ギリシャ神話の天地創造、北欧神話のラグナロク、日本神話のイザナギとイザナミ——世界各地に伝わる神話を読んでいると、「あれ?この話、どこかで聞いたことがある」と感じたことはありませんか?
実は、世界中の神話には驚くほど共通したパターンが存在するんです。何万キロも離れた文化圏で、なぜ似たような物語が語り継がれてきたのでしょうか。
19世紀以降、神話学者たちはこの謎に取り組み、神話を「型」として分類する研究を進めてきました。比較神話学と呼ばれるこの学問は、異なる文化の神話を比較して普遍的なテーマや構造を見出そうとする試みです。
この記事では、世界の神話に共通する「神話の型(類型)」について、わかりやすく網羅的に解説します。
神話の型(類型)とは?

比較神話学の発展
神話の型とは、世界各地の神話に共通して見られるストーリーパターンや構造のことです。
比較神話学という学問分野では、異なる文化圏の神話を比較研究し、そこに現れる普遍的なテーマを探求してきました。この学問が本格的に発展したのは19世紀のこと。言語学者たちがインド・ヨーロッパ語族という言語の共通祖先を発見したことをきっかけに、神話にも共通の起源があるのではないかという仮説が生まれたんです。
なぜ世界中の神話は似ているのか
世界中の神話が似ている理由については、主に2つの説があります。
伝播説は、ある地域で生まれた神話が人類の移動とともに世界各地に広まり、それぞれの土地で変化しながら定着したという考え方。人類がアフリカから世界中に広がったように、神話もまた口伝によって伝わっていったとする説です。
普遍発生説は、人類が共通の心理構造を持っているため、似たような環境や問題に直面したとき、自然と似た物語を生み出すという考え方。
心理学者カール・ユングの「集合的無意識」という概念がこの説の理論的基盤となっています。
現代の研究者の多くは、この両方の要素が絡み合っていると考えています。
神話の型を知る意義
神話の型を理解することには、いくつかの意義があります。
まず、異なる文化への理解が深まります。一見バラバラに見える世界の神話が、実は共通の問いに対する答えだとわかると、人類の普遍的な精神構造が見えてきます。
また、現代の創作にも大きな影響を与えています。映画『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』、ゲームの『ゼルダの伝説』など、現代のエンターテイメント作品の多くが神話の型を土台にしているんです。
主要な神話の型一覧
神話の型は、大きく分けて以下のカテゴリーに分類できます。
| 分類 | 主な型 | 概要 |
|---|---|---|
| 宇宙・世界の起源 | 創世神話、神統記 | 世界や神々の誕生を語る |
| 人類の起源 | 人類創造神話 | 人間がどこから来たかを語る |
| 破壊と再生 | 洪水神話、終末神話 | 世界の終わりと新生を語る |
| 英雄の物語 | 英雄神話 | 主人公の冒険と成長を語る |
| 原因と説明 | 起源譚、道徳神話 | 物事の由来や教訓を語る |
| 特殊なモチーフ | 異界訪問、変身など | 特定のテーマを扱う |
それでは、それぞれの型について詳しく見ていきましょう。
創世神話(宇宙創造神話)
創世神話とは
創世神話は、世界や宇宙がどのように始まったかを語る神話です。英語では「cosmogonic myth」または「creation myth」と呼ばれます。
ほぼすべての文化に創世神話が存在し、その多くは「混沌から秩序へ」「無から有へ」という共通のテーマを持っています。これは人類が「自分たちはどこから来たのか」という根源的な問いに答えようとした結果なんですね。
創世神話の主要な型
創世神話は、世界の創造方法によっていくつかの型に分類されます。
宇宙卵型(卵生型)
世界が巨大な卵から生まれたという型です。
卵が割れて、その殻が天と地になり、黄身が太陽になる——といった物語が典型的。東南アジアに多く見られますが、フィンランドの『カレワラ』や古代ギリシャのオルペウス教の神話にも登場します。
代表例
- 中国神話の盤古(ばんこ):混沌の中で眠っていた盤古が目覚め、卵を割って天地を分けた
- フィンランドの『カレワラ』:水鳥が原初の海に卵を産み、その卵から世界が生まれた
- ヒンドゥー教のブラフマンダ:宇宙卵(ブラフマンダ)から創造神ブラフマーが生まれた
潜水型(ダイバー型・泥潜り型)
最初に水だけの世界があり、神や動物が水底に潜って泥を取り、その泥から大地を作るという型です。
ユーラシア北部から北アメリカにかけて広く分布しています。善悪二元論の影響を受けた神話が多いのも特徴。
代表例
- 北アメリカ先住民の神話:ビーバーやカメが水底に潜り、泥を持ち帰って大地を作った
- シベリアの神話:最高神と悪魔が協力して泥から世界を作った
- イロコイ族の神話:天から落ちた女神のために、動物たちが泥を集めて亀の甲羅の上に大地を作った
巨人死体型(原初巨人型)
原初の巨人や神が殺され、その死体から世界が形成されるという型です。
この型は世界の広い範囲に分布しており、生命が犠牲によって生まれるという思想を反映しています。
代表例
- 北欧神話のユミル:原初の巨人ユミルの肉体から大地が、血から海が、骨から山が作られた
- 中国神話の盤古:盤古が死ぬと、その体が山川草木に変わった
- インド神話のプルシャ:原人プルシャの体から世界と四つの階級(ヴァルナ)が生まれた
- バビロニア神話のティアマト:マルドゥクに殺された女神ティアマトの体から天と地が作られた
世界両親型(神生み型)
男女の神(天父と地母など)が結ばれ、その間から世界や神々が生まれるという型です。
日本神話のイザナギ・イザナミがこの典型。アジアでは近親相姦を戒める筋書きになることも多いです。
代表例
- 日本神話:イザナギとイザナミが「国生み」「神生み」を行い、日本列島と神々を生んだ
- ギリシャ神話:大地ガイアと天空ウラノスから、ティターン神族が生まれた
- エジプト神話:大地神ゲブと天空女神ヌトから、オシリスやイシスが生まれた
- マオリ神話:天父ランギと地母パパが抱き合っていたところを、子どもたちが引き離して天地が分かれた
言葉による創造型(創造神型)
至高の創造神が言葉や意志の力で世界を作り出すという型です。
一神教的な性格が強く、創造神が全知全能であることが強調されます。
代表例
- 旧約聖書の創世記:「光あれ」という神の言葉で世界が創造された
- エジプト神話のプタハ神:心に思い浮かべたことを言葉にして世界を創造した
- マオリ神話のイオ:最高神イオが言葉によって光と闇を分けた
進化型(系図型)
特定の創造者がおらず、混沌や原初の状態から世界が自然に発展・進化していくという型です。
代表例
- 日本神話の天地開闢:混沌から自然に神々が成り出てきた(独化神の出現)
- ギリシャ神話:カオスから自然発生的にガイア、タルタロス、エロスが現れた
- 道教の宇宙論:太極から陰陽が生まれ、万物が生成された
神統記(神々の起源神話)

神統記とは
神統記(テオゴニー)は、神々の誕生と系譜を語る神話です。世界の創造とともに語られることが多く、創世神話と重なる部分もあります。
「テオゴニー」という言葉は、古代ギリシャの詩人ヘシオドスの作品名に由来しています。この作品は、カオスからオリュンポスの神々に至るまでの神々の系譜を詳細に記録した叙事詩なんです。
神統記の特徴
神統記には、いくつかの共通パターンがあります。
世代交代と権力闘争が頻繁に描かれます。若い世代の神が古い世代の神を倒して権力を奪う——これはギリシャ神話でも、メソポタミア神話でも、日本神話でも見られるパターンです。
また、神々の役割分担も重要なテーマ。天空神、地母神、海神、冥界神など、それぞれの神が宇宙の特定の領域を支配するようになる過程が語られます。
代表例
- ギリシャ神話のヘシオドス『神統記』:カオスからガイア、ウラノス、クロノス、ゼウスへと続く神々の系譜と権力闘争
- 日本神話:天之御中主神から始まる神々の系譜、イザナギ・イザナミによる神生み
- エジプト神話:創造神アトゥムからシュー、テフヌト、ゲブ、ヌトへと続く九柱神(エネアド)
- メソポタミア神話『エヌマ・エリシュ』:アプスーとティアマトから始まり、マルドゥクが最高神となるまでの神々の物語
人類起源神話
人類起源神話とは
人類起源神話は、人間がどのように誕生したかを語る神話です。「私たちはどこから来たのか」という問いに対する、古代人なりの回答といえるでしょう。
人類の創造方法は文化によってさまざまですが、いくつかの共通パターンがあります。
人類起源神話の主要な型
土・泥からの創造
神が土や泥をこねて人間の形を作り、そこに命を吹き込むという型です。世界で最も広く分布するパターンの一つ。
代表例
- 旧約聖書:神がアダムを土(アダマ)から創り、命の息を吹き込んだ
- メソポタミア神話:神々が粘土と神の血を混ぜて人間を作った
- エジプト神話:クヌム神が轆轤(ろくろ)で人間を土から作った
- ギリシャ神話:プロメテウスが泥から人間を作った
植物からの誕生
人間が特定の植物から生まれたとする型です。農耕民族に多く見られます。
代表例
- マヤ神話『ポポル・ヴフ』:神々がトウモロコシの粉から人間を作った(何度か失敗した後に成功)
- 北欧神話:オーディンたちがトネリコの木から男性アスク、ニレの木から女性エンブラを作った
- フィリピンの神話:竹の節から最初の男女が生まれた
地中からの出現
人間がもともと地下世界にいて、そこから地上に現れたとする型です。北アメリカ先住民に多く見られます。
代表例
- ホピ族の神話:人間は地下の四つの世界を経て現在の世界に出てきた
- ナバホ族の神話:人間は地下世界から段階的に地上へ上昇してきた
- ズニ族の神話:人間は地下の暗い世界から光の世界へと導かれた
天からの降臨
人間(または人類の祖先)が天界から地上に降りてきたとする型です。
代表例
- 日本神話:天照大御神の孫ニニギが天孫降臨し、その子孫から天皇家が生まれた
- チベット神話:最初の王が天から降りてきた
- インカ神話:太陽神インティの子マンコ・カパックが天から降りてインカ帝国を建てた
動物の子孫
人間が特定の動物から進化・変化したとする型です。トーテミズム(特定の動物を祖先とする信仰)と関連しています。
代表例
- 北アメリカ先住民の多くの部族:各部族が特定の動物(ワタリガラス、コヨーテ、熊など)を祖先とする
- 日本の各地の伝承:特定の動物を先祖とする家系の伝説
- オーストラリア先住民:ドリームタイムの動物の祖先から人間が生まれた
洪水神話
洪水神話とは
洪水神話は、かつて大洪水によって世界が滅び、少数の生存者から人類が再出発したという物語です。
驚くべきことに、この型の神話は世界中で200以上の文化に存在すると言われています。地理的にも時代的にも全く関係のない文化圏で、なぜこれほど似た神話が生まれたのかは、神話学最大の謎の一つなんです。
洪水神話の共通要素
世界中の洪水神話には、以下のような共通要素がよく見られます。
- 神による審判:人類の堕落や罪に怒った神が洪水を起こす
- 選ばれた生存者:信仰深い人物や一家族が事前に警告を受ける
- 船(方舟)での脱出:生存者は船を作り、動物とともに乗り込む
- 山への到着:洪水が引いた後、船は山の頂に漂着する
- 鳥の派遣:陸地を探すために鳥を放つ
- 犠牲と契約:生存者が神に感謝の犠牲を捧げ、新たな契約が結ばれる
- 人類の再出発:生存者から新しい人類が繁栄する
世界の洪水神話
メソポタミアの洪水神話
最古の洪水神話記録は、紀元前2千年紀のメソポタミアに遡ります。
『ギルガメシュ叙事詩』に登場するウトナピシュティムの物語や、『アトラハシス叙事詩』が有名です。神々が人間の騒音に耐えかねて洪水を起こし、知恵の神エンキ(エア)に警告された一人の人間だけが船で生き延びた——という筋書きは、後の多くの洪水神話の原型となりました。
旧約聖書のノアの方舟
最もよく知られた洪水神話でしょう。メソポタミアの洪水神話との類似点が多く、影響関係が指摘されています。ノアは神の命令で方舟を作り、家族と動物のつがいを乗せて大洪水を生き延びました。洪水後、神は虹を契約のしるしとして示したとされています。
ギリシャ神話のデウカリオン
ゼウスが青銅時代の人類を滅ぼすために洪水を起こした際、プロメテウスの息子デウカリオンと妻ピュラだけが箱舟で生き延びました。洪水後、二人は石を投げて新しい人類を作り出したと伝えられています。
インド神話のマヌ
人類の祖マヌが小さな魚を助けたところ、その魚が大きくなり、やがて来る大洪水を予言して船を作るよう警告しました。マヌは船で洪水を生き延び、その魚(ヴィシュヌ神の化身)に導かれて山に到着したとされています。
中国神話の大禹(だいう)
中国には世界を滅ぼす洪水神話はありませんが、大洪水と治水の物語があります。伝説の王・禹は、父親の失敗を教訓に、水を堰き止めるのではなく流路を整えることで洪水を治めました。この功績により、禹は夏王朝の初代王となったとされています。
日本神話と洪水
興味深いことに、日本神話には典型的な洪水神話がほとんど見られません。これは日本が島国であり、洪水による全滅という概念が馴染まなかったからではないかとも言われています。ただし、海幸彦・山幸彦の物語には、海の支配による洪水的な要素が含まれています。
南北アメリカの洪水神話
アメリカ大陸にも多くの洪水神話があります。アステカ神話では、第四の太陽の時代が大洪水で終わり、人々は魚に変わったとされています。北アメリカ先住民の多くの部族にも、動物と人間が船で洪水を生き延びる物語が伝わっています。
なぜ洪水神話は普遍的なのか
洪水神話がこれほど広く分布する理由については、いくつかの説があります。
実際の洪水の記憶説は、氷河期の終わり(約1万年前)に起きた海面上昇や、各地の大規模洪水の記憶が神話化されたとする説です。実際、黒海やペルシャ湾などでは、数千年前に大規模な浸水があったことが地質学的に確認されています。
象徴的解釈説は、洪水を「浄化」と「再生」の象徴として捉える説です。古い世界の罪を洗い流し、新しい世界が始まる——この再生のテーマは、世界中の文化に共通する関心事だったのかもしれません。
終末神話(終末論的神話)
終末神話とは
終末神話(エスカトロジー)は、現在の世界がいつか終わりを迎えることを語る神話です。洪水神話が「過去の破壊と再生」を語るのに対し、終末神話は「未来の破壊と再生」を語ります。
終末神話には、世界が完全に終わる「直線的終末観」と、世界が周期的に滅びては再生する「循環的終末観」があります。
主要な終末神話
北欧神話のラグナロク
北欧神話の終末は「ラグナロク」(神々の黄昏)と呼ばれます。
巨大な狼フェンリルが解き放たれ、炎の巨人スルトが虹の橋ビフレストを渡って神々の世界に攻め込みます。オーディンはフェンリルに呑み込まれ、トールは大蛇ヨルムンガンドと相打ちになり、ほとんどの神々と人間が滅びます。しかし、一部の神と人間が生き残り、新しい世界が始まるとされています。
ゾロアスター教の終末
善悪二元論で知られるゾロアスター教には、明確な終末論があります。最後の審判で善神アフラ・マズダが悪神アンリ・マンユに勝利し、死者が復活して永遠の楽園が訪れるとされています。この終末観は、後のユダヤ教、キリスト教、イスラム教の終末論に影響を与えました。
キリスト教の黙示録
新約聖書の『ヨハネの黙示録』には、世界の終末が詳細に描かれています。七つの封印、七人のラッパ手、獣の出現、ハルマゲドンの最終戦争、キリストの再臨、最後の審判——これらのイメージは西洋文化に深い影響を与えてきました。
ヒンドゥー教のユガ(世界周期)
ヒンドゥー教では、世界は四つの時代(ユガ)を周期的に繰り返すと考えられています。現在は最も退廃した「カリ・ユガ」であり、この時代が終わるとヴィシュヌ神の化身カルキが現れて悪を滅ぼし、新たな黄金時代が始まるとされています。
マヤ神話の五つの太陽
マヤ・アステカ神話では、現在の世界は「五番目の太陽」の時代とされています。過去の四つの世界は、それぞれ異なる方法(ジャガー、風、火の雨、洪水)で滅びました。五番目の太陽の時代も、地震によって終わると予言されています(2012年の「マヤ終末予言」騒動の背景にあった神話です)。
英雄神話(ヒーローズ・ジャーニー)
英雄神話とは
英雄神話は、主人公が冒険に旅立ち、試練を乗り越えて成長し、帰還する物語です。世界中の神話や民話に見られる普遍的なパターンで、現代のエンターテイメント作品にも多大な影響を与えています。
ジョセフ・キャンベルのモノミス
アメリカの神話学者ジョセフ・キャンベル(1904-1987)は、1949年に出版した著書『千の顔を持つ英雄』で「モノミス(単一神話)」という概念を提唱しました。
キャンベルは世界中の神話を比較研究し、英雄の物語には共通の構造があることを発見したんです。彼はこれを「英雄の旅」(ヒーローズ・ジャーニー)と名付けました。
英雄の旅の基本構造
キャンベルが提唱した英雄の旅は、大きく三つの段階に分けられます。
第一段階:出発(セパレーション)
英雄は日常世界で暮らしていますが、あるきっかけで冒険への「召命」を受けます。最初は「召命の拒否」をすることも多いですが、やがて「賢者との出会い」があり、「最初の境界」を越えて未知の世界へ旅立ちます。
第二段階:イニシエーション(通過儀礼)
未知の世界で、英雄は「試練の道」を歩みます。仲間や敵との出会い、さまざまな困難を乗り越え、「最大の試練」に直面します。これを克服することで、英雄は「報酬」(宝物、知恵、力など)を手に入れます。
第三段階:帰還(リターン)
英雄は得た報酬を持って日常世界に帰ります。「帰還の拒否」や「魔法の逃走」といった困難があることもありますが、最終的には「二つの世界の支配者」として、両方の世界を行き来できる存在となります。
17段階の詳細
キャンベルは英雄の旅を17の段階に細分化しています。すべての物語がこれらすべてを含むわけではありませんが、多くの英雄神話に共通して見られる要素です。
- 日常世界
- 冒険への召命
- 召命の拒否
- 超自然的な助力者との出会い
- 最初の境界を越える
- 鯨の腹(試練の世界への突入)
- 試練の道
- 女神との出会い
- 誘惑者としての女性
- 父との一体化
- 神格化
- 究極の恵みの獲得
- 帰還の拒否
- 魔法の逃走
- 外からの救出
- 帰還の境界を越える
- 二つの世界の支配者
世界の英雄神話の例
ギルガメシュ(メソポタミア)
世界最古の英雄叙事詩の主人公。友エンキドゥとともに冒険し、彼の死を経験して不死を求める旅に出ます。最終的には不死を得られませんでしたが、王として成長して帰還しました。
ヘラクレス(ギリシャ)
ゼウスの息子であるヘラクレスは、狂気によって家族を殺した罪を償うため「十二の功業」に挑みます。獅子退治から地獄の番犬ケルベロスの捕獲まで、数々の不可能な試練を乗り越えました。
テセウス(ギリシャ)
クレタ島の迷宮でミノタウロスを退治した英雄。アリアドネの糸の助けを借り、迷宮から脱出しました。
ペルセウス(ギリシャ)
メドゥーサ退治で知られる英雄。神々からの贈り物(翼のあるサンダル、姿を消す帽子、反射する盾)を使って怪物を倒し、帰路でアンドロメダを救出しました。
ヤマトタケル(日本)
『古事記』『日本書紀』に登場する伝説の英雄。東征・西征で数々の敵を倒しましたが、最後は伊吹山の神に敗れ、白い鳥となって飛び去りました。
クー・フーリン(ケルト)
アイルランド神話最大の英雄。少年時代に猛犬を倒して「クランの猛犬」の名を得、数々の戦いで超人的な活躍をしました。
現代への影響
キャンベルの「英雄の旅」は、現代のエンターテイメントに絶大な影響を与えています。
映画監督ジョージ・ルーカスは『スター・ウォーズ』の脚本を書く際にキャンベルの著作を参考にしたと公言しています。ルーク・スカイウォーカーの物語は、まさに英雄の旅の構造に従っているんです。
ディズニーのスタジオ・エグゼクティブだったクリストファー・ヴォグラーは、キャンベルの理論を12段階に簡略化した『神話の法則』を著し、ハリウッド映画の脚本術に革命をもたらしました。『ライオン・キング』『アラジン』『モアナ』など、多くのディズニー作品がこの構造を採用しています。
ゲームの世界でも、『ゼルダの伝説』シリーズのリンクや、『ファイナルファンタジー』シリーズの主人公たちは、英雄の旅のパターンに沿った冒険をします。
起源譚(原因譚・由来譚)
起源譚とは
起源譚は、特定の事象がなぜそうなっているのかを説明する神話です。英語では「etiological myth」(エティオロジカル・ミス)と呼ばれ、「原因の神話」とも訳されます。
起源譚は大きく三つの種類に分けられます。
自然起源譚
自然現象の原因を説明する神話です。
代表例
- 雷と稲妻の説明:ゼウスが怒って稲妻を投げる(ギリシャ)、雷神トールがハンマーを振るう(北欧)
- 季節の変化の説明:ペルセポネが冥界にいる間は冬、地上に戻ると春が来る(ギリシャ)
- 虹の説明:神と人間の契約のしるし(旧約聖書)、神々の世界への橋ビフレスト(北欧)
- 地震の説明:大地を支える巨人や動物が動く、または地下の神が怒る
語源神話
言葉や名前の由来を説明する神話です。
代表例
- アフロディーテ:「アフロス(泡)」から生まれたので「アフロディーテ」
- エコー:ナルキッソスへの片思いで体が消え、声だけが残った妖精「エコー」
- ヒヤシンス:アポロンに愛され死んだ少年ヒュアキントスの血から咲いた花
宗教儀礼起源譚
祭りや儀式の由来を説明する神話です。
代表例
- エレウシスの秘儀:デメテルがペルセポネを探してエレウシスを訪れたことに由来
- オリンピア競技:ヘラクレスがゼウスを讃えて始めた
- 新嘗祭(日本):天照大御神が稲穂を地上に送ったことに由来
道徳神話(善悪の起源神話)
道徳神話とは
道徳神話は、善と悪の存在理由や、人間の道徳的な行動の起源を説明する神話です。「なぜ世界には苦しみがあるのか」「なぜ人間は罪を犯すのか」という問いに答えようとします。
主要な道徳神話
パンドラの箱(ギリシャ)
プロメテウスが人間に火を与えた報復として、ゼウスは最初の女性パンドラを地上に送りました。パンドラが禁じられた箱を開けると、病気、苦痛、悲しみなどあらゆる災いが飛び出しました。箱の底には「希望」だけが残されたとされています。
アダムとイブの楽園追放(旧約聖書)
最初の人間アダムとイブは、エデンの園で幸せに暮らしていましたが、蛇にそそのかされて禁断の木の実を食べてしまいます。これにより人間は楽園を追放され、労働、苦痛、死という罰を受けることになりました。
日本神話の死の起源
イザナミが火の神を産んで死んだ後、イザナギは黄泉の国へ妻を取り戻しに行きます。しかし約束を破って妻の姿を見てしまい、怒ったイザナミは「毎日千人を殺す」と宣言。イザナギは「ならば毎日千五百人を生まれさせる」と返答しました。これが人間に寿命が生まれた理由とされています。
バナナ型神話(東南アジア・オセアニア)
神が人間に「石とバナナ、どちらを選ぶか」と問いました。人間がおいしいバナナを選んだため、バナナのように短命になってしまった——という話です。「石のように長く生きる代わりに、バナナのように子孫を残す」という人間の運命を説明しています。
その他の重要な神話類型
異界訪問神話(冥界下り)
主人公が冥界や異界を訪れ、そこでの経験を経て帰還する神話です。
代表例
- オルフェウスの冥界下り(ギリシャ):死んだ妻エウリュディケを取り戻すために冥界へ
- イザナギの黄泉訪問(日本):死んだ妻イザナミを連れ戻すために黄泉の国へ
- イナンナの冥界下り(シュメール):女神イナンナが姉の支配する冥界を訪れる
トリックスター神話
いたずら者で、既存の秩序を破壊しつつも文化的な恩恵をもたらす存在の神話です。
代表例
- ロキ(北欧):神々を助けることも害することもある両義的な存在
- コヨーテ(北アメリカ先住民):いたずらをしながら人間に火や知恵をもたらす
- アナンシ(西アフリカ):蜘蛛の姿をした知恵者で詐欺師
- スサノオ(日本):乱暴者でありながら、ヤマタノオロチを退治した英雄でもある
見るなのタブー
「見てはいけない」という禁忌を破って悲劇が起こる神話です。
代表例
- イザナギとイザナミ(日本):妻の姿を見てはいけないという禁忌を破った
- オルフェウスとエウリュディケ(ギリシャ):振り返ってはいけないという禁忌を破った
- 鶴の恩返し(日本民話):機を織る姿を見てはいけないという禁忌を破った
- ロトの妻(旧約聖書):ソドムを振り返って見たため塩の柱になった
ハイヌウェレ型神話
殺された存在の死体から作物が生まれるという神話です。民俗学者アドルフ・イェンゼンが、インドネシアの神話にちなんで命名しました。
代表例
- ハイヌウェレ(インドネシア・セラム島):殺された少女の体から様々な作物が生まれた
- オオゲツヒメ(日本):スサノオに殺された女神の体から五穀が生まれた
- ウケモチ(日本):ツクヨミに殺された女神の体から穀物が生まれた
羽衣伝説(白鳥処女型)
天から降りてきた女性(多くは白鳥や天女の姿)が、羽衣を隠されて人間の妻となる神話です。世界中に類似の話が存在します。
代表例
- 羽衣伝説(日本各地):天女が羽衣を隠され、漁師の妻となる
- 白鳥の乙女(ヨーロッパ各地):白鳥の姿の女性が人間と結婚する
- 七夕伝説(中国・日本):織姫と彦星の物語
末子成功譚
末っ子(最年少の子供)が兄姉を出し抜いて成功する神話です。
代表例
- ゼウス(ギリシャ):末っ子でありながら兄弟を救い、神々の王となった
- ヤコブ(旧約聖書):兄エサウから長子の権利を奪い、イスラエルの祖となった
- 桃太郎(日本):異常出生した末子的存在が鬼退治を成し遂げる
神話の型と現代文化
映画・ドラマへの影響
神話の型は、現代の映画やドラマに深い影響を与えています。
スター・ウォーズは、ジョセフ・キャンベルの「英雄の旅」を意識的に取り入れた代表作です。ルーク・スカイウォーカーの物語は、召命から帰還まで、モノミスのほぼすべての要素を含んでいます。
ロード・オブ・ザ・リングも同様に、英雄の旅の構造を持っています。フロドの旅は、日常世界(ホビット庄)から始まり、試練の道を経て、最終的に帰還します。
マトリックスは、「選ばれし者」ネオの覚醒と成長を描き、現代版の英雄神話として解釈できます。
アニメ・漫画への影響
日本のアニメ・漫画も、神話の型を多く取り入れています。
ドラゴンボールの悟空は、典型的な英雄の旅を辿ります。異常出生(宇宙からの到来)、成長と試練、死と復活、そして最終的な覚醒。
千と千尋の神隠しは、異界訪問と帰還の神話構造を持っています。千尋は神々の世界で試練を乗り越え、成長して日常世界に戻ります。
ワンピースのルフィも、「冒険への召命」「仲間との出会い」「試練」という英雄の旅の構造に従っています。
ゲームへの影響
ビデオゲームも神話の型を活用しています。
ゼルダの伝説シリーズのリンクは、まさに英雄の原型です。平和な村から旅立ち、賢者の導きを受け、数々のダンジョン(試練)を乗り越え、最終的に悪を倒して姫を救います。
ファイナルファンタジーシリーズも、創世神話や終末神話、英雄の旅といった神話的要素を多く含んでいます。
ゴッド・オブ・ウォーシリーズは、ギリシャ神話や北欧神話を直接的に取り入れ、既存の神話を新たな視点で再解釈しています。
神話の型一覧表
以下に、主要な神話の型を一覧でまとめます。
| 型の名称 | 説明 | 代表例 |
|---|---|---|
| 創世神話 | ||
| 宇宙卵型 | 卵から世界が生まれる | 盤古、カレワラ |
| 潜水型 | 水底の泥から大地を作る | 北アメリカ先住民 |
| 巨人死体型 | 巨人の体から世界ができる | ユミル、プルシャ |
| 世界両親型 | 神の夫婦から世界が生まれる | イザナギ・イザナミ |
| 言葉創造型 | 神の言葉で世界が生まれる | 創世記 |
| 進化型 | 混沌から自然に発展 | 日本の天地開闢 |
| 神統記 | 神々の誕生と系譜 | ヘシオドス『神統記』 |
| 人類起源 | ||
| 土からの創造 | 土・泥から人間を作る | アダム、プロメテウス |
| 植物からの誕生 | 植物から人間が生まれる | マヤのトウモロコシ |
| 地中からの出現 | 地下から人間が現れる | ホピ族 |
| 天からの降臨 | 天界から人間が降りる | 天孫降臨 |
| 洪水神話 | 大洪水で世界が滅び再生 | ノア、デウカリオン |
| 終末神話 | 世界の終わりと再生 | ラグナロク、黙示録 |
| 英雄神話 | 英雄の冒険と成長 | ギルガメシュ、ヘラクレス |
| 起源譚 | 事象の由来を説明 | 季節の起源、言葉の起源 |
| 道徳神話 | 善悪の起源を説明 | パンドラ、アダムとイブ |
| 異界訪問 | 冥界・異界を訪問 | オルフェウス、イザナギ |
| トリックスター | いたずら者の活躍 | ロキ、コヨーテ |
| 見るなのタブー | 禁忌を破る悲劇 | 鶴の恩返し |
| ハイヌウェレ型 | 死体から作物が生まれる | オオゲツヒメ |
| 羽衣伝説 | 天女が人間の妻になる | 羽衣伝説、七夕 |
| 末子成功譚 | 末っ子が成功する | ゼウス、ヤコブ |
まとめ
神話の型(類型)は、世界中の神話に共通して見られるストーリーパターンです。
この記事のポイント
- 比較神話学は19世紀以降に発展し、異なる文化の神話を比較研究する学問
- 創世神話には宇宙卵型、潜水型、巨人死体型など複数のパターンがある
- 洪水神話は200以上の文化に存在し、「浄化と再生」を象徴する
- 英雄神話はキャンベルの「モノミス」として体系化され、現代作品に影響を与えている
- 起源譚、道徳神話、トリックスター神話など、多様な神話類型が存在する
- これらの型は現代の映画、アニメ、ゲームに活用されている
神話の型を知ることは、単に古い物語を理解するだけでなく、人類が共有する普遍的な関心事や心理構造を知ることでもあります。「自分たちはどこから来たのか」「なぜ苦しみがあるのか」「どうすれば困難を乗り越えられるのか」——こうした問いに、世界中の人々が神話という形で答えてきたんですね。
次に映画や小説、ゲームを楽しむとき、ぜひ「この物語はどの神話の型に当てはまるだろう」という視点で見てみてください。きっと新しい発見があるはずです。


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