映画やゲーム、アニメで「フレイヤ」「フリッグ」という名前を聞いたことはありませんか?
これらはすべて、古代北欧(スカンジナビア)で信仰されていた神話に登場する女神たちの名前です。
北欧神話には、愛と美を司るフレイヤ、神々の女王フリッグ、冥界を支配するヘルなど、個性豊かな女神たちが登場します。ギリシャ神話の女神たちとは一味違う、厳しい北国の自然を反映した力強い女神たちばかりなんです。
「名前は知っているけど、どんな女神なの?」「それぞれの違いがよくわからない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、北欧神話に登場する女神たちを、役割や神話エピソードとともに詳しくご紹介します。
北欧神話の女神って何?

北欧神話の基本
北欧神話は、主に『エッダ』という文献に記されています。
『エッダ』には二種類あり、『詩のエッダ(古エッダ)』と『散文のエッダ(スノッリのエッダ)』があります。これらは13世紀のアイスランドでまとめられたもので、それ以前は口承で伝えられてきました。
古代の北欧の人々(ヴァイキング時代の人々)は、自然現象や人の営みを「神々の行い」として理解していたんです。
二つの神族:アース神族とヴァン神族
北欧神話の神々は、大きく二つのグループに分かれます。
アース神族(Æsir)
- オーディン、トール、フリッグなどが所属
- 戦争や支配、知恵などを司る
- 神々の国アースガルズに住む
ヴァン神族(Vanir)
- フレイヤ、フレイ、ニョルズなどが所属
- 豊穣や自然、魔法などを司る
- かつてアース神族と戦争していた
二つの神族は長い間争っていましたが、やがて和解し、人質を交換しました。このときヴァン神族からアース神族に送られたのが、フレイヤとその父ニョルズ、兄フレイだったのです。
女神が司る主な分野
北欧神話の女神たちは、以下のような分野を担当していました。
- 愛と美、豊穣(フレイヤ)
- 結婚と家庭、予言(フリッグ)
- 若さと不死(イズン)
- 冬と狩猟(スカジ)
- 死と冥界(ヘル)
- 大地と収穫(シヴ)
最も重要な女神たち

フレイヤ(Freyja)──愛と美と魔法の女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | ヴァナディース(ヴァン神族の女神) |
| 司る分野 | 愛、美、豊穣、戦争、魔法、死 |
| 所属 | ヴァン神族(のちにアース神族に合流) |
| 象徴 | 猫、隼の羽衣、首飾りブリーシンガメン |
| 住処 | フォールクヴァングル(戦死者の野) |
どんな女神?
フレイヤは北欧神話で最も人気のあった女神です。
「フレイヤ」という名前は古ノルド語で「貴婦人」を意味します。実は本名ではなく称号なんです。現代ドイツ語の「Frau(婦人)」もこの言葉から来ています。
彼女はヴァン神族の出身で、海の神ニョルズの娘。双子の兄フレイと共に、アース神族との和平の証として人質に出されました。でも、その美しさと力から、アース神族の中でも最も敬われる女神の一人になったのです。
フレイヤの特徴と能力
フレイヤには多くの顔があります。
愛と美の女神として
北欧で最も美しい女神とされ、人間の恋愛の悩みに積極的に耳を傾けてくれました。恋愛問題で祈願すれば喜んで助けてくれるとされ、多くの人々に愛されていたんです。
戦いの女神として
意外かもしれませんが、フレイヤは戦争とも深く関わっていました。戦場で死んだ勇敢な戦士たちの半分を、自分の館セッスルームニルに迎え入れる権利を持っていたのです。残りの半分はオーディンのヴァルハラへ行きました。
なぜ主神オーディンと対等に戦死者を分け合えたのでしょうか?
一説には、フレイヤがヴァルキューレ(戦乙女)たちのリーダーだったからとも言われています。
魔法の女神として
フレイヤはセイズ(seiðr)という魔法の達人でした。この魔法は未来を見通し、運命を操る力を持っていたんです。彼女がこの魔法をアース神族に伝え、なんとオーディンにも教えたとされています。
フレイヤの持ち物
フレイヤはいくつかの魔法のアイテムを持っていました。
- ブリーシンガメン:小人族(ドワーフ)が作った黄金の首飾り。この世で最も美しい宝物とされました。
- 隼の羽衣:身につけると隼に変身できる魔法のマント。他の神々に貸し出すこともありました。
- 猫の戦車:二匹の大きな猫が引く戦車。これに乗って戦場や葬儀に駆けつけました。
有名なエピソード:ブリーシンガメンを手に入れた話
ある日、フレイヤは四人の小人(ドワーフ)たちが作った美しい首飾りを見て、どうしても欲しくなりました。
小人たちは「それぞれ一夜を共にしてくれるなら」という条件を出します。フレイヤは迷わず承諾し、四夜を過ごして首飾りを手に入れました。
この行動は後にロキに利用され、オーディンに告げ口されてしまいます。でも、フレイヤは首飾りを手放すことはありませんでした。
フリッグとの関係
実は、フレイヤとフリッグ(オーディンの妻)は同一の女神だったという説があります。
その根拠として挙げられるのが以下の点です。
- フレイヤの夫「オーズ」の名前がオーディンと似ている
- 両者とも愛と豊穣を司る
- 両者とも隼の羽衣を持っている
- 金曜日(Friday)の語源が「フレイヤの日」または「フリッグの日」とされる
学者の間では、元々は一つの女神だったものが、時代と共に二つに分かれたのではないかと考えられています。
現代への影響
- 金曜日「Friday」は「フレイヤの日」または「フリッグの日」が語源
- ゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズでは主要キャラクターとして登場
- 多くのファンタジー作品で愛と美の女神のモデルに
フリッグ(Frigg)──神々の女王
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | フリッカ、フリーン |
| 司る分野 | 結婚、家庭、母性、予言 |
| 所属 | アース神族 |
| 配偶者 | オーディン(主神) |
| 住処 | フェンサリル |
どんな女神?
フリッグは北欧神話における最高位の女神です。
主神オーディンの正妻であり、光の神バルドルの母。オーディンと共に玉座フリズスキャールヴに座る権利を持つ、唯一の女神でした。
フレイヤが華やかで奔放なイメージなのに対し、フリッグは物静かで賢い母親というイメージで描かれています。
フリッグの能力
予言の力
フリッグは優れた予言の能力を持っていました。過去・現在・未来のすべてを見通すことができたとされています。
でも、決して口にすることはありませんでした。この沈黙を守る姿勢から、彼女の冠にはサギの羽が差してあり、これが「沈黙の象徴」とされるようになったんです。
魔法の力
フレイヤと同じく、セイズという魔法に長けていました。また、隼に変身できる羽衣も持っていたとされています。
有名なエピソード:バルドルの死
フリッグにまつわる最も有名なエピソードは、息子バルドルを守ろうとした母の愛の物語です。
バルドルは光り輝く美しい神で、誰からも愛されていました。ところがある日、バルドルは自分が死ぬ不吉な夢を見ます。
心配したフリッグは、世界中のあらゆるもの──火、水、金属、石、大地、木、病気、獣、鳥、蛇──に「バルドルを傷つけない」と誓わせました。
ところが、ヤドリギだけは若すぎて誓わせることができなかったのです。
この弱点を知ったロキは、盲目の神ホズルに「ヤドリギの矢」を渡し、バルドルに向けて投げさせます。矢はバルドルに命中し、彼は命を落としてしまいました。
フリッグは息子を冥界から取り戻そうと奔走しましたが、またしてもロキの妨害により失敗します。この悲劇は、世界の終末「ラグナロク」への引き金となったのです。
フレイヤとの違い
| 項目 | フリッグ | フレイヤ |
|---|---|---|
| 性格 | 物静か、賢明 | 情熱的、奔放 |
| 役割 | 母、妻 | 恋人、戦士 |
| 神族 | アース神族 | ヴァン神族(元) |
| 関心事 | 家庭、結婚 | 愛、美、戦争 |
スカジ(Skaði)──冬と狩猟の女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | スキーの女神、雪靴の女神 |
| 司る分野 | 冬、狩猟、山、スキー |
| 出身 | 巨人族(ヨトゥン) |
| 配偶者 | ニョルズ(離婚)、のちにオーディン |
| 住処 | スリュムヘイム(父から受け継いだ山の館) |
どんな女神?
スカジは北欧神話の中でも異色の存在です。
彼女は元々巨人族(ヨトゥン)の出身でした。でも結婚によってアース神族の一員となり、女神として崇められるようになったんです。
「スカンジナビア」という地名は、スカジの名前から来ているという説もあります。
スカジの物語:父の復讐
スカジの父スィアチは強大な巨人でした。
ある日、スィアチはロキを脅し、女神イズンとその黄金のリンゴを誘拐させます。しかし神々の反撃に遭い、鷲の姿で追いかけているところを焼き殺されてしまいました。
父の死を知ったスカジは激怒します。
完全武装でアースガルズに乗り込み、復讐を宣言しました。たった一人で神々全員に立ち向かおうとしたのです。
足だけで夫を選ぶ
神々はスカジと戦うことを避け、代わりに補償を申し出ました。その条件は三つ。
- 神々の中から夫を選ぶこと(ただし足だけを見て選ぶ)
- スカジを笑わせること
- 父の目を星座にすること
スカジは最も美しい足の持ち主を選びました。それは美しい神バルドルだと思ったのですが、実際には海の神ニョルズでした。海に足を浸しているニョルズの足は、とても清潔で美しかったのです。
うまくいかなかった結婚
スカジとニョルズの結婚は長く続きませんでした。
問題は住む場所の違いです。
- スカジは雪深い山のスリュムヘイムに住みたかった
- ニョルズは海辺のノアトゥンに住みたかった
二人は交互に9日ずつ相手の住処で過ごすことにしましたが、どちらも相手の場所に馴染めませんでした。
ニョルズは「山の狼の遠吠えが眠れない」と嘆き、スカジは「海鳥の鳴き声がうるさくて眠れない」と嘆いたのです。結局、二人は別れることになりました。
ロキへの復讐
スカジは父の死の間接的な原因となったロキを許しませんでした。
後に神々がロキを罰したとき、スカジは毒蛇を彼の頭上に吊るし、永遠に毒液が滴り落ちるようにしたのです。
現代への影響
- ノルウェーでは「スキーの女神」として親しまれている
- ギリシャ神話のアルテミスと多くの共通点がある
- 「スカンジナビア」の語源という説がある
イズン(Iðunn)──若さの女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | イドゥン、イズーナ |
| 司る分野 | 若さ、不死、春、再生 |
| 所属 | アース神族 |
| 配偶者 | ブラギ(詩の神) |
| 象徴 | 黄金のリンゴ |
どんな女神?
イズンは北欧神話において神々の若さを守る重要な役割を担っていました。
彼女の名前「Iðunn」は「再び若返る」という意味を持ちます。まさに名前の通りの女神なんです。
詩の神ブラギの妻で、無邪気でお人好しな性格だったとされています。でも、いざというときには賢く強かな一面も見せました。
黄金のリンゴ
イズンの最も重要な役割は、黄金のリンゴ(若返りのリンゴ)の管理でした。
このリンゴを食べると、永遠の若さを保つことができます。北欧神話の神々は、実は不老不死ではなく、定期的にこのリンゴを食べることで若さを保っていたのです。
リンゴはトネリコの木で作られた箱に保管されていました。不思議なことに、いくら取り出しても箱の中のリンゴの数は減らなかったといいます。
そして、このリンゴを摘み取ることができるのはイズンただ一人。最高神オーディンでさえ、彼女の許可なくリンゴに触れることはできませんでした。
有名なエピソード:イズン誘拐事件
イズンにまつわる最も有名な物語は、巨人スィアチによる誘拐事件です。
ある日、オーディン、ロキ、ヘーニルの三人が旅をしていたとき、大鷲に姿を変えたスィアチに出会いました。
ロキはスィアチに捕まり、解放の条件として「イズンと黄金のリンゴをアースガルズの外に連れ出す」ことを約束させられます。
お人好しのイズンは、ロキの嘘「ビフレストの橋を越えた森に、同じようなリンゴがある」を信じてしまい、アースガルズの外に出てしまいました。そこで待ち構えていたスィアチに、リンゴごと攫われてしまったのです。
神々の危機
イズンがいなくなると、神々は急速に老い始めました。
髪は白くなり、肌はしわだらけになり、力は衰えていきます。神々は慌てて会議を開き、最後にイズンと一緒にいたロキを問い詰めました。
脅されたロキは、フレイヤから隼の羽衣を借りて巨人の国へ向かいます。スィアチが留守の隙に、イズンを木の実に変えて爪に掴み、必死で飛んで帰りました。
追いかけてきたスィアチは、アースガルズの壁で神々が用意した火に翼を焼かれて墜落。神々に討ち取られました。
無事に戻ったイズンからリンゴをもらった神々は、再び若さを取り戻しました。イズン自身も「もう木の実じゃなくなった」と喜んだといいます。
ヘル(Hel)──冥界の女王
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | ヘラ |
| 司る分野 | 死、冥界 |
| 出身 | 巨人族(ロキの娘) |
| 住処 | ヘルヘイム(ニヴルヘイムの一部) |
| 兄弟 | フェンリル(巨狼)、ヨルムンガンド(世界蛇) |
どんな女神?
ヘルは冥界の支配者です。
彼女の名前は「隠す者」を意味し、英語の「hell(地獄)」の語源になったとされています。
ヘルは悪神ロキと女巨人アングルボザの間に生まれた三人兄弟の一人。兄には巨狼フェンリル、弟には世界を取り巻く大蛇ヨルムンガンドがいます。
特異な外見
ヘルの外見はとても特徴的でした。
体の半分は普通の人間の肌色、もう半分は青黒い色(または腐敗した死体の色)をしていたとされています。
この異様な姿のため、オーディンは彼女をアースガルズから追放し、ニヴルヘイム(霧と氷の国)の奥深くに送り込みました。そこで彼女は死者の国「ヘルヘイム」の支配を任されたのです。
ヘルヘイムとは
ヘルヘイムは、戦死しなかった者が行く死後の世界です。
北欧の死後観では、戦場で勇敢に死んだ者はオーディンのヴァルハラやフレイヤのフォールクヴァングルに迎えられました。一方、病気や老衰で死んだ者は、ヘルヘイムへ送られたのです。
ヘルヘイムに入るには、血に染まった川ギョルを渡り、番犬ガルムが守る門を通らなければなりません。そこは寒く暗い場所で、ヘルは「飢え」という名の皿と「飢餓」という名のナイフを使って食事をしていたといいます。
バルドルとの関わり
ヘルが神話で最も重要な役割を果たすのは、バルドルの死のエピソードです。
ロキの策略で殺されたバルドルは、戦死ではなかったためヘルヘイムに送られました。バルドルを取り戻すため、オーディンの息子ヘルモーズが冥界へ向かいます。
ヘルは条件を出しました。
「世界中のあらゆるものがバルドルのために泣くなら、彼を返してもよい」
神々は世界中に使者を送り、すべての生き物にバルドルのために泣くよう頼みました。そしてほぼすべてのものが泣いたのですが、たった一人の巨女(実はロキの変装)だけが泣くことを拒否したのです。
こうしてバルドルは冥界に留まることになり、これが世界の終末ラグナロクへとつながっていきました。
その他の重要な女神たち

シヴ(Sif)──黄金の髪の女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 司る分野 | 大地、収穫、豊穣 |
| 所属 | アース神族 |
| 配偶者 | トール(雷神) |
| 象徴 | 黄金の髪 |
どんな女神?
シヴは雷神トールの妻で、その黄金に輝く美しい髪で知られています。
この黄金の髪は、麦畑を象徴しているとされ、シヴは大地と収穫の女神として信仰されていました。
有名なエピソード:髪を切られたシヴ
ある夜、悪神ロキがシヴの美しい髪をすべて切り落としてしまいました。
激怒したトールはロキを捕まえ、骨を一本残らず砕くと脅しました。命乞いをしたロキは、小人族(ドワーフ)に本物の髪のように生える黄金の髪を作らせることを約束します。
ロキは小人族の工房へ行き、黄金の髪を作らせました。このとき同時に作られたのが、オーディンの槍グングニル、フレイの船スキーズブラズニルでした。
さらにロキは別の小人族と賭けをして、トールのハンマーミョルニルやオーディンの腕輪ドラウプニルなども作らせることになったのです。
ゲフィオン(Gefjun)──耕作の女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 司る分野 | 耕作、処女 |
| 所属 | アース神族(またはヴァン神族) |
| 象徴 | 鋤(すき) |
どんな女神?
ゲフィオンは耕作と処女を司る女神です。
彼女にまつわる最も有名な伝説は、デンマークのシェラン島の誕生譚です。
スウェーデン王ギュルヴィは、ゲフィオンに「一晩で耕せるだけの土地」を与えると約束しました。
ゲフィオンは四人の巨大な息子を雄牛に変え、巨大な鋤を引かせました。彼らは一晩でスウェーデンの大地を掘り起こし、それを海に引きずり出しました。こうしてできたのがシェラン島で、掘られた跡はスウェーデンのメーラレン湖になったとされています。
ノルン(Nornir)──運命の三女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 司る分野 | 運命、時間 |
| メンバー | ウルズ(過去)、ヴェルザンディ(現在)、スクルド(未来) |
| 住処 | 世界樹ユグドラシルの根元 |
どんな女神?
ノルンは運命を司る三人の女神です。
ギリシャ神話の運命の三女神(モイラ)に相当する存在で、世界樹ユグドラシルの根元にある「ウルズの泉」のそばに住んでいます。
三人のノルン
- ウルズ(Urðr):「過去」を意味し、起こったことを司る
- ヴェルザンディ(Verðandi):「現在」を意味し、今起きていることを司る
- スクルド(Skuld):「未来」を意味し、これから起こることを司る
彼女たちは運命の糸を紡ぎ、神々も人間も、その定めから逃れることはできません。オーディンでさえ、ノルンの定めた運命には逆らえなかったのです。
世界樹の守り手
ノルンたちは毎日、ウルズの泉の聖なる水をユグドラシルに注いでいました。これによって世界樹は枯れることなく、宇宙の秩序が保たれていたのです。
ラン(Rán)──海の女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 司る分野 | 海、溺死者 |
| 配偶者 | エーギル(海の巨人) |
| 象徴 | 網 |
どんな女神?
ランは海に沈んだ者たちの魂を集める女神です。
彼女は大きな網を持っており、溺れた船乗りたちを捕らえて海底の宮殿へ連れて行きました。エーギルの妻で、九人の娘(波の擬人化)がいます。
ヴァイキングの船乗りたちは、航海に出る前にランに供物を捧げ、無事を祈りました。
ソール(Sól)──太陽の女神
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | スンナ(Sunna) |
| 司る分野 | 太陽 |
| 兄弟 | マーニ(月の神) |
どんな女神?
ソールは太陽を擬人化した女神です。
彼女は二頭の馬が引く戦車に乗って空を駆け、世界に光をもたらします。
しかし、彼女は巨大な狼スコルに追いかけられています。ラグナロク(世界の終末)のとき、ソールはついにスコルに飲み込まれ、世界は闇に包まれると予言されています。
女神たちの関係性と系譜
家系図で見る女神の関係
北欧神話の女神たちは、複雑な家族関係で結ばれています。
オーディンを中心とした系譜
オーディン ═ フリッグ
│
└── バルドル(光の神)
オーディン ═ ヨルズ(大地)
│
└── トール ═ シヴ
オーディン ═ グリッド(巨人)
│
└── ヴィーザル
ニョルズを中心とした系譜(ヴァン神族)
ニョルズ ═ 妹(名前不明)
│
├── フレイ(豊穣の神)
│
└── フレイヤ ═ オーズ
│
├── フノス(娘)
└── ゲルセミ(娘)
ロキの子どもたち
ロキ ═ アングルボザ(女巨人)
│
├── フェンリル(巨狼)
├── ヨルムンガンド(世界蛇)
└── ヘル(冥界の女王)
北欧神話の女神が現代文化に与えた影響
ゲーム・アニメ・漫画での登場
北欧神話の女神たちは、現代のエンターテイメントでも大人気です。
ゲームでの登場
- ゴッド・オブ・ウォー(2018年〜):フレイヤが主要キャラクターとして登場。フリッグと同一人物として描かれる
- パズル&ドラゴンズ:フレイヤ、イズンなど多数の女神がモンスターとして登場
- Fate/Grand Order:スカジ、ブリュンヒルデなど北欧系キャラクターが参戦
- ファイナルファンタジーシリーズ:ヴァルキリー、オーディンなど北欧神話モチーフが多数
アニメ・漫画での登場
- ああっ女神さまっ:北欧神話の女神たちをモデルにしたキャラクターが登場
- 進撃の巨人:北欧神話の世界観を下敷きにしている
- ヴィンランド・サガ:ヴァイキング時代を描き、北欧神話への言及も
言葉への影響
現代でも使われている表現の多くが、北欧神話の女神に由来しています。
- Friday(金曜日):フレイヤの日、またはフリッグの日
- Scandinavia(スカンジナビア):スカジの名前から(諸説あり)
北欧神話の女神 完全一覧
ここでは、北欧神話に登場する女神を網羅的にリストアップしました。
アース神族の女神
| 女神名 | 読み方 | 司る分野・役割 |
|---|---|---|
| フリッグ | Frigg | 結婚、家庭、予言、オーディンの妻 |
| イズン | Iðunn | 若さ、不死、黄金のリンゴの管理者 |
| シヴ | Sif | 大地、収穫、トールの妻 |
| ゲフィオン | Gefjun | 耕作、処女 |
| フッラ | Fulla | フリッグの侍女、秘密の守護 |
| グナー | Gná | フリッグの使者、旅 |
| フリーン | Hlín | 保護(フリッグの別名とも) |
| ローヴン | Lofn | 禁じられた恋の成就 |
| ヴァール | Vár | 誓い、契約 |
| ヴォル | Vör | 知恵、好奇心 |
| シュン | Syn | 拒絶、門の守護 |
| スノトラ | Snotra | 賢明さ、礼儀 |
| エイル | Eir | 医療、治癒 |
| シェーヴン | Sjöfn | 愛、欲望 |
ヴァン神族の女神
| 女神名 | 読み方 | 司る分野・役割 |
|---|---|---|
| フレイヤ | Freyja | 愛、美、豊穣、戦争、魔法 |
| ネルトゥス | Nerthus | 大地、豊穣(古ゲルマンの女神) |
巨人族出身の女神
| 女神名 | 読み方 | 司る分野・役割 |
|---|---|---|
| スカジ | Skaði | 冬、狩猟、山、スキー |
| ヘル | Hel | 死、冥界 |
| ゲルズ | Gerðr | 美(フレイの妻) |
| ヨルズ | Jörð | 大地(トールの母) |
その他の女神的存在
| 女神名 | 読み方 | 司る分野・役割 |
|---|---|---|
| ノルン三姉妹 | Nornir | 運命 |
| ソール | Sól | 太陽 |
| ラン | Rán | 海、溺死者 |
| ナナ | Nanna | バルドルの妻 |
| シギュン | Sigyn | ロキの妻、忠誠 |
まとめ
北欧神話の女神たちは、単なる古い物語の登場人物ではありません。
女神たちが象徴するもの
- フレイヤの情熱と自由奔放さ
- フリッグの母性愛と知恵
- スカジの強さと独立心
- イズンの若さと再生の力
- ヘルの死と終わりの受容
これらの女神たちは、厳しい北国の自然の中で生きた人々の価値観や世界観を今に伝えています。
北欧神話の特徴
北欧神話には「ラグナロク」という世界の終末が予言されています。神々でさえもこの運命から逃れることはできません。
でも、北欧の人々はそれを悲観しませんでした。終わりがあるからこそ、今を精一杯生きる。その強さと潔さが、北欧神話の魅力なのです。
興味を持った女神がいたら、ぜひその女神が登場する他の物語も読んでみてください。神話の世界は奥が深く、きっと新たな発見がありますよ。


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