「複素共役(ふくそきょうやく)」という言葉を聞いて、難しそうだと感じていませんか?
実は、複素共役は複素数を扱う上で欠かせない、とても便利な概念です。分数の分母を実数化したり、複素数の方程式を解いたり、工学や物理学の様々な場面で活躍します。
この記事では、複素共役の基本的な定義から計算方法、重要な性質、そして実際の応用例まで、初心者にもわかりやすく解説していきます。
複素共役とは?基本的な定義

複素数のおさらい
まず、複素数について簡単におさらいしましょう。
複素数とは、以下の形で表される数のことです。
z = a + bi
ここで:
- a:実部(実数の部分)
- b:虚部の係数(実数)
- i:虚数単位(i² = -1)
例
- 3 + 4i
- 2 – 5i
- -1 + 7i
- 6(6 + 0i と考えられます)
- 3i(0 + 3i と考えられます)
複素共役の定義
複素数 z = a + bi に対して、虚部の符号だけを反転させた複素数を、元の複素数 z の複素共役(ふくそきょうやく)と呼びます。
定義
複素数 z = a + bi の複素共役は:
z̄ = a - bi
重要なポイント
- 実部(a)はそのまま
- 虚部の符号だけが反転(+bi → -bi)
具体例
例1
z = 3 + 4i
z̄ = 3 - 4i
例2
z = 2 - 5i
z̄ = 2 + 5i
例3(純虚数の場合)
z = 7i(= 0 + 7i)
z̄ = -7i(= 0 - 7i)
例4(実数の場合)
z = 5(= 5 + 0i)
z̄ = 5(= 5 - 0i = 5)
実数の場合、虚部が0なので、複素共役は元の数と同じになります。
複素共役の呼び方と表記
読み方
- 日本語:「ふくそきょうやく」または「きょうやくふくそすう」
- 英語:complex conjugate(コンプレックス・コンジュゲート)
表記方法
複素数 z の複素共役は、以下のように表記されます。
- z̄( zバー)← 最も一般的
- z*(zアスタリスク)← 物理学や工学でよく使われる
- z†(zダガー)← 行列の共役転置と区別が必要な場合
この記事では、最も一般的な z̄(バー表記)を使用します。
複素共役の幾何学的意味
複素共役を複素平面(複素数平面、アルガン図)上で見ると、非常にわかりやすい幾何学的な意味があります。
複素平面とは
複素平面は、複素数を座標平面上の点として表現したものです。
- 横軸(実軸):実部を表す
- 縦軸(虚軸):虚部を表す
複素数 z = a + bi は、点 (a, b) として表されます。
複素共役の幾何学的意味
複素数 z = a + bi とその複素共役 z̄ = a – bi を複素平面上にプロットすると:
- z は点 (a, b)
- z̄ は点 (a, -b)
つまり、複素共役は、複素平面上で実軸(横軸)に関して対称な位置にある点を表します。
言い換えると
- 複素共役を取る = 複素平面上で実軸に関して鏡映変換(反転)する
例
z = 2 + 3i の場合:
- z は点 (2, 3) に対応
- z̄ = 2 – 3i は点 (2, -3) に対応
これらは実軸(横軸)に関して対称です。
2回共役を取ると元に戻る
複素共役を2回取ると、元の複素数に戻ります。
z̄̄ = z
理由
z = a + bi の共役は z̄ = a – bi
z̄ の共役は z̄̄ = a – (-b)i = a + bi = z
幾何学的には、実軸に関して2回反転すると、元の位置に戻るということです。
複素共役の重要な性質
複素共役には、計算を簡単にする便利な性質がたくさんあります。
性質1:和の複素共役は複素共役の和
2つの複素数 z と w の和の複素共役は、それぞれの複素共役の和に等しいです。
z + w の複素共役 = z̄ + w̄
記号で表すと
z + w = z̄ + w̄
例
z = 3 + 4i、w = 1 + 2i のとき:
左辺
z + w = (3 + 4i) + (1 + 2i) = 4 + 6i
z + w の複素共役 = 4 - 6i
右辺
z̄ = 3 - 4i
w̄ = 1 - 2i
z̄ + w̄ = (3 - 4i) + (1 - 2i) = 4 - 6i
確かに一致します!
性質2:差の複素共役は複素共役の差
z - w = z̄ - w̄
性質3:積の複素共役は複素共役の積
2つの複素数の積の複素共役は、それぞれの複素共役の積に等しいです。
(z × w) の複素共役 = z̄ × w̄
記号で表すと
zw = z̄ · w̄
例
z = 1 + 2i、w = 3 + 4i のとき:
左辺
z × w = (1 + 2i)(3 + 4i)
= 3 + 4i + 6i + 8i²
= 3 + 10i - 8(i² = -1 なので)
= -5 + 10i
zw = -5 - 10i
右辺
z̄ = 1 - 2i
w̄ = 3 - 4i
z̄ · w̄ = (1 - 2i)(3 - 4i)
= 3 - 4i - 6i + 8i²
= 3 - 10i - 8
= -5 - 10i
一致します!
性質4:商の複素共役は複素共役の商
(z ÷ w) の複素共役 = z̄ ÷ w̄
記号で表すと
(z/w)̄ = z̄ / w̄ (w ≠ 0)
性質5:累乗の複素共役
(z^n)̄ = (z̄)^n (nは整数)
例
z = 1 + i のとき、z² の複素共役を求めます。
方法1:先に計算してから共役を取る
z² = (1 + i)² = 1 + 2i + i² = 1 + 2i - 1 = 2i
z²̄ = -2i
方法2:先に共役を取ってから計算する
z̄ = 1 - i
(z̄)² = (1 - i)² = 1 - 2i + i² = 1 - 2i - 1 = -2i
どちらの方法でも同じ結果になります!
性質6:複素数と共役複素数の和は実数
z + z̄ = 2a(実数)
証明
z = a + bi とすると:
z + z̄ = (a + bi) + (a - bi)
= a + a + bi - bi
= 2a
虚部が相殺されて、実部の2倍の実数になります。
具体例
z = 3 + 4i
z̄ = 3 - 4i
z + z̄ = 6(実数)
応用
この性質を使うと、複素数の実部を簡単に取り出せます。
実部 a = (z + z̄) / 2
性質7:複素数と共役複素数の積は実数
これは最も重要な性質の一つです!
z × z̄ = a² + b²(実数)
証明
z = a + bi とすると:
z × z̄ = (a + bi)(a - bi)
= a² - abi + abi - b²i²
= a² - b²(-1)
= a² + b²
これは実数です!
具体例
z = 3 + 4i
z̄ = 3 - 4i
z × z̄ = (3 + 4i)(3 - 4i) = 9 - 16i² = 9 + 16 = 25
性質8:複素数の絶対値との関係
複素数 z の絶対値(大きさ)を |z| と表すと:
|z|² = z × z̄
証明
z = a + bi のとき、絶対値は:
|z| = √(a² + b²)
したがって:
|z|² = a² + b²
一方、性質7より:
z × z̄ = a² + b²
よって、|z|² = z × z̄ が成り立ちます。
重要性
この性質は、複素数の逆数を求める際に非常に便利です(後述)。
複素共役の計算例

例題1:基本的な複素共役
問題
次の複素数の複素共役を求めなさい。
(1) z = 5 + 3i
(2) w = -2 – 7i
(3) u = 4i
(4) v = -6
解答
(1) z̄ = 5 – 3i(虚部の符号を反転)
(2) w̄ = -2 + 7i(-7i の符号を反転して +7i)
(3) u = 0 + 4i と考えて、ū = 0 – 4i = -4i
(4) v = -6 + 0i と考えて、v̄ = -6 – 0i = -6
実数の複素共役は元の実数と同じです。
例題2:和と差の複素共役
問題
z = 2 + 3i、w = 1 – 4i のとき、以下を求めなさい。
(1) z + w
(2) z – w
解答
(1)
z + w = (2 + 3i) + (1 - 4i) = 3 - i
z + w̄ = 3 + i
または、性質を使って:
z + w̄ = z̄ + w̄ = (2 - 3i) + (1 + 4i) = 3 + i
(2)
z - w = (2 + 3i) - (1 - 4i) = 1 + 7i
z - w̄ = 1 - 7i
例題3:積の複素共役
問題
z = 1 + i、w = 2 – i のとき、zw を求めなさい。
解答
方法1:先に積を計算
zw = (1 + i)(2 - i)
= 2 - i + 2i - i²
= 2 + i + 1
= 3 + i
zw̄ = 3 - i
方法2:性質を使う
z̄ = 1 - i
w̄ = 2 + i
z̄ · w̄ = (1 - i)(2 + i)
= 2 + i - 2i - i²
= 2 - i + 1
= 3 - i
どちらの方法でも同じ結果です!
例題4:複素数の割り算(分母の有理化)
これは複素共役の最も重要な応用の一つです。
問題
以下の複素数を a + bi の形に直しなさい。
z = (3 + 2i) / (1 + i)
解答
分母の複素共役をかけて、分母を実数化します。
分母 1 + i の複素共役は 1 – i です。
z = (3 + 2i) / (1 + i)
= (3 + 2i) / (1 + i) × (1 - i) / (1 - i)
= (3 + 2i)(1 - i) / (1 + i)(1 - i)
分子を計算
(3 + 2i)(1 - i) = 3 - 3i + 2i - 2i²
= 3 - i + 2
= 5 - i
分母を計算
(1 + i)(1 - i) = 1 - i²
= 1 + 1
= 2
よって
z = (5 - i) / 2 = 5/2 - (1/2)i
例題5:実数条件・純虚数条件
問題
複素数 z = (2 + 3i)w が実数となるような複素数 w を求めなさい。
解答
z が実数となる条件は:
z = z̄
したがって:
(2 + 3i)w = (2 + 3i)w̄
(2 + 3i)w = (2 - 3i)w̄
これより:
(2 + 3i)w = (2 - 3i)w̄
w = a + bi とおくと、この条件から w を求めることができます。
(詳細な計算は省略しますが、このように複素共役を使って実数・純虚数の条件を表現できます)
複素共役の応用
応用1:分母の実数化(有理化)
複素数の割り算では、分母を実数にする必要があります。このとき、分母と分子に分母の複素共役をかけることで、分母を実数化できます。
これは、z × z̄ = |z|²(実数)という性質を利用しています。
一般的な手順
(a + bi) / (c + di) を計算する場合:
1. 分母の複素共役 c - di を用意
2. 分母と分子の両方に c - di をかける
3. 分母は (c + di)(c - di) = c² + d²(実数)になる
4. 分子を展開して整理する
応用2:複素数の逆数
複素数 z の逆数 1/z を求める際も、複素共役を使います。
1/z = z̄ / |z|²
例
z = 3 + 4i の逆数を求めます。
z̄ = 3 - 4i
|z|² = 3² + 4² = 25
1/z = (3 - 4i) / 25 = 3/25 - 4i/25
応用3:方程式の解(複素共役根の定理)
重要な定理
実数係数の方程式が複素数解 α を持つとき、その複素共役 ᾱ も必ず解になります。
例
方程式 x² – 2x + 5 = 0 を解くと:
x = (2 ± √(4 - 20)) / 2
= (2 ± √(-16)) / 2
= (2 ± 4i) / 2
= 1 ± 2i
解は:
- x₁ = 1 + 2i
- x₂ = 1 – 2i
確かに、x₁ と x₂ は複素共役の関係にあります!
なぜこうなるのか
実数係数の方程式では、虚数部分がペアで現れるため、解も必ずペアになります。
応用
この性質により、複素数解の一つがわかれば、もう一つの解も自動的にわかります。
応用4:物理学・工学での利用
複素共役は、物理学や工学の様々な分野で活躍します。
電気工学
- 交流回路の計算
- インピーダンスの計算
- 電力の計算(P = V × I、I は電流の複素共役)
量子力学
- 波動関数の確率密度:|ψ|² = ψ × ψ*
- 期待値の計算
信号処理
- フーリエ変換
- フィルタ設計
- 周波数解析
制御工学
- 伝達関数
- 安定性解析
よくある質問(FAQ)
Q1: 複素共役はなぜ必要なのですか?
A: 複素共役には主に以下の役割があります。
- 分母の実数化:複素数の割り算を簡単にする
- 実数・虚数の抽出:複素数から実部や虚部を取り出す
- 絶対値の計算:|z|² = z × z̄ を利用
- 方程式の解:実数係数の方程式では複素数解が共役ペアで現れる
- 物理・工学の計算:様々な実用的な計算で使用
Q2: 複素共役を2回取るとどうなりますか?
A: 元の複素数に戻ります。
z̄̄ = z
例
z = 3 + 4i
z̄ = 3 - 4i
z̄̄ = 3 + 4i = z
幾何学的には、複素平面上で実軸に関して2回反転すると、元の位置に戻ります。
Q3: 実数の複素共役はどうなりますか?
A: 実数の複素共役は、元の実数と同じです。
理由
実数 a は、a = a + 0i と表せます。
その複素共役は:ā = a – 0i = a
例
5̄ = 5
-3̄ = -3
Q4: 純虚数の複素共役はどうなりますか?
A: 純虚数の複素共役は、符号が反転した純虚数になります。
例
(3i)̄ = -3i
(-5i)̄ = 5i
Q5: z × z̄ はなぜ実数になるのですか?
A: 計算すると虚部が相殺されるからです。
z × z̄ = (a + bi)(a - bi)
= a² - abi + abi - b²i²
= a² + b²(虚部が相殺)
これは (a + b)(a – b) = a² – b² の公式に似ていますが、i² = -1 により符号が変わります。
Q6: 複素共役の表記 z̄、z*、z† の違いは何ですか?
A: どれも同じ複素共役を表しますが、使われる分野が異なります。
- z̄(バー):数学で最も一般的
- z*(アスタリスク):物理学、工学でよく使われる
- z†(ダガー):量子力学、行列の共役転置と区別が必要な場合
Q7: 複素共役と共役転置の違いは何ですか?
A:
- 複素共役:複素数の虚部の符号を反転
- 共役転置(エルミート転置):行列の転置+各要素の複素共役
複素数: z* = 複素共役
行列: A† = 転置 + 各要素の複素共役
Q8: |z|² = z × z̄ はどう応用されますか?
A: この関係は、複素数の大きさ(絶対値)を計算するのに使います。
例
z = 3 + 4i の絶対値を求める:
方法1:公式を使う
|z| = √(3² + 4²) = √25 = 5
方法2:複素共役を使う
z × z̄ = (3 + 4i)(3 - 4i) = 25
|z|² = 25
|z| = 5
どちらの方法でも同じ結果になります。
まとめ
複素共役は、複素数を扱う上で欠かせない重要な概念です。この記事のポイントをまとめます。
定義
- 複素数 z = a + bi の複素共役は z̄ = a – bi
- 実部はそのまま、虚部の符号だけ反転
表記
- z̄(バー):数学で一般的
- z*(アスタリスク):物理・工学
- z†(ダガー):量子力学など
幾何学的意味
- 複素平面上で実軸に関する対称移動
- 2回共役を取ると元に戻る(z̄̄ = z)
重要な性質
- 和の共役:z + w = z̄ + w̄
- 差の共役:z – w = z̄ – w̄
- 積の共役:zw = z̄ · w̄
- 商の共役:(z/w)̄ = z̄ / w̄
- 累乗の共役:(z^n)̄ = (z̄)^n
- z + z̄ = 2a(実数)
- z × z̄ = a² + b²(実数)
- |z|² = z × z̄
主な応用
- 分母の有理化(実数化)
- 複素数の逆数計算
- 方程式の複素数解(共役ペアで現れる)
- 物理・工学の計算(電気回路、量子力学、信号処理など)
計算のコツ
- 分数の分母は必ず複素共役をかけて実数化
- z × z̄ は常に実数(|z|²)になることを覚えておく
- 性質を活用すれば計算が簡単になる

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