「マモン」という名前、どこかで聞いたことはありませんか?
ゲームやアニメ、映画で「七つの大罪」がテーマになると、必ずと言っていいほど登場するのがこのマモンです。
でも、「名前は知ってるけど、どんな悪魔なの?」「他の悪魔とどう違うの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
実はマモンには、他の悪魔にはない不思議な成り立ちがあります。
もともとは悪魔ではなく、単なる「言葉」から生まれた存在なんです。
この記事では、マモンの起源から聖書での意味、文学作品での描写、そして現代作品への影響まで、詳しく解説していきます。
マモンの基本情報

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | マモン(Mammon) |
| 別名 | マンモン、アマイモン |
| 語源 | アラム語「māmōnā」(富・財産の意) |
| 司る罪 | 七つの大罪の「強欲(Greed)」 |
| 地位 | 地獄の七王子の一柱 |
| 初出 | 新約聖書(マタイ福音書・ルカ福音書) |
マモンの起源──「言葉」から「悪魔」へ
アラム語の「富」が悪魔になった理由
マモンの起源は、とても特殊です。
もともとマモンは悪魔の名前ではありませんでした。
アラム語で「māmōnā」という言葉があり、これは単純に「富」「財産」「金銭」を意味する普通の名詞だったんです。
現代ヘブライ語でも「ממון(mammon)」は「お金」を意味する言葉として使われています。
では、なぜ「富」を意味する言葉が悪魔になってしまったのでしょうか?
その転機となったのが、新約聖書でのイエス・キリストの言葉でした。
聖書に登場するマモン
新約聖書には、マモンに関する有名な一節があります。
マタイによる福音書 6章24節
「だれも、二人の主人に仕えることはできない。
一方を憎んで他方を愛するか、一方に親しんで他方を軽んじるか、どちらかである。
あなたがたは、神と富(マモン)とに仕えることはできない。」
この言葉はルカによる福音書16章13節にも同様の形で登場します。
イエスがここで言いたかったのは、富への執着が信仰を妨げる危険性でした。
マモンは「擬人化された富」として表現されていたんです。
ところが、後世の神学者や教父たちがこの表現を誤解(または意図的に解釈)し、マモンを実在する悪魔の名前として扱うようになりました。
悪魔マモンの誕生
4世紀になると、マモンは本格的に悪魔として認識されるようになります。
悪魔化への歩み
- 4世紀:聖キプリアヌスや聖ヒエロニムス(ジェローム)が、マモンを強欲と結びつけて論じる
- 4世紀:ニュッサのグレゴリオスが『主の祈り』の中で、マモンを悪魔と同一視
- 12世紀:パリ司教ペトルス・ロンバルドゥスが「マモンは悪魔の名前である」と明言
- 14世紀:完全に悪魔として人格化される
ペトルス・ロンバルドゥスはこう記しています。
「富はマモンという悪魔の名前で呼ばれる。マモンとは悪魔の名であり、シリア語で富を意味する名で呼ばれているのだ」
こうして、「富」という概念が「強欲の悪魔マモン」として独立した存在になったのです。
地獄の七王子としてのマモン
ビンスフェルトの悪魔分類
16世紀、ドイツの神学者ペーター・ビンスフェルトが画期的な悪魔分類を行いました。
1589年に発表された『魔女と術者の自白について』という著作で、ビンスフェルトは七つの大罪それぞれに対応する悪魔を定めたのです。
ビンスフェルトによる七つの大罪と悪魔の対応
| 大罪 | 悪魔 |
|---|---|
| 傲慢(Pride) | ルシファー |
| 嫉妬(Envy) | レヴィアタン |
| 憤怒(Wrath) | サタン |
| 怠惰(Sloth) | ベルフェゴール |
| 強欲(Greed) | マモン |
| 暴食(Gluttony) | ベルゼブブ |
| 色欲(Lust) | アスモデウス |
この分類により、マモンは正式に「地獄の七王子」の一柱として位置づけられました。
なお、この分類以前にも「光の灯火(The Lanterne of Light)」という15世紀初頭の文書で、七つの大罪と悪魔の関連付けが行われていました。
ただし、現在広く知られているのはビンスフェルトの分類です。
地獄での役割と能力
悪魔学の文献によると、マモンには以下のような特徴があります。
マモンの地位と能力
- 地獄の東方の王「アマイモン」と同一視されることがある
- 72の堕天使を支配する
- 副官として色欲の悪魔アスモデウスを従える
- 人間に富をもたらす力を持つ
- 採掘技術を人間に教えたとされる
また、16世紀の魔術師ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパの『隠秘哲学』では、マモンは9つの悪魔階級の中で第9位(最下位)の「テンタトレス・マリゲニー(悪の誘惑者)」という階級を率いるとされています。
最高位の悪魔ではないものの、人間を富への執着に駆り立てる役割を担う重要な存在として描かれていたのです。
『失楽園』に描かれたマモン

ミルトンが描いた堕天使
17世紀のイギリス詩人ジョン・ミルトンによる叙事詩『失楽園』(Paradise Lost、1667年)は、マモンの描写に決定的な影響を与えました。
ミルトンは、マモンを堕天使の一人として登場させています。
そして、その描写は他の堕天使とは明らかに異なるものでした。
『失楽園』でのマモン描写
「マモンは天から堕ちた霊の中で最もさもしい根性の持ち主であった。
天国にいた頃から、その目と心は常に下を向いていた。
至福の光景よりも、天国の舗道を飾る黄金を崇拝していたのだ」
ミルトンは、マモンを「最も卑しい堕天使(the least erected Spirit that fell from Heav’n)」と呼んでいます。
他の堕天使たちが神への反逆や権力への野望で堕落したのに対し、マモンは天国にいた頃からひたすら金銀財宝に目がなかったという、ある意味で俗物的な存在として描かれているんです。
万魔殿(パンデモニウム)の建設
『失楽園』でマモンが活躍する場面の一つが、万魔殿(パンデモニウム)の建設です。
パンデモニウムとは、サタンが地獄に築いた壮大な宮殿のこと。
マモンは工作隊を指揮し、地獄の火山から黄金や宝石を掘り出して、この宮殿を豪華絢爛に飾り立てました。
ミルトンはこの場面を通じて、物質的な富への執着を批判しています。
大地を掘り返して金を取り出す行為を「母なる大地の腸をえぐる」と表現し、人間の採掘技術もマモンが伝えたものだと示唆しているのです。
地獄での謀議
『失楽園』第2巻では、地獄に堕ちた天使たちが今後の方針を話し合う場面があります。
この「地獄の謀議」でマモンは興味深い主張をしました。
マモンの主張
- 神に対する再戦争は無謀である
- たとえ降伏しても、神を讃える「天国の奴隷」として生きるだけ
- 地獄に腰を据えて自分たちの王国を築くべき
- 地獄の環境に適応し、快適な生活を追求すべき
マモンは主戦論を唱えるモロクとは異なり、現実的な妥協案を提示したのです。
この「与えられた環境で最善を尽くす」という姿勢は、ある意味で現代的な価値観にも通じるものがあります。
皮肉なことに、マモンの演説は堕天使たちに最も好評だったと描かれています。
他の悪魔・神との関係
アモンとの混同
マモンはしばしばソロモン72柱の悪魔アモンと混同されます。
両者の比較は以下の通りです。
| 項目 | マモン | アモン |
|---|---|---|
| 起源 | アラム語「富」の擬人化 | エジプト神話のアメン神 |
| 地位 | 地獄の七王子の一柱 | ソロモン72柱の序列7位 |
| 外見 | 老人、または人間の体に鳥の頭 | 狼の頭と蛇の尾を持つ姿 |
| 能力 | 富をもたらす | 過去と未来を予知する |
| 軍団 | 72の堕天使 | 40の軍団 |
名前が似ていることや、どちらも鳥の頭で描かれることがあるため、両者は同一視されることがあります。
しかし語源的には別の存在と考えるのが一般的です。
アマイモンとの同一視
アマイモン(Amaimon / Amaymon)は、魔術書『ゴエティア』などに登場する東方の王です。
「アマイモン」の「ア」は強調の接頭辞とされ、本来の名前「マイモン」がマモンに近いことから、両者を同一視する説があります。
ただし、マイモンの語源はギリシャ語で「凶暴さ」「熱望」を意味するとされ、「富」を語源とするマモンとは異なる可能性も指摘されています。
ギリシャ神話との関連
マモンはギリシャ神話の富の神プルトスとも関連づけられてきました。
プルトスはデメテルの息子で、富と豊穣をもたらす神です。
また、冥界の神ハデス(ローマ名:プルートー/ディス・パテル)も地下の鉱物資源を司ることから、マモンと関連づけられることがあります。
ダンテの『神曲』では、プルトスが狼のような姿の富の悪魔として登場します。
中世ヨーロッパでは狼が強欲の象徴とされていたため、この描写がマモンのイメージにも影響を与えたと考えられています。
マモンの外見と象徴

さまざまな姿で描かれるマモン
マモンには統一された外見がありません。
時代や文献によって、まったく異なる姿で描かれてきました。
マモンの主な外見描写
- 巨大な赤い肌の悪魔:古典的な悪魔のイメージ
- ローマ皇帝のような壮麗な姿:権力と富の象徴
- 金貨の袋を抱えた老人:『失楽園』の挿絵で多く見られる
- 人間の体に鳥の頭:アモンとの混同によるもの
- 狼のような姿:中世の強欲のシンボル
- 金色の肌を持つ獣:現代のファンタジー作品での解釈
コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』(1818年)では、『失楽園』に準拠した解説がなされ、袋を抱えて箱に座る男の姿で描かれています。
マモンを見分ける特徴
統一された外見がないマモンですが、共通する特徴があります。
マモンの象徴と特徴
- 金貨、宝石、財宝を常に身につけている
- 派手な装飾品で富を誇示する
- 財宝の詰まった洞窟や宮殿に住む
- 目が常に下を向いている(足元の黄金を探している)
マモンは必ず何らかの形で富を誇示します。
その執着こそがマモンの本質なのです。
文学作品に登場するマモン
『妖精の女王』(1590年)
イギリスの詩人エドマンド・スペンサーの叙事詩『妖精の女王』では、マモンは財宝が詰まった洞窟を守る存在として登場します。
この作品でのマモンは、巨大な富を持ちながらも精神的な豊かさを一切持たない、空虚な存在として描かれています。
スペンサーはまた、マモンが人間に大地から財宝を掘り出す方法を最初に教えた存在だと記しています。
『錬金術師』(1610年)
ベン・ジョンソンの喜劇『錬金術師』には、サー・エピキュア・マモンという人物が登場します。
名前が示す通り、物質的な富に執着する男として描かれており、マモンの性質を体現したキャラクターです。
その他の文学作品
- トーマス・カーライル『過去と現在』(1843年):ヴィクトリア朝イギリスの拝金主義を「マモン崇拝の福音」と批判
- フレデリック・フォーサイス『オペラ座の怪人 マンハッタン』:怪人がマモンを崇拝する設定
- O・ヘンリー『マモンと弓』:富と愛の関係を描いた短編
現代作品に登場するマモン
ゲーム作品
マモンは多くのゲーム作品に登場しています。
主なゲーム作品
- 真・女神転生シリーズ:「マンモン」名義で邪神として登場。4本の腕を持つ悪魔の姿
- ペルソナ5:奥村邦和のシャドウの名前として使用
- Obey Me!:強欲を司るアバターとして登場する七兄弟の次男
- メギド72:プレイアブルキャラクターとして登場
- ダンジョンズ&ドラゴンズ:「貪欲の王」として地獄の第3層を支配
- Darksiders Genesis:ボスとして登場
アニメ・ライトノベル
主なアニメ・ライトノベル作品
- 『うみねこのなく頃に』:煉獄の七姉妹の一人として登場。なんでも欲しがる「強欲」な少女
- 『灼眼のシャナ』:引力と斥力を操る紳士的な指揮官として登場
- 『sin 七つの大罪』:強欲を司る魔王。シングルマザーという設定の美女として描かれる
映画・ドラマ
主な映画・ドラマ作品
- 『コンスタンティン』(2005年):ルシファーの息子として登場。天から堕ちる前に宿り、地獄で生まれた存在
- 『Supernatural』:七つの大罪の一柱として登場。ビンスフェルトの分類が作中で引用される
- 『Spawn』(コミック):洗練された紳士として描かれ、人間の魂と取引を行う
マンガ
- 『七つの大罪』(鈴木央):直接的にはマモンは登場しないが、七つの大罪がテーマ
- 各種ファンタジー作品:強欲の悪魔として数多くの作品に登場
マモンが私たちに教えること
「拝金主義」の語源
英語で「拝金主義」を意味する「マモニズム(Mammonism)」は、マモンの名前に由来します。
この言葉が示すように、マモンは単なる悪魔ではなく、物質的な富への過度な執着が人を堕落させるという警告の象徴なのです。
富と信仰のバランス
聖書でイエスが語った「神と富とに仕えることはできない」という言葉は、現代にも通じる教訓を含んでいます。
マモンから学べること
- 富を追求することは悪ではない
- しかし、富が人生の中心になると精神的価値が損なわれる
- 物質的な豊かさと精神的な豊かさのバランスが大切
- 終わりなき欲望は人を不幸にする
他の悪魔との違い
七つの大罪を司る悪魔の中で、マモンには特異な点があります。
マモンの特異性
| 他の悪魔 | マモン |
|---|---|
| 堕落した神や英雄がルーツ | 「言葉」の擬人化がルーツ |
| 神への反逆が堕天の原因 | 富への執着が堕天の原因 |
| 権力や支配を求める | ひたすら財宝を求める |
| 人間を破滅させる | 人間に富をもたらすこともある |
マモンは「純粋に言葉から創造された悪魔」という意味で、キリスト教独自の存在と言えるでしょう。
まとめ
マモンは、単なる「言葉」から生まれた特異な悪魔です。
マモンの特徴をおさらい
- アラム語の「富」を意味する言葉が起源
- 聖書の表現を後世の神学者が悪魔と解釈
- 16世紀に「強欲」を司る地獄の七王子に位置づけられる
- 『失楽園』では最もさもしい堕天使として描かれる
- 現代でも多くのゲームやアニメに登場
マモンの存在は、人間が富に対してどのような態度を取るべきかを問いかけ続けています。
物質的な豊かさを求めることは自然なことです。
しかし、それが人生の最優先事項になったとき、私たちはマモンの影響下に入ってしまうのかもしれません。
古代から現代まで語り継がれてきたこの悪魔は、時代を超えた人間の本質を映し出す鏡なのです。


コメント