火葬後の遺骨を「食べる」風習があったと聞いたら、驚きますか?
「骨こぶり」は、かつて日本各地で行われていた葬送習俗の一つです。故人の火葬骨を噛んだり、口に含んだりすることで、死者の魂や生命力を自分の中に取り込もうとした行為なんですね。
しかし「骨こぶり」には、もう一つの顔があります。それは、夜な夜な墓場で他人の骨をかじる男が登場する怪談です。小泉八雲の時代から語り継がれてきた、日本の伝統的な恐怖譚でもあるのです。
この記事では、骨こぶりの意味や背景、実際に行われていた地域、そして怪談としての「骨こぶり」について解説します。
骨こぶりとは
骨こぶりとは、火葬後の遺骨を噛む・しゃぶる・食べるといった行為を指す民俗用語です。「骨噛み(ほねかみ)」「骨かじり」「骨ねぶり」など、地域によってさまざまな呼び方があります。
宗教学者の山折哲雄氏によると、この言葉はもともと「近親者や知人が焼きあがってきた仏(ほとけ)の骨を実際に噛んで、哀悼の意を表す」ことを意味していたそうです。
興味深いのは、「骨こぶり」という言葉には別の意味もあるという点です。中国地方の西部から北九州にかけては、葬家に寄食すること(葬式後に喪家で食事をともにすること)を「骨噛み」「骨こぶり」と呼ぶ地域もありました。「すねかじり」と同類の言葉として使われていたんですね。
なぜ遺骨を噛んだのか
骨こぶりの背景には、日本古来のアニミズム的な信仰があります。
民俗学的には、死者の骨には霊魂や生命力が宿っていると考えられていました。その骨を体内に取り込むことで、故人の魂と一体化したい、あるいは故人の能力や精神を受け継ぎたいという願いが込められていたのです。
主に以下のような理由で行われていたとされています。
- 故人への深い愛情:別れがたい気持ちから、故人を自分の中に取り込みたいという衝動
- 霊魂の継承:死者の魂を自分の体内に宿らせ、永遠に生き続けさせたいという信仰
- 生命力の獲得:長寿を全うした人や尊敬された人の骨を噛むことで、その力にあやかろうとする願い
- 薬効への期待:人骨には万病に効く成分があるという民間信仰
民俗学者の近藤雅樹氏は、この習俗を「社会的行為としてのカニバリズムの一種」と位置づけています。といっても、これは死者への敬意や愛情から生まれた行為であり、素朴な感情表出として受け止められてきました。
骨こぶりが行われていた地域
骨こぶりは日本全国で行われていたわけではありません。主に以下の地域で確認されています。
- 愛媛県
- 兵庫県
- 愛知県
- 新潟県(糸魚川市など)
- 山口県(岩国市周辺、大島など)
- 福岡県(筑豊地方、博多など)
愛媛や兵庫の一部では、火葬後の灰や粉々に砕いた遺骨を近親者で飲んだという記録も残っています。山口県周東町では明治40年頃まで、火葬骨を「おやじの骨」といって噛む風習があったそうです。
福岡の筑豊弁や博多弁には今でも「骨噛み」という言葉が残っているとされ、かつてこの習俗が根付いていたことがうかがえます。
著名人と骨噛み
風習として廃れた後も、故人への強い想いから衝動的に遺骨を口にする人は少なくありません。
俳優の勝新太郎さんは、父親の葬儀で遺骨を食べ「これで父ちゃんは俺の中に入った」と語ったことで知られています。高倉健さんも母親の遺骨を噛み、妹たちに止められたものの「理屈ではなく、母とどうしても別れたくなかった」と著書に記しています。
料理愛好家の平野レミさんも、父親の遺骨を食べたエピソードをテレビで明かしています。これらは風習というよりも、愛する人との別れがたさから生まれた自然な感情の表れといえるでしょう。
怪談としての「骨こぶり」
実は「骨こぶり」には、葬送習俗とは別に怪談・都市伝説として語られるバージョンも存在します。
代表的なストーリーはこうです。林間学校や寄宿舎で、夜中にトイレに起きた少年が、外から「ぼりぼり、がりがり」という奇妙な音を聞く。そっと近づいてみると、何者かが墓地でうずくまり、何かをかじっている。目が合った瞬間、相手は「待て!」と追いかけてくる――。
この怪談には特徴的な展開があります。逃げ帰った少年が布団を被って寝たふりをすると、追ってきた男は同室の人間の胸に次々と耳をあて、「お前じゃない」「お前でもない」と確認していく。そして最後に少年の胸に耳をあて、「鼓動が早い。お前だな」と言い放つのです。
バリエーションとして、心臓の鼓動ではなく「足の冷たさ」で目撃者を特定するパターンもあります。布団の中にいた人は足が温かいが、外に出ていた目撃者だけ足が冷たい、という理屈ですね。
興味深いのは、この怪談が現代の創作ではないという点です。小泉八雲の作品『食人鬼』にも類似の話が収録されており、松谷みよ子著『現代民話考7』には戦前や昭和前期の寄宿舎を舞台にした同様の怪談が複数記録されています。
怪談の中で骨を食べる理由は、多くの場合「不治の病を治すため」とされています。結核やハンセン病など、当時治療法がなかった病気に人骨が効くという迷信が背景にあったのです。実際、人体の一部が万病に効くという信仰は世界中に存在し、エジプトのミイラが江戸時代の日本にまで薬として輸入されていた記録も残っています。
現代における注意点
かつては行われていた骨こぶりですが、現代では注意が必要です。
火葬された遺骨には「六価クロム」という有害物質が含まれている可能性があります。六価クロムは発がん性が確認されている物質で、環境基準の数倍から数十倍含まれているケースもあるとされています。
また、遺骨を粉末化した場合、その粉塵は非常に鋭利で、目や喉の粘膜を傷つける恐れがあります。火葬場の職員が防塵マスクやゴーグルを着用するのは、このためなんですね。
故人とのつながりを感じたい場合は、手元供養(遺骨をアクセサリーや小さな骨壷に納めて身近に置く方法)など、現代的な選択肢も増えています。
まとめ
- 骨こぶりは、火葬後の遺骨を噛んだり食べたりする日本の葬送習俗
- 「骨噛み」「骨かじり」「骨ねぶり」など、地域によって呼び方が異なる
- 故人の魂を取り込みたいというアニミズム的な信仰が背景にある
- 愛媛、兵庫、山口、福岡など、主に西日本を中心に行われていた
- 怪談・都市伝説としても語り継がれ、墓を暴いて骨を食べる男の話が有名
- 現代では遺骨に有害物質が含まれる可能性があり、健康リスクに注意が必要
骨こぶりは、死者との絆を自分の体内に刻もうとした、日本人の死生観を映し出す習俗です。一方で怪談としては、人骨を薬として求める狂気を描いた恐怖譚として語り継がれてきました。
民俗習慣としての骨こぶりは近代化とともに廃れましたが、怪談としての骨こぶりは今もネット上で語られ続けています。「故人と一体になりたい」という愛情と、「他人の骨を奪ってでも生き延びたい」という執念。骨こぶりという言葉には、人間の相反する感情が映し出されているのかもしれません。


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