「本を作る仕事」って、いつから存在するんでしょうか?
私たちが当たり前のように本屋さんで手に取る書籍。
その裏には「出版社」という存在があります。
しかし、そもそも出版社はどうやって生まれたのか、考えたことはありますか?
実は出版社の歴史は、人類の知識を広げてきた壮大なドラマそのものなんです。
この記事では、世界と日本における出版社の歴史を、わかりやすく解説していきます。
出版社とは何か?その役割を簡単におさらい

出版社の歴史を語る前に、まず「出版社って何をする会社?」という基本を押さえておきましょう。
出版社の仕事は、大きく分けて3つあります。
1つ目は、本や雑誌の企画・編集。
2つ目は、印刷会社への発注と製本の管理。
3つ目は、できあがった本を書店や読者に届けること。
つまり、作家が書いた原稿を「商品としての本」に仕上げ、世の中に届ける——それが出版社の役割なんですね。
では、こうした仕事はいつ頃から始まったのでしょうか?
出版の起源|グーテンベルクが変えた世界
出版社の歴史を語るうえで、絶対に外せない人物がいます。
ドイツの金細工師、ヨハネス・グーテンベルクです。
彼が1450年頃に発明した「活版印刷機」は、まさに革命でした。
印刷技術がなかった時代
グーテンベルク以前、ヨーロッパの本はどうやって作られていたと思いますか?
答えは「手で写す」です。
修道士たちが羊皮紙に一文字ずつ丁寧に書き写していたんですね。
1冊の聖書を作るのに、なんと数年かかることもあったそうです。
当然、本は超高級品。
一般の人が手にすることなど、夢のまた夢でした。
印刷機が起こした「知識の民主化」
グーテンベルクの印刷機は、すべてを変えました。
金属製の活字を組み合わせて、何度でも同じ文章を刷れる。
1日に最大3,600ページもの印刷が可能になったのです。
手書きだと1日40ページ程度が限界だったので、実に90倍のスピード。
1455年に完成した「グーテンベルク聖書」は、西洋初の本格的な印刷本として歴史に名を刻みました。
この発明をきっかけに、ヨーロッパ中に印刷所が広がります。
1500年までに、なんと2,000万冊以上の本が印刷されたとされています。
本が安くなり、多くの人が知識にアクセスできるようになった。
ルネサンス、宗教改革、科学革命——これらはすべて、印刷技術なしには起こり得なかったでしょう。
世界最古の出版社たち
印刷技術の普及とともに、「出版社」という業態が生まれていきます。
Schwabe Verlag(スイス・1488年頃)
現存する世界最古の印刷・出版社とされるのが、スイス・バーゼルの「Schwabe Verlag」です。
ヨハネス・ペトリという人物が、グーテンベルクの時代にマインツで印刷技術を学び、1488年にバーゼルで創業しました。
500年以上経った今も、人文学系の学術書を出版し続けています。
ケンブリッジ大学出版局(イギリス・1534年)
英語圏で最も古い出版社は、イギリスのケンブリッジ大学出版局。
ヘンリー8世の勅許を受けて設立されました。
世界中の大学出版局のモデルとなった存在で、今でも年間700タイトル以上を発行しています。
その他の老舗出版社
オランダでは1593年創業のエルゼビア社(現在は学術出版の巨人)、フランスでは1640年に王立印刷所が設立されるなど、ヨーロッパ各地で出版文化が花開いていきました。
日本の出版|江戸時代に花開いた「本の文化」
さて、日本ではどうだったのでしょうか?
江戸時代以前の出版
日本における印刷の歴史は意外と古く、奈良時代の「百万塔陀羅尼」(770年頃)が最古の印刷物とされています。
ただし、これは寺院が仏教経典を刷るためのもの。
一般の人が楽しむ「本」が出版されるようになったのは、江戸時代に入ってからでした。
江戸出版文化の黄金期
江戸時代中期以降、日本の出版文化は驚くほど発展しました。
京都では『源氏物語』などの古典が木版本として出版され、大阪では井原西鶴の『好色一代男』などの娯楽小説が大ヒット。
そして江戸では、蔦屋重三郎という天才的な版元(出版社)が活躍します。
蔦屋重三郎は、喜多川歌麿や東洲斎写楽といった浮世絵師を発掘し、黄表紙(挿絵入りの読み物)を次々とベストセラーにしました。
現代で言えば、マンガ出版社の敏腕編集長のような存在ですね。
曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』や十返舎一九の『東海道中膝栗毛』など、江戸のベストセラーは50万部を超えることもあったそうです。
貸本屋も800軒以上あったと言われ、江戸の人々がいかに本好きだったかがわかります。
日本最古の現存出版社
ちなみに、現存する日本最古の一般書出版社は「柳原出版」です。
江戸時代中期の1740年頃、大阪心斎橋で「河内屋」として創業しました。
大塩平八郎の『洗心洞剳記』や頼山陽の『日本外史』なども刊行した由緒ある出版社で、現在は京都を拠点に活動を続けています。
明治維新と近代出版社の誕生
明治維新(1868年)は、日本の出版界にも大きな変革をもたらしました。
活版印刷の導入
明治3年(1870年)、日本初の新聞『横浜毎日新聞』が鋳造活字で印刷されます。
これを機に、日本の出版は木版から活版印刷へと移行していきました。
欧米の技術を取り入れた「洋装本」が登場し、紙も和紙から洋紙に変化。
明治20年頃には、江戸時代から続く書物問屋はほとんど姿を消し、近代的な出版社が台頭していきます。
現代につながる大手出版社の誕生
明治から大正にかけて、今も日本の出版界を牽引する出版社が次々と創業しました。
有斐閣(1877年)
東京・神田の古書街で創業。法律書・学術書の名門として知られます。
講談社(1909年)
野間清治が創業。「おもしろくて、ためになる」をモットーに、雑誌王国を築きました。
最盛期には日本の雑誌発行部数の7割を占めたと言われています。
岩波書店(1913年)
岩波茂雄が創業。『広辞苑』や岩波文庫で知られる学術系出版社の代表格です。
小学館(1922年)
相賀武夫が創業。もともとは小学生向けの学習雑誌が主力でした。
現在は『ビッグコミック』『少年サンデー』など幅広いジャンルを手がけています。
集英社(1926年)
小学館の娯楽誌部門として分離独立。
『週刊少年ジャンプ』は世界で最も売れているマンガ雑誌として知られています。
戦後から現代へ|出版業界の変遷

マンガ・雑誌の黄金時代
1950年代後半から、日本の出版界は「雑誌の時代」を迎えます。
『週刊少年サンデー』(小学館)と『週刊少年マガジン』(講談社)が1959年に同時創刊。
やがて『週刊少年ジャンプ』(集英社・1968年創刊)が加わり、マンガ雑誌の黄金時代が訪れました。
1995年には『週刊少年ジャンプ』が発行部数653万部を記録。
これは単独雑誌としてギネス世界記録に認定されています。
出版不況とデジタル化
しかし、1990年代後半から「出版不況」が叫ばれるようになります。
インターネットの普及により、人々の情報収集手段が多様化。
雑誌の売上は減少し、書籍も厳しい状況が続きました。
一方で、2010年代からは電子書籍市場が急成長。
特にマンガの電子化は成功を収め、講談社をはじめとする大手出版社のデジタル収入は大幅に増加しています。
出版社の歴史から見えてくること
出版社の歴史を振り返ると、いくつかの共通点が見えてきます。
技術革新が新しい時代を開く
グーテンベルクの活版印刷、明治の洋式活版、そして現代の電子書籍。
新しい技術が登場するたび、出版のあり方は大きく変わってきました。
「届けたい」という情熱が原動力
蔦屋重三郎も、野間清治も、岩波茂雄も——出版社を起こした人々には「この本を世の中に届けたい」という強い想いがありました。
その情熱は500年以上経った今も変わりません。
本は文化のインフラ
識字率の向上、民主主義の発展、科学技術の進歩——これらはすべて、本という媒体なしには実現しませんでした。
出版社は、人類の知識を次世代につなぐ重要な役割を担っているのです。
出版社の歴史年表(一覧)
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 1450年頃 | グーテンベルクが活版印刷機を発明 |
| 1455年 | グーテンベルク聖書の完成 |
| 1488年頃 | Schwabe Verlag創業(世界最古の現存出版社) |
| 1534年 | ケンブリッジ大学出版局設立 |
| 1593年 | エルゼビア社創業(オランダ) |
| 1740年頃 | 柳原出版(河内屋)創業(日本最古の現存一般書出版社) |
| 18世紀後半 | 江戸出版文化の最盛期(蔦屋重三郎の活躍) |
| 1870年 | 日本で活版印刷の新聞創刊 |
| 1877年 | 有斐閣創業 |
| 1909年 | 講談社(大日本雄弁会)創業 |
| 1913年 | 岩波書店創業、ダイヤモンド社創業 |
| 1922年 | 小学館創業 |
| 1926年 | 集英社創業 |
| 1959年 | 『週刊少年サンデー』『週刊少年マガジン』創刊 |
| 1968年 | 『週刊少年ジャンプ』創刊 |
| 1995年 | 『週刊少年ジャンプ』が発行部数653万部を記録 |
| 2010年代〜 | 電子書籍市場の急成長 |
まとめ
出版社の歴史は、人類が知識を共有し、文化を育んできた歴史そのものです。
- グーテンベルクの活版印刷が「知識の民主化」を実現した
- 江戸時代の日本では、独自の出版文化が花開いた
- 明治以降、講談社・小学館・集英社など現代の大手出版社が誕生
- 技術革新とともに出版のあり方は変化し続けている
電子書籍やAIの登場で、出版業界は今また大きな転換期を迎えています。
しかし「良い作品を読者に届けたい」という出版社の根本的な使命は、500年前から変わっていません。
本を手に取るとき、その裏にある長い歴史にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


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