「シンデレラ」「赤ずきん」「眠れる森の美女」——これらの物語、実はグリム童話が最初じゃないんです。
グリム兄弟が童話集を出版する100年以上も前に、フランスで一人の詩人がヨーロッパ各地の昔話を集めて本にまとめていました。その人物こそ、シャルル・ペロー。彼が1697年に発表した『ペロー童話集』は、世界初の「子ども向け」童話集とも呼ばれています。
この記事では、ペロー童話の魅力や収録作品、グリム童話との違いまで、わかりやすく紹介していきます。
シャルル・ペローってどんな人?

シャルル・ペロー(1628〜1703)は、17世紀フランスを代表する詩人・作家です。
裕福なパリの家庭に生まれた彼は、法学を学んで弁護士の資格を取得。でも実際に弁護したのはたった2回だけで、すぐに文学の道へ進みました。やがて財務大臣コルベールに認められ、太陽王ルイ14世に仕えるエリート官僚に。1671年にはフランス最高の学術機関「アカデミー・フランセーズ」の会員にも選ばれています。
面白いのは、ペローが童話を書き始めたのは晩年になってからだということ。25歳も年下の若い妻に先立たれ、残された幼い子どもたちのために物語を書き始めたと伝えられています。エリート詩人が子どものために物語を——そんな背景があったんですね。
ペロー童話集に収録された作品一覧
ペロー童話集は、大きく分けて2種類の作品で構成されています。
韻文童話(3編)
詩の形式で書かれた作品です。1694年に『韻文童話集』として出版されました。
| 作品名 | 原題 | 概要 |
|---|---|---|
| グリゼリディス | Griselidis | どんな試練にも耐え忍ぶ妻の物語 |
| ロバの皮 | Peau d’Âne | 父王から逃れるためロバの皮をかぶって身を隠す王女の話 |
| こっけいな願い | Les Souhaits ridicules | 3つの願いを無駄遣いしてしまう夫婦の滑稽譚 |
散文童話(8編)
1697年に『過ぎし日の物語ならびに教訓』(通称「マザー・グースの話」)として発表された作品です。こちらが一般的に「ペロー童話集」と呼ばれるものになります。
| 作品名 | 原題 | 概要 |
|---|---|---|
| 眠れる森の美女 | La Belle au bois dormant | 呪いで100年の眠りにつく王女の物語 |
| 赤ずきん | Le Petit Chaperon rouge | 森でオオカミに出会う少女の話 |
| 青ひげ | La Barbe bleue | 過去に何人もの妻を殺した謎の男の物語 |
| 長靴をはいた猫 | Le Maître chat ou le Chat botté | 賢い猫が貧しい主人を王にする話 |
| 仙女たち | Les Fées | 礼儀正しい娘と意地悪な娘の対照的な運命 |
| サンドリヨン | Cendrillon ou la petite pantoufle de verre | いわゆる「シンデレラ」の物語 |
| 巻き毛のリケ | Riquet à la houppe | 醜いが賢い王子と美しいが愚かな姫の恋物語 |
| 親指小僧 | Le Petit Poucet | 小さな末っ子が知恵で兄たちを救う冒険譚 |
ペロー童話の3つの特徴
1. すべての物語に「教訓」がついている
ペロー童話の最大の特徴は、物語の最後に必ず韻文の「教訓」が添えられていることです。
たとえば「赤ずきん」の教訓はこんな感じ。
やさしく声をかけてくるオオカミこそ、いちばん危険なのです
これは単なる「知らない人についていくな」という話ではなく、当時の貴族社会における若い女性への警告だったとも解釈されています。ペローは庶民の昔話を、宮廷の女性や子どもたちに向けてアレンジしたんですね。
2. 子どもを意識した初めての童話集
ペロー童話集は「子どもを意識して書かれた最初の児童文学」とも言われています。
それまでにも民間伝承を集めた本はありましたが、学者や大人向けの難しい文章ばかり。ペローは当時の風俗を取り入れ、わかりやすい言葉で物語を書き直しました。これが子どもにも親しみやすい童話の原点になったわけです。
3. グリム童話より100年以上早い
ペロー童話集が出版されたのは1697年。グリム童話の初版(1812年)より115年も前のことです。
実はグリム兄弟自身も、ペロー童話を高く評価していました。『グリム童話集』初版の序文では、「ペローの昔話の、聞き書きの簡潔さ・正確さ」を称賛しているほどです。
ペロー童話とグリム童話の違い
同じ物語でも、ペロー版とグリム版では内容がかなり異なります。代表的な違いを見てみましょう。
「赤ずきん」の結末
ペロー版:赤ずきんはオオカミに食べられて、そのまま物語が終わる。救いはない。
グリム版:赤ずきんとおばあさんはオオカミに食べられるが、猟師に助けられてハッピーエンド。
ペロー版の結末には驚く人も多いでしょう。「誘惑に負けると取り返しがつかない」という厳しいメッセージが込められているんです。
「シンデレラ」の靴
ペロー版:有名な「ガラスの靴」が登場。継姉たちは普通に靴を試すだけ。最後はシンデレラが姉たちを許し、宮廷で良縁を世話してあげる。
グリム版:靴は「金の靴」。継姉たちは靴に足を入れるため、自分の足を切り落とす。結末では姉たちの目を鳥がつついて失明させる。
ペロー版のほうが優しく、グリム版のほうが残酷——意外な気もしますが、これには理由があります。
なぜこんなに違うのか?
グリム童話は「ドイツ民族の物語」を集めるという目的で編纂されました。ドイツ各地の昔話を忠実に記録しようとしたため、残酷な描写もそのまま残っています。
一方、ペロー童話はフランス宮廷のサロンで読まれることを想定していました。貴婦人や子どもたちに喜ばれるよう、上品にアレンジされているんですね。
ペロー童話が生んだ「発明品」
私たちが当たり前だと思っている童話のアイテム、実はペローが考え出したものがたくさんあります。
シンデレラの「ガラスの靴」
世界中のシンデレラ話で、靴の素材は金・銀・絹などさまざま。「ガラスの靴」はペローが初めて登場させたものです。
面白い説として、「verre(ガラス)」と「vair(リスの毛皮)」を聞き間違えたのでは?というものがありますが、現在の学者の多くはこれを否定しています。ペローが意図的にガラスという不思議な素材を選んだ可能性が高いとか。
シンデレラの「かぼちゃの馬車」と「妖精の名付け親」
カボチャが馬車に変わるシーン、ネズミが馬になるシーン——これもすべてペローのオリジナル。グリム版のシンデレラには妖精の名付け親(フェアリー・ゴッドマザー)は登場せず、代わりに母親の墓に生えた木が願いを叶えてくれます。
ディズニー映画『シンデレラ』(1950年)は、ほぼペロー版をベースにしています。私たちが思い描くシンデレラ像は、ペローが作り上げたものと言っても過言ではありません。
現代への影響
ペロー童話は300年以上経った今も、世界中の文化に影響を与え続けています。
映画・アニメ
- ディズニー『眠れる森の美女』『シンデレラ』はペロー版がベース
- 東映動画『長靴をはいた猫』シリーズ
音楽
- チャイコフスキーのバレエ『眠れる森の美女』
文学
- 数えきれないほどのリメイク・パロディ作品
ペローがいなければ、私たちが知っている童話の世界はまったく違うものになっていたかもしれません。
まとめ
- ペロー童話は1697年にフランスで出版された、世界初の「子ども向け」童話集
- 作者のシャルル・ペローは詩人でありルイ14世に仕えた高級官僚
- 収録作品は韻文3編+散文8編の計11編
- すべての物語に教訓が添えられているのが特徴
- グリム童話より115年も早く、ヨーロッパの民間伝承を文学としてまとめた
- ガラスの靴やかぼちゃの馬車など、今も親しまれるアイテムの多くはペローが生み出した
グリム童話やディズニーに隠れがちなペロー童話ですが、実は私たちが知っている「童話の世界」の原点がここにあります。機会があれば、ぜひペロー版の物語を読んでみてください。グリム版やディズニー版との違いに、きっと驚くはずです。


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