シルキーとは?絹のドレスをまとうイギリスの家の妖精を解説

神話・歴史・文化

絹の衣擦れの音が聞こえたら、それはシルキーの合図かもしれません。

シルキー(Silky)は、イングランド北部やスコットランドとの国境地帯に伝わる不思議な存在です。
妖精なのか、それとも幽霊なのか——その正体は今も謎に包まれています。

この記事では、絹のドレスをまとった謎めいた存在・シルキーの伝承や特徴について紹介します。


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シルキーとは

シルキーは、イングランド北部で語り継がれてきた女性の姿をした超自然的な存在です。

特定の古い屋敷や城に住み着き、家事を手伝ったり、時には住人を困らせたりします。
研究者の間でも「妖精なのか幽霊なのか」で意見が分かれる、ちょっと不思議な立ち位置の存在なんですね。

民俗学者のウィリアム・ヘンダーソンは1879年の著書で、シルキーを「ブラウニー」や「バーゲスト」と並ぶ「地方の精霊」として紹介しています。
一方で、各地の伝承では「不幸な死を遂げた女性の霊」として語られることも多いんです。


名前の由来と姿

「シルキー」という名前は「silk(絹)」に由来します。

彼女たちは灰色や白のシルクのドレスを身にまとい、動くたびに「シュルシュル」「サワサワ」と衣擦れの音を立てるのが特徴です。
この音こそがシルキーの存在を知らせるサイン。姿が見えなくても、音だけは聞こえるということも多かったようです。

伝承によって服の色は様々で、白いシルク、灰色のシルク、花柄のサテン、古風なブロケード生地など、いずれも上品で高価そうな衣装ばかり。
当時シルクは庶民には手が届かない高級品でしたから、シルキーは貴族階級の女性として描かれていたのでしょう。

ちなみに、アザラシが人間に変身する「セルキー(Selkie)」とは全くの別物です。
名前が似ているので混同されやすいですが、シルキーは海とは関係ありません。


シルキーの性格と特徴

シルキーの性格は一言でいうと「気まぐれ」です。

ブラウニーとの共通点

イギリスには「ブラウニー」という家の妖精がいます。
人が寝静まった夜に現れて、掃除や家事を手伝ってくれるありがたい存在ですね。

シルキーもこのブラウニーと似た面を持っています。
暖炉の火を管理したり、病人の世話をしたり、花を飾ってくれたりと、住人を助けてくれることがあるんです。

天邪鬼な一面

ただし、シルキーにはかなりクセがあります。

散らかった部屋はきれいに片付けるのに、きちんと整頓された部屋はわざとひっくり返す——という天邪鬼な性格が報告されているんです。
特に土曜日の夜に部屋を掃除して日曜日に備えていると、翌朝には全部台無しにされていた、なんて話もあります。

怒らせると怖い

シルキーは基本的に穏やかですが、一度機嫌を損ねると大変です。

夜中に寝具を引っ張ったり、天井裏で暴れたり、時には住人を怖がらせて家から追い出してしまうこともあったとか。
家そのものに執着する存在なので、新しく住み始めた人と相性が悪いと、徹底的に嫌がらせをしたようです。


ブラックヘドンのシルキー——最も有名な伝承

シルキーの伝承の中で最も有名なのが、ノーサンバーランド地方のブラックヘドン村に現れたシルキーです。

突然現れる美しい女

19世紀初頭、この静かな村は一人の「超自然的な存在」によって騒然となりました。

彼女は夜道を歩く旅人の前に突然現れ、まばゆい光を放ちながら姿を見せたといいます。
馬に乗っている人がいれば、いつの間にか後ろにひょいと飛び乗り、しばらく一緒に進んだかと思うと、ふっと消えてしまう。
残された旅人はただ呆然とするしかなかったそうです。

シルキーの椅子

ブラックヘドンから数キロ離れたベルセイには、シルキーのお気に入りの場所がありました。

木々に囲まれた美しい岩場があり、その下には湖と滝があります。
滝を見下ろす古い大木の枝が絡み合って自然の「椅子」のようになっており、シルキーはそこに座って夜を過ごすのが好きだったとか。

この木は「シルキーの椅子(Silky’s Seat)」と呼ばれ、ベルセイ城の領主によって大切に保存されました。

馬を止める不思議な力

シルキーには動物を操る力があったようです。

ある夜、農夫が馬車で石炭を運んでいると、橋の上で馬がぴたりと止まってしまいました。
どれだけ鞭を打っても、引っ張っても、馬は一歩も動きません。
幸い、別の農夫が「ウィッチウッド(魔除けのナナカマド)」を持って通りかかり、馬はようやく動き出したそうです。

この橋は今も「シルキーの橋(Silky’s Brig)」と呼ばれています。

金貨と共に消えたシルキー

シルキーはある日を境に、ぱったりと姿を消しました。

ブラックヘドンの屋敷で働いていた女中が一人で部屋にいると、突然天井が崩れ落ち、黒い塊が床に落ちてきました。
女中は「悪魔だ!」と叫んで逃げ出しましたが、勇気を出して見に行った女主人が見つけたのは——金貨がぎっしり詰まった革袋でした。

この日以来、シルキーは二度と現れなくなったといいます。
人々は「シルキーは財宝を隠したまま死んだ女性の霊で、宝が見つかったことでようやく成仏できたのだろう」と噂しました。


その他のシルキーたち

ブラックヘドン以外にも、イングランド北部には複数のシルキーが語り継がれています。

デントンホールのシルキー

ニューカッスル近郊のデントンホールには、白いシルクのアンティークドレスを着たシルキーが現れました。

このシルキーは「オールド・バーバリー」とも呼ばれ、比較的穏やかな性格だったようです。
炭鉱夫たちに危険を知らせて命を救ったり、病人の世話をしたり、暖炉に火を焚いたりと、住人を助けてくれました。
階段に花束を置いていくこともあったとか。

ただし、家族に不幸が迫ると突然姿を現したり、不気味な物音を立てたりして、災いの前触れを告げる存在でもあったようです。

チルトンのシルキー

ノースシールズ近郊のチルトンにも、シルキーの伝承がありました。

こちらは17世紀末、ウィリアム3世の時代にアーガイル公爵の愛人だった女性の霊とされています。
彼女は突然亡くなり、殺されたのではないかという噂もあったため、死後も茶色のシルクドレスをまとって屋敷の周りをさまよっていたそうです。


シルキーは妖精?それとも幽霊?

シルキーの正体については、今も議論が続いています。

幽霊説では、シルキーは「不幸な死を遂げた女性」や「財宝を隠したまま死んだ人」の霊とされます。
特にブラックヘドンのシルキーが金貨と共に消えたエピソードは、この説を裏付けるものとして語られています。

妖精説では、シルキーはブラウニーの仲間で、家に住み着く精霊の一種とされます。
家事を手伝う性質や、気まぐれな性格は、確かにブラウニーとよく似ています。

民俗学者のキャサリン・ブリッグスは「デントンホールの話には、妖精と幽霊の両方の要素が混在している」と指摘しています。
もしかすると、シルキーはその両方の性質を持つ、独特な存在なのかもしれませんね。


現代への影響

シルキーは現代のポップカルチャーにも影響を与えています。

ゲーム『真・女神転生』シリーズでは、シルキーが妖精として登場。
青いシルクのドレスを着た美しい女性として描かれています。

また、漫画・アニメ『魔法使いの嫁』には、主人公の家に住み着くシルキーというキャラクターが登場し、家事全般をこなす献身的な存在として描かれています。
こちらも伝承のシルキーの「家の精霊」としての側面を受け継いでいますね。

イギリスでは今でも、ブラックヘドンの橋を渡るときに車のエンジンが不調になると「シルキーの仕業かも」と冗談が交わされるそうです。


まとめ

シルキーについて紹介しました。

  • シルキーはイングランド北部に伝わる女性の姿をした精霊または幽霊
  • 名前の由来は、絹のドレスが擦れる音から
  • 家事を手伝うこともあるが、気まぐれで天邪鬼な性格
  • 最も有名なのはノーサンバーランド地方のブラックヘドンのシルキー
  • 金貨が発見されると同時に姿を消したという伝承がある
  • 妖精なのか幽霊なのかは今も議論が続いている

もし夜道で絹の衣擦れの音が聞こえたら、それはシルキーかもしれません。
驚かせるのが好きな彼女たちですが、悪意はないようですから——きっと。

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