「せっかくの新車がおしゃかになっちゃった」
「パソコンが壊れておしゃかだ」
このように、日常会話で耳にすることがある「おしゃかになる」という言葉。
物が壊れたときに使う表現だが、なぜ「お釈迦様」が関係しているのか不思議に思う人も多い。
実はこの言葉、江戸時代の職人たちが使っていた隠語が起源とされている。
本記事では、「おしゃかになる」の意味や語源、具体的な使い方まで詳しく解説する。
「おしゃかになる」の基本的な意味
「おしゃかになる」は、主に以下の2つの意味で使われる慣用句だ。
物が壊れて使い物にならなくなること
何らかの理由で物が破損し、本来の機能を失ってしまった状態を指す。
機械の故障、製品の破損、道具の損傷など、使えなくなった物全般に使える表現だ。
製造過程で失敗して不良品ができること
物を作っている最中に失敗し、出来損ないの製品ができてしまうことも意味する。
こちらは特に製造業や職人の現場で使われることが多い。
漢字では「御釈迦になる」と表記する。
「お釈迦」とは仏教の開祖である釈迦のことで、敬意を表す接頭語「御(お)」が付いている。
「おしゃかになる」の語源には諸説ある
「おしゃかになる」の語源については、現在も定説が確立していない。
いくつかの有力な説が存在するので、それぞれ紹介していく。
説1:「火が強かった」説
最も有名なのが、江戸の職人の洒落から生まれたという説だ。
江戸時代、金属を溶接していた職人が火力を強くしすぎて失敗してしまった。
その際に「火が強かった(ひがつよかった)」と言ったのだが、江戸っ子は「ひ」と「し」の発音が同じになる訛りがあった。
そのため「火が強かった」が「しがつよかった」と聞こえた。
これを「四月八日(しがつようか)」に引っ掛けたのだ。
4月8日は釈迦の誕生日(花祭り・灌仏会)である。
このことから、製造に失敗したことを洒落で「お釈迦になった」と言うようになったとされる。
江戸の職人らしい言葉遊びから生まれた説だが、あまりにも出来すぎた話のため、信憑性を疑問視する声もある。
説2:鋳物職人の失敗説
鋳物職人が仏像を作る際の失敗から生まれたという説もある。
ある職人が阿弥陀像(あみだぞう)を作る依頼を受けていた。
ところが、誤って釈迦像を作ってしまった。
依頼と違う物を作ってしまったことから、不良品や失敗作を「お釈迦になる」と言うようになったという。
ただし、この説にも疑問がある。
仏像の彫刻や鋳造の途中で、まったく別の仏様になってしまうことは考えにくい。
注文の行き違いという可能性はあるが、それでは「失敗」の意味とは少しずれてしまう。
説3:「仏になる」からの連想説
人が死ぬことを「仏になる」と言う。
この表現から連想して、物がダメになることを「お釈迦になる」と言うようになったという説だ。
お釈迦様は仏様の一人である。
使えなくなった物を死人に見立て、仏の縁で釈迦を連想したのではないかと考えられている。
「仏になる」では人が死んだようで縁起が悪いため、代わりに「お釈迦になる」と言ったという解釈もある。
この説は他の説に比べて地味だが、「お陀仏(おだぶつ)」という類似の表現が存在することを考えると、最も自然な語源かもしれない。
もう一つの意味:博打で無一文になること
「おしゃかになる」には、賭け事で持ち金を全て失うという意味もある。
釈迦が誕生したときには裸であったという仏教の伝承がある。
そこから、博打で負けて裸同然(無一文)になることを「お釈迦になる」と言うようになった。
この用法は歌舞伎の『忠臣蔵年中行事』でも使われていた記録がある。
ただし、物が壊れる意味での「お釈迦になる」とは語源が異なると考えられている。
「おしゃかになる」の使い方と例文
「おしゃかになる」は、日常会話からビジネスシーンまで幅広く使える表現だ。
具体的な使用例を見ていこう。
機械や道具が壊れた場合
「台風で傘がおしゃかになった」
「古いエアコンがついにおしゃかになってしまった」
「事故で車がおしゃかだ」
物理的に壊れて使えなくなった状態を表す。
比較的くだけた表現なので、親しい間柄での会話に向いている。
製造や作業の失敗
「温度調整を間違えて、せっかくのケーキがおしゃかになった」
「印刷設定のミスで、チラシが全部おしゃかになった」
「プログラムのバグでデータベースがおしゃかになってしまった」
作業中のミスで成果物がダメになった場合にも使える。
失敗を軽く表現したいときに便利な言い回しだ。
計画や企画の頓挫
「予算が削られて、せっかくの企画がおしゃかになった」
「主要メンバーが抜けて、プロジェクトがおしゃかだ」
物理的な物だけでなく、計画や企画が台無しになった場合にも使用できる。
「おしゃかになる」の類語・言い換え表現
似た意味を持つ表現も確認しておこう。
ダメになる・台無しになる
最も基本的な言い換え表現。
フォーマルな場面でも使いやすい。
壊れる・故障する
物理的な破損や機能停止を表す直接的な表現。
「おしゃかになる」よりも事務的なニュアンスがある。
おじゃんになる
「おしゃかになる」と似た俗語的表現。
計画や企画が中止になるときに使われることが多い。
ポシャる
話が流れる、計画が失敗するという意味のスラング。
主に若者言葉として使われる。
使い物にならない
品質や性能が要求水準に達していない状態を表す。
「おしゃかになる」よりも厳しい評価のニュアンスがある。
現代での「おしゃかになる」の使用状況
「おしゃかになる」は江戸時代から続く古い言葉だが、現代でも日常会話で使われている。
ただし、やや古めかしい印象を与える表現でもある。
若い世代では「壊れた」「ダメになった」という直接的な表現を使うことが多い。
また、ビジネス文書や公式な場面では避けたほうが無難だ。
親しい同僚との会話や、くだけた雰囲気の場面で使うのが適切だろう。
興味深いことに、2024年にはナナヲアカリというアーティストが『お釈迦になる』という楽曲をリリースしている。
古い言葉が現代のポップカルチャーに取り入れられた例と言える。
まとめ
「おしゃかになる」は、物が壊れて使えなくなることや、製造に失敗することを意味する慣用句だ。
語源については複数の説があり、定説は確立していない。
最も有名なのは江戸の職人の洒落から生まれたという「火が強かった」説だが、「仏になる」からの連想という説も有力だ。
いずれにしても、お釈迦様という尊い存在を、壊れた物や失敗作に結びつけた言葉というのは興味深い。
江戸時代の人々の言葉遊びの文化や、仏教が日常に溶け込んでいた様子が垣間見える表現と言えるだろう。
現代でも使われ続けているこの言葉を、機会があればぜひ使ってみてほしい。

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