甲冑に身を包み、天馬を駆って戦場を駆け抜ける美しき乙女たち——それがヴァルキリーです。
北欧神話の中でも特に人気の高い存在で、ゲームやアニメでもおなじみですよね。
でも、彼女たちは単なる「かっこいい女戦士」ではありません。
その正体は、戦死者の魂を選び取り、神々の元へ導くという重要な役目を担う存在なんです。
この記事では、ヴァルキリーの意味や役割、有名なエピソードまで、北欧神話の戦乙女についてわかりやすく解説していきます!
ヴァルキリーの基本情報
ヴァルキリーは北欧神話に登場する女性の超自然的存在です。
主神オーディンに仕え、戦場で倒れた勇士の魂を天上の宮殿「ヴァルハラ」へ導く役割を持っています。
彼女たちには複数の呼び名があり、言語によって発音が異なります。
- ヴァルキリー(Valkyrie):英語読み
- ワルキューレ / ヴァルキューレ(Walküre):ドイツ語読み
- ヴァルキュリャ(Valkyrja):古ノルド語(原語)
日本では「戦乙女」「戦女神」とも訳されますね。
どの呼び方も同じ存在を指しているので、好きな呼び方を使って大丈夫です。
人数については諸説あり、9人、12人、13人、さらには300人という説まであります。
文献に名前が残っているヴァルキリーだけでも39柱以上が確認されています。
名前に込められた意味
「ヴァルキリー」という名前、実はそのまま彼女たちの役割を表しています。
古ノルド語で分解すると、こうなります。
- valr(ヴァル)= 戦場に横たわる死体
- kjósa(キョーサ)= 選ぶ
つまり「戦死者を選ぶ者」という意味なんですね。
戦場で誰が死に、誰が生き残るかを決める——それがヴァルキリーの本質的な役割というわけです。
他にも「願いの乙女」「オーディンの乙女」「死の乙女」などの呼び名もあります。
これらはすべて、主神オーディンとの深い結びつきを示しています。
ヴァルキリーの姿と能力
一般的なイメージ
現代の私たちがイメージするヴァルキリーは、おおよそこんな感じでしょうか。
羽飾りのついた兜と鎧に身を固め、槍や剣を手にした美しい乙女。
翼の生えた天馬に乗って大空を駆け、戦場に降り立つ——華やかで勇壮な姿ですね。
ただ、これは時代とともに洗練されたイメージです。
スカンジナビア半島では、もっと逞しいアマゾネスのような姿として描かれることもありました。
関連する動物たち
ヴァルキリーは馬だけでなく、様々な動物と結びつけられています。
- 馬:天馬に乗って戦場を駆ける
- 白鳥:白鳥に変身できるという伝承がある
- カラス:オーディンの使いであるカラスと共に描かれる
- 狼:古い文献では「ヴァルキリーの馬=狼」という表現も
特に白鳥との関係は興味深いですね。
ヴァルキリーの原型は、白鳥に変身する魔術的な存在「フィルギャ」だったという説もあります。
オーロラとの関係
北欧の人々は、夜空に輝くオーロラをこう解釈していました。
「オーディンの使いとして夜空を駆けるヴァルキリーの鎧が煌いたもの」だと。
ロマンチックな発想ですよね。
極北の地で揺らめく神秘的な光を見て、戦乙女たちを思い浮かべていたわけです。
ヴァルキリーの役割と仕事
戦死者を選び、ヴァルハラへ導く
これがヴァルキリーの最も重要な任務です。
戦場に現れ、勇敢に戦って死んだ戦士の中から「ふさわしい者」を選び出します。
選ばれた戦士は「エインヘリャル」(神々の戦士)となり、天上の宮殿ヴァルハラへ招かれます。
なぜオーディンは英雄を集めるのでしょうか?
それは、いつか来る「ラグナロク」(神々の最終戦争)に備えるためです。
集められたエインヘリャルたちは、世界の終わりにオーディンと共に戦う運命にあります。
つまりヴァルキリーは、来たるべき決戦のための「スカウト係」というわけですね。
ヴァルハラでのおもてなし
戦士たちを連れてきた後も、ヴァルキリーの仕事は続きます。
ヴァルハラでエインヘリャルたちは毎日戦闘訓練を行いますが、夜になると大宴会が開かれます。
そこでヴァルキリーたちは、蜜酒(ミード)を給仕する役目を担うのです。
戦場の死神から宴会の給仕へ——ずいぶんギャップがありますよね。
ただ、これは後世に加えられた役割という説もあります。
戦いの結果を左右する
一部の伝承では、ヴァルキリーはもっと積極的に戦いに関与します。
単に死者を選ぶだけでなく、戦いの勝敗そのものを決める力を持っていたとも言われています。
お気に入りの戦士を守護したり、逆に死をもたらしたりもできたのだとか。
『ニャールのサガ』には、12人のヴァルキリーが織機で運命を織る場面が登場します。
しかもその織機、横糸は人間の腸、重りは人の首、杼(ひ)は剣と矢でできているという……。
かなりグロテスクですが、これこそが古い時代のヴァルキリー像かもしれません。
死を司る存在として、畏怖の対象でもあったわけですね。
有名なヴァルキリーたち
ブリュンヒルデ——最も有名な戦乙女
ヴァルキリーと言えば、この人を避けては通れません。
『ヴォルスンガ・サガ』やワーグナーのオペラで知られる、悲劇のヒロインです。
彼女のエピソードはこんな感じです。
ある戦いで、オーディンは特定の王に勝利を与えるよう命じました。
しかしブリュンヒルデは、その王がふさわしくないと判断し、別の王に勝利を与えてしまいます。
神に逆らった罰として、彼女は神性を剥奪され、魔法の炎に囲まれた場所で眠りにつかされます。
「勇者が炎を超えて来るまで目覚めない」という呪いと共に。
やがて英雄シグルズ(ジークフリート)が炎を突破し、彼女を目覚めさせます。
二人は恋に落ちますが、その後は裏切りと悲劇の連続……。
この物語、どこかで聞いたことがありませんか?
そう、「眠り姫」のモチーフになったと言われています。
シグルーン——愛に生き、愛に死んだヴァルキリー
シグルーンは「勝利のルーン」という意味を持つヴァルキリーです。
彼女は英雄ヘルギと深く愛し合いましたが、ヘルギは戦いで命を落とします。
その後、シグルーンは悲しみのあまり死んでしまいました。
興味深いのは、北欧神話では彼女が「転生」するとされていることです。
シグルーンはヴァルキリーのスヴァーヴァの生まれ変わりであり、後にカーラとして再び生まれ変わるのだとか。
ヒルド——戦場を永遠に続かせる者
ヒルドは「戦い」を意味する名を持つヴァルキリーです。
彼女には恐ろしい能力がありました。
戦いで死んだ戦士を夜のうちに蘇らせ、翌日また戦わせるのです。
この能力によって、彼女が関わった戦いは永遠に終わることがなかったと言われています。
ヴァルキリーの中でも、特に「死」との結びつきが強い存在ですね。
スクルド——運命の女神との二重人格
スクルドは「未来」または「負債」を意味するヴァルキリーです。
実は彼女、北欧神話の「ノルン」(運命の三女神)の一人でもあります。
過去・現在・未来を司る三姉妹の末っ子として、未来を担当しています。
ヴァルキリーとノルンの両方の顔を持つ、ちょっと特殊な存在なんですね。
戦場で死を選び、運命を紡ぐ——両方の役割がスクルドに集約されています。
フレイヤとの関係
実は、戦死者の魂を受け取るのはオーディンだけではありません。
愛と豊穣の女神フレイヤも、戦死者の半分を自分の館「フォールクヴァング」に迎え入れます。
しかも一説によると、フレイヤが先に選ぶ権利を持っていたとも。
ヴァルキリーたちはフレイヤにも仕えており、選んだ戦士を彼女の元へも導いていたようです。
フレイヤ自身もヴァルキリーの名前リストに含まれることがあります。
女神でありながらヴァルキリーでもある——北欧神話らしい重層的な設定ですね。
ヴァルキリーの起源と変遷
ヴァルキリーはどのようにして生まれたのでしょうか?
研究者の間では、もともとは「戦場を徘徊する死の精霊」だったという説が有力です。
死体を貪り食らい、魂を冥界へ連れ去る——恐ろしい存在として認識されていたわけですね。
それが時代と共に変化していきます。
- 初期:戦場に現れる死の精霊、死体を食らう存在
- 中期:戦死者を選び、死者の国へ導く存在
- 後期:美しい戦乙女、英雄の恋人として登場
ヴァルハラが「戦場の恐怖」から「英雄の楽園」へとイメージが変わるにつれ、ヴァルキリーも人間的で親しみやすい存在になっていったのです。
ギリシャ神話の「ケール」(死の精霊)との関連を指摘する学者もいます。
文化を超えて「戦場に現れる女性の死神」という概念が存在していたのかもしれません。
現代への影響
ワーグナーのオペラ
ヴァルキリーを世界的に有名にしたのは、何と言ってもワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』でしょう。
特に「ワルキューレの騎行」は、誰もが一度は耳にしたことがあるはず。
映画『地獄の黙示録』のヘリコプター襲撃シーンで使われた、あの曲です。
ゲーム・アニメでの人気
現代のポップカルチャーでも、ヴァルキリーは大人気です。
- 『ヴァルキリープロファイル』シリーズ:ヴァルキリーが主人公
- 『超時空要塞マクロス』:可変戦闘機の名前に採用
- 多数のファンタジー作品:女戦士の代名詞として登場
「強くて美しい女戦士」のイメージは、現代でも色褪せていませんね。
ワルキューレ作戦
意外なところでは、第二次世界大戦中のヒトラー暗殺計画にも「ワルキューレ」の名が使われました。
1944年7月20日に実行されたこの計画は失敗に終わりましたが、後に映画化もされています。
ヴァルキリー名前一覧
北欧神話の文献に登場するヴァルキリーの名前を一覧にまとめました。
名前の多くは「戦い」「武器」「勝利」に関連しています。
| 名前 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| Brynhildr | ブリュンヒルデ | 輝く戦い、鎧の戦い |
| Sigrun | シグルーン | 勝利のルーン |
| Skuld | スクルド | 未来、負債 |
| Hildr | ヒルド | 戦い |
| Gunnr | グンル | 戦争 |
| Skögul | スコグル | 揺らす者 |
| Göndul | ゲンドゥル | 杖を持つ者 |
| Geirskögul | ゲイルスコグル | 槍のスコグル |
| Hrist | フリスト | 震える者 |
| Mist | ミスト | 霧、雲 |
| Herfjötur | ヘルフィヨトゥル | 軍を縛る者 |
| Herja | ヘルヤ | 荒らす者 |
| Hlökk | フロック | 騒音、戦い |
| Þrúðr | スルーズ | 力 |
| Randgríðr | ランドグリーズ | 盾の平和 |
| Ráðgríðr | ラーズグリーズ | 助言の平和 |
| Reginleif | レギンレイヴ | 神々の遺産 |
| Eir | エイル | 慈悲、平和 |
| Svipul | スヴィプル | 変わりやすい者 |
| Sanngríðr | サンングリーズ | 非常に激しい |
| Hjalmþrimul | ヒャルムスリムル | 兜を鳴らす者 |
| Skeggöld | スケッギョルド | 斧の時代 |
| Skalmöld | スカルメルド | 剣の時代 |
| Göll | ゲル | 叫び、騒音 |
| Geiravör | ゲイラヴェル | 槍を持つ者 |
| Geirdriful | ゲイルドリフル | 槍を投げる者 |
| Geirahöð | ゲイラヘズ | 槍の戦い |
| Geirönul | ゲイレヌル | 槍で突進する者 |
| Kára | カーラ | 巻き毛、嵐 |
| Sváva | スヴァーヴァ | スワビア人、眠らせる者 |
| Sigrdrifa | シグルドリーヴァ | 勝利を駆り立てる者 |
| Róta | ローター | 混乱、嵐 |
| Hlaðguðr svanhvít | フラズグズ・スヴァンフヴィート | 白鳥のように白い |
| Hervör alvitr | ヘルヴォル・アルヴィトル | すべてを知る不思議な存在 |
| Ölrún | エルルーン | 麦酒のルーン |
| Þögn | ソグン | 沈黙 |
| Þrima | スリマ | 戦い |
| Sveið | スヴェイズ | 振動、騒音 |
| Hrund | フルンド | 突く者 |
※名前の綴りや意味には諸説あります
まとめ
ヴァルキリー(バルキリー/ワルキューレ)についてまとめると、こうなります。
- 正体:北欧神話に登場する女性の超自然的存在
- 名前の意味:「戦死者を選ぶ者」
- 主な役割:戦場で死んだ勇士をヴァルハラへ導く
- 仕える神:主神オーディン(女神フレイヤにも)
- 目的:最終戦争ラグナロクに備えて英雄を集める
- 有名な個体:ブリュンヒルデ、シグルーン、ヒルド、スクルドなど
もともとは恐ろしい死の精霊だったヴァルキリーは、時代と共に美しい戦乙女へと変化していきました。
その姿は現代のゲームやアニメにも受け継がれ、今なお多くの人々を魅了し続けています。
北欧神話の中でも特に人気の高い存在なので、他のエピソードを調べてみるのも面白いかもしれませんね。


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