「聖杯を見つけた騎士」と聞いて、誰を思い浮かべますか?
アーサー王伝説に登場する円卓の騎士のなかでも、聖杯探求といえばこの人——パーシヴァル卿です。
彼は森で育った世間知らずの青年でありながら、最終的には聖杯を発見し、傷ついた王を救った英雄。
その物語は中世ヨーロッパで大人気となり、ワーグナーのオペラ『パルジファル』として今も上演され続けています。
この記事では、パーシヴァルの生い立ちから聖杯探求の結末、そして現代の作品に与えた影響までをわかりやすく紹介します。
パーシヴァルの概要

パーシヴァル(Percival / Perceval)は、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人です。
聖杯探求の物語において、最も重要な役割を担う騎士として知られています。
興味深いのは、彼が「聖杯伝説」の主人公として最初に登場したキャラクターだということ。
12世紀にフランスの詩人クレティアン・ド・トロワが書いた『聖杯の物語(ペルスヴァル)』で初めて姿を現しました。
後の時代にガラハッドという「完璧な騎士」が登場するまで、パーシヴァルこそが聖杯を手にする運命の騎士だったんですね。
名前の意味と呼び方
パーシヴァルの名前は、実はいろんな呼び方があります。
| 言語 | 呼び方 |
|---|---|
| 英語 | パーシヴァル、パースヴァル |
| フランス語 | ペルスヴァル、ペルレスヴォー |
| ドイツ語 | パルジファル、パルツィヴァール |
| ウェールズ語 | ペレドゥル |
名前の語源は「perce(貫く)+val(谷)」、つまり「谷を駆け抜ける者」という意味が有力です。
また、ウェールズに伝わる英雄「ペレドゥル」がパーシヴァルの原型とされています。
ウェールズ語の「ペレドゥル」は「槍」や「硬い鋼」を意味し、投げ槍を得意とするパーシヴァルのイメージと重なりますね。
パーシヴァルの生い立ち
パーシヴァルの出自は物語によって異なりますが、多くの伝承に共通するのは「森の中で育てられた」という設定です。
父の死と母の決断
パーシヴァルの父はペリノア王(一説ではアラン・ル・グロという王)。
しかし父は彼が幼い頃に亡くなってしまいます。
母親は息子を騎士にしたくありませんでした。
夫を失った悲しみから、息子にも同じ運命をたどってほしくなかったのです。
そこで母は幼いパーシヴァルを連れ、ウェールズの深い森へと移り住みます。
騎士のことを何も知らない、世間から隔絶された生活が始まりました。
騎士への憧れ
15歳になったある日、パーシヴァルは森の中で騎士たちと遭遇します。
甲冑をまとい、馬に乗る彼らの姿に、パーシヴァルは一目で心を奪われました。
「あれは何だ?天使なのか?」
騎士の存在すら知らなかった彼は、その美しさに衝撃を受けます。
そして決意するんです——自分も騎士になりたい、と。
母親の反対を押し切り、パーシヴァルはアーサー王の宮廷へと向かいました。
母は悲しみのあまり、息子が去った後に亡くなったとも伝えられています。
円卓の騎士への道
宮廷に到着したパーシヴァルは、まさに「田舎者」そのものでした。
礼儀作法も知らず、自分の名前すら正確に言えない有様だったとか。
赤い騎士を倒す
ちょうどその頃、「赤い騎士」と呼ばれる無礼な男がアーサー王の宮廷で暴れていました。
王妃グィネヴィアにワインをかけ、黄金の杯を奪って立ち去ったのです。
パーシヴァルは何も考えずにその騎士を追いかけ、なんと倒してしまいます。
彼は赤い騎士の鎧を手に入れ、以後、赤い甲冑を身にまとうようになりました。
騎士道を学ぶ
その後、パーシヴァルは老騎士ゴルヌマン(グルネマンツ)のもとで騎士道を学びます。
師匠から教わった大切な教え——それは「むやみに質問をするな」というものでした。
この教えが、後にパーシヴァルの運命を大きく左右することになります。
やがて彼の実力は認められ、アーサー王から騎士に叙任。
円卓の騎士の一員となりました。
聖杯との出会いと失敗
パーシヴァルの物語で最も有名なエピソードが、「漁夫王(フィッシャーキング)」との出会いです。
謎の城への招待
ある日、パーシヴァルは川で釣りをしている老人に出会います。
老人は彼を自分の城に招待しました。
城に着くと、そこには負傷した王がいました。
王は足(または股間)に癒えない傷を負い、歩くこともできません。
彼こそが「漁夫王」——聖杯を守る一族の王でした。
不思議な行列
その夜、パーシヴァルの前を奇妙な行列が通り過ぎます。
- 血のしたたる槍を持った若者
- 燭台を持った召使いたち
- 宝石で飾られた黄金の器(グラール=聖杯)を持つ美しい乙女
- 銀の皿を持った乙女
行列は何度もパーシヴァルの前を通り過ぎました。
しかし彼は、師匠の「むやみに質問をするな」という教えを守り、何も聞きませんでした。
痛恨のミス
翌朝、目を覚ますと城は無人になっていました。
そして出会った女性から衝撃の事実を告げられます。
「あなたが『この杯は何のためのものか』と聞いていれば、王は癒され、国は救われたのに!」
パーシヴァルは自分の失敗を知り、愕然とします。
聖杯について正しい質問をすることが、王を癒す唯一の方法だったのです。
こうしてパーシヴァルは、聖杯をもう一度探し出すという長い旅に出ることになりました。
聖杯探求の結末

パーシヴァルの聖杯探求がどう終わるかは、物語のバージョンによって異なります。
クレティアン・ド・トロワ版(未完)
最初に聖杯物語を書いたクレティアンは、作品を完成させる前に亡くなりました。
そのため、パーシヴァルの物語は中途半端なまま終わっています。
後に複数の作家が「続編」を書き、物語を完結させました。
マロリー版『アーサー王の死』
トマス・マロリーの『アーサー王の死』では、聖杯を最終的に手にするのはガラハッドという騎士です。
パーシヴァルはガラハッドとボールス卿とともに聖杯探求を成功させた3人の騎士の一人として描かれています。
ただし、聖杯を直接手にしたのはガラハッドだけ。
パーシヴァルはその場に立ち会い、ガラハッドが昇天するのを見届けました。
その後、パーシヴァルは隠者となり、1年後に静かに息を引き取ったとされています。
ヴォルフラム版『パルツィヴァール』
ドイツの詩人ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩では、パーシヴァルが物語の主人公です。
最終的に彼は聖杯王となり、物語は大団円を迎えます。
また、この作品ではパーシヴァルに息子がいることが語られています。
その名はローエングリン——「白鳥の騎士」として知られる人物です。
パーシヴァルの特徴
パーシヴァルを他の騎士と分けるのは、その独特なキャラクター性です。
「聖なる愚者」
パーシヴァルの最大の特徴は「純粋さ」と「無知」の組み合わせです。
世間知らずで、常識を知らない。
でも、だからこそ俗世の欲望に染まっていない。
この「愚かなほどに純粋」という性質が、彼を聖杯探求にふさわしい騎士にしました。
「聖なる愚者(Holy Fool)」という呼び名は、まさにパーシヴァルを表現するための言葉です。
武勇にも優れる
純粋なだけでなく、パーシヴァルは武芸にも優れていました。
- 森で育ったことで培われた野生的な身体能力
- 甲冑を着たまま鐙を使わずに馬に飛び乗る
- 投げ槍の一撃で敵を倒す
円卓最強の騎士ランスロットと戦い、引き分けたという伝承もあります。
パーシヴァルの家系
パーシヴァルの家族構成は物語によって様々ですが、代表的なものを紹介します。
| 関係 | 人物 |
|---|---|
| 父 | ペリノア王(またはアラン・ル・グロ) |
| 母 | 名前は不明(物語で重要な役割を担う) |
| 兄弟 | ラモラック卿、アグロヴァル卿、トー卿など |
| 姉 | ディンドラン(聖杯を運ぶ役を担うことも) |
| 息子 | ローエングリン(白鳥の騎士) |
| 師匠 | ゴルヌマン |
| 恋人 | ブランシュフルール |
また、一部の伝承ではパーシヴァルはアリマタヤのヨセフの血を引くとされています。
アリマタヤのヨセフはキリストの亡骸を葬り、聖杯をヨーロッパに持ち込んだとされる人物。
この血筋こそが、パーシヴァルを聖杯にふさわしい騎士にしたという解釈もあります。
ウェールズの伝承「ペレドゥル」
パーシヴァルの原型とされるのが、ウェールズの伝説に登場するペレドゥルです。
ウェールズの物語集『マビノギオン』に収録された「ペレドゥル・アプ・エヴラウグ」は、クレティアンの『聖杯の物語』と多くの共通点を持っています。
フランス版との違い
興味深いことに、ウェールズ版には「聖杯」が登場しません。
代わりに、血の滴る槍と、皿の上の生首が現れます。
この生首は、ペレドゥルの従兄弟のもの。
物語の結末では、ペレドゥルが従兄弟を殺した魔女たちに復讐を果たします。
どちらが先に作られたのかは学者の間でも議論がありますが、ケルト神話の古い要素がウェールズ版により強く残っているとされています。
また、ペレドゥルはアダンク(アーヴァンク)という水の怪物と戦った英雄としても知られています。
ワーグナーのオペラ『パルジファル』
パーシヴァルの物語は、19世紀にリヒャルト・ワーグナーによって壮大なオペラに生まれ変わりました。
『パルジファル』は1882年に初演された、ワーグナー最後の作品です。
構想から完成まで約40年もかかったという、まさに集大成と呼べる作品です。
あらすじ
舞台は中世スペインの聖杯城モンサルヴァート。
アムフォルタス王は魔術師クリングゾルの罠にはまり、聖槍で刺され、癒えない傷に苦しんでいます。
王を救えるのは「清らかな愚者」だけ——そこに現れたのが、名前も知らない若者パルジファルでした。
パルジファルは誘惑を退け、聖槍を取り戻し、最終的に王を癒して新たな聖杯王となります。
「舞台神聖祝典劇」
ワーグナーはこの作品を単なる「オペラ」とは呼ばず、「舞台神聖祝典劇」という特別な名称を与えました。
初演から1913年までは、ワーグナー自身が建てたバイロイト祝祭劇場でのみ上演が許可されていたほどです。
現代作品への影響
パーシヴァルは現代のゲームや映画にも多く登場しています。
- 映画『エクスカリバー』(1981年):聖杯探求で重要な役割を担う
- BBCドラマ『魔術師マーリン』:屈強な騎士として登場
- ゲーム『Fate/Grand Order』:円卓の騎士の一人として実装
- 小説『レディ・プレイヤー1』:主人公のアバター名「パーシヴァル」の由来
- フランスのコメディドラマ『カーメロット!』:お人好しで少しおバカな騎士として活躍
「純粋で無垢な英雄」というキャラクター像は、現代のファンタジー作品にも大きな影響を与え続けています。
まとめ
- パーシヴァルは聖杯伝説で最初に登場した主人公で、12世紀にクレティアン・ド・トロワが生み出した
- 名前は「谷を駆け抜ける者」を意味し、ウェールズの英雄ペレドゥルが原型
- 森で世間知らずに育ち、騎士への憧れからアーサー王に仕えた
- 漁夫王の城で聖杯を見たが、質問をしなかったために王を救えなかった
- 後にガラハッド、ボールスとともに聖杯探求を成功させた3人の騎士の一人となる
- 「聖なる愚者」という純粋さが、彼を聖杯にふさわしい騎士にした
- ワーグナーのオペラ『パルジファル』で物語は不朽の名作に
パーシヴァルの物語は「失敗から学び、成長する英雄」の原型とも言えます。
最初は何も知らなかった青年が、苦難の旅を経て、最後には聖杯王になる——その姿は、今も多くの人の心を動かし続けています。


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