アーサー王が死の間際、最後に頼った騎士は誰だったのでしょうか?
ランスロットでもガウェインでもありません。
その名はベディヴィア——アーサー王伝説の中で最も古くから登場し、最後まで王の傍にいた騎士です。
エクスカリバーを湖に返した人物として有名ですが、実は2度も王の命令に背いたという人間臭いエピソードの持ち主。
この記事では、ベディヴィアの伝承や特徴、そして彼にまつわる興味深いエピソードをわかりやすく紹介します。
ベディヴィアの概要
ベディヴィア(英語: Bedivere、ウェールズ語: Bedwyr)は、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人です。
彼の最も有名なエピソードは、瀕死のアーサー王に命じられてエクスカリバーを湖に投げ入れたこと。
この場面は多くの映画や小説で描かれており、アーサー王伝説のクライマックスとして知られています。
実はベディヴィアは、ケイ卿やガウェイン卿と並んで最も古い時代から伝承に登場する騎士の一人。
ランスロットやトリスタンが後から物語に加えられた人物であるのに対し、ベディヴィアはウェールズの古い伝承から存在していました。
宮廷でのアーサー王の「儀仗官(マーシャル)」として仕え、王の側近中の側近として描かれることが多い騎士です。
名前の意味と異称
ベディヴィアという名前には、言語によってさまざまなバリエーションがあります。
| 言語 | 表記 |
|---|---|
| 英語 | Bedivere(ベディヴィア) |
| ウェールズ語 | Bedwyr(ベドウィル) |
| フランス語 | Bédoier(ベドワイエ) |
| ラテン語 | Beduerus(ベドゥエルス) |
日本では「ベディヴィア」と「ベディヴィエール」の2種類の読み方がありますが、原語の発音に近いのは前者です。
ウェールズの伝承では「ベドウィル・ベドリバント」というあだ名で呼ばれていました。
これは「完璧な腱のベドウィル」あるいは「恐るべき膂力のベディヴィア」という意味で、彼の並外れた戦闘力を称えたものです。
ベディヴィアの系譜
ベディヴィアの家族については、文献によって記述が異なります。
ウェールズの伝承によると、父親はペドロッド(Pedrod)という人物。
南東ウェールズの王族の一員だったのではないかと推測する研究者もいます。
一方、後のロマンス作品では、ノルマンディーのバイユー市を建設した祖父と同じ名前を受け継いだとされています。
マロリーの『アーサー王の死』では、父親を「コルネウス公爵」としています。
家族としては、兄弟にルーカン卿、いとこにグリフレット卿がいるとされています。
また、息子アムレンと娘エネヴァウクがいたとウェールズの伝承は伝えています。
姿と特徴
隻腕の戦士
ベディヴィアの最大の特徴は、片腕しかなかったこと。
どのような経緯で腕を失ったのかは明確ではありませんが、戦いで失ったとする説が有力です。
それにもかかわらず、彼は円卓でも屈指の戦士として描かれました。
ウェールズの物語『キルッフとオルウェン』には、こんな記述があります。
「隻腕にもかかわらず、同じ戦場でほかの三人の騎士より早く敵に血を流させた」
槍の一突きは他の騎士の九突きに匹敵するとも言われ、ハンデをものともしない凄まじい武勇の持ち主でした。
ブリテン屈指の美男子
意外かもしれませんが、ベディヴィアはブリテンで最も美しい男性の一人でもありました。
アーサー王、ドリッフに次ぐ三番目の美男子とされています。
勇猛な戦士でありながら端正な容姿を持つ——まさに騎士道物語の理想を体現した人物だったのでしょう。
主な伝承とエピソード
エクスカリバーを湖に返した騎士
ベディヴィアといえば、やはりこのエピソードが最も有名です。
モードレッドの反乱によるカムランの戦いで、アーサー王は致命傷を負いました。
死を悟った王は、ベディヴィアにエクスカリバーを湖に投げ入れ、湖の貴婦人に返すよう命じます。
ところが、ベディヴィアは剣の美しさに心を奪われ、2度にわたって王の命令に背いてしまいます。
剣を隠し、「投げ入れました」と嘘をついたのです。
アーサー王は「何が起きた?」と尋ねますが、ベディヴィアの答えは「風が吹いて波が立っただけです」というもの。
超自然的な出来事が起きていないことから、王は嘘を見抜きました。
3度目の命令で、ベディヴィアはついに意を決してエクスカリバーを湖へ投げ入れます。
すると水面から白い衣に包まれた腕が現れ、剣をつかみ取り、3度振ってから水中へ消えていきました。
この場面は、アーサー王伝説の中でも最も印象的なシーンの一つとして知られています。
モン・サン・ミシェルの巨人退治
ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』には、別の冒険も記されています。
フランスのブルターニュ地方を荒らし回るモン・サン・ミシェルの巨人。
この恐ろしい怪物を退治するため、アーサー王はベディヴィアとケイを連れて島に向かいます。
ベディヴィアは先発隊として島を偵察し、その後の戦いでアーサー王を補佐しました。
最終的にアーサー王が巨人を討ち取り、ブルターニュに平和が戻ったのです。
王の最期を見届けた騎士
カムランの戦いの後、ベディヴィアはアーサー王をアヴァロンへ送り出した最後の人物でもあります。
エクスカリバーを湖に返すと、モルガンや他の貴婦人たちを乗せた小舟がやってきました。
アーサー王はその舟に乗り、妖精の島アヴァロンへと去っていったのです。
王を見送った後、ベディヴィアはカンタベリー大司教が営む修道院に入り、隠者として余生を送ったとされています。
後にランスロットもこの修道院を訪れ、共に過ごしたという伝承もあります。
文献による扱いの違い
ベディヴィアの運命は、文献によって異なる描かれ方をしています。
| 文献 | ベディヴィアの運命 |
|---|---|
| 『ブリタニア列王史』(ジェフリー・オブ・モンマス) | ローマ戦役で戦死。バイユーに埋葬された |
| 『アーサー王の死』(マロリー) | カムランを生き残り、修道院で余生を送る |
| フランス語系のロマンス | エクスカリバー返還役はグリフレットが担当 |
| ウェールズの詩 | スノードニアのトリファン山に墓がある |
興味深いのは、フランス語系の作品ではベディヴィアではなくグリフレットがエクスカリバーを返すという点。
英語系の作品でベディヴィアにこの役割が与えられたのは、マロリーの『アーサー王の死』が大きな影響を与えています。
現代作品でのベディヴィア
ランスロットの代役として
現代のアーサー王小説では、ベディヴィアに意外な役割が与えられることがあります。
ローズマリー・サトクリフやジリアン・ブラッドショー、メアリー・スチュアートといった作家は、グィネヴィアの愛人役をランスロットではなくベディヴィアに担当させています。
なぜでしょうか?
実はランスロットは後から物語に加えられた人物で、歴史的にアーサー王を描こうとすると不自然になるためです。
古くから伝承に登場するベディヴィアの方が「本物らしい」というわけですね。
ゲーム・アニメでの人気
日本では、スマートフォンゲーム『Fate/Grand Order』でベディヴィアが重要キャラクターとして登場し、知名度が大きく上昇しました。
この作品では、エクスカリバーを返せなかったベディヴィアが1500年以上さまよい続けるという独自のストーリーが展開されています。
「王への忠義」と「人間としての弱さ」の狭間で揺れる姿は、多くのファンの心を掴みました。
コメディでも活躍
1975年の映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』では、「賢者ベディヴィア卿」として登場。
ただし、その「賢さ」はかなり怪しく、「魔女は木でできているから水に浮く」といったとんでもない理論を展開する滑稽なキャラクターとして描かれています。
まとめ
ベディヴィアの特徴をまとめると、以下のようになります。
- アーサー王伝説で最も古くから登場する騎士の一人
- エクスカリバーを湖に返したことで有名(ただし2度嘘をついた)
- 隻腕でありながら円卓屈指の戦士で、ブリテン三指に入る美男子
- アーサー王の儀仗官として仕え、最初から最後まで王の傍にいた
- 兄弟はルーカン卿、いとこはグリフレット卿
- 現代作品でも人気が高く、さまざまな形で描かれている
ランスロットやガウェインほど華々しい武勇伝はないかもしれません。
しかし、王が最も信頼し、最後の願いを託した騎士——それがベディヴィアでした。
派手な活躍よりも、静かな忠義と最期まで寄り添う姿にこそ、この騎士の魅力があるのかもしれませんね。


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