数学には、フィボナッチ数列という有名な数列がありますが、それとよく似た「ペル数列」という数列をご存知でしょうか?
ペル数列は、√2(ルート2)を分数で近似する際に自然に現れる数列で、古代から知られています。フィボナッチ数列が黄金比と深い関係にあるように、ペル数列は「白銀比」という美しい比率と結びついています。
この記事では、ペル数列の定義から、√2との関係、ペル方程式、さらには実用的な応用まで、わかりやすく解説していきます。
ペル数列とは?

ペル数列(Pell numbers)は、次の漸化式で定義される整数の数列です。
定義
初期値:
- P₀ = 0
- P₁ = 1
漸化式:
- Pₙ = 2Pₙ₋₁ + Pₙ₋₂ (n ≥ 2)
つまり、「各項は、直前の項を2倍した数と、2つ前の項を足した数」になります。
最初の数項
実際に計算してみましょう:
- P₀ = 0
- P₁ = 1
- P₂ = 2×1 + 0 = 2
- P₃ = 2×2 + 1 = 5
- P₄ = 2×5 + 2 = 12
- P₅ = 2×12 + 5 = 29
- P₆ = 2×29 + 12 = 70
- P₇ = 2×70 + 29 = 169
- P₈ = 2×169 + 70 = 408
- P₉ = 2×408 + 169 = 985
- P₁₀ = 2×985 + 408 = 2378
ペル数列の最初の項は:
0, 1, 2, 5, 12, 29, 70, 169, 408, 985, 2378, 5741, 13860, …
フィボナッチ数列との比較
比較のため、フィボナッチ数列も見てみましょう:
フィボナッチ数列:
- F₀ = 0, F₁ = 1
- Fₙ = Fₙ₋₁ + Fₙ₋₂
- 数列: 0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, …
ペル数列:
- P₀ = 0, P₁ = 1
- Pₙ = 2Pₙ₋₁ + Pₙ₋₂
- 数列: 0, 1, 2, 5, 12, 29, 70, 169, 408, 985, 2378, …
違いは、「直前の項を1倍するか2倍するか」だけです。この小さな違いが、数列の性質に大きな影響を与えます。
ペル数列の名前の由来
実は、「ペル数列」という名前には面白い歴史があります。
誤解から生まれた名前
18世紀の偉大な数学者オイラーが、ペル方程式(x² – Dy² = 1)を研究したのはイギリスの数学者ジョン・ペル(John Pell, 1611-1685)だと誤解して、この方程式を「ペル方程式」と名付けました。
実際には、ペルはこの方程式とほとんど関係がありませんでした。真の功績者は、インドのバースカラ2世(12世紀)や、イギリスのウィリアム・ブラウンカー(17世紀)です。
しかし、オイラーの影響力が大きかったため、「ペル方程式」という名前が広まり、その解に関係する数列も「ペル数列」と呼ばれるようになりました。
古代からの知識
ペル数列そのものは、古代から知られていました。
- 紀元前5世紀のギリシャ:哲学者プラトンが、√2の近似分数の分子を「rational diameters(有理的な直径)」と呼んでいました。
- 紀元2世紀:スミュルナのテオンが、これらの数を「side and diameter numbers(辺と直径の数)」と呼びました。
- 紀元前3-4世紀のインド:インドの数学者たちは、この数列を使った計算法を知っていました。
√2(ルート2)との深い関係
ペル数列の最も重要な応用は、√2を分数で近似することです。
√2の有理近似
√2 = 1.41421356…は無理数なので、分数では正確に表せません。しかし、できるだけ正確な分数で近似したいとき、ペル数列が役立ちます。
ペル数列を使うと、次のような近似分数が得られます:
近似分数の規則:
- 分母: Pₙ(ペル数)
- 分子: Pₙ₋₁ + Pₙ(2つのペル数の和)
実際の近似分数:
| n | 分子 | 分母 | 分数 | 小数値 | 誤差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1 | 1 | 1/1 | 1.000000 | 0.414214 |
| 2 | 3 | 2 | 3/2 | 1.500000 | 0.085786 |
| 3 | 7 | 5 | 7/5 | 1.400000 | 0.014214 |
| 4 | 17 | 12 | 17/12 | 1.416667 | 0.002453 |
| 5 | 41 | 29 | 41/29 | 1.413793 | 0.000421 |
| 6 | 99 | 70 | 99/70 | 1.414286 | 0.000072 |
| 7 | 239 | 169 | 239/169 | 1.414201 | 0.000012 |
| 8 | 577 | 408 | 577/408 | 1.414216 | 0.000002 |
√2の真の値: 1.41421356…
驚くべきことに、誤差が急速に小さくなっていきます!
なぜペル数列が√2の近似に現れるのか?
これは、√2の連分数展開と関係しています。
√2の連分数展開は:
√2 = [1; 2, 2, 2, 2, 2, …]
この連分数の近似分数(収束項)を計算すると、自然にペル数列が現れるのです。
ペル方程式との関係
ペル数列は、「ペル方程式」という不定方程式の解と密接に関係しています。
ペル方程式とは
ペル方程式は次の形の方程式です:
x² – 2y² = 1
または
x² – 2y² = -1
ここで、x, yは整数です。
ペル数列による解
驚くべきことに、ペル数列を使ってペル方程式の解が簡単に求められます。
x² – 2y² = 1 の解:
(x, y) = (Pₙ₋₁ + Pₙ, Pₙ)
つまり:
- x = 前のペル数 + 現在のペル数
- y = 現在のペル数
具体例:
| n | x = Pₙ₋₁ + Pₙ | y = Pₙ | x² – 2y² |
|---|---|---|---|
| 1 | 0 + 1 = 1 | 1 | 1² – 2×1² = -1 |
| 2 | 1 + 2 = 3 | 2 | 3² – 2×2² = 1 |
| 3 | 2 + 5 = 7 | 5 | 7² – 2×5² = -1 |
| 4 | 5 + 12 = 17 | 12 | 17² – 2×12² = 1 |
| 5 | 12 + 29 = 41 | 29 | 41² – 2×29² = -1 |
| 6 | 29 + 70 = 99 | 70 | 99² – 2×70² = 1 |
偶数番目のnでは x² – 2y² = 1、奇数番目のnでは x² – 2y² = -1 になっています。
一般解の生成
最小解(x₁, y₁) = (3, 2)から、すべての解を生成できます:
(xₙ + yₙ√2) = (3 + 2√2)ⁿ
この式を展開すると、xₙ, yₙがペル数列で表されます。
白銀比との関係

フィボナッチ数列が黄金比φ = (1 + √5)/2に関係するように、ペル数列は白銀比に関係します。
白銀比とは
白銀比(Silver ratio):
δ = 1 + √2 = 2.41421356…
白銀比は、方程式 δ² = 2δ + 1 を満たす正の数です。
ペル数列と白銀比
隣接するペル数の比 Pₙ₊₁/Pₙ は、nが大きくなると白銀比に近づきます:
| n | Pₙ₊₁/Pₙ | 値 |
|---|---|---|
| 1 | P₂/P₁ = 2/1 | 2.000000 |
| 2 | P₃/P₂ = 5/2 | 2.500000 |
| 3 | P₄/P₃ = 12/5 | 2.400000 |
| 4 | P₅/P₄ = 29/12 | 2.416667 |
| 5 | P₆/P₅ = 70/29 | 2.413793 |
| 6 | P₇/P₆ = 169/70 | 2.414286 |
| 7 | P₈/P₇ = 408/169 | 2.414201 |
| 8 | P₉/P₈ = 985/408 | 2.414216 |
真の白銀比: 2.41421356…
ビネの公式(閉形式)
ペル数列には、一般項を直接計算できる公式(ビネの公式)があります:
Pₙ = [(1 + √2)ⁿ – (1 – √2)ⁿ] / (2√2)
ここで:
- (1 + √2) = δ(白銀比)
- (1 – √2) = -1/δ(白銀比の共役)
nが大きくなると、(1 – √2)ⁿの項は0に近づくので:
Pₙ ≈ (1 + √2)ⁿ / (2√2) = δⁿ / (2√2)
つまり、ペル数列は白銀比のべき乗に比例して成長します。
ペル・リュカ数(伴ペル数)
ペル数列に関連する数列として、ペル・リュカ数(Pell-Lucas numbers)または伴ペル数(companion Pell numbers)があります。
定義
初期値:
- Q₀ = 2
- Q₁ = 2
漸化式:
- Qₙ = 2Qₙ₋₁ + Qₙ₋₂ (n ≥ 2)
最初の数項
- Q₀ = 2
- Q₁ = 2
- Q₂ = 2×2 + 2 = 6
- Q₃ = 2×6 + 2 = 14
- Q₄ = 2×14 + 6 = 34
- Q₅ = 2×34 + 14 = 82
- Q₆ = 2×82 + 34 = 198
- Q₇ = 2×198 + 82 = 478
- Q₈ = 2×478 + 198 = 1154
ペル・リュカ数列:
2, 2, 6, 14, 34, 82, 198, 478, 1154, 2786, …
√2の近似における役割
√2の近似分数の分子は、実はペル・リュカ数の半分です:
分子 = Qₙ/2 = Pₙ₋₁ + Pₙ
| n | Qₙ/2 | Pₙ | 分数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 2/2 = 1 | 1 | 1/1 |
| 2 | 6/2 = 3 | 2 | 3/2 |
| 3 | 14/2 = 7 | 5 | 7/5 |
| 4 | 34/2 = 17 | 12 | 17/12 |
| 5 | 82/2 = 41 | 29 | 41/29 |
ペル数列の重要な性質
ペル数列には、多くの興味深い性質があります。
1. カッシーニの恒等式(Cassini’s identity)
Pₙ₊₁·Pₙ₋₁ – Pₙ² = (-1)ⁿ
例(n=3):
P₄·P₂ – P₃² = 12×2 – 5² = 24 – 25 = -1 = (-1)³ ✓
2. 行列表現
ペル数列は次の行列のべき乗で表されます:
[Pₙ₊₁ Pₙ ] [2 1]ⁿ
[Pₙ Pₙ₋₁] = [1 0]
3. 倍数公式
P₂ₙ = Pₙ·Qₙ
つまり、偶数番目のペル数は、対応するペル数とペル・リュカ数の積で表されます。
4. 和の公式
P₀ + P₁ + P₂ + … + Pₙ = (Pₙ₊₁ + Pₙ – 1) / 2
Newman-Shanks-Williams(NSW)数
ペル数列から派生する重要な数列として、NSW数があります。
定義
NSW数は次のように定義されます:
NWSₙ = P₂ₙ + P₂ₙ₊₁
または等価的に、連続するペル数の和の平方根として:
√(P₀ + P₁ + P₂ + … + P₂ₙ₊₁) = NWSₙ
最初の数項
- NWS₀ = P₀ + P₁ = 0 + 1 = 1
- NWS₁ = P₂ + P₃ = 2 + 5 = 7
- NWS₂ = P₄ + P₅ = 12 + 29 = 41
- NWS₃ = P₆ + P₇ = 70 + 169 = 239
- NWS₄ = P₈ + P₉ = 408 + 985 = 1393
NSW数列:
1, 7, 41, 239, 1393, 8119, 47321, …
性質
P₀ + P₁ + P₂ + … + P₂ₙ₊₁ = (NWSₙ)²
例(n=1):
P₀ + P₁ + P₂ + P₃ = 0 + 1 + 2 + 5 = 8 ≠ 7²
正しい例(n=2):
P₀ + P₁ + P₂ + P₃ + P₄ + P₅ = 0 + 1 + 2 + 5 + 12 + 29 = 49 = 7² ✓
ペル素数
ペル数の中で素数であるものをペル素数(Pell primes)と呼びます。
最初のペル素数
- P₂ = 2(素数)
- P₃ = 5(素数)
- P₅ = 29(素数)
- P₁₁ = 5741(素数)
- P₁₃ = 33461(素数)
- P₁₇ = 1136689(素数)
- …
興味深い性質
ペル素数の添字nは、必ず素数か2のべき乗です。
つまり、Pₙが素数なら、nは素数または2, 4, 8, 16, …のいずれかです。
ただし、逆は成り立ちません(nが素数でもPₙが素数とは限らない)。
ピタゴラス数との関係
ペル数列を使って、特殊なピタゴラス数(a² + b² = c²を満たす整数の組)が生成できます。
直角二等辺三角形に近い三角形
ペル数列から、辺の長さが1だけ違うピタゴラス数が得られます:
公式:
- a = 2P₂ₙ₊₁の累積和
- b = a + 1
- c = P₂ₙ₊₁
より簡単な表現:
各ピタゴラス数は次の形:
(Pₙ² + 2PₙPₙ₋₁, 2Pₙ² + 2PₙPₙ₋₁ + 1, 2Pₙ² + 2PₙPₙ₋₁ + 2Pₙ)
具体例
| n | a | b | c | 検証 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 3 | 4 | 5 | 3² + 4² = 9 + 16 = 25 = 5² ✓ |
| 2 | 20 | 21 | 29 | 20² + 21² = 400 + 441 = 841 = 29² ✓ |
| 3 | 119 | 120 | 169 | 119² + 120² = 14161 + 14400 = 28561 = 169² ✓ |
| 4 | 696 | 697 | 985 | |
| 5 | 4059 | 4060 | 5741 |
これらは「ほぼ直角二等辺三角形」を表しています。
ペル数列の応用
ペル数列は、理論だけでなく実用的な場面でも使われます。
1. 数値計算
√2の高精度な近似が必要な場合、ペル数列の近似分数が非常に効率的です。
2. 組み合わせ論
Pₙは、1×2のタイルで2×nの長方形を埋める方法の数に等しいことが知られています。
3. グラフ理論
特定のグラフ構造の数え上げ問題で、ペル数列が現れます。
4. アルゴリズム
特定のアルゴリズムの計算量解析で、ペル数列が自然に現れることがあります。
よくある質問(FAQ)
Q1: ペル数列とフィボナッチ数列の違いは?
A: 両方とも漸化式で定義される数列ですが、フィボナッチ数列はFₙ = Fₙ₋₁ + Fₙ₋₂、ペル数列はPₙ = 2Pₙ₋₁ + Pₙ₋₂です。フィボナッチ数列が黄金比(約1.618)に関連するのに対し、ペル数列は白銀比(約2.414)に関連します。
Q2: なぜペル数列は√2の近似に使えるのですか?
A: √2の連分数展開√2 = [1; 2, 2, 2, …]の近似分数を計算すると、自然にペル数列が現れます。これは、ペル方程式x² – 2y² = ±1の解がペル数列で表されることと関係しています。
Q3: ペル方程式の名前の由来は?
A: オイラーがこの方程式を研究したのがジョン・ペルだと誤解したためです。実際には、インドのバースカラ2世やイギリスのブラウンカーが主要な貢献者でした。
Q4: 白銀比とは何ですか?
A: 白銀比δ = 1 + √2 ≈ 2.414は、δ² = 2δ + 1を満たす比率です。黄金比が美術や建築で重要なように、白銀比も一部の文化(特に日本建築)で重要視されています。
Q5: すべてのペル数は整数ですか?
A: はい。漸化式Pₙ = 2Pₙ₋₁ + Pₙ₋₂で、P₀ = 0, P₁ = 1(どちらも整数)から始まるので、すべてのペル数は整数です。
Q6: ペル素数はどれくらいありますか?
A: 無限にあると予想されていますが、証明されていません。これはフィボナッチ素数と同様の未解決問題です。
Q7: ペル数列の一般項を直接計算できますか?
A: はい、ビネの公式で計算できます: Pₙ = [(1 + √2)ⁿ – (1 – √2)ⁿ] / (2√2)。ただし、nが大きいと浮動小数点誤差に注意が必要です。
まとめ
ペル数列は、一見するとフィボナッチ数列の亜種のように思えますが、実は独自の重要性を持つ数列です。
この記事の要点:
- ペル数列はPₙ = 2Pₙ₋₁ + Pₙ₋₂で定義される
- 数列: 0, 1, 2, 5, 12, 29, 70, 169, 408, 985, …
- √2の最良有理近似を与える(分母がペル数)
- ペル方程式x² – 2y² = ±1の解に直接関係する
- 隣接項の比は白銀比(1 + √2)に収束する
- ペル・リュカ数と合わせて√2の近似分数を構成
- Newman-Shanks-Williams数など派生数列がある
- ピタゴラス数の特殊な族を生成できる
- 組み合わせ論やグラフ理論にも応用がある
ペル数列は、古代から知られながらも、現代数学でも研究が続けられている魅力的なテーマです。
フィボナッチ数列が黄金比と自然界の螺旋構造に結びつくように、ペル数列は白銀比と数論の深い構造に結びついています。
この基礎知識を身につけることで、数論や連分数論のより高度なトピックへの理解が深まるでしょう!


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