中国神話に興味を持ったものの、
「どの本から読めばいいかわからない」
「神様の数が多すぎて混乱しそう」
と悩んでいませんか?
実は、中国神話には他の神話にはない独特の難しさがあります。
まず、まとまった「神話集」がほとんど存在しないんです。
ギリシャ神話のように体系だった物語ではなく、『山海経』『封神演義』『西遊記』など、さまざまな書物に断片的に散らばっています。
さらに歴史上の人物が神格化されたり、道教・仏教の影響で神々が増えたりと、かなり複雑。
いきなり原典から読み始めると、「誰が誰だかわからない」「話がつながらない」と挫折しがちです。
この記事では、初心者でも楽しく読める入門書から、本格的に学びたい人向けの専門書まで、レベル別に詳しくご紹介します。
学習方法の基本:入門書からステップアップしよう

なぜ段階的に学ぶべきなのか
中国神話には、他の神話と比べて独特の特徴があります。
- 神話が体系化されていない(儒家によって多くが失われた)
- 神様の数が膨大(約200柱以上の神々が存在)
- 歴史・宗教・民間信仰が複雑に絡み合っている
- 西遊記や封神演義などの物語が神話のベースになっている
いきなり『山海経』のような原典を読もうとするのは、古文を習っていないのに『源氏物語』の原文を読むようなもの。
読むこと自体が苦痛になってしまいます。
おすすめの学習ステップ
- イラストや図解が豊富な入門書で全体像をつかむ
- やさしい解説書で主要な神々や物語を学ぶ
- 古典文学(西遊記・封神演義など)のダイジェスト版を読む
- 専門書や原典でより深く学ぶ
この順序で進めれば、無理なく知識を積み重ねていけます。
入門書や解説書は現代人にも読みやすい形になっているので、「自分がこの神話に興味を持てるか?」を確認する意味でも最適です。
初心者向け:最初の一冊におすすめの入門書

まずはここから始めましょう。
イラストが豊富で、活字が苦手な人でも読み進められる本を厳選しました。
『ゼロからわかる中国神話・伝説』かみゆ歴史編集部
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:中国神話を初めて学ぶ人、全体像を把握したい人
- 特徴:文庫サイズで手軽、イラスト豊富で読みやすい
盤古や女媧といった創世神話から、関羽や岳飛など神格化された歴史上の英雄、さらには『西遊記』や『封神演義』のキャラクターまで幅広くカバー。
5章構成で、中国神話の成り立ち、道教の神々、伝奇小説の人物、歴史上の英雄、霊獣・妖怪まで網羅しています。
「中国神話って何から手をつければいいの?」という人に最適な一冊。
『[ヴィジュアル版]中国神話物語百科』シュエティン・C・ニー著
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:ビジュアル重視で学びたい人、図版を楽しみたい人
- 特徴:160点以上の図版収録、4000年の歴史を網羅
2025年に発売された新しい本で、美麗な図版とともに中国神話の世界を視覚的に理解できます。
道教や仏教、陰陽五行、民間伝承など、中国神話を構成する多様な要素を丁寧に解説。
宇宙の始まりから伝説の怪物まで、幅広いトピックを収録しています。
神話をビジュアルで楽しみながら学びたい人におすすめ。
中級者向け:もっと詳しく学びたい人に
入門書を読んで「もっと深く知りたい!」と思ったら、次のステップへ進みましょう。
『山海経』高馬三良 訳(平凡社ライブラリー)
- おすすめ度:★★★★★(最もおすすめ!)
- こんな人におすすめ:中国神話の原典に触れたい人、妖怪・霊獣好きな人
- 特徴:中国最古の地理書にして神話の宝庫、水木しげるによる解説付き
『山海経』は中国神話研究において最も重要な原典の一つ。
紀元前4世紀頃から徐々に成立したとされるこの書物には、異形の神々、怪物、霊獣が膨大に記録されています。
西王母や崑崙山の伝説、九尾の狐のルーツなど、中国神話のエッセンスが詰まった一冊。
小野不由美の『十二国記』が参考にした本としても有名で、ファンタジー好きにもおすすめ。
ただし、物語というより「図鑑」的な構成なので、ストーリーを楽しみたい人は入門書と併読するのがベター。
『中国の神話伝説』上下巻 袁珂 著、鈴木博 訳(青土社)
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:体系的に中国神話を学びたい人
- 特徴:中国神話学の大家による決定版、上下巻で詳細に解説
著者の袁珂は、断片的にしか残っていなかった中国神話を系統立てて「中国神話学」を確立した人物。
天地開闢、洪水伝説、黄帝と炎帝の戦争、牽牛と織女の物語など、中国神話の主要なエピソードを網羅的に収録。
道教や仏教以前の原始的な神話から、民間信仰に至るまで幅広くカバーしています。
下巻には索引や著者の自伝もあり、研究用途にも対応。
『中国神話史』袁珂 著、佐々木猛 訳(集広舎)
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:学術的に正確な情報を求める人、研究者
- 特徴:2023年に翻訳が完成した決定版、詳細な訳注と索引付き
袁珂の代表作『中国神話史』の日本語完訳版。
原始社会の神話から明清時代、さらには少数民族の神話まで、中国神話の全体像を歴史的に追跡しています。
18章構成で、『山海経』の神話、仙話と仏教の影響、歴史上の人物の神話化など、専門的なトピックを詳しく解説。
ただし学術書なので、入門書を読んでからがおすすめ。
『中国神話・伝説大事典』袁珂 著(大修館書店)
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:辞書として使いたい人、調べ物用途
- 特徴:収録項目数3000以上、図版370点以上収録
中国神話・伝説に関して初めて編まれた大事典。
『山海経』『淮南子』『楚辞』『呂氏春秋』など、典拠となる文献の章句を明示し、書き下し文や現代語訳も併記。
九尾の狐が玉藻前に、河伯が河童になるなど、日本への影響についても言及しています。
辞書として手元に置いておくと、創作や研究に非常に便利。
古典文学を読みたい人向け:物語として楽しむ

中国神話は、『西遊記』や『封神演義』といった古典小説と深く結びついています。
これらを読むことで、神々や仙人たちの物語を楽しみながら理解できます。
『封神演義』安能務 編訳(講談社文庫)全3巻
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:物語として中国神話を楽しみたい人
- 特徴:読みやすい文体、全3巻でコンパクト
殷周革命を舞台に、仙人や道士、妖怪たちが人界と仙界を二分して大戦争を繰り広げる壮大な物語。
太公望(姜子牙)や哪吒、楊戩といったキャラクターは、現代の漫画やゲームにも多大な影響を与えています。
注意点:安能版は独自の改変が多く、「翻案」に近い内容です。
「なたく」「ようぜん」などの読み方も安能版オリジナル(本来は「ナタ」「ヨウセン」)。
原作に忠実なものを読みたい場合は、後述の『全訳 封神演義』がおすすめ。
『全訳 封神演義』二階堂善弘 監訳(勉誠社)全4巻
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:原典に忠実な翻訳を読みたい人
- 特徴:全100回を完訳、神仙・民間信仰の専門家チームによる翻訳
中国文学・神仙研究・民間信仰の専門家たちが手がけた、本格的な完訳版。
安能版とは異なり、原典に忠実な翻訳になっています。
各巻末には「図像化」「演劇」など、物語にまつわる多面的なコラムも収載。
『封神演義』を学術的にも楽しみたい人に最適。
『西遊記』(岩波文庫)全10巻
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:孫悟空や三蔵法師の物語を原典で読みたい人
- 特徴:中国四大奇書の一つ、完訳版
三蔵法師がインドへ経典を取りに行く旅を描いた、中国を代表する神怪小説。
孫悟空、猪八戒、沙悟浄といったキャラクターは日本でもおなじみですね。
封神演義と西遊記の楽しみ方:
封神演義を先に読んでおくと、西遊記がより楽しめます。
封神演義で強敵として描かれた仙人たちが、西遊記では悟空にあっさりやられてしまう場面は、ある意味ギャグとして読めます。
レベル別・目的別の本選びガイド
あなたはどのタイプ?
| 目的 | おすすめの本 |
|---|---|
| とにかく手軽に始めたい | 『ゼロからわかる中国神話・伝説』 |
| ビジュアル重視で学びたい | 『[ヴィジュアル版]中国神話物語百科』 |
| 原典に触れたい | 『山海経』(平凡社ライブラリー) |
| 辞典として使いたい | 『中国神話・伝説大事典』 |
| 物語を楽しみたい | 『封神演義』『西遊記』 |
| 学術的に学びたい | 『中国神話史』『中国の神話伝説』 |
おすすめの読む順序
ステップ1:まずは1冊読み切る
イラスト豊富な入門書でOK。
とりあえず楽しむことを優先しましょう。
ステップ2:興味のある分野を深掘り
- 特定の神様(西王母、関羽、媽祖など)
- 特定の物語(封神演義、西遊記)
- 霊獣・妖怪(四神、麒麟、九尾狐など)
ステップ3:体系的に学ぶ
袁珂の著作などで正確な知識を身につける。
神々の関係性や物語の背景を整理する。
ステップ4:原典に挑戦
『山海経』や『封神演義』の完訳版で、原典の世界に触れてみましょう。
よくある疑問と回答
Q: 中国神話とギリシャ神話の違いは?
A: 体系化の度合いが大きく異なります。
ギリシャ神話は比較的体系的にまとめられているのに対し、中国神話は断片的に散らばっています。
これは儒家が「怪力乱神を語らず」と神話を排斥したためと言われています。
また、中国神話は歴史上の人物が神格化される傾向が強いのも特徴です。
Q: 日本の神仏と中国神話の関係は?
A: 多くの神様がルーツを同じくしています。
- 帝釈天 = インドラ(中国経由で日本へ)
- 弁財天 = サラスヴァティー
- 毘沙門天 = クベーラ
- 関帝 = 関羽(三国志の武将)
仏教や道教とともに、中国の神々も日本に伝わりました。
Q: 現代でも役立つ知識?
A: 想像以上に役立ちます!
- ゲーム・アニメ:FGO、モンスト、メガテンなど多くの作品で中国神話のキャラクターが登場
- 映画:最近の中国映画(『封神』シリーズなど)は中国神話が題材
- サブカルチャー:漫画やライトノベルでも頻繁に引用される
- 美術鑑賞:中国美術や東アジアの寺院彫刻の理解が深まる
まとめ
学習のポイント
- 無理をしない
いきなり難しい本から始めず、自分のレベルに合った本を選びましょう。 - 楽しむことを最優先
「勉強」と思わず、「物語」として楽しみましょう。
神々の人間臭さやスケールの大きさを味わってください。 - 完璧を求めない
神様の名前をすべて覚えようとしなくて大丈夫。
最初は名前を気にせず、ストーリーを追うことを優先しましょう。 - 関連する文化も楽しむ
映画、ゲーム、美術館なども活用して、多角的に神話を楽しみましょう。
おすすめの最初の3冊
超初心者の方
- 『ゼロからわかる中国神話・伝説』かみゆ歴史編集部
- 『[ヴィジュアル版]中国神話物語百科』
ある程度読書に慣れている方
最後に
中国神話は、約4000年以上の歴史を持つ人類の貴重な文化遺産です。
他の神話と比べて体系化されておらず、情報が散らばっているため「難しそう」と感じるかもしれません。
でも、一度その世界に足を踏み入れれば、スケールの大きさと神々の人間臭さに魅了されるはず。
ぜひ、自分に合った一冊から中国神話の世界に触れてみてください。
紹介した書籍一覧
初心者向け入門書
- 『ゼロからわかる中国神話・伝説』かみゆ歴史編集部(文庫ぎんが堂)
- 『[ヴィジュアル版]中国神話物語百科』シュエティン・C・ニー著(原書房)
中級者向け
- 『山海経』高馬三良 訳(平凡社ライブラリー)
- 『中国の神話伝説』上下巻 袁珂 著(青土社)
- 『中国神話史』袁珂 著(集広舎)
- 『中国神話・伝説大事典』袁珂 著(大修館書店)



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