アーサー王と言えばエクスカリバー、ランスロット、円卓の騎士……。
でも、ランスロットに匹敵する実力を持ちながら、アーサー王に最も忠実だった騎士がいたことをご存知でしょうか?
その名はガウェイン。
「太陽の騎士」「乙女の騎士」と呼ばれ、アーサー王の甥として円卓を支え続けた男です。
彼の物語には、緑色の怪人との首切りゲーム、醜い老婆との結婚など、インパクト抜群のエピソードが満載。
この記事では、ガウェインの伝承や特徴、そして彼が後世でどう描かれてきたのかをわかりやすく紹介します。
ガウェインの概要

ガウェイン(Gawain)は、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人です。
フランス語では「ゴーヴァン(Gauvain)」とも呼ばれます。
彼はアーサー王の甥にあたり、血縁者として特別な立場にありました。
初期の伝説では「円卓の騎士の中で最も優秀」と評され、若い騎士たちの手本となる存在だったんですね。
武勇に優れるだけでなく、礼節を重んじ、貧しい者や困っている女性を助けることでも知られていました。
特に女性の守護者としての顔から、「乙女の騎士(Maidens’ Knight)」という異名も持っています。
ガウェインの名前の由来|「5月の鷹」が意味するもの
ガウェインの名前には、ちょっと面白いルーツがあります。
彼の起源はウェールズの英雄グワルフマイ(Gwalchmei)だとされています。
この名前を分解すると……
- gwalch=鷹
- mai=5月
つまり、「5月の鷹」という意味なんです。
ケルト社会において5月は夏の始まりを表す季節でした。
そしてケルト神話では、太陽神と深い関わりを持つ存在として描かれることが多かったんですね。
この背景から、ガウェインには「太陽と共に力が変動する」という独特の設定が生まれました。
後述する「力が3倍になる」という能力も、太陽との結びつきから来ているわけです。
ガウェインの家系|複雑な血縁関係
ガウェインの家族構成は、アーサー王伝説の中でもかなり複雑です。
父:オークニー王ロト
母:モルゴース(アーサー王の異父姉)
つまり、アーサー王から見ると姉の息子=甥という関係になります。
ガウェインには複数の弟がおり、全員が円卓の騎士として活躍しました。
- ガヘリス
- ガレス
- アグラヴェイン
- モードレッド(異父弟)
このモードレッドが後にアーサー王を裏切ることになるので、ガウェインにとっては複雑な立場だったでしょう。
また、ガウェイン自身にも息子がいたとされています。
フローレンス卿、ロヴェル卿、ガングラン卿といった名前が伝わっており、ガングランは「無名の美男子」として貴種流離譚の主人公にもなっています。
ガウェインの特徴|正午に力が3倍になる太陽の騎士
ガウェインといえば、この能力が外せません。
朝から正午にかけて、力が通常の3倍に跳ね上がる。
そして太陽が沈むにつれて、元の力に戻っていく。
まるでゲームのバフ効果みたいですよね。
この能力のおかげで、ガウェインは午前中の戦闘では無敵に近い強さを発揮できました。
逆に言えば、午後以降は狙い目ということ。
ランスロットとの戦いでも、この弱点を突かれる展開があります。
ちなみに、アイルランド神話の英雄クー・フーリンにも似た伝承があるため、ガウェインの逸話にはクー・フーリンの影響が混ざっているとも言われています。
ガウェインの愛剣「ガラティン」

ガウェインが使っていた剣はガラティン(Galatine)と呼ばれています。
この剣について面白い説があって、実はエクスカリバーの姉妹剣だとも言われているんです。
アーサー王の聖剣と対になる存在というわけですね。
ただ、残念ながら物語の中でガラティンが活躍する場面はほとんどありません。
入手経路も性能も、詳しいことは謎に包まれたまま。
一説によると、ガウェインは一時期アーサー王からエクスカリバーを借り受けて戦ったこともあるとか。
甥だからこその特別待遇だったのかもしれません。
代表的な伝承①|緑の騎士との首切りゲーム
ガウェインの最も有名なエピソードが、14世紀の中英語詩『ガウェイン卿と緑の騎士』です。
あらすじ
ある年末、アーサー王の宮廷に全身緑色の巨大な騎士が現れます。
馬も緑、服も緑、肌も緑。完全に異界の存在です。
緑の騎士は不敵に笑いながら、こんな勝負を持ちかけました。
「誰でもいい、この斧で俺の首を斬ってみろ。
ただし1年と1日後に、俺がお前の首を斬りに行く。」
……普通に考えたら、首を斬られた時点で死ぬはずですよね。
だから「受ければ勝ち確定」のはずなんです。
でも、誰も名乗り出ない。
なぜなら、緑の騎士から漂う「絶対何かある」感が半端じゃなかったから。
最終的にアーサー王が受けようとしたところ、ガウェインが代わりに名乗り出ます。
「王よ、そのような危険な遊びは私にお任せください。」
ガウェインは斧を振り下ろし、見事に緑の騎士の首を斬り落としました。
……が、ここからが本番。
緑の騎士は自分の首を拾い上げ、馬に乗ったまま立ち去ったのです。
「忘れるなよ。1年後、緑の礼拝堂で待っている。」
試練の旅
約束の日が近づき、ガウェインは緑の礼拝堂を目指して旅に出ます。
途中で城に泊めてもらうことになるのですが、ここで城主から奇妙な取り決めを持ちかけられます。
「私が狩りで得たものと、あなたが城で得たものを交換しよう。」
城主が狩りに出ている間、その妻がガウェインを誘惑してきます。
ガウェインは誘惑には乗らなかったものの、命を守る魔法の帯(緑の帯)を受け取ってしまいます。
そしてこの帯のことを、城主には報告しませんでした。
結末
緑の礼拝堂でガウェインは緑の騎士と再会します。
緑の騎士は斧を3度振り下ろしました。
- 1度目:寸止め
- 2度目:寸止め
- 3度目:首筋をかすめる程度の傷
なぜ致命傷を与えなかったのか?
実は城主と緑の騎士は同一人物だったのです。
最初の2回は約束を守ったことへの褒美、3回目の傷は帯を隠したことへの罰でした。
ガウェインは自分の弱さを恥じましたが、緑の騎士は彼を許し、帯を贈り物として渡しました。
この物語は、完璧な騎士にも人間的な弱さがあることを描いた傑作として今も愛されています。
代表的な伝承②|ガウェインの結婚
もう一つの有名なエピソードが『ガウェイン卿とラグネルの結婚』です。
謎かけと醜い老婆
ある日、アーサー王は敵の騎士に捕らえられ、こんな問題を出されます。
「女性が最も望むものは何か?」
答えられなければ領土を明け渡すことになる。
アーサー王は必死に答えを探しますが、どれも正解とは思えません。
そんなとき、森で出会ったのがラグネルという女性。
ただし、彼女は見るに堪えないほど醜い老婆でした。
「答えを教えてあげましょう。その代わり、ガウェイン卿と結婚させてください。」
アーサー王は悩みますが、ガウェインは自ら進んで結婚を受け入れます。
答えと呪いの解除
ラグネルが教えた答えは——
「自分の意志を持つこと(自由にさせてもらうこと)」
この答えで危機は回避され、約束通り結婚式が行われました。
初夜、ガウェインが覚悟を決めてラグネルと向き合うと……
なんと彼女は美しい若い女性に変わっていたのです。
「私には呪いがかけられていたのです。
呪いを半分解くには、若く立派な騎士と結婚すること。
でも、まだ半分残っています。」
彼女は続けます。
「昼に美しい姿でいるか、夜に美しい姿でいるか。
あなたが選んでください。」
ガウェインの答え
普通なら「夜に美しくいてくれ」と言いたいところですよね。
でもガウェインは違いました。
「あなたの好きにしてください。」
この一言で、呪いは完全に解けました。
彼女の意志を尊重することこそが、呪いを解く最後の鍵だったのです。
この物語は、相手の自由意志を認めることの大切さを教えてくれる、現代にも通じるメッセージを持っています。
ガウェインの評価|時代によって変わる描かれ方

面白いことに、ガウェインの評価は時代や地域によって大きく変わります。
初期の伝説(ウェールズ・イングランド)
最も古い時代の伝説では、ガウェインは理想の騎士として描かれています。
- 円卓の騎士の中で最も優秀
- 若い騎士たちの手本
- アーサー王の右腕
ケルト社会では「王に子供がいない場合、姉妹の子が後継者になる」という風習がありました。
そのため、ガウェインはアーサー王の後継者候補としても重要な存在だったんですね。
フランスの騎士道文学以降
12〜13世紀になると、フランスでアーサー王伝説が大流行します。
ところがフランスの作家たちは、ランスロット推しでした。
その結果、ガウェインは引き立て役に格下げ。
「女たらし」「復讐心が強い」といったネガティブな描写が増えていきます。
クレティアン・ド・トロワの作品では、ランスロットやパーシヴァルの方が道徳的に優れた騎士として描かれるようになりました。
トマス・マロリー版『アーサー王の死』
15世紀、トマス・マロリーが書いた『アーサー王の死』は決定的でした。
マロリーは明らかにランスロット贔屓。
ガウェインは復讐心に燃える人物として描かれ、ランスロットとの対立が円卓崩壊の一因になったかのように書かれています。
ただ、これは少し不公平な描写かもしれません。
ガウェインが復讐を決意したのは、ランスロットに弟のガヘリスとガレスを殺されたからです。
しかも二人は非武装だったのに。
ガウェインの最期
多くの伝承で、ガウェインはモードレッドの反乱鎮圧の戦いで命を落とします。
マロリー版では、ランスロットとの因縁を引きずったまま、最後の戦いに臨むことになります。
皮肉なことに、死の間際にガウェインはランスロットに手紙を書き、和解を求めたとされています。
最後まで騎士道を忘れなかった、と言えるのかもしれません。
現代作品でのガウェイン
ガウェインは現代でもさまざまな作品に登場しています。
| 作品名 | 特徴 |
|---|---|
| 『グリーン・ナイト』(2021年映画) | デヴ・パテル主演。「緑の騎士」を原作とした幻想的な作品 |
| 『Fate』シリーズ | セイバークラスのサーヴァントとして登場。太陽の力を持つ |
| 『コードギアス』シリーズ | 主人公機の一つとして「ガウェイン」という名のKMFが登場 |
| 『七つの大罪』シリーズ | 続編『黙示録の四騎士』ではメインキャラクターの一人 |
特に2021年の映画『グリーン・ナイト』は、「緑の騎士」の物語を独自の解釈で映像化した作品として高い評価を受けました。
まとめ
ガウェインについて、ポイントを振り返ってみましょう。
- アーサー王の甥であり、円卓の騎士の中でも最高クラスの実力者
- 「太陽の騎士」として、正午にかけて力が3倍になる能力を持つ
- 名前の由来は「5月の鷹」。太陽神との結びつきを示す
- 代表的な伝承は「緑の騎士との首切りゲーム」と「ラグネルとの結婚」
- 初期は理想の騎士だったが、フランスの物語以降は評価が下がった
- 現代でもゲーム・映画・漫画など多くの作品に登場している
ランスロットの影に隠れがちなガウェインですが、彼には彼の魅力があります。
人間としての弱さを持ちながらも、最後まで騎士道を貫こうとした姿。
相手の意志を尊重することで呪いを解いた優しさ。
アーサー王伝説を読むときは、ぜひガウェインにも注目してみてください。
きっと新しい発見があるはずです。


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