Slackのワークフロービルダーで、「申請内容によって承認者を変えたい」「問い合わせ種別で担当チームに自動振り分けしたい」と思ったことはありませんか?
そんな複雑な自動化を可能にするのが、条件分岐(ブランチ)機能です。コードを一切書かずに、if文のような条件ロジックを設定できます。
この記事では、Slackワークフローの条件分岐について、基礎知識から設定方法、実践的な活用例、トラブルシューティングまで詳しく解説します。初心者の方でも分かりやすく、すぐに実践できる内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。
条件分岐とは?基本を理解しよう
まず、ワークフローの条件分岐の基本概念を確認しましょう。
条件分岐の定義
条件分岐(ブランチ、Conditional Branching)とは、ワークフロー内で特定の条件に応じて、異なる処理ルートに振り分ける機能です。
プログラミングの「if文」と同じような役割を、ノーコードで実現できます。
イメージ:
ワークフロー開始
↓
フォーム送信
↓
【条件分岐】優先度は?
├─ 高 → 管理者に即座に通知
├─ 中 → 担当者に通知
└─ 低 → リストに記録のみ
条件分岐がない場合の問題
条件分岐機能がなかった時代は、以下のような問題がありました:
問題1:複数のワークフローを作る必要がある
- 営業部向けのワークフロー
- 開発部向けのワークフロー
- 管理部向けのワークフロー
同じようなワークフローを3つも管理する必要がある…
問題2:柔軟な対応ができない
ユーザーの選択や入力内容に応じて、処理を変えることができない。
問題3:メンテナンスが大変
変更があると、すべてのワークフローを修正しなければならない。
条件分岐のメリット
条件分岐を使うと、これらの問題がすべて解決します。
メリット1:1つのワークフローで複数パターンに対応
部門や状況に応じて自動的に処理を振り分けられます。
メリット2:柔軟で動的な自動化
ユーザーの回答やデータに基づいて、リアルタイムで最適な処理を実行できます。
メリット3:メンテナンスが楽
1つのワークフローを管理するだけで済みます。
メリット4:高度な承認フロー
多段階の承認プロセスや、条件付き承認を実現できます。
条件分岐の利用条件と制限
条件分岐を使う前に、確認しておくべき事項があります。
利用可能なプラン
条件分岐は、以下のプランでのみ利用可能です:
- Business+プラン(新しいバージョン)
- Enterprise Gridプラン
無料プランやProプランでは利用できません。
確認方法
Business+プランを使っているのに条件分岐が表示されない場合:
- ワークスペースが新しいバージョンのBusiness+で動作しているか確認
- 表示されない場合は、Slackサポートチームに問い合わせ
条件分岐の数の制限
第1層(メインの分岐):
- 最大15個の条件分岐を設定可能
第2層(ネストした分岐):
- メインの分岐の下に、さらに最大5個の条件分岐を設定可能
各分岐内のルール:
- 1つの分岐内に最大10個のカスタムルールを設定可能
対応している条件の種類
条件分岐で使える条件は、ワークフローの構成によって異なりますが、主に以下が利用可能です:
- ボタンの選択(承認/却下など)
- フォームの回答(テキスト、選択肢など)
- ユーザー情報(部門、役職など)
- 変数の値(文字列、数値、真偽値)
条件分岐の設定方法(ステップバイステップ)
実際に条件分岐を設定する手順を詳しく説明します。
前提:ワークフローを準備する
条件分岐を追加する前に、基本的なワークフローを作成しておく必要があります。
必要な準備:
- トリガー(ワークフローの開始方法)が設定されている
- フォームやボタンなど、条件判定の元となるステップがある
手順1:ワークフロービルダーを開く
デスクトップアプリでの操作:
- サイドバーの「その他」にマウスを合わせる
- 「自動化」をクリック
- 「ワークフロー」を選択
新規作成の場合:
- 「新しいワークフロー」をクリック
既存ワークフローに追加の場合:
- 「あなたが管理」をクリック
- 編集したいワークフローの横にある鉛筆アイコンをクリック
手順2:分岐を追加したい位置を選ぶ
- ワークフロー内で、条件分岐を追加したい位置の「ステップを追加」をクリック
ポイント:
条件分岐は、通常、フォームやボタンなど、ユーザーの入力を受け取った直後に配置します。
手順3:分岐ステップを選択
- サイドバーの「ユーティリティ」をクリック
- 「分岐を追加」を選択
手順4:条件を設定する
「次を満たす時のみ続行:」という項目が表示されます。
- 条件の種類を選択(例:「フォームの回答」「ボタンの選択」など)
- 具体的な条件を設定
例:フォームの回答で分岐する場合
次を満たす時のみ続行:
[フォームの質問:優先度] が [高] と等しい
利用可能な比較演算子:
- 等しい(=)
- 等しくない(≠)
- 含む
- 含まない
- より大きい(>)
- より小さい(<)
- 真(true)
- 偽(false)
手順5:分岐に名前と色をつける(オプション)
分岐を分かりやすくするために:
- 名前を入力(例:「高優先度」「営業部」「承認ルート」)
- カスタムカラーを選択(視覚的に区別しやすくなる)
手順6:分岐を保存
- 「保存」をクリック
これで1つ目の分岐が作成されます。
手順7:分岐内にステップを追加
作成した分岐の中に、実行したいアクションを追加します。
例:
- メッセージを送信
- チャンネルに通知
- Google Sheetsに記録
- 承認リクエスト
- 分岐内の「ステップを追加」をクリック
- 実行したいアクションを選択して設定
手順8:追加の分岐を作成(必要に応じて)
複数の分岐が必要な場合:
- 最初の分岐の外側で「分岐を追加」をクリック
- 手順3〜7を繰り返す
最大15個まで分岐を追加できます。
手順9:フォールバック(デフォルト)を設定
「どの条件にも当てはまらない場合」の処理を設定できます。
- すべての分岐の下に「そうでない場合」(Else)の分岐が自動的に追加される
- この分岐にもステップを追加可能
例:
「該当する選択肢がありません」というメッセージを送信
手順10:ワークフローを公開
すべての設定が完了したら:
- 「完了」(新規作成の場合)または「変更を公開」(編集の場合)をクリック
これでワークフローが公開され、利用可能になります。
条件分岐の実践的な活用例
具体的な業務シーンでの条件分岐の使い方をご紹介します。
活用例1:サポートリクエストの自動振り分け
シーン:
社内ヘルプデスクで、問い合わせ内容に応じて適切なチームに自動振り分けしたい。
ワークフローの設計:
- トリガー: #ヘルプデスク チャンネルのリンクをクリック
- フォーム: 「問題の種類」を選択
- 技術的な問題
- 経費精算
- 備品の貸出
- その他
- 条件分岐:
- 「技術的な問題」→ #ITサポート チャンネルに通知
- 「経費精算」→ #経理チーム チャンネルに通知
- 「備品の貸出」→ #総務チーム チャンネルに通知
- 「その他」→ #ヘルプデスク-その他 チャンネルに通知
- 確認メッセージ: リクエスト者に受付完了を通知
メリット:
- 手作業での振り分けが不要
- 適切なチームに即座に届く
- 対応漏れを防止
活用例2:多段階承認ワークフロー
シーン:
経費申請で、金額に応じて承認者を変えたい。
ワークフローの設計:
- トリガー: 経費申請フォームを送信
- フォーム: 金額、用途、領収書などを入力
- 条件分岐(第1層): 金額で分岐
- 5,000円未満 → 直属の上司に承認依頼
- 5,000円以上 → 直属の上司+部長に承認依頼(第2層の分岐へ)
- 条件分岐(第2層、5,000円以上の場合):
- 上司が承認 → 部長に承認依頼
- 上司が却下 → 申請者に却下通知
- 最終通知: 承認/却下結果を申請者に通知
- 記録: Google Sheetsに記録
メリット:
- 金額に応じた適切な承認ルート
- 承認プロセスの透明化
- 承認状況の追跡が容易
活用例3:インシデント管理(重要度別対応)
シーン:
システム障害の報告で、重要度に応じて対応を変えたい。
ワークフローの設計:
- トリガー: #障害報告 チャンネルのショートカット
- フォーム:
- 障害の内容
- 影響範囲
- 重要度(緊急/高/中/低)
- 条件分岐:
- 緊急 → CTO、開発リーダー、運用チーム全員に即座に通知+電話連絡
- 高 → 開発リーダー、運用チームに通知
- 中 → 運用チームに通知
- 低 → #障害ログ チャンネルに記録のみ
- チケット作成: JiraやAsanaに自動でチケット作成
- 状況確認: 30分後に対応状況を確認するリマインド
メリット:
- 重要度に応じた迅速な対応
- エスカレーションの自動化
- 対応漏れの防止
活用例4:新入社員オンボーディング(部門別)
シーン:
新入社員の配属部門に応じて、異なるオンボーディング資料を送りたい。
ワークフローの設計:
- トリガー: 新メンバーがワークスペースに参加
- フォーム: 配属部門を選択
- 条件分岐:
- 営業部 → 営業部専用のウェルカムメッセージ+営業資料
- 開発部 → 開発部専用のウェルカムメッセージ+開発環境セットアップガイド
- 管理部 → 管理部専用のウェルカムメッセージ+社内規則
- 共通ステップ: 全員に共通の会社案内を送信
- チャンネル招待: 部門別の専用チャンネルに自動招待
メリット:
- 部門に応じたカスタマイズ
- 手作業の削減
- 一貫したオンボーディング体験
活用例5:アンケート結果に基づくフォローアップ
シーン:
顧客満足度調査の結果に応じて、フォローアップを変えたい。
ワークフローの設計:
- トリガー: アンケートフォームを送信
- フォーム: 満足度(1〜5段階)、コメント
- 条件分岐:
- 5(非常に満足) → お礼メッセージ+レビュー依頼
- 4(満足) → お礼メッセージ
- 3(普通) → カスタマーサクセスチームに通知
- 1〜2(不満) → カスタマーサクセスチーム+マネージャーに即座に通知+フォローアップ
- 記録: すべての回答をGoogle Sheetsに記録
メリット:
- 満足度に応じた適切な対応
- 不満の早期発見とフォローアップ
- 顧客体験の向上
高度なテクニック
さらに条件分岐を活用するための高度なテクニックをご紹介します。
テクニック1:ネストした条件分岐
条件分岐の中に、さらに条件分岐を追加できます(最大2層)。
例:経費申請
第1層:金額で分岐
├─ 5,000円未満 → 上司承認のみ
└─ 5,000円以上
└─ 第2層:用途で分岐
├─ 接待費 → 上司+部長+CFO承認
└─ その他 → 上司+部長承認
テクニック2:複数条件の組み合わせ
1つの分岐内で、最大10個のルールを設定できます。
例:VIP顧客の判定
次を満たす時のみ続行:
- [年間購入額] が [100万円] より大きい
AND
- [契約年数] が [3年] より大きい
テクニック3:ボタンを使った複数選択肢
最大5つの継続ボタンを設定し、それぞれを異なる分岐に割り当てられます。
例:承認ワークフロー
ボタン:
├─ 承認 → 承認処理の分岐
├─ 条件付き承認 → コメント入力+承認処理
├─ 却下 → 却下理由入力+却下通知
├─ 保留 → 保留理由入力+リマインド設定
└─ 差し戻し → 申請者に修正依頼
テクニック4:変数を活用した動的な処理
フォームの回答や他のステップの結果を変数として使い、条件判定に利用できます。
例:
{{フォームの回答:部門名}} が "営業部" と等しい
テクニック5:フォールバックの活用
「どの条件にも当てはまらない」場合の処理を必ず設定しましょう。
推奨される使い方:
- エラーメッセージを送信
- デフォルトの担当者に通知
- ログに記録して後で確認
よくある質問
Q1. 条件分岐は無料プランで使えますか?
いいえ、Business+プラン以上でのみ利用可能です。
無料プランやProプランでは利用できません。
Q2. 条件分岐はいくつまで追加できますか?
第1層:最大15個
第2層(ネスト):最大5個
合計で複雑なフローを構築できます。
Q3. 条件分岐の中に、さらに条件分岐を作れますか?
はい、2層までネストできます。
第1層の分岐の中に、さらに最大5つの第2層分岐を追加可能です。
Q4. 複数の条件を組み合わせることはできますか?
はい、1つの分岐内に最大10個のルールを設定できます。
AND条件やOR条件で組み合わせることも可能です。
Q5. フォームの回答以外でも条件分岐できますか?
はい、以下の様々な条件で分岐できます:
- ボタンの選択
- テキスト入力の内容
- ユーザー情報
- 変数の値
- 絵文字リアクション
Q6. 条件分岐が正しく動作しているか確認する方法は?
- ワークフローを公開後、テスト実行
- 「アクティビティ」から実行ログを確認
- 各分岐が意図通りに実行されているかチェック
Q7. 既存のワークフローに条件分岐を追加できますか?
はい、既存のワークフローを編集して条件分岐を追加できます。
- ワークフローの編集画面を開く
- 追加したい位置で「ステップを追加」
- 「分岐を追加」を選択
Q8. 条件分岐の順番を変更できますか?
はい、ドラッグ&ドロップで順番を変更できます。
ワークフロービルダーの画面で、分岐をドラッグして並び替えます。
トラブルシューティング
条件分岐でよくある問題と解決方法です。
問題1:「分岐を追加」が表示されない
原因:
- Business+プランではない
- ワークスペースが新しいバージョンではない
解決方法:
- プランを確認(設定 → 請求)
- Business+を使っている場合は、Slackサポートに連絡して新しいバージョンへの移行を依頼
問題2:条件分岐が意図通りに動作しない
原因:
- 条件の設定ミス
- 変数名の誤り
- 比較演算子の選択ミス
解決方法:
- 条件設定を再確認
- テスト実行して、アクティビティログを確認
- 変数名を正確に入力(スペースや大文字小文字に注意)
問題3:フォールバック(デフォルト)分岐が実行されてしまう
原因:
すべての条件に当てはまらない入力がある。
解決方法:
- 条件をより包括的に設定
- 「含む」演算子を活用
- フォールバック分岐で詳細なログを記録し、どのようなケースがあるか確認
問題4:分岐が多すぎて管理できない
原因:
15個の分岐すべてを使っている。
解決方法:
- 条件を統合できないか検討
- 複数の条件をまとめる
- 別のワークフローに分割することも検討
問題5:ボタンが期待通りに分岐しない
原因:
ボタンと分岐の紐付けが正しくない。
解決方法:
- ボタンステップの設定を確認
- 各ボタンが正しい分岐に割り当てられているか確認
- ボタンのラベルと条件が一致しているか確認
問題6:変数が正しく取得されない
原因:
- 変数名の誤り
- ステップの順序が間違っている(変数が定義される前に使っている)
解決方法:
- 変数は {{}} で囲む
- 変数名をコピー&ペーストで正確に入力
- 変数を使う分岐は、変数が定義されたステップの後に配置
まとめ
Slackワークフローの条件分岐について、設定方法から活用例まで詳しく解説しました。
条件分岐の重要ポイント:
- 定義: 特定の条件に応じて処理を振り分ける機能(if文のノーコード版)
- 利用条件: Business+プラン以上でのみ利用可能
- 制限: 第1層15個、第2層5個、各分岐内10ルールまで
- 主な用途: サポート振り分け、承認フロー、インシデント管理、オンボーディング
設定の基本手順:
- ワークフロービルダーを開く
- 「ステップを追加」→「ユーティリティ」→「分岐を追加」
- 条件を設定(フォーム、ボタン、変数など)
- 分岐内にアクションを追加
- 必要に応じて追加の分岐を作成
- フォールバック(デフォルト)を設定
- ワークフローを公開
活用のコツ:
- 1つのワークフローで複数パターンに対応
- ネストした分岐で複雑なロジックを実現
- ボタンで直感的な選択肢を提供
- フォールバックで予期しないケースにも対応
- テスト実行とログ確認で動作を検証
条件分岐は、Slackワークフローを単純な自動化から、高度な業務プロセスの自動化へと進化させる強力な機能です。
この記事を参考に、ぜひ条件分岐を活用して、チームの生産性向上を実現してください。コーディング不要で、誰でも複雑な自動化を構築できるのがSlackワークフローの魅力です。
快適な業務自動化をお楽しみください!


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