全微分とは?多変数関数の1次近似を理解する

微分積分を学んでいると、「全微分」という概念に出会います。特に、物理学や工学で複数の変数を扱うとき、全微分は欠かせない道具になります。

でも、「偏微分は分かるけど、全微分って何が違うの?」と疑問に思ったことはありませんか?

この記事では、全微分の定義から幾何学的な意味、具体的な計算方法、そして実際の応用まで、丁寧に解説していきます。

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全微分を理解する前に:偏微分のおさらい

全微分を理解するには、まず偏微分を知っておく必要があります。

偏微分とは

2変数関数 $z = f(x, y)$ を考えましょう。偏微分とは、一方の変数を固定して、もう一方の変数だけで微分することです。

  • $x$ についての偏微分:$y$ を定数とみなして $x$ で微分
  • $y$ についての偏微分:$x$ を定数とみなして $y$ で微分

記号では次のように書きます。

$$\frac{\partial f}{\partial x}, \quad \frac{\partial f}{\partial y}$$

偏微分の問題点

偏微分は、一つの変数だけを変化させたときの関数の変化を表します。しかし、実際の問題では複数の変数が同時に変化することがほとんどです。

たとえば、温度が時間と位置の両方に依存する場合、時間と位置が同時に変化したら温度はどう変わるのでしょうか?

この疑問に答えるのが「全微分」なんです。

全微分の定義

全微分は、多変数関数のすべての変数が微小変化したときの関数値の変化を表します。

2変数関数の場合

関数 $z = f(x, y)$ について、$x$ が $dx$ だけ、$y$ が $dy$ だけ変化したとき、$z$ の変化量 $dz$ は次のように表されます。

$$dz = \frac{\partial f}{\partial x} dx + \frac{\partial f}{\partial y} dy$$

これを関数 $f$ の全微分といいます。

右辺を見ると、各偏微分に対応する変数の微小変化量を掛けて、足し合わせていることが分かります。

n変数関数の場合

関数 $f(x_1, x_2, \ldots, x_n)$ の全微分は、

$$df = \frac{\partial f}{\partial x_1} dx_1 + \frac{\partial f}{\partial x_2} dx_2 + \cdots + \frac{\partial f}{\partial x_n} dx_n$$

となります。つまり、すべての変数について偏微分と微小変化量の積を足したものです。

全微分の意味:関数の1次近似

全微分は、関数の1次近似と解釈できます。これはとても重要な視点です。

1次近似とは

点 $(a, b)$ の近くで、関数 $f(x, y)$ を1次式で近似すると、

$$f(x, y) \approx f(a, b) + \frac{\partial f}{\partial x}(a, b) \cdot (x-a) + \frac{\partial f}{\partial y}(a, b) \cdot (y-b)$$

となります。

ここで $\Delta x = x – a$、$\Delta y = y – b$ とおくと、

$$\Delta z = f(a + \Delta x, b + \Delta y) – f(a, b) \approx \frac{\partial f}{\partial x}(a, b) \cdot \Delta x + \frac{\partial f}{\partial y}(a, b) \cdot \Delta y$$

これは全微分の式そのものです。

つまり、全微分は「微小な変化に対して、関数を1次関数で近似したもの」なんです。

全微分の幾何学的解釈:接平面

2変数関数のグラフは3次元空間の曲面を表します。全微分は、この曲面の接平面と密接に関係しています。

接平面の方程式

曲面 $z = f(x, y)$ 上の点 $(a, b, f(a, b))$ における接平面の方程式は、

$$z – f(a, b) = \frac{\partial f}{\partial x}(a, b) \cdot (x-a) + \frac{\partial f}{\partial y}(a, b) \cdot (y-b)$$

です。

これを見ると、右辺は全微分の形になっています。

つまり、全微分は接平面を使った関数の近似を表しているのです。

曲面が滑らかであれば、点の近くでは曲面と接平面がほとんど一致します。だから、全微分による近似が良い精度を持つわけですね。

全微分可能性とは

すべての関数が全微分可能なわけではありません。全微分可能であるための条件を見てみましょう。

全微分可能の定義

関数 $f(x, y)$ が点 $(a, b)$ で全微分可能であるとは、次の条件を満たすことです。

$$\lim_{(\Delta x, \Delta y) \to (0, 0)} \frac{|f(a + \Delta x, b + \Delta y) – f(a, b) – f_x(a, b) \cdot \Delta x – f_y(a, b) \cdot \Delta y|}{\sqrt{(\Delta x)^2 + (\Delta y)^2}} = 0$$

言葉で言うと、「実際の関数の変化量と、全微分による近似の差が、変化量に比べて十分小さくなる」ということです。

偏微分可能と全微分可能の違い

重要なポイントがあります。

  • 全微分可能 → 偏微分可能(必ず成立)
  • 偏微分可能 → 全微分可能(必ずしも成立しない)

つまり、偏微分が存在しても、全微分可能とは限らないのです。

全微分可能であるための十分条件

次の定理が実用上とても役立ちます。

定理:関数 $f(x, y)$ の偏導関数 $\frac{\partial f}{\partial x}$ と $\frac{\partial f}{\partial y}$ がともに連続ならば、$f$ は全微分可能である。

この条件を満たす関数は $C^1$ 級関数と呼ばれます。実際に扱う関数のほとんどは $C^1$ 級なので、全微分可能性を心配する必要はあまりありません。

全微分の計算方法

具体的な例で、全微分の計算方法を見てみましょう。

例1:$z = x^2 + 3xy + y^2$

まず各変数についての偏微分を求めます。

$$\frac{\partial z}{\partial x} = 2x + 3y, \quad \frac{\partial z}{\partial y} = 3x + 2y$$

したがって、全微分は

$$dz = (2x + 3y) dx + (3x + 2y) dy$$

です。

点 $(1, 2)$ での全微分を具体的に求めると、

$$dz = (2 \cdot 1 + 3 \cdot 2) dx + (3 \cdot 1 + 2 \cdot 2) dy = 8dx + 7dy$$

となります。

例2:$z = \sqrt{1 – x^2 – y^2}$

これは半球を表す関数です。

$$\frac{\partial z}{\partial x} = \frac{-x}{\sqrt{1 – x^2 – y^2}}, \quad \frac{\partial z}{\partial y} = \frac{-y}{\sqrt{1 – x^2 – y^2}}$$

全微分は

$$dz = \frac{-x}{\sqrt{1 – x^2 – y^2}} dx + \frac{-y}{\sqrt{1 – x^2 – y^2}} dy$$

です。

例3:$w = e^{x+y+z}$(3変数関数)

3変数関数の例も見てみましょう。

$$\frac{\partial w}{\partial x} = e^{x+y+z}, \quad \frac{\partial w}{\partial y} = e^{x+y+z}, \quad \frac{\partial w}{\partial z} = e^{x+y+z}$$

全微分は

$$dw = e^{x+y+z}(dx + dy + dz)$$

となります。

合成関数の全微分:連鎖律

全微分の最も重要な応用の一つが、合成関数の微分です。

基本的な連鎖律

関数 $z = f(x, y)$ が全微分可能で、$x = x(t)$、$y = y(t)$ が $t$ について微分可能なとき、合成関数 $z = f(x(t), y(t))$ の $t$ に関する微分は

$$\frac{dz}{dt} = \frac{\partial f}{\partial x} \frac{dx}{dt} + \frac{\partial f}{\partial y} \frac{dy}{dt}$$

となります。

これは全微分 $dz = \frac{\partial f}{\partial x} dx + \frac{\partial f}{\partial y} dy$ の両辺を $dt$ で割った形になっていますね。

具体例で確認

$z = x^2 + y^2$ で、$x = \cos t$、$y = \sin t$ のとき、

$$\frac{dz}{dt} = \frac{\partial z}{\partial x} \frac{dx}{dt} + \frac{\partial z}{\partial y} \frac{dy}{dt}$$

$$= 2x \cdot (-\sin t) + 2y \cdot \cos t$$

$$= 2\cos t \cdot (-\sin t) + 2\sin t \cdot \cos t = 0$$

これは $z = \cos^2 t + \sin^2 t = 1$ (定数)なので、$\frac{dz}{dt} = 0$ となることと一致します。

より一般的な連鎖律

関数 $z = f(x, y)$ で、$x = x(s, t)$、$y = y(s, t)$ のとき、

$$\frac{\partial z}{\partial s} = \frac{\partial f}{\partial x} \frac{\partial x}{\partial s} + \frac{\partial f}{\partial y} \frac{\partial y}{\partial s}$$

$$\frac{\partial z}{\partial t} = \frac{\partial f}{\partial x} \frac{\partial x}{\partial t} + \frac{\partial f}{\partial y} \frac{\partial y}{\partial t}$$

となります。

全微分の実用的な応用

全微分は理論だけでなく、実際の問題でも非常に有用です。

応用1:誤差の伝播

測定値に誤差があるとき、計算結果にどれだけ誤差が伝わるかを全微分で評価できます。

例:円柱の体積

半径 $r$、高さ $h$ の円柱の体積は $V = \pi r^2 h$ です。

全微分は

$$dV = \frac{\partial V}{\partial r} dr + \frac{\partial V}{\partial h} dh = 2\pi rh \cdot dr + \pi r^2 \cdot dh$$

もし $r = 5$ cm(誤差 $\pm 0.1$ cm)、$h = 10$ cm(誤差 $\pm 0.2$ cm)なら、

$$dV = 2\pi \cdot 5 \cdot 10 \cdot (\pm 0.1) + \pi \cdot 5^2 \cdot (\pm 0.2)$$

$$= 100\pi \cdot (\pm 0.1) + 25\pi \cdot (\pm 0.2) = \pm 10\pi \pm 5\pi$$

最悪の場合、$|dV| \approx 15\pi \approx 47$ cm³ の誤差が生じることが分かります。

応用2:最適化問題

最大値・最小値を求める問題では、全微分がゼロになる点(停留点)を探します。

$f(x, y)$ が停留点を持つ条件は、

$$\frac{\partial f}{\partial x} = 0, \quad \frac{\partial f}{\partial y} = 0$$

つまり $df = 0$ となることです。

応用3:物理学での応用

熱力学では、内部エネルギー $U$ が体積 $V$ と温度 $T$ の関数のとき、

$$dU = \frac{\partial U}{\partial V} dV + \frac{\partial U}{\partial T} dT$$

これは熱力学の基本式の一つです。

また、流体力学や電磁気学でも、全微分は至る所で使われます。

全微分と偏微分の関係を整理

ここまでの内容を整理しましょう。

偏微分

  • 一つの変数だけに注目した微分
  • 他の変数を固定して考える
  • 表記:$\frac{\partial f}{\partial x}$

全微分

  • すべての変数の微小変化を考慮
  • 関数の1次近似を与える
  • 表記:$df = \frac{\partial f}{\partial x} dx + \frac{\partial f}{\partial y} dy + \cdots$

全微分は、偏微分を”組み立てた”ものと考えることができます。各偏微分が各方向の変化率を表し、全微分はそれらを重み付き和として組み合わせているのです。

全微分の重要な性質

全微分にはいくつか重要な性質があります。

性質1:線形性

$$d(af + bg) = a \cdot df + b \cdot dg$$

定数倍と和の全微分は、それぞれの全微分の線形結合になります。

性質2:積の全微分

$$d(fg) = f \cdot dg + g \cdot df$$

これは1変数の場合の積の微分公式と同じ形です。

性質3:商の全微分

$$d\left(\frac{f}{g}\right) = \frac{g \cdot df – f \cdot dg}{g^2}$$

こちらも1変数の場合と同じ形をしています。

性質4:連続性との関係

全微分可能な関数は必ず連続です。逆は成り立ちませんが、これは重要な性質です。

まとめ:全微分を使いこなそう

全微分は、多変数関数の微分の本質を捉えた概念です。

この記事のポイント

  • 全微分は、すべての変数が微小変化したときの関数値の変化を表す
  • $df = \frac{\partial f}{\partial x} dx + \frac{\partial f}{\partial y} dy + \cdots$ という形
  • 幾何学的には接平面を、代数的には1次近似を表す
  • 偏導関数が連続なら全微分可能($C^1$ 級関数)
  • 合成関数の微分(連鎖律)で重要な役割を果たす
  • 誤差の評価、最適化問題、物理学など幅広い応用がある

実用上のポイント

  1. 計算方法:各変数で偏微分して、$dx, dy, \ldots$ を掛けて足す
  2. 近似:$(a, b)$ 近くで $f(x, y) \approx f(a, b) + df$
  3. 連鎖律:変数が他の変数の関数のとき、$\frac{dz}{dt} = \frac{\partial z}{\partial x} \frac{dx}{dt} + \frac{\partial z}{\partial y} \frac{dy}{dt}$

全微分を理解することで、多変数の微積分が見通しよくなります。物理学、工学、経済学など、さまざまな分野で全微分は基礎となる道具です。

実際の問題に取り組むときは、まず偏微分をしっかり計算し、それを全微分の形にまとめる、という手順を踏むと良いでしょう。

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