビノになったというのです。


伝説のはじまり:1935年の事件

この都市伝説には、実際の出来事がきっかけになっています。

1935年2月9日、ニューヨークのイースト・ハーレムで、10代の少年たちが雪かきをしていました。
彼らがイースト123丁目のマンホールに雪を落としていると、下水道の中で何かが動いているのに気づきます。

なんと、そこには約2.4メートル、57キロほどの巨大なワニがいたのです。

少年たちは縄を結んでワニの首に引っかけ、必死に引っ張り上げました。しかしワニが暴れ出したため、彼らはシャベルで殴り殺してしまいます。

翌日、ニューヨーク・タイムズ紙がこの出来事を報じました。
見出しは「アップタウンの下水道でワニ発見」。
この記事が、伝説の出発点となったのです。

なぜマンハッタンの下水道にワニがいたのか、本当の理由はわかっていません。
当時の警察は、フロリダから来た蒸気船からワニが逃げ出し、下水道に入り込んだのではないかと推測しました。


伝説を広めた本『The World Beneath the City』

この都市伝説が爆発的に広まったのは、1959年に出版されたロバート・デイリーの著書『The World Beneath the City(都市の下の世界)』がきっかけでした。

この本の中で、ニューヨーク市下水道局の監督だったテディ・メイという人物が登場します。

メイによると、1935年ごろから下水道作業員たちが「ワニを見た」と報告していたそうです。
しかしメイは最初、誰も信じませんでした。「あいつら、地下で酒でも飲んでるんだろう」と思ったというのです。

報告が続くので、メイは自ら下水道に降りて調査することにしました。
すると、懐中電灯の光の先に、平均2フィート(約60センチ)ほどのワニたちが優雅に泳いでいるのが見えたのです。

メイはすぐに駆除作戦を開始。ネズミ駆除用の毒餌を使ったり、作業員がワニを追い立てて本流に押し流したりして、数ヶ月後にはワニを一掃したといいます。

ただし、この話には裏付けがありません。
大規模なワニ狩りがあったなら新聞が報じるはずですが、そのような記事は見つかっていないのです。
下水道局の関係者は、メイについて「ワニと同じくらい伝説的な人物で、ホラ話の名人だった」と語っています。

つまり、メイの証言は「面白い話」として広まったものの、事実かどうかは怪しいというわけです。


科学的には「長期生存は不可能」

では、実際にワニが下水道で生きていくことは可能なのでしょうか?

専門家の見解は「短期間なら可能だが、長期生存は無理」というものです。

アリゲーターの専門家であるジム・ネスキは、ワニが下水道で生きていける可能性について「短期間なら、あくまで短期間ならば」と語っています。

理由はいくつかあります。

  • 寒すぎる:ワニは変温動物なので、ニューヨークの冬の低温では体温を維持できません。ワニは気温が10℃を下回ると食べ物を消化できなくなります。
  • 有害なバクテリア:下水に含まれる人糞由来のバクテリアは、ワニにとって致命的です。
  • 繁殖できない:ワニの卵を孵化させるには植物を使った巣が必要ですが、下水道にはそのような環境がありません。

ニューヨーク市環境保護局は「下水道にワニが生息している記録はない」と公式に述べています。


それでもワニは見つかっている

とはいえ、ニューヨークでワニが発見された事例は実際にあります。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、ニューヨーク市では毎年約100匹のワニが保護されているそうです。違法にペットとして飼われていたものや、逃げ出したり捨てられたりしたワニたちです。

2010年8月には、クイーンズ区の下水道から約60センチの子ワニが捕獲されました。ただし、これは短期間迷い込んだだけで、長期間生息していたわけではありません。


パリにもいた下水道のワニ

実は、ニューヨークだけでなくパリでも下水道からワニが見つかっています。

1984年3月7日、パリ中心部のポンヌフ通りの地下で、体長約80センチのワニが発見されました。
捕獲されたワニはナイルワニと判明し、おそらく飼い主に捨てられたものと推測されました。獣医の見立てでは、ネズミやゴミを食べながら1〜2ヶ月ほど下水道で暮らしていたようです。

このワニは「エレオノール」と名付けられ、ブルターニュの水族館に引き取られました。その後約30年間そこで暮らし、体長4メートル以上に成長。2021年に38歳で亡くなりました。


映画・小説・アートへの影響

「下水道のワニ」は、さまざまなエンターテインメント作品に影響を与えています。

小説『V.』(1963年)

トマス・ピンチョンのデビュー小説『V.』では、主人公ベニー・プロフェインがマンハッタンの下水道でワニ狩りの仕事をしています。
小説の中では、子どもたちがペットのワニに飽きてトイレに流した結果、下水道でワニが繁殖し、目が見えない白いアルビノになったと語られます。

映画『アリゲーター』(1980年)

1980年公開の映画『アリゲーター』は、まさにこの都市伝説を題材にしています。
少女がフロリダで買った赤ちゃんワニが、父親にトイレに流されてしまう。12年後、下水道に捨てられた実験動物の死骸を食べて巨大化したワニが街を襲う——というストーリーです。

プロデューサーのブランドン・チェイスは、この映画がニューヨーク市の下水道作業員がワニを発見したという実話に基づいていると認めています。

地下鉄のアート作品「Life Underground」(2001年)

ニューヨーク地下鉄の14丁目/8番街駅には、彫刻家トム・オッターネスの作品「Life Underground」が設置されています。
130以上の小さなブロンズ像の中には、マンホールから這い出してビジネスマン風の人物に噛みつくワニの彫刻があります。

このワニは人間の手を持ち、スーツを着ているという皮肉の効いたデザインになっています。

ちょっと違うのですが、ゴブリンスレイヤーにも下水道にワニが出る話がありましたね。


「下水道のワニの日」がある

信じられないかもしれませんが、ニューヨークには「下水道のワニの日」という非公式の記念日があります。

マンハッタン区では毎年2月9日が「下水道のワニの日(Alligators in the Sewers Day)」とされています。
これは1935年にワニが発見された日にちなんでいます。

元マンハッタン区の歴史家マイケル・ミシオーネは、2010年にこの記念日を制定し、毎年祝っているそうです。彼はこの都市伝説について「ニューヨーク市で最も偉大な”ほぼ本当の”都市伝説」と呼んでいます。


なぜこの都市伝説は広まったのか?

「下水道のワニ」がこれほど長く語り継がれてきた理由は何でしょうか?

民俗学者のジャン・ハロルド・ブランヴァンドは、この伝説を「現代伝説」の典型例として挙げています。広く語り継がれ、本当のこととして語られるものの、検証が難しい物語です。

この都市伝説には、いくつかの要素が絶妙に絡み合っています。

  • 無責任なペット飼育への警告:大きくなったら捨てるという行為への批判
  • 都市生活に潜む恐怖:普段見えない場所に何かが潜んでいるかもしれないという不安
  • 自然と都市の対立:野生の象徴であるワニが、人工の極致である大都市の地下に住みついているという皮肉

日常生活のすぐそばにありながら、ほとんどの人がまったく知らない世界への恐怖や神秘性が絶妙に交じり合っているのです。


まとめ

「下水道のワニ」都市伝説のポイントをおさらいしましょう。

  • 1935年にニューヨークの下水道で実際にワニが発見されたことが発端
  • 1959年の書籍『The World Beneath the City』で伝説が広まった
  • 科学的には、ワニが下水道で長期生存・繁殖することは不可能
  • ただし、短期間迷い込んだワニが見つかることは現在もある
  • 映画、小説、アート作品など、ポップカルチャーに大きな影響を与えた
  • 毎年2月9日は「下水道のワニの日」として祝われている

都市伝説というのは、完全なウソではないところが面白いんですよね。
1935年に本当にワニがいたという事実が、「もしかしたら今も……」という想像を掻き立てる。

ニューヨークの地下鉄に乗る機会があれば、14丁目/8番街駅でワニの彫刻を探してみてください。
足元のマンホールから、ひょっこり顔を出しているかもしれませんよ。


関連作品一覧

作品名種類概要
『V.』小説1963年トマス・ピンチョンのデビュー作。主人公が下水道でワニ狩りをする
『アリゲーター』映画1980年下水道で巨大化したワニが街を襲うホラー映画
『アリゲーター2』映画1991年続編(ビデオスルー)
「Life Underground」彫刻2001年トム・オッターネスによる地下鉄アート作品
『N.Y.C. Legend』彫刻2023年ユニオンスクエアに設置されたワニの彫刻

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