整関数とは?複素解析の基礎を分かりやすく解説

数学

数学の世界には、不思議で美しい性質を持つ関数がたくさんあります。その中でも「整関数」は、複素解析という分野で中心的な役割を果たす重要な概念です。

「整関数って何?」「難しそう…」と思うかもしれません。しかし、実は私たちがよく知っている指数関数や三角関数も整関数の仲間なんです。

今回は、整関数とは何か、どんな性質を持っているのかを、できるだけ分かりやすく解説していきます。

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整関数とは

定義

整関数(entire function) とは、複素数平面全体で正則な関数のことです。

もう少し詳しく言うと:

  • 複素数を入力として受け取り、複素数を出力する関数
  • 複素数平面上のすべての点で微分可能
  • 英語では “entire function” または “integral function” と呼ばれる

正則関数との違い

まず、「正則関数」という概念を理解しておく必要があります。

正則関数(holomorphic function):

  • ある領域内のすべての点で複素微分可能な関数
  • その領域は複素平面全体である必要はない

整関数:

  • 複素平面全体で正則な関数
  • つまり、正則関数の特別なケース

言い換えると、整関数は「定義域が複素平面全体である正則関数」です。

なぜ「整」という字が使われる?

英語の “entire” は「全体の」「完全な」という意味です。複素平面の全域で正則だから「整」関数と呼ばれるのです。

また、”holomorphic” というギリシャ語由来の言葉は「全体(holo)」+「型(morph)」から来ており、日本語では「整型関数」とも呼ばれることがあります。

整関数の具体例

基本的な整関数

1. 多項式関数

すべての多項式は整関数です。

f(z) = z
f(z) = z²
f(z) = z³ + 2z² - 5z + 3
f(z) = a_n z^n + a_(n-1) z^(n-1) + ... + a_1 z + a_0

多項式はどこでも微分可能なので、当然整関数です。

2. 指数関数

f(z) = e^z

複素指数関数は複素平面全体で定義され、どこでも微分可能です。

3. 三角関数

f(z) = sin z
f(z) = cos z

複素数版の正弦関数と余弦関数は整関数です。

4. 双曲線関数

f(z) = sinh z
f(z) = cosh z

双曲線正弦関数と双曲線余弦関数も整関数です。

整関数の組み合わせ

整関数同士の和、積、合成もまた整関数になります。

和:

f(z) = e^z + sin z

積:

f(z) = z² · e^z

合成:

f(z) = e^(sin z)
f(z) = sin(e^z)

これらはすべて整関数です。

整関数ではない例

1. 正接関数

f(z) = tan z = sin z / cos z

正接関数は cos z = 0 となる点(例: z = π/2, 3π/2, …)で極(pole)を持つため、整関数ではありません。これは有理型関数に分類されます。

2. 逆数

f(z) = 1/z

z = 0 で定義できないため、整関数ではありません。

3. 対数関数

f(z) = log z

対数関数は負の実軸に分岐(branch)を持ち、複素平面全体では正則ではありません。

4. 平方根

f(z) = √z

平方根も多価関数であり、複素平面全体では単一値の正則関数として定義できません。

整関数の重要な性質

性質1: 無限回微分可能

整関数は何回でも微分できます。しかも、その導関数もまた整関数です。

f(z) が整関数 → f'(z) も整関数
              → f''(z) も整関数
              → f'''(z) も整関数
              ...

例:

f(z) = e^z
f'(z) = e^z  (整関数)
f''(z) = e^z  (整関数)
f^(n)(z) = e^z  (すべて整関数)

これは実関数と大きく異なる点です。実関数では、1回微分可能でも2回微分できるとは限りませんが、複素関数では1回微分可能なら無限回微分可能なのです。

性質2: テイラー級数展開

整関数 f(z) は、任意の点 z₀ の周りでテイラー級数に展開できます。

f(z) = Σ(n=0 to ∞) aₙ(z - z₀)^n

ここで、aₙ は係数です。

重要なポイント:
整関数の場合、このテイラー級数の収束半径は無限大です。つまり、級数は複素平面全体で収束します。

例: 指数関数

e^z = 1 + z + z²/2! + z³/3! + z⁴/4! + ...

この級数は、どんな複素数 z に対しても収束します。

例: 正弦関数

sin z = z - z³/3! + z⁵/5! - z⁷/7! + ...

例: 余弦関数

cos z = 1 - z²/2! + z⁴/4! - z⁶/6! + ...

性質3: 特異点は無限遠点のみ

整関数は、有限の距離にある特異点(singularity)を持ちません。唯一の特異点は無限遠点(∞)です。

多項式の場合:
無限遠点は極(pole)です。

超越整関数の場合:
無限遠点は真性特異点(essential singularity)です。

超越整関数とは:
多項式ではない整関数のことです。例えば、e^z, sin z, cos z などです。

リウヴィルの定理

整関数の最も重要な定理の一つが「リウヴィルの定理」です。

定理の内容

リウヴィルの定理:
有界な整関数は定数関数に限る。

もう少し詳しく言うと:

  • f(z) を整関数とする
  • もし、すべての z に対して |f(z)| ≤ M となる定数 M が存在するなら
  • f(z) は定数関数である

定理の意味

これは驚くべき結果です。整関数が「どこでも一定の範囲内に収まっている」なら、その関数は実際には定数でなければならないのです。

具体例:

整関数 f(z) = e^z を考えましょう。

実軸上では、e^x は増加し続けるため有界ではありません。つまり、e^z は定数ではない整関数なので、有界ではあり得ません。

実際、複素平面上で |e^z| は無限大に増大します。

応用: 代数学の基本定理

リウヴィルの定理を使うと、代数学の基本定理の簡潔な証明が得られます。

代数学の基本定理:
次数 n の任意の複素係数多項式は、重複度を込めて n 個の根を持つ。

証明の概略:

  1. P(z) を n 次多項式とする
  2. P(z) が根を持たないと仮定する
  3. すると f(z) = 1/P(z) は整関数になる
  4. P(z) は無限遠で無限大に発散するので、f(z) は有界
  5. リウヴィルの定理により、f(z) は定数
  6. これは矛盾なので、P(z) は根を持つ

ピカールの小定理

もう一つの重要な定理が「ピカールの小定理」です。

定理の内容

ピカールの小定理:
定数でない整関数は、高々1つの値を除いて、すべての複素数の値をとる。

言い換えると:

  • 整関数 f(z) がある値 w を決してとらないとする
  • すると、もう一つ別の値 w’ も決してとらないことはない
  • つまり、「とらない値」は最大で1個

具体例

指数関数 e^z:

  • e^z は 0 の値を決してとりません(e^z ≠ 0)
  • しかし、0 以外のすべての複素数の値をとります
  • つまり、「とらない値」は 0 だけ

正弦関数 sin z:

  • sin z はすべての複素数の値をとります
  • 「とらない値」は存在しません

定理の意味

この定理は、整関数が複素平面をどのように「覆う」かを示しています。整関数は非常に「広範囲」に値をとるのです。

整関数の分類

整関数は、その増大度(growth rate)によって分類されます。

位数(order)による分類

整関数 f(z) の位数 ρ は、f(z) が無限遠でどのくらい速く増大するかを表す指標です。

有限位数の整関数:

位数 0:
増大が非常に遅い

例: f(z) = a (定数関数)

位数 1:
指数関数的な増大

例: f(z) = e^z
    f(z) = sin z
    f(z) = cos z

位数 n (有限):
多項式的な増大

例: f(z) = z^n (n 次多項式)
    位数は n

無限位数の整関数:
非常に速く増大する超越整関数

種数(genus)

整関数は、その零点の分布によっても分類されます。これを種数と呼びます。

  • 種数 0: 多項式
  • 種数 1, 2, …: より複雑な零点分布を持つ整関数

整関数と他の関数の関係

有理型関数

有理型関数(meromorphic function):
極(pole)を除いて正則な関数

整関数との関係:

2つの整関数の商 = 有理型関数

例:

f(z) = sin z / cos z = tan z

sin z と cos z は整関数ですが、その商 tan z は極を持つため有理型関数です。

解析関数

解析関数(analytic function):
ある領域でテイラー級数展開できる関数

複素解析では:

  • 正則関数 = 解析関数
  • 整関数 = 複素平面全体で解析的な関数

整関数の応用

1. 微分方程式の解

多項式係数を持つ線形微分方程式の解は、しばしば整関数になります。

例:

  • 指数関数: y’ = y の解
  • 三角関数: y” + y = 0 の解
  • エアリー関数: y” – zy = 0 の解

2. 物理学への応用

整関数は物理学の様々な分野で現れます。

  • 量子力学: 波動関数の解析
  • 流体力学: 等角写像による流れの解析
  • 電磁気学: 複素ポテンシャル

3. 解析的整数論

リーマンゼータ関数のような重要な関数は、もとは限られた領域でしか定義されていませんが、解析接続によって複素平面のより広い領域に拡張されます。

4. 複素力学系

整関数の繰り返し適用によって生成されるフラクタル図形(例: マンデルブロ集合)の研究にも使われます。

整関数を理解するための例題

例題1: 整関数かどうか判定する

問題: 次の関数は整関数か?

(1) f(z) = z³ – 2z + 1

解答:
多項式なので整関数です。

(2) f(z) = e^(z²)

解答:
e^z は整関数で、z² も整関数です。整関数の合成は整関数なので、e^(z²) は整関数です。

(3) f(z) = 1/(z² + 1)

解答:
z² + 1 = 0 となる点(z = i, -i)で定義できないため、整関数ではありません。

例題2: テイラー級数

問題: f(z) = e^z の z = 0 周りのテイラー級数を求めよ。

解答:

e^z = Σ(n=0 to ∞) z^n/n!
    = 1 + z + z²/2! + z³/3! + z⁴/4! + ...

この級数は複素平面全体で収束します。

例題3: リウヴィルの定理の応用

問題: 整関数 f(z) が実軸上で実数値をとり、|f(z)| ≤ 100 を満たすとき、f(z) はどんな関数か?

解答:
|f(z)| ≤ 100 より、f(z) は有界です。リウヴィルの定理により、有界な整関数は定数関数なので、f(z) = c (定数)です。

まとめ

整関数について解説してきました。重要なポイントをまとめます。

整関数とは:

  • 複素平面全体で正則(微分可能)な関数
  • 有限の距離に特異点を持たない
  • 英語では “entire function”

代表的な整関数:

  • 多項式関数: z, z², z³ + 2z – 1
  • 指数関数: e^z
  • 三角関数: sin z, cos z
  • 双曲線関数: sinh z, cosh z
  • これらの和・積・合成

重要な性質:

  • 無限回微分可能
  • テイラー級数の収束半径が無限大
  • 導関数も整関数
  • 唯一の特異点は無限遠点

重要な定理:

  • リウヴィルの定理: 有界な整関数は定数
  • ピカールの小定理: 定数でない整関数は、高々1つの値を除くすべての値をとる
  • 代数学の基本定理: リウヴィルの定理から簡潔に証明できる

整関数でないもの:

  • tan z (極を持つ → 有理型関数)
  • 1/z (z = 0 で定義できない)
  • log z (分岐を持つ)
  • √z (多価関数)

応用分野:

  • 微分方程式
  • 物理学(量子力学、流体力学)
  • 解析的整数論
  • 複素力学系とフラクタル

整関数は、複素解析の中でも最も基本的で美しい概念の一つです。多項式の自然な拡張であり、「無限次数の多項式」のように振る舞います。その研究は19世紀から続いており、現在でも多くの未解決問題が残されています。

参考情報:

  • Wikipedia 整関数: https://ja.wikipedia.org/wiki/整関数
  • 複素解析の基礎教科書や大学の講義資料をご参照ください

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