数学や工学を勉強していると、「フーリエ級数」という言葉を耳にすることがあります。
「級数」という言葉だけでも難しそうなのに、「フーリエ」がついて余計にわからない…そんな風に感じた方も多いのではないでしょうか。
でも安心してください。フーリエ級数の基本的なアイデアは、意外とシンプルで、身近な現象とも深く関わっています。
この記事では、フーリエ級数とは何か、なぜ重要なのか、どこで使われているのかを、数式を最小限に抑えて、わかりやすく解説します。
フーリエ級数を一言で言うと

複雑な波を「単純な波の組み合わせ」として表現する方法
これがフーリエ級数の本質です。
どんなに複雑で不規則に見える波でも、実は「単純なサイン波とコサイン波」を無限に足し合わせることで表現できる――これがフーリエが発見した驚くべき事実です。
音の例で理解しよう
ピアノの音を分解する
ピアノで「ド」の音を弾くと、単に「ド」だけの音が鳴っているわけではありません。実は以下のような音が同時に鳴っています。
- 基音(基本波):「ド」の音そのもの
- 第2倍音:1オクターブ上の「ド」
- 第3倍音:さらに上の「ソ」
- 第4倍音、第5倍音…:さらに高い音
これらの音が混ざり合って、私たちが聞く「ピアノの音色」が作られています。
楽器ごとに音色が違う理由
ピアノもギターもフルートも、同じ「ド」を弾いても音色が違いますよね。
これは、基音は同じでも、倍音の混ざり具合(振幅の比率)が違うからです。
- ピアノ:偶数倍音が強い
- ギター:奇数倍音が目立つ
- フルート:基音が非常に強く、倍音が少ない
この「どの倍音がどれくらい含まれているか」を数学的に表現するのがフーリエ級数です。
フーリエ級数の基本的なイメージ
波を「レゴブロック」のように組み立てる
複雑な波形を作るのは、レゴブロックで何かを作るのに似ています。
- サイン波・コサイン波 = 基本ブロック
- 複雑な波形 = 完成した作品
どんな複雑な形でも、基本ブロックを組み合わせれば作れます。フーリエ級数は、その「組み立て方のレシピ」を教えてくれるのです。
周期的な波にしか使えない
ただし、フーリエ級数が使えるのは「周期的に繰り返す波」だけです。
周期的な波とは:
- 心電図の波形
- 交流電流の波形
- 音楽の楽音
- 時計の振り子の動き
このように、一定の周期で繰り返す現象に対して、フーリエ級数は強力な道具になります。
フーリエ級数の公式(基本形)
数式を避けては通れませんが、できるだけシンプルに説明します。
基本公式
周期 2π の周期関数 f(x) は、以下のように表せます:
f(x) = a₀/2 + Σ(aₙ cos(nx) + bₙ sin(nx))
各項の意味
| 項 | 意味 |
|---|---|
| a₀/2 | 定数項(直流成分)、波全体の平均値 |
| aₙ cos(nx) | n番目のコサイン波の成分 |
| bₙ sin(nx) | n番目のサイン波の成分 |
| Σ | 無限に足し合わせる(n=1, 2, 3, …) |
フーリエ係数の計算
係数 aₙ と bₙ は、以下の積分で求められます:
aₙ = (1/π) ∫ f(x) cos(nx) dx (-π から π まで積分)
bₙ = (1/π) ∫ f(x) sin(nx) dx (-π から π まで積分)
この積分の計算は少し複雑ですが、要するに「元の関数 f(x) に、サイン・コサインをかけて平均を取る」という操作をしています。
周期が 2π ではない場合

実際の問題では、周期が 2π ではなく、任意の周期 2L の場合が多いです。
一般形の公式
周期 2L の周期関数 f(x) は:
f(x) = a₀/2 + Σ(aₙ cos(nπx/L) + bₙ sin(nπx/L))
フーリエ係数は:
aₙ = (1/L) ∫ f(x) cos(nπx/L) dx (-L から L まで積分)
bₙ = (1/L) ∫ f(x) sin(nπx/L) dx (-L から L まで積分)
周期に応じて、式の中の π/L の部分が変わるだけで、基本的な考え方は同じです。
具体例:矩形波(方形波)のフーリエ級数
矩形波とは
矩形波は、オンとオフが交互に繰り返す波形です。デジタル信号でよく見かける形です。
┌─┐ ┌─┐ ┌─┐
│ │ │ │ │ │
──┘ └─────┘ └─────┘ └──
フーリエ級数展開の結果
矩形波をフーリエ級数で表すと、以下のようになります:
f(x) = (4/π)[sin(x) + (1/3)sin(3x) + (1/5)sin(5x) + (1/7)sin(7x) + ...]
何が起きているのか
- 基本波:sin(x)
- 第3倍音:(1/3)sin(3x)
- 第5倍音:(1/5)sin(5x)
- …
これらの奇数倍音だけを足し合わせると、だんだん矩形波に近づいていきます。
項を増やすと精度が上がる
- 1項だけ:なめらかなサイン波
- 3項まで:角が少し出てくる
- 5項まで:だいぶ四角くなる
- 10項まで:ほぼ矩形波
- 無限項:完璧な矩形波
このように、項を増やせば増やすほど、元の波形に近づいていきます。
偶関数と奇関数によるフーリエ級数
偶関数の場合:コサイン級数
グラフが左右対称(y軸対称)な関数を偶関数といいます。
例:f(x) = x²、f(x) = cos(x)
偶関数のフーリエ級数は、コサインの項だけになります:
f(x) = a₀/2 + Σ aₙ cos(nx)
サインの項(bₙ)はすべて 0 になるので、計算が楽になります。
奇関数の場合:サイン級数
グラフが原点対称な関数を奇関数といいます。
例:f(x) = x、f(x) = sin(x)
奇関数のフーリエ級数は、サインの項だけになります:
f(x) = Σ bₙ sin(nx)
コサインの項(aₙ)がすべて 0 になり、定数項も 0 です。
なぜこうなるのか
- 偶関数 × 奇関数(sin) = 奇関数
- 奇関数を対称な区間で積分 → 0
- 奇関数 × 奇関数(sin) = 偶関数
- 偶関数を積分 → 値が残る
このような性質により、関数の対称性を利用すれば計算を大幅に簡略化できます。
時間領域と周波数領域

時間領域表現
普段、私たちが見る波形のグラフは「時間領域」での表現です。
- 横軸:時間(t)
- 縦軸:振幅(信号の大きさ)
例:オシロスコープで見る波形
周波数領域表現(スペクトル)
フーリエ級数で表現すると、「周波数領域」で見ることができます。
- 横軸:周波数(f)
- 縦軸:各周波数成分の大きさ
例:音楽プレーヤーのイコライザー表示
なぜ周波数領域が重要か
周波数領域で見ると、以下のことがわかります:
- どの周波数成分が強いか
- ノイズがどの周波数帯にあるか
- フィルターでどの周波数を削ればいいか
これにより、音響や通信の分野で信号処理がしやすくなります。
フーリエ級数の歴史
ジョゼフ・フーリエ(1768-1830)
フーリエ級数は、フランスの数学者ジョゼフ・フーリエによって発見されました。
きっかけは熱伝導の研究
フーリエは、金属板の中で熱がどのように伝わるかを研究していました。
熱伝導方程式という偏微分方程式を解く過程で、「どんな関数でもサイン・コサインの和で表せるのでは?」という大胆な発想にたどり着きました。
当時は大論争に
フーリエの主張は、当時の数学者たちから激しい反論を受けました。
- 「本当にどんな関数でも表せるのか?」
- 「級数は本当に収束するのか?」
これらの疑問に答えるため、関数や収束の概念が厳密に定義され直され、19世紀の数学の発展に大きく貢献しました。
フーリエ級数の応用分野
フーリエ級数は、現代科学技術の基礎となっており、非常に多くの分野で使われています。
1. 音響・音楽
- 楽器の音色分析:どの倍音がどれくらい含まれているか
- 音声合成:人工的に音を作り出す
- イコライザー:特定の周波数帯を強調・削減
- 音声圧縮:MP3などの圧縮技術
2. 電気工学
- 交流回路の解析:複雑な交流波形を分析
- 電力系統:高調波の影響を調べる
- フィルター設計:不要な周波数を除去
- 信号処理:通信信号の解析
3. 画像処理
- JPEG圧縮:画像をフーリエ変換して圧縮
- 画像のノイズ除去:周波数成分から ノイズを特定
- 画像認識:特徴抽出に利用
- 医療画像:CTスキャン、MRI
4. 振動解析
- 機械の振動診断:異常な振動を検出
- 地震波の解析:地震の特性を調べる
- 構造物の設計:橋や建物の振動特性
5. 通信工学
- AM/FM変調:ラジオ放送の仕組み
- スペクトル分析:電波の周波数成分
- デジタル変調:携帯電話の通信
6. 量子力学
- 波動関数の解析:電子の振る舞いを記述
- 固体物理学:結晶格子の振動
7. 経済・金融
- 時系列データ分析:株価の周期的な変動
- 季節変動の分析:売上データの周期性
フーリエ級数の限界と拡張

フーリエ級数の限界
フーリエ級数は強力ですが、以下の制約があります:
- 周期関数にしか使えない
- 繰り返さない関数には適用できない
- 収束しない場合がある
- どんな関数でも表せるわけではない
- 不連続点では正確に収束しないこともある
- 無限項が必要
- 完璧に表現するには無限に項を足す必要がある
- 実際には有限項で打ち切る
フーリエ変換への拡張
周期的でない関数を扱うために、「フーリエ変換」が開発されました。
フーリエ変換は:
- 周期を無限大に拡張
- 離散的な周波数 → 連続的な周波数
- 級数(和) → 積分
これにより、あらゆる関数を周波数領域で表現できるようになりました。
その他の拡張
- 離散フーリエ変換(DFT):デジタル信号用
- 高速フーリエ変換(FFT):DFTを高速化
- フーリエ・ベッセル級数:円筒座標系用
- 球面調和関数:球面上の関数用
フーリエ級数の計算例
例題:のこぎり波のフーリエ級数
のこぎり波(鋸歯状波)は、直線的に増加してから急激に下がる波形です。
関数:f(x) = x (-π < x < π、周期 2π で繰り返す)
ステップ1:係数 a₀ を計算
a₀ = (1/π) ∫[-π→π] x dx = 0
のこぎり波は平均値が 0 なので、定数項は 0 です。
ステップ2:係数 aₙ を計算
aₙ = (1/π) ∫[-π→π] x cos(nx) dx = 0
被積分関数が奇関数なので、0 になります。
ステップ3:係数 bₙ を計算
bₙ = (1/π) ∫[-π→π] x sin(nx) dx
部分積分を使って計算すると:
bₙ = 2(-1)^(n+1) / n
結果
f(x) = 2[sin(x) - sin(2x)/2 + sin(3x)/3 - sin(4x)/4 + ...]
のこぎり波は、サイン波の項だけで表され、係数が交互に正負になります。
よくある質問(FAQ)

Q1. フーリエ級数とフーリエ変換の違いは?
- フーリエ級数:周期関数を離散的な周波数の和で表す
- フーリエ変換:非周期関数を連続的な周波数の積分で表す
フーリエ級数は周期関数専用、フーリエ変換はあらゆる関数に使えます。
Q2. なぜサイン波とコサイン波なのか?
三角関数には以下の特別な性質があります:
- 周期性:繰り返しパターンを表現するのに最適
- 直交性:異なる周波数の三角関数を掛けて積分すると 0
- 微分・積分が簡単:微分方程式が解きやすくなる
Q3. 無限項を足すのに、なぜ計算できるの?
実際には、以下の理由で計算可能です:
- 有限項で打ち切る:通常は10~100項程度で十分な精度
- 高次の項は小さい:n が大きくなると係数が小さくなることが多い
- コンピューターが高速計算:FFTアルゴリズムで高速化
Q4. どんな関数でもフーリエ級数で表せる?
いいえ。フーリエ級数で表せるのは、以下の条件を満たす関数です:
- 周期的である
- 区分的に連続(飛び飛びの不連続点があってもOK)
- 区分的に滑らか(多少のとがった部分はOK)
実用上、ほとんどの物理的な信号はこれを満たします。
Q5. ギブスの現象とは?
不連続点(急激な変化)がある関数をフーリエ級数で近似すると、不連続点の近くで「オーバーシュート(飛び出し)」が発生します。
これをギブスの現象といい、項を増やしても完全には消えません。ただし、オーバーシュートの幅は狭くなります。
Q6. 複素形フーリエ級数とは?
オイラーの公式を使うと、フーリエ級数を複素数で表現できます:
f(x) = Σ cₙ e^(inx)
この形は数学的に美しく、物理学や工学ではこちらがよく使われます。
Q7. フーリエ級数は誰が使う?
以下の分野の専門家が使います:
- 電気・電子工学者
- 通信エンジニア
- 音響技術者
- 画像処理エンジニア
- 物理学者
- データサイエンティスト
Q8. プログラミングでフーリエ級数を使うには?
多くのプログラミング言語にライブラリがあります:
- Python:NumPy、SciPy の
fft関数 - MATLAB:
fft関数 - JavaScript:fft.js ライブラリ
- C/C++:FFTW ライブラリ
Q9. 学ぶのに必要な数学の知識は?
以下の知識があると理解しやすいです:
- 三角関数(サイン・コサイン)
- 積分の基礎
- 級数の概念
- 偶関数・奇関数
高校数学Ⅲと大学初年度の微積分があれば十分です。
Q10. 実際にどうやって計算するの?
手計算は大変なので、通常は以下の方法を使います:
- 数値積分:コンピューターで積分を近似計算
- FFT(高速フーリエ変換):離散データから直接計算
- 数式処理ソフト:Mathematica、Wolfram Alpha など
フーリエ級数を視覚的に理解する
円運動との関係
フーリエ級数は、円運動の組み合わせとしても理解できます。
- 大きな円が一定速度で回転
- その円周上でさらに小さな円が回転
- さらにその上でもっと小さな円が回転
- …
この回転する円の端点の軌跡が、元の波形を描きます。
これは「エピサイクル」と呼ばれ、古代の天文学者が惑星の運動を説明するのに使った考え方と同じです。
アニメーションで見ると感動的
YouTubeなどで「Fourier Series Visualization」と検索すると、この円運動が実際に波形を描く様子のアニメーションが見られます。
複雑な形でも、円を増やしていくと徐々に形が現れてくる様子は、本当に魔法のようで感動的です!
まとめ:フーリエ級数は現代科学の基礎
フーリエ級数は、200年以上前に発見された数学理論ですが、現代でも科学技術のあらゆる場所で使われています。
この記事のポイント
- 基本概念:複雑な波を単純な波(サイン・コサイン)の組み合わせで表現
- 公式:f(x) = a₀/2 + Σ(aₙ cos(nx) + bₙ sin(nx))
- フーリエ係数:積分計算で求められる
- 応用分野:音響、通信、画像処理、振動解析など多岐にわたる
- 歴史的意義:19世紀数学の発展に大きく貢献
フーリエ級数の威力
- 複雑な問題を単純な問題に分解できる
- 周波数領域で現象を理解できる
- 微分方程式が解きやすくなる
- デジタル信号処理の基礎技術
現代への影響
フーリエ級数から発展したフーリエ解析は、以下の技術を支えています:
- MP3などの音声圧縮
- JPEGなどの画像圧縮
- 携帯電話の通信技術
- CTスキャンやMRI
- デジタルフィルター
- AIの画像認識
私たちが日常的に使っている多くのデジタル技術の裏側で、フーリエ級数の理論が活躍しているのです。
最後に
フーリエ級数は、一見すると難解な数学理論に見えますが、その本質は「複雑なものを単純な部品に分解する」というシンプルなアイデアです。
この記事で、フーリエ級数の基本的な考え方と、その驚くべき応用の広さを理解していただけたら嬉しいです。
数学の美しさと実用性が見事に融合したフーリエ級数――ぜひ、もっと深く学んでみてください!

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