「坂道を登る時に、どのくらいエネルギーを使うんだろう?」
「曲がりくねった針金の重さは、どうやって計算するの?」
こんな疑問に答えてくれるのが、「線積分」という数学の手法です。
普通の積分は「直線」に沿って計算しますが、線積分は「曲線」に沿って計算できるんですね。物理学や工学では、力の仕事や電場・磁場の計算など、あらゆる場面で線積分が使われています。
この記事では、線積分とは何か、どう計算するのか、そしてどんなところで役立っているのかを、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
線積分とは?

線積分は、曲線に沿って関数を積分する計算方法です。
普通の積分との違い
まず、高校で習う普通の積分を思い出してみましょう。
普通の積分:
- x軸上の区間[a, b]に沿って積分する
- グラフと x軸で囲まれた面積を求める
- 直線的な範囲で計算
線積分:
- 平面や空間の中の「曲線」に沿って積分する
- 曲線上の値を「足し合わせる」
- くねくねした経路でも計算できる
つまり、線積分は「普通の積分を曲線に拡張したもの」と考えることができるんです。
線積分のイメージ
わかりやすい例で説明しましょう。
例:曲がりくねった針金の質量を計算する
針金の形が複雑で、場所によって密度(ぎっしり詰まっている度合い)が違うとします。
計算の流れ:
- 針金を細かく切り分ける
- それぞれの小さな部分の質量を計算(密度 × 長さ)
- すべての部分を足し合わせる
- 細かく切る極限を取る
これが線積分の基本的な考え方なんです。
線積分の種類
線積分には、大きく分けて2つの種類があります。
1. スカラー場の線積分
スカラー場とは、空間の各点に「数値」が割り当てられている場のことです。
例:
- 温度分布(各点の温度)
- 密度分布(各点の密度)
- 高さ(地形の標高)
イメージ:
xy平面上に曲線があり、その上に「カーテン」を立てる感じです。カーテンの高さは、その場所での関数の値で決まります。線積分は、このカーテンの面積を計算することに対応しているんですね。
2. ベクトル場の線積分
ベクトル場とは、空間の各点に「矢印」(方向と大きさを持つ量)が割り当てられている場のことです。
例:
- 力の場(重力や電場)
- 流れの場(風や水の流れ)
- 磁場
イメージ:
ある経路に沿って移動する時に、そこにある力がどれだけ仕事をするかを計算する感じです。
線積分が使われる場面
線積分は、物理学や工学のさまざまな場面で活躍します。
1. 力学での仕事の計算
物理学で最も基本的な応用が、仕事(Work)の計算です。
高校物理の仕事:
W = F × d (力 × 距離)
でも、これは力が一定で、直線的に動く場合だけです。
実際の問題:
- 力が場所によって変わる
- 経路が曲がっている
こんな時に線積分が必要になるんです。
線積分を使った仕事:
曲線に沿って、「力のうち進行方向に働く成分」を足し合わせます。
例:
- 重力場の中で物体を動かす仕事
- 電場の中で電荷を動かす仕事
- ばねを引っ張る仕事
2. 針金の質量や重心の計算
曲がった針金があり、場所によって密度が違う場合。
線積分でできること:
- 針金全体の質量
- 重心(バランスが取れる点)
- 慣性モーメント(回転のしにくさ)
3. 電磁気学
電磁気学では、線積分が至る所で使われます。
アンペールの法則:
導線に電流が流れると、その周りに磁場ができます。導線の周りを一周する閉じた経路に沿って磁場を線積分すると、囲まれた電流に比例するんです。
ファラデーの電磁誘導の法則:
磁場が変化すると、その周りに電場ができます。これも閉じた経路に沿った電場の線積分で表されます。
4. 流体力学
用途:
- 流れの中を物体が動く時の抵抗
- 川や海流の影響を受けながら泳ぐ時の消費エネルギー
例えば、海で泳ぐ時、場所によって流れの強さや方向が違います。線積分を使えば、ある経路を泳ぐのに必要な総エネルギーを計算できるんですね。
5. 曲線の長さ
線積分の特殊な場合として、曲線の長さを計算することもできます。
高校数学で習う「曲線の長さの公式」も、実は線積分の一種なんです。
6. 工学での応用
電気工学:
- 2つの変電所を結ぶ電力ケーブルの長さ(地形に沿って)
- 送電線にかかる負荷の計算
機械工学:
- 複雑な形状の部品の質量や重心
- 曲がったパイプを流れる流体の計算
線積分の計算方法

実際に線積分をどう計算するか見ていきましょう。
媒介変数表示
線積分を計算するには、曲線を「媒介変数」で表すのが便利です。
媒介変数って何?
曲線上の点を、1つの変数 t を使って表す方法です。
例:円の場合
- x = cos(t)
- y = sin(t)
- 0 ≤ t ≤ 2π
この t が0から2πまで変化すると、(x, y)は円を一周します。
スカラー場の線積分の計算
基本的な手順:
- 曲線を媒介変数で表す
- x = x(t), y = y(t), z = z(t)
- 線素(微小な長さ)を計算
- ds = √[(dx/dt)² + (dy/dt)² + (dz/dt)²] dt
- 関数に媒介変数を代入
- f(x, y, z) → f(x(t), y(t), z(t))
- tについて積分
ベクトル場の線積分の計算
基本的な手順:
- 曲線を媒介変数で表す
- 接ベクトル(進む方向のベクトル)を計算
- dr/dt = (dx/dt, dy/dt, dz/dt)
- ベクトル場との内積を取る
- F・(dr/dt)
- tについて積分
具体例:直線に沿った線積分
問題:
ベクトル場 F = (x, y) の中で、原点(0, 0)から点(1, 1)まで、直線 y = x に沿って線積分する。
解き方:
- 媒介変数表示
- x = t, y = t (0 ≤ t ≤ 1)
- 接ベクトル
- dr/dt = (1, 1)
- ベクトル場に代入
- F = (t, t)
- 内積
- F・(dr/dt) = t × 1 + t × 1 = 2t
- 積分
- ∫₀¹ 2t dt = [t²]₀¹ = 1
答えは1です。
経路依存性
線積分の重要な性質として、経路依存性があります。
経路で答えが変わる?
普通の積分では、始点と終点が同じなら答えは一つに決まります。
でも線積分では、始点と終点が同じでも、通る経路が違えば答えが違うことがあるんです。
例:
原点(0, 0)から点(1, 1)まで移動する時
経路1: x軸に沿って(1, 0)まで行き、そこから y軸に平行に(1, 1)へ
経路2: 直線 y = x に沿って(1, 1)へ
経路3: y軸に沿って(0, 1)まで行き、そこから x軸に平行に(1, 1)へ
ベクトル場によっては、これらの経路で線積分の値が全部違うことがあります。
経路によらない場合もある
ベクトル場が保存場(ポテンシャルを持つ場)の場合は、経路によらず、始点と終点だけで値が決まります。
保存場の例:
- 重力場
- 静電場(時間変化しない電場)
これらの場合、エネルギー保存則が成り立つので、どんな経路を通っても仕事は同じになるんです。
周回積分(閉路積分)
周回積分とは、始点と終点が同じ閉じた曲線に沿った線積分のことです。
記号
周回積分は、特別な記号 ∮ を使って表すことがあります。
保存場での周回積分
保存場では、閉じた経路を一周する線積分は必ずゼロになります。
理由:
どこから出発しても、元の場所に戻ってくると、エネルギーの変化がないからです。
周回積分の応用
アンペールの法則(電磁気学):
∮ B・dr = μ₀I
導線の周りの磁場を一周積分すると、囲まれた電流 I に比例する
循環(Circulation):
流体の渦の強さを表す量で、周回積分で定義されます。
線積分の重要な定理

基本定理
線積分の基本定理:
ベクトル場 F がある関数 φ の勾配(ポテンシャル)で表せる時
F = ∇φ
線積分は始点と終点の φ の値の差になります:
∫ F・dr = φ(終点) – φ(始点)
これは、普通の積分の基本定理(微積分学の基本定理)の拡張版です。
グリーンの定理
平面上の閉曲線に沿った線積分と、その内部の面積分を関係づける定理です。
電磁気学や流体力学で非常に重要な役割を果たします。
ストークスの定理
グリーンの定理を3次元に拡張したもので、閉曲線に沿った線積分と、その曲線が囲む曲面上の面積分を関係づけます。
電磁気学のマクスウェル方程式を理解する上で欠かせません。
実際の計算例
もう少し具体的な例を見てみましょう。
例1:円周上の線積分
問題:
半径1の円周上で、関数 f(x, y) = x² + y² の線積分を求めよ。
解答:
- 円を媒介変数で表す
- x = cos(t), y = sin(t) (0 ≤ t ≤ 2π)
- 関数に代入
- f = cos²(t) + sin²(t) = 1(三角関数の恒等式)
- 線素を計算
- ds = √[(−sin(t))² + (cos(t))²] dt = dt
- 積分
- ∫₀^(2π) 1・dt = 2π
答えは2πです。これは円周の長さ×関数の値(=1)に一致していますね。
例2:仕事の計算
問題:
力の場 F = (y, x) の中で、原点から点(1, 1)まで、放物線 y = x² に沿って物体を動かす仕事を求めよ。
解答:
- 曲線を媒介変数で表す
- x = t, y = t² (0 ≤ t ≤ 1)
- 接ベクトル
- dr/dt = (1, 2t)
- 力の場に代入
- F = (t², t)
- 内積
- F・(dr/dt) = t² × 1 + t × 2t = t² + 2t² = 3t²
- 積分
- ∫₀¹ 3t² dt = [t³]₀¹ = 1
答えは1です。
まとめ
線積分は、曲線に沿って関数を積分する強力な数学の道具です。
覚えておきたいポイント:
- 線積分 = 曲線に沿った積分
- スカラー場とベクトル場の2種類がある
- 媒介変数表示を使って計算する
- 経路によって値が変わることがある(経路依存性)
- 保存場では経路によらない
- 周回積分(閉路積分)は始点と終点が同じ
主な応用分野:
- 力学:仕事、エネルギー
- 電磁気学:電場、磁場、誘導
- 流体力学:流れ、循環
- 工学:質量、重心、ケーブルの長さ
基本的な計算手順:
- 曲線を媒介変数で表す
- 線素または接ベクトルを計算
- 関数を代入
- 媒介変数について積分
線積分は、一見難しそうに見えますが、本質は「曲線に沿って細かく切って足し合わせる」というシンプルな考え方です。
普通の積分が「直線上で足し合わせる」のに対して、線積分は「曲線上で足し合わせる」と考えれば、その自然な拡張だとわかりますね。
物理学や工学の多くの現象は、直線的ではなく曲線的です。坂道、電線、川の流れ、惑星の軌道など、実際の世界は曲がっています。
線積分を理解することで、こうした現実の複雑な問題を数学的に扱えるようになるんです。大学の物理学や工学を学ぶ上で、線積分は避けて通れない重要な概念と言えるでしょう。


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