海外ドラマを見ていると「身長6フィート」「体重180ポンド」なんて表現が出てきて、「結局どのくらいなの?」と混乱した経験はありませんか?
これらはすべてヤード・ポンド法という単位系で、世界のほとんどの国が使っているメートル法とはまったく違う考え方で作られています。なぜアメリカは今でもこの複雑な単位を使っているのか、そもそもヤード・ポンド法とは何なのか、詳しく見ていきましょう。
ヤード・ポンド法とは?基本を押さえよう

ヤード・ポンド法の定義
ヤード・ポンド法とは、長さの基本単位にヤード(yard)、重さの基本単位にポンド(pound)を使う単位系のことです。英語では「Imperial units(帝国単位)」または「US customary units(米国慣用単位)」と呼ばれます。
基本的な特徴:
- 非十進法:10進数ではなく、12や16といった数字で単位が変わります
- イギリス起源:もともとイギリスで発展した単位系です
- 体感ベース:人間の体や生活に基づいた単位が多いのが特徴
日本で使われているメートル法(メートル、グラム、キロメートルなど)とは根本的に考え方が異なるため、慣れないと換算が難しいんですね。
なぜ「ヤード・ポンド法」という名前?
この名前は、2つの基本単位から来ています。
ヤード(yard): 長さの基本単位で、約91.4センチメートル
ポンド(pound): 重さの基本単位で、約453.6グラム
この2つを組み合わせて「ヤード・ポンド法」と呼ばれるようになりました。
世界でヤード・ポンド法を使っている国は?
驚くべきことに、2025年現在、公式にヤード・ポンド法を主要な単位系として使っている国は実質的にアメリカだけです。
使用国の現状
アメリカ合衆国: 日常生活で広く使用
ミャンマー: 2013年にメートル法への移行を宣言
リベリア: 民間主導でメートル法への移行がほぼ完了
かつてはイギリスもヤード・ポンド法を使っていましたが、1965年からメートル法への移行を開始し、現在ではほぼメートル法に切り替わっています。
つまり、世界の主要国で今もヤード・ポンド法を使い続けているのはアメリカだけという状況なんです。
ヤード・ポンド法の単位一覧【長さ・重さ・容量】
具体的にどんな単位があるのか、カテゴリー別に見ていきましょう。
長さの単位
インチ(inch / in)
- 約2.54センチメートル
- 語源:親指の第一関節の長さ
- 使用例:テレビ画面のサイズ(50インチテレビなど)
フィート(feet / ft)
- 約30.48センチメートル
- 1フィート=12インチ
- 語源:成人男性の足のサイズ
- 使用例:身長(6フィート2インチなど)
ヤード(yard / yd)
- 約91.44センチメートル
- 1ヤード=3フィート=36インチ
- 語源:手を広げたときの指先から鼻先までの長さ
- 使用例:ゴルフの距離、アメリカンフットボールのフィールド
マイル(mile / mi)
- 約1.609キロメートル
- 1マイル=1,760ヤード=5,280フィート
- 語源:古代ローマの「1,000歩」
- 使用例:道路標識、車の速度(マイル毎時)
重さの単位
オンス(ounce / oz)
- 約28.35グラム
- 1ポンド=16オンス
- 語源:片手に一杯分の約4分の1
- 使用例:ボクシングのグローブ(10オンスグローブなど)
ポンド(pound / lb)
- 約453.6グラム
- 語源:人が1日に食べるパンの重さ
- 記号が「lb」なのは、古代ローマの重さの単位「リブラ(libra)」から来ています
- 使用例:体重、食材の重さ、ボクシングの階級
トン(ton)
アメリカとイギリスで異なります:
- ショートトン(米国):約907キログラム(2,000ポンド)
- ロングトン(英国):約1,016キログラム(2,240ポンド)
容量の単位
フルイドオンス(fluid ounce / fl oz)
- 約29.57ミリリットル(アメリカ)
- 使用例:飲料のサイズ
カップ(cup)
- 約237ミリリットル(アメリカ)
- 1カップ=8フルイドオンス
- 使用例:料理のレシピ
パイント(pint / pt)
- 約473ミリリットル(アメリカ)
- 1パイント=2カップ
- 使用例:ビールのサイズ
クォート(quart / qt)
- 約946ミリリットル(アメリカ)
- 1クォート=2パイント
- 使用例:牛乳の容器
ガロン(gallon / gal)
- 約3.785リットル(アメリカ)
- 約4.546リットル(イギリス)
- 1ガロン=4クォート
- 注意: アメリカとイギリスでガロンの大きさが違います
- 使用例:ガソリンの量
面積の単位
エーカー(acre)
- 約4,047平方メートル(約0.4ヘクタール)
- サッカーグラウンド約1個分
- 使用例:土地の広さ
ヤード・ポンド法の歴史【なぜ生まれたのか】
古代ローマからの流れ
ヤード・ポンド法のルーツは、なんと古代ローマ時代までさかのぼります。
古代エジプト・ローマ
↓
人間の体を基準にした単位が生まれる
↓
中世ヨーロッパ
↓
各地域で独自の単位が発展(混乱状態)
↓
イギリス
↓
統一を目指して「ヤード・ポンド法」が整備される
↓
アメリカ独立(1776年)
↓
イギリスから持ち込まれた単位をそのまま使用
イギリスとアメリカの分岐
1824年: イギリスが度量衡法を改訂し、「帝国単位(Imperial units)」を導入
1832年: アメリカが「米国慣用単位(US customary units)」を正式化
この時点で、同じルーツを持ちながら、イギリスとアメリカで微妙に違う単位系ができあがりました。特にガロンの大きさが異なるのはこのためです。
国際的な統一の試み
1959年7月1日: アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの6カ国が「国際ヤード・ポンド協定」に調印
この協定で、以下のように定義されました:
- 1ヤード=正確に0.9144メートル
- 1ポンド=正確に0.45359237キログラム
つまり、現在のヤード・ポンド法は、実はメートル法をもとに定義されているんです。
なぜアメリカは今でもヤード・ポンド法を使うのか?

世界中がメートル法に移行したのに、なぜアメリカだけが頑なにヤード・ポンド法を使い続けているのでしょうか。
理由1:切り替えコストが巨大
すでに国全体がヤード・ポンド法で動いているため、メートル法に切り替えるには莫大なコストがかかります。
具体的なコスト:
- 道路標識をすべて交換(数百万枚)
- 教育システムの全面的な変更
- 工業製品の規格変更
- 建設業界の図面や設計基準の変更
- 医療機器や薬品の表示変更
例えば: 「今日から日本語を使うのをやめて、全員英語で生活してください」と言われても無理ですよね。それと同じくらいの変革が必要なんです。
理由2:アメリカの戦略的な理由
アメリカにとって、ヤード・ポンド法を維持することにはビジネス上のメリットがあります。
航空業界の例:
- アメリカ製の航空機はヤード・ポンド法で設計されています
- この飛行機を買った国は、整備機材も設備もヤード・ポンド法で揃える必要があります
- すると、次に飛行機を買うときも「またアメリカ製を買った方が楽」となります
- 結果: アメリカ製品の囲い込みができる
これは、企業が独自規格を使って顧客を囲い込むのと似た戦略です。
理由3:実は法律上はメートル法も認められている
意外かもしれませんが、アメリカは1866年からメートル法の使用を認めています。1975年には「メートル法移行法」も成立しました。
ただし、義務ではなく任意だったため、結局普及しませんでした。科学や医療の分野ではメートル法が使われていますが、日常生活ではヤード・ポンド法が主流のままです。
理由4:文化的な愛着
アメリカ人にとって、ヤード・ポンド法は生活に深く根付いた文化の一部です。
- 身長を「5フィート10インチ」と言うのが当たり前
- 料理のレシピは「カップ」単位
- 気温は華氏(Fahrenheit)で表示
「メートル法に変えなければ」という危機感よりも、「慣れ親しんだ単位で十分」という意識が強いのです。
日常生活でヤード・ポンド法はどう使われている?
実際にアメリカではどんな場面でヤード・ポンド法が使われているのか、具体例を見てみましょう。
スポーツの世界
ゴルフ: ボールの飛距離はヤード
アメリカンフットボール: フィールドは100ヤード
ボクシング: 階級はポンド(フライ級112ポンド以下など)
野球: 球速はマイル毎時(時速90マイルの速球など)
バスケットボール: ゴールの高さは10フィート
電化製品
テレビ・モニター: 画面サイズはインチ(55インチテレビなど)
スマートフォン: 画面サイズはインチ(6.7インチディスプレイなど)
タイヤ: サイズはインチ(17インチホイールなど)
衣類・ファッション
ウエスト: パンツのサイズは30インチ、32インチなど
靴: サイズはインチ基準(日本とは異なる)
食品・料理
レシピ: カップ、テーブルスプーン、ティースプーンで表記
食材: ポンドで販売(1ポンドのステーキ肉など)
飲料: フルイドオンスで表示
航空・輸送
高度: フィート(10,000フィート上空など)
速度: ノット(海里毎時)
燃料: ガロン
重要ポイント: 航空業界は国際的にヤード・ポンド法(特にフィートとノット)が標準になっています。これは1930〜1950年代にアメリカ主導で国際的な航空システムが構築されたためです。
メートル法との換算方法【覚えておきたい数字】
ヤード・ポンド法を使う国と関わる際に便利な換算方法をご紹介します。
長さの換算
インチ → センチメートル
1インチ=約2.54センチメートル
例: 50インチテレビ=約127センチメートル
フィート → センチメートル
1フィート=約30.48センチメートル
例: 身長6フィート=約183センチメートル
ヤード → メートル
1ヤード=約0.91メートル
例: 100ヤード=約91メートル
マイル → キロメートル
1マイル=約1.61キロメートル
例: 時速60マイル=約時速97キロメートル
簡単な覚え方: 3マイル≒5キロメートルと覚えると便利です
重さの換算
オンス → グラム
1オンス=約28.35グラム
ポンド → グラム/キログラム
1ポンド=約453.6グラム=約0.45キログラム
例: 体重150ポンド=約68キログラム
簡単な覚え方: ポンドを2で割ると、だいたいのキログラムになります
容量の換算
フルイドオンス → ミリリットル
1フルイドオンス(米国)=約29.57ミリリットル
カップ → ミリリットル
1カップ(米国)=約237ミリリットル
ガロン → リットル
1ガロン(米国)=約3.79リットル
1ガロン(英国)=約4.55リットル
温度の換算
ヤード・ポンド法の国では、温度に華氏(Fahrenheit / °F)を使います。
華氏 → 摂氏
摂氏=(華氏−32)×5÷9
例:
- 華氏77度=摂氏25度(快適な室温)
- 華氏32度=摂氏0度(水の氷点)
- 華氏212度=摂氏100度(水の沸点)
日本でのヤード・ポンド法の扱い
日本では基本的にメートル法が法律で定められていますが、一部の例外があります。
日本で使用が認められているケース
日本の計量法では、以下の5つの場合に限り、ヤード・ポンド法の使用が認められています:
- 航空機の運航:高度、速度などにフィートやノットを使用
- 輸入商品:ヤード・ポンド法で表記された輸入品(法定単位を併記すれば販売可能)
- 在日米軍・国連軍:これらの組織が使用する場合
- 自衛隊の武器:武器の一部として使用する計量器
- 貿易:国際取引における使用
日本で見かけるヤード・ポンド法
テレビ・モニター: 画面サイズは今でもインチ表記
タイヤ: サイズはインチ(国際規格)
ゴルフ: 距離はヤード
パソコン部品: ハードディスク容量は「インチ」(3.5インチドライブなど)
ジーンズ: ウエストサイズがインチ(リーバイス501の32インチなど)
ヤード・ポンド法のメリット・デメリット
公平に見て、ヤード・ポンド法にはどんな特徴があるのでしょうか。
メリット
1. 日常生活に合っている
人間の体や生活に基づいた単位なので、感覚的に分かりやすい面があります。
- 1フィート=足のサイズ
- 1インチ=親指の幅
- 1ポンド=1日分のパンの重さ
2. 細かい分割がしやすい
12進法や16進法を使うため、割り算しやすい場合があります。
例: 1フィート=12インチなので、2等分、3等分、4等分、6等分がすべてきれいな整数になります
デメリット
1. 換算が複雑
単位間の換算が不規則で覚えにくいです。
- 1マイル=1,760ヤード(なぜ1,760?)
- 1ポンド=16オンス(なぜ16?)
- 1ガロン=4クォート=8パイント(複雑すぎる)
2. 科学技術に不向き
計算が複雑になるため、科学や工学では使いにくいです。そのため、アメリカでも科学分野ではメートル法が使われています。
3. 国際的な互換性がない
世界の大半がメートル法を使っているため、国際的なやり取りで不便が生じます。
有名な事故例: 1999年、NASAの火星探査機が大気圏で消失した原因の一つが、ある部品メーカーがヤード・ポンド法で、別のチームがメートル法で計算していたことでした。
イギリスの現状【メートル法への移行】
ヤード・ポンド法の本家であるイギリスは、どうなっているのでしょうか。
イギリスの移行状況
1965年: メートル法への移行を開始
現在: 基本的にメートル法が主流だが、一部にヤード・ポンド法が残存
イギリスで今も使われているヤード・ポンド法:
- 道路標識の距離(マイル)
- 車の速度(マイル毎時)
- パブで提供されるビール(パイント)
- 体重(ストーン:14ポンド=約6.4キログラム)
つまり、イギリスはメートル法とヤード・ポンド法が混在している状態です。ただし、公式な計測や取引ではメートル法が使われています。
よくある質問
Q1:なぜポンドの記号は「lb」なの?
古代ローマの重さの単位「リブラ(libra)」から来ています。リブラの略号が「lb」で、これがそのまま英語のポンド(pound)の記号として使われ続けています。
Q2:ヤード・ポンド法とフィート・ポンド法は同じ?
ほぼ同じものです。「フィート・ポンド法」という呼び方もありますが、一般的には「ヤード・ポンド法」と呼ばれます。
Q3:カナダはどちらの単位を使っている?
カナダは1970年代にメートル法に移行しました。ただし、アメリカの影響が強いため、建設業界など一部の分野ではヤード・ポンド法も使われています。
Q4:オーストラリアやニュージーランドは?
両国とも完全にメートル法に移行しています。イギリス連邦の国々の多くは、1960年代〜1980年代にメートル法への切り替えを完了しました。
Q5:日本でヤード・ポンド法を使うのは違法?
日本の計量法では、取引や証明にヤード・ポンド法を使うことは原則として禁止されています。ただし、前述の5つの例外(航空機の運航、輸入品など)は認められています。
個人的な会話で「身長5フィート10インチです」と言うのは問題ありません。
Q6:メートル法はいつ生まれたの?
1795年、フランス革命後のフランスで最初に制定されました。当時のフランスには25万種類もの単位があり、混乱していたため、統一された科学的な単位系として「メートル法」が開発されました。
1メートルの定義: 北極から赤道までの距離(パリ経由)の1,000万分の1
この科学的で合理的な単位系が、19世紀から20世紀にかけて世界中に広まっていきました。
まとめ:ヤード・ポンド法を理解して国際感覚を身につけよう
ヤード・ポンド法は、現在では実質的にアメリカだけが使い続けている独特な単位系です。
ヤード・ポンド法のポイント:
- 長さはヤード、重さはポンドが基本単位
- 非十進法で換算が複雑
- 人間の体や生活に基づいた単位
- 古代ローマ時代から続く長い歴史がある
- 世界の主要国では実質アメリカのみが使用
- 切り替えコストの大きさと戦略的理由でアメリカは維持
- 航空業界など特定分野では国際的に使用
- 日本では原則禁止だが5つの例外がある
主な換算:
- 1インチ=約2.54センチメートル
- 1フィート=約30.48センチメートル
- 1ヤード=約91.44センチメートル
- 1マイル=約1.61キロメートル
- 1ポンド=約453.6グラム
アメリカの映画やドラマ、スポーツ、ニュースを楽しむなら、ヤード・ポンド法の基本を押さえておくと理解が深まります。「時速60マイルで走っている」と聞いたら「だいたい時速100キロくらいだな」とすぐにイメージできるようになると便利ですよ!
グローバル化が進む現代でも、こうした文化の違いを知ることは、国際感覚を磨く第一歩です。

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