明王 一覧|五大明王・八大明王など全種類まとめ

神話・歴史・伝承

お寺で怖い顔をした仏像を見たことはありませんか?

燃えさかる炎を背負い、怒りの表情で武器を持っている仏像。それが明王(みょうおう)です。

「不動明王は知ってるけど、他にどんな明王がいるの?」という方も多いのではないでしょうか。

この記事では、五大明王や八大明王をはじめ、密教に登場する明王を一覧形式でご紹介します。


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明王ってどんな仏さま?

仏像の階層における位置づけ

仏像は上から順に4つのグループに分けられます。

階層名称役割
1如来(にょらい)悟りを開いた最高の存在
2菩薩(ぼさつ)悟りを目指して修行中
3明王(みょうおう)如来の命令で悪を退治
4天部(てんぶ)仏教を守護する神々

明王は、密教の最高仏である大日如来の命令を受け、仏教に帰依しない人々を力ずくでも救おうとする存在です。

なぜ怒りの表情なの?

明王が怒っているのは、優しい言葉では救えない人々を、厳しい姿で教え導くため。

親が子を叱るように、明王の怒りは深い慈悲の表れなんです。


明王の分類

明王にはいくつかの分類があります。

分類含まれる明王
五大明王不動・降三世・軍荼利・大威徳・金剛夜叉(または烏枢沙摩)
八大明王不動・降三世・軍荼利・大威徳・大輪・馬頭・無能勝・歩擲
単独で信仰される明王愛染明王・孔雀明王・大元帥明王など

五大明王 一覧

五大明王は、不動明王を中心に東西南北を守護する5柱の明王です。

方角明王名読み方化身元の如来
中央不動明王ふどうみょうおう大日如来
降三世明王ごうざんぜみょうおう阿閦如来
軍荼利明王ぐんだりみょうおう宝生如来
西大威徳明王だいいとくみょうおう阿弥陀如来
金剛夜叉明王こんごうやしゃみょうおう不空成就如来

天台宗では、北方の金剛夜叉明王の代わりに烏枢沙摩明王を五大明王に数えます。


不動明王(ふどうみょうおう)

項目内容
サンスクリット名アチャラナータ(Acalanātha)
別名お不動さん、無動明王、不動尊
化身元大日如来
守護方角中央
姿の特徴一面二臂、右手に剣、左手に羂索(縄)
見分けポイント岩の上に座り、火炎を背負う
主な寺院成田山新勝寺、東寺、高野山明王院

五大明王のリーダー。「お不動さん」として日本で最も親しまれている明王です。


降三世明王(ごうざんぜみょうおう)

項目内容
サンスクリット名トライローキャヴィジャヤ(Trailokyavijaya)
化身元阿閦如来(あしゅくにょらい)
菩薩としての姿金剛薩埵
守護方角
姿の特徴四面八臂(4つの顔、8本の腕)
見分けポイント足元に大自在天(シヴァ神)と烏摩を踏む

過去・現在・未来の三世の煩悩(貪欲・瞋恚・愚痴)を降伏させる明王です。


軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)

項目内容
サンスクリット名クンダリ(Kuṇḍali)
別名軍荼利夜叉明王、甘露軍荼利
化身元宝生如来
菩薩としての姿虚空蔵菩薩
守護方角
姿の特徴一面三眼八臂
見分けポイント体に蛇が巻き付き、腕をX字に交差(大瞋印)

「クンダリ」は「とぐろを巻いた蛇」の意味。体の蛇は四つの煩悩を表します。


大威徳明王(だいいとくみょうおう)

項目内容
サンスクリット名ヤマーンタカ(Yamāntaka)
別名六足尊、降閻魔尊
化身元阿弥陀如来
菩薩としての姿文殊菩薩
守護方角西
姿の特徴六面六臂六足
見分けポイント青い水牛に乗る

「閻魔を倒す者」の意味を持ち、戦勝祈願の仏として武人に信仰されました。


金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)

項目内容
サンスクリット名ヴァジュラヤクシャ(Vajrayakṣa)
別名金剛薬叉
化身元不空成就如来
守護方角北(真言宗)
姿の特徴三面六臂
見分けポイント正面の顔に5つの目

もとは人を襲う夜叉だったが、大日如来により仏教に帰依した明王です。


八大明王 一覧

八大明王は、八大菩薩から出現した8柱の明王です。

明王名読み方化身元の菩薩役割・特徴
不動明王ふどうみょうおう金剛手菩薩一切の障害と悪を焼き尽くす
降三世明王ごうざんぜみょうおう金剛薩埵三毒(貪・瞋・痴)を降伏
軍荼利明王(大笑明王)ぐんだりみょうおう虚空蔵菩薩阿修羅・悪鬼を降伏、甘露で救済
大威徳明王だいいとくみょうおう文殊菩薩悪魔を降伏、生死の世界を清める
大輪明王だいりんみょうおう弥勒菩薩罪障消滅・魔怨粉砕
馬頭明王ばとうみょうおう観自在菩薩諸悪や煩悩を食い尽くす
無能勝明王むのうしょうみょうおう地蔵菩薩呪力で魔物を退散
歩擲明王ぶちゃくみょうおう普賢菩薩六道を渡り歩き罪人を救う

八大明王は日本では定着せず、醍醐寺の「八大明王図像」などに遺されています。


その他の重要な明王 一覧

五大明王・八大明王以外にも、単独で広く信仰される明王がいます。

主要な明王

明王名読み方サンスクリット名特徴・役割
愛染明王あいぜんみょうおうラーガラージャ愛欲を悟りに転換、全身赤色
孔雀明王くじゃくみょうおうマハーマーユーリー唯一穏やかな表情、孔雀に乗る
烏枢沙摩明王うすさまみょうおうウッチュシュマ不浄を清める、トイレの神様
大元帥明王だいげんすいみょうおうアータヴァカ国家鎮護の秘仏

愛染明王(あいぜんみょうおう)

項目内容
サンスクリット名ラーガラージャ(Rāgarāja)
別名愛染王
化身元金剛薩埵
姿の特徴一面三眼六臂、全身赤色
見分けポイント日輪(太陽)の光背、獅子の冠
ご利益恋愛成就、敬愛、染色業者の守護
主な寺院西大寺(奈良)、放光寺(山梨)

人間の愛欲を否定せず、悟りへと昇華させる明王です。


孔雀明王(くじゃくみょうおう)

項目内容
サンスクリット名マハーマーユーリー(Mahāmāyūrī)
別名仏母大孔雀明王菩薩
姿の特徴菩薩のような穏やかな表情、四臂
見分けポイント孔雀に乗る、果物を持つ
ご利益病気平癒、雨乞い、除災
主な寺院金剛峯寺(和歌山)、正暦寺(奈良)

明王の中で唯一、怒りの表情をしていない女神。毒蛇を食べる孔雀が神格化されました。


烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)

項目内容
サンスクリット名ウッチュシュマ(Ucchuṣma)
別名穢跡金剛(えしゃくこんごう)
所属天台宗の五大明王の一尊
姿の特徴忿怒相、炎を纏う
ご利益不浄を清める、安産、下半身の病気平癒

不浄を焼き尽くして清浄に転じる力を持ち、トイレの守護神として信仰されます。


大元帥明王(だいげんすいみょうおう)

項目内容
サンスクリット名アータヴァカ(Āṭavaka)
別名大元明王、太元帥明王
起源毘沙門天の眷属・八大夜叉大将の一尊
姿の特徴六面八臂、蛇を巻き、髑髏を身につける
ご利益国家鎮護、敵国降伏
主な寺院秋篠寺(奈良)で年1回のみ公開

国家の危機に際して祈願された秘仏。一般公開されることは稀です。


明王 完全一覧表

五大明王

明王名読み方守護方角見分けポイント
不動明王ふどうみょうおう中央剣と縄、岩の上
降三世明王ごうざんぜみょうおう足元に2人を踏む
軍荼利明王ぐんだりみょうおう蛇が巻き付く、腕をX字
大威徳明王だいいとくみょうおう西水牛に乗る
金剛夜叉明王こんごうやしゃみょうおう正面の顔に5つの目
烏枢沙摩明王うすさまみょうおう北(天台)炎を纏う

八大明王(五大明王以外)

明王名読み方化身元の菩薩特徴
大輪明王だいりんみょうおう弥勒菩薩八輻の金剛輪を持つ
馬頭明王ばとうみょうおう観自在菩薩頭上に馬の頭
無能勝明王むのうしょうみょうおう地蔵菩薩釈迦の悟りを守護
歩擲明王ぶちゃくみょうおう普賢菩薩六道を渡り歩く

単独で信仰される明王

明王名読み方見分けポイントご利益
愛染明王あいぜんみょうおう全身赤色、日輪の光背恋愛成就、敬愛
孔雀明王くじゃくみょうおう孔雀に乗る、穏やかな表情病気平癒、除災
大元帥明王だいげんすいみょうおう六面八臂、蛇と髑髏国家鎮護

明王を見分けるコツ

お寺で明王像を見たとき、以下のポイントで見分けられます。

乗り物・持ち物で見分ける

  • 水牛に乗っている → 大威徳明王
  • 孔雀に乗っている → 孔雀明王
  • 剣と縄を持っている → 不動明王
  • 頭に馬がある → 馬頭明王

表情で見分ける

  • 穏やかな表情 → 孔雀明王(明王で唯一)
  • 忿怒の表情 → その他の明王

体の特徴で見分ける

  • 蛇が巻き付いている → 軍荼利明王
  • 足元に人を踏んでいる → 降三世明王
  • 全身が赤い → 愛染明王
  • 正面の顔に5つの目 → 金剛夜叉明王

明王を祀る主な寺院

寺院名所在地祀られている明王
東寺(教王護国寺)京都府五大明王(国宝・日本最古)
成田山新勝寺千葉県不動明王
大覚寺京都府五大明王
醍醐寺京都府五大明王図、八大明王図像
西大寺奈良県愛染明王
秋篠寺奈良県大元帥明王(年1回公開)
金剛峯寺和歌山県孔雀明王

まとめ

明王は、大日如来の命令を受けて人々を救う密教特有の仏さまです。

怖い顔をしているのは、力ずくでも救いたいという深い慈悲の表れ。

明王の主な分類

  • 五大明王:不動明王を中心に東西南北を守護
  • 八大明王:八大菩薩から出現した8柱
  • 単独で信仰される明王:愛染明王、孔雀明王など

お寺を訪れた際は、ぜひ明王像の姿をじっくり観察してみてください。

乗り物や持ち物、表情などの特徴から、どの明王か見分けられるようになりますよ。

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