「lnって何?」「logとどう違うの?」
数学で突然出てくる「ln」という記号に戸惑った経験はありませんか?
この記事では、lnの基本的な意味から、常用対数logとの違い、計算方法、微分・積分の公式、実生活での応用まで、具体例を豊富に使って分かりやすく解説していきます。
lnは自然対数と呼ばれ、数学や科学の多くの分野で非常に重要な役割を果たしています。
それでは、詳しく見ていきましょう。
lnとは何か

lnとは、自然対数(natural logarithm)を表す記号です。
英語の「logarithmus naturalis(ラテン語:自然の対数)」の略で、lnと書きます。
自然対数の定義
自然対数とは、ネイピア数e(約2.718…)を底とする対数のことです。
記号で表すと:
- ln x = log_e x
つまり、ln xは「eを何乗したらxになるか」を表す数です。
具体例で理解しよう
例1:ln 7.389 ≈ 2
これは「eの2乗が約7.389になる」という意味です。
確認:e^2 ≈ 2.718^2 ≈ 7.389 ✓
例2:ln 1 = 0
「eの0乗は1」なので、ln 1 = 0
確認:e^0 = 1 ✓
例3:ln e = 1
「eの1乗はe」なので、ln e = 1
確認:e^1 = e ✓
lnの読み方
- 日本語:「エルエヌ」「ログネイチャル」「自然対数」
- 英語:「natural log」「natural logarithm」
ネイピア数eとは
lnを理解するには、まず底となる「e」について知る必要があります。
ネイピア数eの値
e ≈ 2.71828182845904…
eは無理数で、πと同じように小数が無限に続きます。
eはなぜ重要か
eは自然界や数学のあらゆるところに現れる特別な数です。
例:
- 複利計算で自然に出てくる
- 微分・積分で非常に扱いやすい
- 成長や減衰の現象を表す
eの定義
eは、いくつかの方法で定義できます:
定義1:極限での定義
e = lim(n→∞) (1 + 1/n)^n
定義2:級数での定義
e = 1 + 1/1! + 1/2! + 1/3! + 1/4! + …
定義3:積分での定義
ln x = ∫1 to x dt と定義すると、ln e = 1 となるのがe
logとlnの違い
lnとよく似た記号に「log」がありますが、これらは異なります。
記号の違い
| 記号 | 名前 | 底 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| ln x | 自然対数 | e (≈2.718) | エルエヌ、ログネイチャル |
| log x | 常用対数 | 10 | ログ |
| log₂ x | 二進対数 | 2 | ログツー |
注意:
分野によっては、「log x」が自然対数を意味することもあります。
数学では log x = ln x、工学では log x = log₁₀ x という慣習があります。
使い分け
ln(自然対数)が使われる場面:
- 微分・積分の計算
- 数学の理論
- 物理学、化学
- 連続的な成長・減衰の計算
log(常用対数)が使われる場面:
- 桁数の計算
- 音の大きさ(デシベル)
- 地震の規模(マグニチュード)
- pH値の計算
変換公式
自然対数と常用対数は、次の式で変換できます:
ln x = log₁₀ x × ln 10
ln 10 ≈ 2.303 なので:
ln x ≈ 2.303 × log₁₀ x
逆に:
log₁₀ x ≈ ln x / 2.303
lnの基本的な性質
lnには、計算を簡単にする便利な性質があります。
基本的な値
ln 1 = 0
(eの0乗は1だから)
ln e = 1
(eの1乗はeだから)
ln (1/e) = -1
(eの-1乗は1/eだから)
対数の法則
lnも普通の対数と同じ法則に従います:
法則1:積の対数
ln(xy) = ln x + ln y
例:ln(6) = ln(2×3) = ln 2 + ln 3
法則2:商の対数
ln(x/y) = ln x – ln y
例:ln(3/2) = ln 3 – ln 2
法則3:べき乗の対数
ln(x^n) = n ln x
例:ln(8) = ln(2³) = 3 ln 2
法則4:根の対数
ln(√x) = (1/2) ln x
例:ln(√e) = (1/2) ln e = 1/2
特殊な値
ln 0 → -∞
(定義されない、または負の無限大に近づく)
ln (負の数) = 定義されない
(実数の範囲では、負の数の対数は存在しない)
ln ∞ → ∞
(無限大に近づく)
lnと指数関数の関係
lnは、指数関数e^xの逆関数です。
逆関数とは
逆関数とは、ある関数の操作を「元に戻す」関数のことです。
指数関数: y = e^x
自然対数: x = ln y
この2つは互いに逆の関係にあります。
重要な関係式
関係式1:
e^(ln x) = x (x > 0)
例:e^(ln 5) = 5
関係式2:
ln(e^x) = x (すべての実数x)
例:ln(e³) = 3
この関係は、方程式を解くときに非常に便利です。
lnの計算方法
実際にlnの値を求める方法を見ていきましょう。
電卓を使う方法
ほとんどの関数電卓には「ln」ボタンがあります。
手順:
- 数値を入力
- 「ln」ボタンを押す
例:ln 10 を計算
- 10 を入力
- ln ボタンを押す
- 答え:約 2.3026
エクセルを使う方法
エクセルでは、LN関数を使います。
書式:
=LN(数値)
例:
=LN(10) → 2.302585...
=LN(E()) → 1
=LN(1) → 0
対数表を使う方法(昔の方法)
電卓がない時代は、対数表という数表を使っていました。
現代では、電卓やコンピュータを使うのが一般的です。
近似値の覚え方
よく使う値を覚えておくと便利です:
- ln 2 ≈ 0.693
- ln 10 ≈ 2.303
- ln e = 1
lnの微分と積分
lnは微分・積分において非常に重要な役割を果たします。
lnの微分公式
d/dx (ln x) = 1/x (x > 0)
これは非常に重要な公式です!
例:
f(x) = ln x のとき、f'(x) = 1/x
応用:合成関数の微分
d/dx (ln |g(x)|) = g'(x) / g(x)
lnの積分公式
∫ ln x dx = x ln x – x + C
(Cは積分定数)
別の重要な積分:
∫ (1/x) dx = ln |x| + C
この公式は、1/x の積分が ln x になることを示しています。
なぜlnの微分が1/xなのか
これは、lnの定義から導かれます:
ln x = ∫1 to x dt
微積分の基本定理より、この積分の導関数は 1/x になります。
lnを使った方程式の解き方
lnが含まれる方程式の解き方を見ていきましょう。
例題1:基本的な方程式
問題:ln x = 2 を解け
解答:
両辺をeの指数にする:
e^(ln x) = e^2
x = e^2
x ≈ 7.389
答え:x = e^2
例題2:lnを含む方程式
問題:ln(x + 1) = 3 を解け
解答:
両辺をeの指数にする:
e^(ln(x+1)) = e^3
x + 1 = e^3
x = e^3 – 1
x ≈ 20.086 – 1 = 19.086
答え:x = e^3 – 1
例題3:対数法則を使う
問題:ln x + ln(x – 2) = ln 3 を解け
解答:
対数法則を使う:
ln[x(x – 2)] = ln 3
両辺が等しいので:
x(x – 2) = 3
x² – 2x – 3 = 0
(x – 3)(x + 1) = 0
x = 3 または x = -1
x > 0 かつ x – 2 > 0 より x > 2
したがって、x = 3
答え:x = 3
lnの実生活での応用
lnは、実際の世界のさまざまな場面で使われています。
応用1:複利計算
お金を年利rで連続複利で運用すると:
A = P × e^(rt)
ここで:
- A:最終金額
- P:元金
- r:利率
- t:年数
例:
100万円を年利5%で10年間運用すると?
A = 1,000,000 × e^(0.05×10)
A = 1,000,000 × e^0.5
A ≈ 1,648,721円
逆に、「2倍になるには何年かかるか?」を求めるときにlnを使います:
2P = P × e^(rt)
2 = e^(rt)
ln 2 = rt
t = ln 2 / r
応用2:放射性崩壊
放射性物質の量は、時間とともに指数関数的に減少します:
N(t) = N₀ × e^(-λt)
半減期を求めるときにlnを使います:
N₀/2 = N₀ × e^(-λt)
1/2 = e^(-λt)
ln(1/2) = -λt
t = -ln(1/2) / λ = ln 2 / λ
応用3:人口成長モデル
人口の成長は、しばしば指数関数でモデル化されます:
P(t) = P₀ × e^(rt)
ここで、成長率rを求めるときにlnを使います。
応用4:化学反応速度
一次反応の速度式:
ln[A] = ln[A]₀ – kt
濃度の対数をとることで、直線関係が得られます。
応用5:音の強さ(デシベル)
音の強さは対数スケールで表されますが、自然対数も関連しています:
L = 10 log₁₀(I/I₀)
lnのグラフ
lnのグラフの特徴を見てみましょう。
グラフの形
y = ln x のグラフ:
- x > 0 の範囲のみ定義される
- x = 1 で y = 0(x軸と交わる)
- xが大きくなるにつれて、ゆっくりと増加する
- x → 0+ のとき、y → -∞
- x → ∞ のとき、y → ∞
グラフの特徴
増減:
- 常に増加関数(右上がり)
- 増加率はだんだん緩やかになる
凹凸:
- 上に凸(下向きに曲がっている)
漸近線:
- y軸(x = 0)が垂直漸近線
e^xのグラフとの関係
y = ln x と y = e^x のグラフは、直線 y = x に関して対称です。
これは、互いに逆関数だからです。
よくある間違いと注意点
lnを使うとき、注意したいポイントがあります。
間違い1:底の勘違い
間違った理解:
「ln x は底が10の対数」
正しい理解:
ln x は底がeの対数です。
底が10の対数は log₁₀ x です。
間違い2:負の数や0のln
間違った計算:
ln 0 = 0
ln(-5) = ?
正しい理解:
- ln 0 は定義されない(または負の無限大)
- ln(負の数) は実数の範囲では定義されない
真数は正の数でなければならない
間違い3:対数法則の誤用
間違った式:
ln(x + y) = ln x + ln y ✕
正しい式:
ln(xy) = ln x + ln y ✓
ln(x + y) は簡単にできない
間違い4:指数との混同
間違った式:
ln x² = (ln x)² ✕
正しい式:
ln x² = 2 ln x ✓
(ln x)² = ln x を2回かける
間違い5:微分の間違い
間違った式:
d/dx (ln x) = ln x ✕
正しい式:
d/dx (ln x) = 1/x ✓
lnの計算練習問題
実際に問題を解いて、理解を深めましょう。
問題1:基本的な値
次の値を求めよ。
(1) ln e²
(2) ln 1
(3) ln(1/e)
解答:
(1) ln e² = 2 ln e = 2 × 1 = 2
(2) ln 1 = 0(eの0乗が1だから)
(3) ln(1/e) = ln e^(-1) = -1 × ln e = -1
問題2:対数法則を使う
次の式を簡単にせよ。
ln 8 + ln 2
解答:
ln 8 + ln 2 = ln(8 × 2) = ln 16 = ln 2⁴ = 4 ln 2
または、ln 2 ≈ 0.693 を使うと:
4 × 0.693 ≈ 2.772
問題3:方程式を解く
ln(2x – 1) = 0 を解け。
解答:
ln(2x – 1) = 0
2x – 1 = e^0 = 1
2x = 2
x = 1
問題4:微分
次の関数を微分せよ。
f(x) = ln(x² + 1)
解答:
合成関数の微分を使う:
f'(x) = 1/(x² + 1) × 2x = 2x/(x² + 1)
問題5:応用問題
元金10万円を年利6%で連続複利運用する。
2倍になるのは何年後か。(ln 2 ≈ 0.693を使う)
解答:
2P = P × e^(0.06t)
2 = e^(0.06t)
ln 2 = 0.06t
t = ln 2 / 0.06
t ≈ 0.693 / 0.06
t ≈ 11.55年
約11.6年後に2倍になります。
lnの発展的な内容
さらに深く学びたい人のために、発展的な内容を紹介します。
複素数のln
複素数の対数も定義できますが、多価関数になります:
ln z = ln |z| + i arg(z) + 2πni(nは整数)
テイラー展開
|x| < 1 のとき:
ln(1 + x) = x – x²/2 + x³/3 – x⁴/4 + …
連分数展開
lnも連分数で表すことができ、様々な美しい数学的性質があります。
オイラーの公式との関係
e^(iπ) + 1 = 0
この式から:
ln(-1) = iπ(複素数の範囲で)
まとめ
lnは、数学と科学の基礎となる重要な概念です。
この記事のポイント:
- ln は自然対数(natural logarithm)の略
- 底がネイピア数 e(≈2.718)の対数
- ln x は「eを何乗したらxになるか」を表す
- log(底10)とln(底e)は異なる
- e^x と ln x は互いに逆関数
- ln の微分:d/dx (ln x) = 1/x
- ln の積分:∫ (1/x) dx = ln |x| + C
- 対数法則:ln(xy) = ln x + ln y
- 真数は正の数でなければならない
- 実生活:複利計算、放射性崩壊、成長モデルなど
lnを理解するための重要なポイント:
- ネイピア数eが底であること
- 指数関数の逆関数であること
- 微分・積分で扱いやすいこと
- 自然現象の多くを表現できること
lnは最初は難しく感じるかもしれませんが、eとの関係、指数関数との逆の関係を意識すると理解しやすくなります。
まずは基本的な値(ln 1 = 0、ln e = 1)と対数法則をしっかり覚え、電卓で実際に計算してみることから始めましょう。
そして、微分・積分の計算で何度も使ううちに、自然と身についていきます!


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