「黄金比は知っているけど、プラスチック数って何?」
数学には、黄金比や白銀比といった美しい比率がありますよね。
実は、それらと並ぶ魅力的な数学定数として「プラスチック数」というものがあるんです。この数は約1.32472という値を持ち、黄金比と似た性質を持っています。
建築デザインにも応用されているこの不思議な数について、数学が苦手な方にもわかるように解説していきます。
プラスチック数とは

プラスチック数は、ある特定の方程式を解いて得られる数学定数です。
定義と値
プラスチック数は、3次方程式 x³ = x + 1 の唯一の実数解として定義されます。
この方程式を解くと、以下のような値になるんです。
ρ(ロー) = 1.324717957244746025960908854…
小数点以下がどこまでも続く無理数で、ギリシャ文字の ρ(ロー)で表されることが多いですよ。
正確な表現
プラスチック数は、以下のような式で正確に表すことができます。
ρ = ³√((9 + √69)/18) + ³√((9 – √69)/18)
³√は3乗根(立方根)を意味しています。見た目は複雑ですが、きちんと計算すると上記の小数値になるんです。
「プラスチック」という名前の由来
なぜ「プラスチック」という名前なのでしょうか。
材料のプラスチックではない
この「プラスチック」は、私たちが日常的に使うプラスチック製品の材料とは関係ありません。
実は、「plastic」という英語の本来の意味は「形を作る」「形成する」「可塑性のある」という意味なんです。芸術用語の「プラスチックアート(造形芸術)」と同じ語源ですね。
命名者と命名の理由
この数は、オランダの建築家であり修道士でもあったハンス・ファン・デル・ラーン(Hans van der Laan、1904-1991)によって1928年に「プラスチック数」と名付けられました。
彼は、この数が「形を与える比率」として建築や芸術において重要な役割を果たすと考え、この名前を付けたんです。
ただし、実際にこの数を最初に発見したのは、フランスの技術者ジェラール・コルドニエ(Gérard Cordonnier)で、1924年のことでした。彼は当時17歳で、この数を「輝く数(le nombre radiant)」と呼んでいたんですよ。
黄金比との関係
プラスチック数は、よく黄金比と比較されます。
黄金比とは
黄金比(φ = 約1.618…)は、最も有名な美的比率です。
x² = x + 1 という2次方程式の解として定義され、フィボナッチ数列と深い関係があります。古代ギリシャから現代まで、芸術や建築に広く使われてきましたね。
プラスチック数と黄金比の類似点
どちらも「美しい比率」として知られています。
方程式の形が似ている
- 黄金比:x² = x + 1(2次方程式)
- プラスチック数:x³ = x + 1(3次方程式)
どちらも「x の累乗 = x + 1」という形をしているのが面白いですよね。
数列との関係
- 黄金比:フィボナッチ数列の隣接項の比の極限
- プラスチック数:パドヴァン数列やペラン数列の隣接項の比の極限
プラスチック数と黄金比の違い
黄金比は2次方程式、プラスチック数は3次方程式から得られます。
そのため、プラスチック数の方が計算が複雑なんです。また、黄金比の方が歴史が古く、より広く知られています。
パドヴァン数列とペラン数列
プラスチック数は、特定の数列と深い関係があります。
パドヴァン数列とは
パドヴァン数列は、次のような規則で作られる数列です。
P(n) = P(n-2) + P(n-3)
最初の項から並べると、1, 1, 1, 2, 2, 3, 4, 5, 7, 9, 12, 16, 21, 28, 37…となります。
ペラン数列とは
ペラン数列も、パドヴァン数列と同じ規則 P(n) = P(n-2) + P(n-3) で作られます。
ただし、最初の3項が異なっていて、3, 0, 2, 3, 2, 5, 5, 7, 10, 12…と続くんです。
数列とプラスチック数の関係
フィボナッチ数列では、隣り合う項の比(例:13/8、21/13)が黄金比に近づいていきます。
同じように、パドヴァン数列やペラン数列でも、隣り合う項の比がプラスチック数に近づいていくんです。
たとえば、パドヴァン数列で:
- 7/5 = 1.4
- 12/9 = 1.333…
- 21/16 = 1.3125
- 37/28 = 1.32142…
- 65/49 = 1.32653…
どんどんプラスチック数の1.32471…に近づいていくのがわかりますよね。
プラスチック数の幾何学的性質
プラスチック数には、面白い幾何学的な性質があります。
正方形の3分割
正方形を3つの相似な(形は同じで大きさが違う)長方形で分割する問題を考えてみましょう。
最も単純な方法は、正方形を3等分することです。でも、実はもっと面白い分割方法があるんです。
大・中・小の3つの長方形を組み合わせて正方形を作る場合、その長方形の縦横比がプラスチック数になるという性質があります。具体的には、中サイズの長方形の短辺を1とすると、長辺が約1.755(プラスチック数の2乗)になるんですよ。
建築への応用
ハンス・ファン・デル・ラーンは、このプラスチック数を建築設計に応用しました。
1967年に設計された「聖ベネディクトスベルク修道院」では、建物の各部分の比率にプラスチック数が使われています。彼は、この比率が人間の知覚にとって理想的だと考えたんです。
ファン・デル・ラーンによれば、プラスチック数の特徴的な比率である3:4や1:7は、人間が物理的な大きさの違いを認識する限界と関係しているそうですよ。
プラスチック数の数学的性質

より専門的な性質も見ていきましょう。
連分数表現
プラスチック数は、次のような連分数で表せます。
ρ = [1; 3, 12, 1, 1, 3, 2, 3, 2, 4, 2, 141, 80, 2, 5, 1, 2, 8, 2, 1, 1, 3, 1, 8, 2, 1, 1, 14, 1, 1, 2, 1, 1, …]
この数列は不規則に見えますが、プラスチック数を特徴づける重要な表現です。
入れ子根号表現
プラスチック数は、無限に続く入れ子の立方根として表現できます。
ρ = ³√(1 + ³√(1 + ³√(1 + ³√(1 + …))))
これは、黄金比が無限に続く入れ子の平方根で表現できるのと似ていますね。
ピゾ数
プラスチック数は、「ピゾ数」と呼ばれる特別な数の仲間です。
ピゾ数とは、1より大きい代数的整数で、その他のすべての共役根が単位円の内側にあるという性質を持つ数のことです。難しそうに聞こえますが、簡単に言えば「累乗が整数に近づく性質を持つ数」ということなんです。
実は、プラスチック数は最小のピゾ数として知られています。
累乗の性質
プラスチック数の累乗には興味深い性質があります。
ρ³ = ρ + 1(定義式より)
ρ² = 1.754877…
ρ⁴ = ρ² + ρ
ρ⁵ = ρ³ + ρ²
このように、高次の累乗も低次の累乗の和で表せるんです。
また、プラスチック数の累乗は、整数に驚くほど近い値になることがあります。たとえば ρ²⁹ ≈ 3480.00028… のように、ほぼ整数になるんですよ。
他の呼び名
プラスチック数には、様々な別名があります。
さまざまな呼称
- ラディアント数(le nombre radiant):最初の発見者コルドニエが付けた名前
- シルバー数(silver number):一部の文献で使われていますが、白銀比(1 + √2)と混同されやすいため注意が必要です
- プラチナ数(platin number):フランス語圏の一部で使われる呼び名
- ジーゲル数(Siegel’s number):数学者の名前にちなんだ呼び名
- 最小ピゾ数(minimal Pisot number):数学的な特徴を表す呼び名
いろいろな名前がありますが、「プラスチック数」または「プラスチック定数」が最も一般的ですね。
プラスチック数の応用

実際にどんな場面で使われているのでしょうか。
建築とデザイン
前述の聖ベネディクトスベルク修道院のように、建築物の比率設計に使われています。
ファン・デル・ラーンは、この比率が視覚的に心地よい空間を生み出すと考えました。
数学研究
プラスチック数は、数論や代数幾何学の研究対象として興味深い性質を持っています。
特に、ピゾ数やサレム数といった特殊な代数的数の研究において重要な役割を果たしているんです。
タイリングと幾何学模様
プラスチック数を使った平面の敷き詰め(タイリング)パターンが研究されています。
準周期的なタイリングを作ることができ、これは数学的にも芸術的にも興味深い対象なんですよ。
アートとデザイン
現代のデジタルアートやグラフィックデザインでも、プラスチック数を使った比率が実験的に使われることがあります。
黄金比ほど一般的ではありませんが、独特の視覚的バランスを生み出すことができるんです。
白銀比や青銅比との関係
プラスチック数は、金属にちなんだ比率の仲間なのでしょうか。
メタリック比(金属比)
実は、黄金比や白銀比は「メタリック比(金属比)」と呼ばれる数の一族に属します。
メタリック比は、次のような形の数列から得られる比率です。
- 黄金比(Golden ratio):φ = (1 + √5)/2 ≈ 1.618
- 白銀比(Silver ratio):δ = 1 + √2 ≈ 2.414
- 青銅比(Bronze ratio):(3 + √13)/2 ≈ 3.303
プラスチック数は金属比ではない
プラスチック数は、メタリック比の一族には属していません。
方程式の次数が違うため、別のカテゴリーの数なんです。ただし、一部の文献では「シルバー数」と呼ばれることもあり、混乱の原因になっています。
正確には、白銀比とプラスチック数は別物ですよ。
プラスチック数を計算してみよう
実際にプラスチック数を求める方法を見てみましょう。
数値計算による方法
x³ = x + 1 という方程式を解くには、いくつかの方法があります。
ニュートン法を使う方法
初期値を適当に設定(例:x = 1.3)して、反復計算を行います。
x[新] = x[旧] – f(x[旧]) / f'(x[旧])
ここで、f(x) = x³ – x – 1、f'(x) = 3x² – 1 です。
数回の反復で、かなり正確な値が得られますよ。
カルダノの公式
3次方程式には「カルダノの公式」という解の公式があります。
これを使って正確に計算することもできますが、式がかなり複雑になります。コンピューターを使えば、簡単に高精度な値を求められるんです。
数列から近似する方法
パドヴァン数列を計算して、隣接項の比を取る方法もあります。
1, 1, 1, 2, 2, 3, 4, 5, 7, 9, 12, 16, 21, 28, 37, 49, 65, 86, 114, 151, 200…
200/151 = 1.324503… というように、かなり近い値が得られますね。
よくある質問
プラスチック数について、よく聞かれる質問をまとめました。
プラスチック数は無理数?
はい、プラスチック数は無理数です。
3次方程式の解なので代数的数ではありますが、有理数ではありません。小数点以下が循環せずに無限に続きます。
黄金比とプラスチック数、どちらが美しい?
これは主観的な問題で、明確な答えはありません。
黄金比の方が歴史が長く、多くの芸術作品や建築物で使われてきました。プラスチック数も独特の美しさを持っていますが、認知度は黄金比ほどではないんです。
プラスチック数は日常生活で役立つ?
直接的に日常生活で使う機会は少ないでしょう。
ただし、デザインや建築に興味がある方は、新しい比率の選択肢として知っておくと面白いかもしれません。数学的な美しさを楽しむという意味でも価値がありますね。
なぜ黄金比ほど有名じゃないの?
いくつか理由があります。
黄金比は古代から知られていて、長い歴史があります。また、2次方程式で定義されるため、3次方程式のプラスチック数より計算が簡単なんです。さらに、黄金比の方が視覚的な応用例が多く、一般に受け入れられやすかったという事情もあります。
プラスチック数は自然界に現れる?
黄金比ほど頻繁ではありませんが、一部の植物の成長パターンなどで見られる可能性があります。
ただし、自然界で最もよく見られるのは黄金比に基づくフィボナッチ数列のパターンですね。
まとめ
プラスチック数について、基礎から応用まで解説してきました。
プラスチック数(ρ ≈ 1.32472)は、3次方程式 x³ = x + 1 の実数解として定義される数学定数です。「プラスチック」という名前は材料ではなく、「形を作る」という意味から来ているんですね。
黄金比と似た性質を持ち、パドヴァン数列やペラン数列の隣接項の比の極限として現れます。オランダの建築家ハンス・ファン・デル・ラーンによって建築設計に応用され、特に1967年の聖ベネディクトスベルク修道院で使われました。
数学的には最小のピゾ数として知られ、累乗が整数に近い値になるという興味深い性質を持っています。連分数や入れ子根号など、さまざまな方法で表現できる美しい数なんです。
黄金比ほど有名ではありませんが、プラスチック数も独自の魅力を持つ数学定数です。建築、デザイン、数学研究など、さまざまな分野で応用の可能性がありますよ。
数学の世界には、黄金比以外にもたくさんの美しい数が存在します。プラスチック数もその一つで、知れば知るほど奥深い性質が見えてくる、魅力的な数学定数なんですね。

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