「始めは処女の如く後は脱兎の如し」ということわざを聞いたことはありますか?
ちょっと古めかしい表現ですが、実は現代のビジネスやスポーツでも通用する、非常に実践的な戦略を表した言葉なんです。
このことわざは、最初はおとなしく油断を誘い、チャンスが来たら一気に素早く動くという、戦術の極意を教えてくれます。
相手の意表を突いて成功を掴む方法として、2000年以上前から受け継がれてきた知恵なんですね。
今回は、この「始めは処女の如く後は脱兎の如し」について、その意味や由来、正しい使い方から、現代での応用例まで、詳しく解説していきます。
この言葉を理解すれば、勝負事での戦略的思考が身につくかもしれませんよ。
基本情報

まずは、基本的なことから確認していきましょう。
読み方
始めは処女の如く後は脱兎の如しは「はじめはしょじょのごとくのちはだっとのごとし」と読みます。
「処女(しょじょ)」「脱兎(だっと)」という言葉が組み合わさった表現です。
意味
最初はおとなしくしていて相手を油断させておき、機会を見て素早く行動することを意味します。
もう少し詳しく説明すると、以下のような戦術を表す言葉なんです。
「処女の如く」の部分
「処女」とは、ここでは若い女性、特に未婚の女性を指します。
古代中国では、若い女性は控えめでおとなしい存在とされていました。
つまり、最初は静かで穏やかに、まるで無害であるかのように振る舞い、相手に警戒心を抱かせないということですね。
「脱兎の如く」の部分
「脱兎」とは、罠や囲いから逃げ出すウサギのことです。
ウサギは危機を感じると、驚くべき速さで走り去ります。
つまり、チャンスが来たら、逃げるウサギのように素早く、一気に行動を起こすということなんです。
全体の意味
この二つを合わせると、「静と動の使い分け」「緩急のコントロール」という戦術的な教えになります。
じっと機会を待ち、その時が来たら電光石火の速さで動く。これが勝利への道だというわけですね。
使い方のニュアンス
このことわざは、主に戦略的・戦術的な行動を表現する時に使われます。
単なる行動の変化ではなく、意図的に相手を油断させてから勝負に出る、という知的な計画性を含んでいるんです。
肯定的な意味でも、やや批判的な意味でも使われます。
由来と語源
このことわざは、中国の古典的な兵法書に由来します。
孫子の兵法
「始めは処女の如く後は脱兎の如し」の出典は、紀元前5世紀頃に書かれた『孫子』という兵法書です。
『孫子』は、中国春秋時代の軍事思想家である孫武(そんぶ)が著したとされる、世界最古の兵法書の一つなんですね。
現代でも、ビジネス戦略や人生哲学の指南書として読まれています。
原文の文脈
この言葉は『孫子』の「九地篇」に登場します。原文は以下の通りです。
「始如処女、敵人開戸、後如脱兎、敵不及拒」
これを現代語に訳すと、「最初は処女のようにおとなしくして、敵が門戸を開くようにさせ、その後は脱兎のように素早く動けば、敵は防ぐことができない」という意味になります。
孫子が説いた戦術
孫子は、戦争において単純な力勝負ではなく、知恵と戦術で勝つことの重要性を説きました。
この「処女と脱兎」の戦術は、まさにそうした知的戦略の典型例なんです。相手を心理的に操作し、油断したところを突くという高度な戦術を表しています。
日本での受容
この言葉は、中国から日本に伝わり、武士の時代から広く知られるようになりました。戦国武将たちも『孫子』を学び、この戦術を実戦で活用したと言われています。
現代でも、スポーツやビジネスの世界で、この戦略は生きているんですね。
「処女」と「脱兎」の象徴的意味

それぞれの言葉が何を象徴しているのか、もう少し深く見ていきましょう。
処女が象徴するもの
静けさ・穏やかさ
若い女性の控えめで静かな様子を表しています。動きが少なく、威圧感がないということですね。
無害に見える外見
脅威を感じさせない、油断を誘う態度を意味します。
内に秘めた力
表面的には弱々しく見えても、実は機会を待っているという含みがあります。
注意点
現代の視点では、「女性は控えめであるべき」という古い価値観が含まれていると感じられるかもしれません。しかし、これはあくまで古代中国の社会通念を反映した比喩表現であり、性別役割を固定化する意図はありません。「静かで穏やか」という特徴を表現するための比喩だと理解してください。
脱兎が象徴するもの
圧倒的な速さ
ウサギが全力で走る時の速度は、時速60キロメートル以上にもなります。この驚異的なスピードを象徴しているんです。
俊敏な動き
直線的に走るだけでなく、急な方向転換もできるウサギの機敏さを表しています。
生存本能
捕食者から逃げる時のウサギは、まさに命がけ。その必死さと全力疾走を意味するんですね。
不意打ちの効果
普段は草を食べているおとなしいウサギが、突然全力疾走する。そのギャップが相手を驚かせる効果を持つわけです。
具体的な使い方と例文
実際にどんな場面で、どのように使うのか、例文を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使用例
例文1:交渉術
「彼は交渉の序盤では穏やかに相手の話を聞いていたが、要所で素早く条件を提示した。始めは処女の如く後は脱兎の如しで、見事に契約をまとめた。」
相手を油断させてから決定的な一手を打つ交渉術を表現しています。
例文2:市場参入戦略
「その企業は最初は小規模な事業展開で様子を見ていたが、市場が成熟した瞬間に大規模投資を開始した。始めは処女の如く後は脱兎の如しの戦略だ。」
タイミングを見計らって一気に攻勢をかける戦略ですね。
例文3:プレゼンテーション
「彼女のプレゼンは前半は基礎的な説明に徹していたが、後半で革新的な提案を一気に展開した。始めは処女の如く後は脱兎の如しの構成で、聴衆を引き込んだ。」
緩急をつけた効果的なプレゼン手法を評価する表現です。
スポーツでの使用例
例文4:サッカーの試合
「前半は守備に徹していたチームが、後半開始直後に怒涛の攻撃を仕掛けた。始めは処女の如く後は脱兎の如し、相手の意表を突いて3点を奪った。」
試合の流れを読んで、戦術を変える様子を表しています。
例文5:マラソン
「彼は序盤から中盤まではペースを抑えて走り、終盤で一気にスパートをかけた。始めは処女の如く後は脱兎の如しで、見事に優勝を果たした。」
体力を温存してから勝負をかける戦略ですね。
例文6:格闘技
「序盤は防御に徹して相手の攻撃パターンを分析し、隙を見つけた瞬間に一気に攻め込んだ。始めは処女の如く後は脱兎の如しの戦い方だった。」
観察と機会を捉えることの重要性を示す例です。
日常生活での使用例
例文7:受験勉強
「彼は1年生の時はのんびりしていたが、3年生になると急に猛勉強を始めた。始めは処女の如く後は脱兎の如しで、見事に第一志望に合格した。」
タイミングを見て本気を出す様子を表現しています。
例文8:恋愛
「彼は最初は友人として接近し、相手が心を開いたところで告白した。始めは処女の如く後は脱兎の如しのアプローチだ。」
段階的に距離を縮める恋愛戦術を表す、やや軽い使い方ですね。
歴史的な使用例
例文9:戦国時代の戦術
「徳川家康は関ヶ原の戦いで、序盤は様子を見ていたが、勝機を見て一気に動いた。始めは処女の如く後は脱兎の如しの采配だった。」
歴史上の人物の戦略を分析する時にも使われます。
例文10:企業の成長戦略
「あの会社は創業当初は地味な事業を続けていたが、技術が成熟すると一気に市場シェアを拡大した。始めは処女の如く後は脱兎の如しの経営だ。」
長期的な視点での戦略を評価する表現です。
類義語と関連表現
似た意味を持つ言葉や関連する表現を紹介します。
臥薪嘗胆(がしんしょうたん)
意味
将来の成功のために、現在の苦しみに耐え忍ぶこと。
「始めは処女の如く後は脱兎の如し」と似ていますが、こちらは「我慢」に焦点があります。一方、「処女と脱兎」は「戦術的な緩急」に焦点があるんですね。
例文
「彼は臥薪嘗胆の思いで修行を続け、ついに一流の職人になった。」
虎視眈々(こしたんたん)
意味
機会をじっと待ち、隙あらば襲いかかろうとする様子。
「始めは処女の如く」の部分に近いニュアンスを持ちます。
例文
「ライバル企業は虎視眈々と市場参入の機会を狙っている。」
電光石火(でんこうせっか)
意味
非常に素早い動作や行動のこと。
「後は脱兎の如し」の部分を表現する四字熟語です。
例文
「彼の判断は電光石火で、チャンスを逃さなかった。」
静かに忍び、素早く動く
意味
日本語で「始めは処女の如く後は脱兎の如し」を平易に表現した言い方です。
緩急自在(かんきゅうじざい)
意味
緩やかにしたり急にしたりすることを自由自在にできること。
このことわざの本質である「緩急のコントロール」を表す四字熟語ですね。
例文
「彼の指揮は緩急自在で、オーケストラを見事にコントロールした。」
対義語
反対の意味を持つ言葉も見てみましょう。
猪突猛進(ちょとつもうしん)
意味
周りを見ずに、一つのことに向かって突き進むこと。
「始めは処女の如く後は脱兎の如し」が戦略的なのに対し、こちらは戦術なしの突進を意味します。
例文
「彼は猪突猛進で突き進んだが、結果は失敗に終わった。」
終始一貫(しゅうしいっかん)
意味
最初から最後まで、態度や方針が変わらないこと。
「処女と脱兎」のように態度を変えるのではなく、一貫した姿勢を保つことを意味します。
例文
「彼は終始一貫して主張を変えなかった。」
直線的(ちょくせんてき)
意味
回りくどくなく、まっすぐに物事を進めること。
戦術的な緩急をつけるのではなく、ストレートに行動することを指します。
単調(たんちょう)
意味
変化がなく、同じ調子が続くこと。
「処女と脱兎」のようなメリハリがないことを意味します。
英語での表現
このことわざを英語でどう表現するか、いくつかのパターンを紹介します。
“First like a virgin, then like a fleeing hare”
直訳的な表現です。古典的な文献を翻訳する時などに使われます。
ただし、”virgin”という言葉は現代英語では宗教的・性的なニュアンスが強いため、文脈によっては別の表現の方が適切かもしれません。
“Start slow and finish fast”
「ゆっくり始めて、速く終える」という意味で、ビジネスやスポーツで使いやすい表現です。
例文
“The team’s strategy was to start slow and finish fast.”
(そのチームの戦略は、始めは処女の如く後は脱兎の如しだった。)
“Appear weak when you are strong, strike swiftly when the time is right”
「強い時には弱く見せかけ、適切な時に素早く攻撃する」という意味で、孫子の教えをより詳しく説明した表現です。
“Lull them into complacency, then strike like lightning”
「相手を油断させてから、稲妻のように攻撃する」という意味です。
“lull into complacency”(油断させる)と”strike like lightning”(稲妻のように攻撃する)という組み合わせが効果的ですね。
“Patience followed by explosive action”
「忍耐の後に爆発的な行動」という意味で、シンプルで分かりやすい表現です。
例文
“His business strategy was all about patience followed by explosive action.”
(彼のビジネス戦略は、始めは処女の如く後は脱兎の如しだった。)
“Play possum, then pounce”
“Play possum”は「死んだふりをする」という慣用句です(オポッサムという動物が死んだふりをする習性から)。”pounce”は「飛びかかる」という意味。
やや口語的ですが、戦術的な意外性を表現できます。
使用上の注意点
このことわざを使う時、または実践する時の注意点をまとめます。
「処女」という言葉について
現代では、「処女」という言葉は古めかしく、また性的なニュアンスで捉えられることもあります。
公の場やフォーマルな文書では、「最初は静かに、後で素早く」「緩急をつけて」など、別の表現を使う方が無難な場合もあるでしょう。
誤解を招かないために
この戦術は、相手を「騙す」ことではありません。状況を見極めて、最適なタイミングで行動するという、合理的な判断の話なんです。
不誠実な態度や詐欺的な行為を正当化する言葉として使うべきではありません。
孫子の兵法における位置づけ
この言葉が含まれる『孫子』という書物について、もう少し知っておきましょう。
孫子の基本思想
『孫子』は、単なる戦闘マニュアルではなく、戦略的思考の哲学書です。以下のような考え方が貫かれています。
「戦わずして勝つ」
最高の戦略は、戦わずに勝つこと。つまり、外交や心理戦で相手を屈服させることだと説いています。
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」
敵と自分の状況を正確に把握すれば、負けることはないという有名な言葉です。
「兵は詭道なり」
戦争は欺瞞の道である。つまり、相手を欺き、意表を突くことが重要だという考え方です。
「始めは処女の如く後は脱兎の如し」は、この「兵は詭道なり」の具体例の一つなんですね。
現代への影響
『孫子』は、現代のビジネススクールでも教材として使われています。企業戦略、マーケティング、交渉術など、様々な分野で応用されているんです。
この2500年前の知恵が、今でも通用するというのは驚きですよね。
よくある質問
Q1. 「処女」という言葉を使わずに、同じ意味を伝える方法はありますか?
はい、あります。以下のような言い換えが可能です。
- 「最初は静かに、後で素早く動く」
- 「緩急をつけた戦略」
- 「じっと機会を待ち、チャンスに一気に動く」
- 「序盤は様子見、終盤で勝負をかける」
これらの表現なら、現代的で分かりやすいですよ。
Q2. この戦術は卑怯ではないのですか?
いいえ、卑怯ではありません。これは状況判断と適切なタイミングの問題であり、ルール違反や不正行為とは異なります。
スポーツでいえば、序盤は守備的に、終盤で攻撃的にプレーするのと同じです。合法的で、むしろ賢明な戦略と言えるでしょう。
Q3. ビジネスで実践する時のコツは?
以下のポイントを意識してください。
- 市場や競合を十分に観察する(処女の段階)
- チャンスの兆候を見逃さない
- 動く時は迅速かつ大胆に(脱兎の段階)
- ただし、準備不足では動かない
タイミングの見極めが最も重要です。
まとめ
「始めは処女の如く後は脱兎の如し」は、「最初はおとなしく様子を見て、チャンスが来たら素早く動く」という戦略を表すことわざです。
重要なポイントをおさらいしましょう。
- 読み方は「はじめはしょじょのごとくのちはだっとのごとし」
- 『孫子』という兵法書に由来する
- 静と動、緩と急の使い分けが本質
- 相手を油断させてから一気に動く戦術
- ビジネス、スポーツ、交渉など幅広く応用可能
- 類義語に「虎視眈々」「電光石火」
- 英語では “Start slow and finish fast” など
このことわざが教えてくれるのは、「いつ動くか」という判断の重要性です。
状況をよく観察し、最適なタイミングで行動する。
この2500年前の知恵は、現代を生きる私たちにも、多くのヒントを与えてくれるはずです。


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