映画『マイティ・ソー』やゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』で「オーディン」「トール」「ロキ」という名前を聞いたことはありませんか?
これらはすべて、北欧神話に登場する神々の名前です。
北欧神話は、古代スカンジナビア(現在のノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランド)の人々が信じていた神話体系のこと。バイキングたちが語り継いできた、壮大で独特な世界観が魅力なんです。
でも、「名前は知っているけど、どんな神様なの?」「ギリシャ神話とはどう違うの?」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、北欧神話に登場する神々を、役割や神話のエピソードとともに詳しくご紹介します。
北欧神話とは?基本のキホン

北欧神話の特徴
北欧神話は、8世紀から11世紀にかけてのバイキング時代に栄えた神話です。
主に『エッダ』という文献に記録されています。『エッダ』には、古来の詩を集めた『古エッダ(詩のエッダ)』と、13世紀のアイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが編纂した『散文エッダ(スノッリのエッダ)』の2種類があります。
北欧神話の大きな特徴
- 神々も死ぬ運命にある:ギリシャ神話の神々は不死ですが、北欧の神々は最終戦争「ラグナロク」で滅亡する運命を背負っています
- 二つの神族が存在する:アース神族とヴァン神族という二つのグループがあります
- 世界樹ユグドラシルが宇宙の中心:巨大な世界樹が九つの世界をつないでいます
- 滅びと再生の物語:世界は滅んだ後、新しく生まれ変わるという循環の思想があります
二つの神族
北欧神話の神々は、大きく分けて二つのグループに分かれています。
アース神族(Æsir)
戦いと秩序を司る神々のグループ。オーディン、トール、バルドルなど、北欧神話の主要な神々の多くがここに属しています。アースガルズ(神々の国)に住み、世界の秩序を守る役割を担っているんです。
ヴァン神族(Vanir)
豊穣と自然を司る神々のグループ。フレイヤ、フレイ、ニョルズなどが有名です。かつてアース神族と戦争をしていましたが、和平の際に人質交換を行い、現在は協力関係にあります。
アース神族の主要な神々
オーディン(Odin)──神々の王、知恵と戦争の神
基本情報
- 別名:全父(アルファーズル)、戦いの父、絞首者の神
- 司る分野:知恵、戦争、詩、ルーン魔術、死者
- 象徴:槍グングニル、八本脚の馬スレイプニル、二羽のカラス
- 住む場所:ヴァルハラ(戦死者の館)
どんな神様?
北欧神話における最高神であり、神々の王です。
片目を失っていますが、これには理由があります。知恵の泉「ミーミルの泉」の水を飲むため、片目を代償として差し出したんです。それほどまでに知識を求める神様でした。
さらに、ルーン文字の秘密を得るため、世界樹ユグドラシルに9日9夜、槍で自分の体を貫いて吊り下がるという壮絶な試練も経験しています。
性格と特徴
オーディンは知恵を何よりも重んじる神です。でも、気まぐれで予測不能な一面もあります。戦いの勝者を決める力を持ちますが、必ずしも正義の味方というわけではありません。勝利を与えるべきでない者に勝利を与えることもあったとか。
二羽のカラス「フギン(思考)」と「ムニン(記憶)」を毎日世界中に飛ばし、情報を集めているんです。
有名なエピソード
- 巨人ユミルを殺して、その体から世界を創造した
- 知恵の泉のために片目を犠牲にした
- ルーン文字を人類にもたらした
- ラグナロクで巨狼フェンリルに飲み込まれて死ぬ運命にある
トール(Thor)──雷神、人類の守護者
基本情報
- 別名:雷鳴の神、人類の友
- 司る分野:雷、嵐、農耕、人類の守護
- 象徴:ハンマー「ミョルニル」、力帯メギンギョルズ、鉄の手袋
- 住む場所:ビルスキールニル(稲妻の宮殿)
どんな神様?
オーディンの息子で、最も人気のある神です。
ミョルニルという強力なハンマーを武器に、二頭の山羊に引かせた戦車で空を駆け巡ります。主な役目は巨人族と戦い、アースガルズと人間界(ミッドガルズ)を守ること。
性格と特徴
トールは単純で善良、正義感にあふれた神です。力は神々の中でもトップクラスですが、頭脳戦は苦手。ロキによくからかわれています。
でも、そのまっすぐな性格が古代の人々に愛されました。オーディンが貴族や戦士に崇拝されたのに対し、トールは一般の農民や漁師たちから広く信仰されていたんです。
有名なエピソード
- ハンマーのミョルニルを巨人に盗まれ、取り返すために花嫁に変装した
- 巨人ウトガルザ・ロキにだまされて、海とつながった盃を飲み、世界蛇を持ち上げようとした
- ラグナロクで世界蛇ヨルムンガンドと相打ちになり、蛇を倒した後に毒で死ぬ
ロキ(Loki)──トリックスター、いたずらの神
基本情報
- 別名:狡猾なる者、変身者、いたずら者、狼の父
- 司る分野:いたずら、変身、詐術
- 象徴:火(元々火の神格化とする説あり)
- 住む場所:アースガルズ(ただし巨人族出身)
どんな神様?
北欧神話最大のトリックスター(いたずら者)です。
巨人族の血を引きながらも、オーディンと義兄弟の契りを結び、アースガルズで暮らしています。変身術が得意で、男性にも女性にも、動物にも姿を変えられるんです。
性格と特徴
美しい容姿を持っていますが、性格は不安定で気まぐれ。狡猾で嘘つきな一面がある一方で、神々を窮地から救うこともあります。
神々に災いをもたらしては、その解決策も提供するという複雑な存在。トールとは妙に気が合い、一緒に冒険に出かけることも多かったようです。
子どもたち
ロキは恐ろしい怪物たちの父親でもあります。
- フェンリル:オーディンを飲み込む運命の巨大な狼
- ヨルムンガンド:世界を一周する巨大な蛇(ミッドガルドの大蛇)
- ヘル:冥界の女王となった半身が腐った女神
- スレイプニル:オーディンの八本脚の馬(ロキが雌馬に変身して産んだ)
有名なエピソード
- トールのハンマーを小人に作らせた
- 光の神バルドルを騙して殺させた
- 神々への侮辱が原因で岩に縛られ、毒蛇の毒を受け続ける罰を受けた
- ラグナロクでヘイムダルと相打ちになり死亡
バルドル(Baldr)──光と美の神
基本情報
- 別名:輝ける者、純粋なる神
- 司る分野:光、美、純粋、喜び
- 象徴:太陽の光
- 住む場所:ブレイザブリク(広く輝く館)
どんな神様?
オーディンとフリッグの息子で、神々の中で最も美しく、最も愛されていた神です。
その存在は光のように輝き、周囲に喜びと温かさをもたらしました。彼がいるだけで、神々の世界は明るくなったと言われています。
悲劇の死
バルドルの物語は、北欧神話で最も悲しいエピソードの一つ。
ある日、バルドルは自分の死を予言する夢を見ます。心配した母フリッグは、世界中のあらゆるものに「バルドルを傷つけない」と誓わせました。火も水も、金属も石も、すべてが誓いを立てたんです。
ところが、フリッグはヤドリギだけは小さすぎて無害だと考え、誓いをとりませんでした。
これを知ったロキは、ヤドリギで矢を作り、盲目の神ヘズにバルドルに向けて投げさせました。矢はバルドルを貫き、光の神は死んでしまったのです。
バルドルは冥界に落ちましたが、ラグナロク後の新世界で復活すると予言されています。
テュール(Týr)──軍神、正義と契約の神
基本情報
- 別名:片手の神、勇敢なる者
- 司る分野:戦争、正義、契約、法
- 象徴:片腕(右手がない)
どんな神様?
かつてはオーディン以前に神々の指導者だったとも言われる、古い軍神です。
勇敢で誠実、正義を重んじる性格の持ち主。トールが力で戦うのに対し、テュールは法と秩序に基づいた戦いを司っています。
なぜ片腕がないの?
巨狼フェンリルが神々にとって脅威になると予言されたとき、神々はフェンリルを魔法の紐で縛ろうとしました。でも、フェンリルは罠ではないかと疑います。
そこでテュールは、自分の右手をフェンリルの口に入れ、「縛りが解けなかったら手を食いちぎっていい」と約束しました。結果、縛りは解けず、テュールは約束通り右手を失ったのです。
この逸話から、テュールは「約束を守る神」として崇拝されました。
ヘイムダル(Heimdall)──神々の番人
基本情報
- 別名:白き神、九人の母の子
- 司る分野:警備、監視、夜明け
- 象徴:角笛ギャラルホルン、虹の橋ビフレスト
どんな神様?
アースガルズの門番として、虹の橋ビフレストを守る神です。
九人の母から生まれたという不思議な出生を持ち、視力と聴力は神々の中でも最高。羊の毛が伸びる音や、草が生える音まで聞こえると言われています。眠る必要がほとんどなく、昼夜を問わず見張りを続けているんです。
ラグナロクの始まりには、角笛ギャラルホルンを吹いて神々に知らせる重要な役目を担っています。最後はロキと相打ちになり、互いを倒すことになります。
ブラギ(Bragi)──詩の神
基本情報
- 司る分野:詩、音楽、雄弁
- 象徴:ハープ、長いひげ
どんな神様?
オーディンの息子とされる、詩と音楽の神です。
長いひげが特徴で、ハープを演奏しながら詩を語ります。ヴァルハラを訪れた戦死者たちをもてなし、歓迎する役割も持っているんです。
実在した9世紀のアイスランドの詩人ブラギ・ボッダソンが神格化されたという説もあります。
アース神族の女神たち
フリッグ(Frigg)──神々の女王、結婚と母性の女神
基本情報
- 別名:フリア、フリーア
- 司る分野:結婚、母性、家庭、予言
- 象徴:糸紡ぎ車
- 住む場所:フェンサリル(沼の館)
どんな女神?
オーディンの正妻であり、神々の女王です。
未来を見通す力を持っていますが、その予言を誰にも語らないという特徴があります。息子バルドルの死を予見したとき、世界中のものに「バルドルを傷つけない」と誓わせようとした、母親としての深い愛情が印象的です。
英語の「Friday(金曜日)」は「フリッグの日」または「フレイヤの日」が語源とされています。
シヴ(Sif)──豊穣の女神、トールの妻
基本情報
- 司る分野:大地、豊穣、収穫
- 象徴:黄金の髪
どんな女神?
雷神トールの妻で、美しい黄金の髪が特徴の女神です。
その髪は黄金の麦畑を象徴するとも言われ、豊穣の女神として崇拝されました。
黄金の髪の物語
ある日、いたずら好きのロキがシヴの髪を全部切り落としてしまいます。怒ったトールに脅されたロキは、小人たちに黄金のかつらを作らせ、それはシヴの頭に載せると本物の髪のように生えて成長しました。
このときロキが小人たちと賭けをした結果、トールのハンマー・ミョルニルやオーディンの槍グングニルなど、多くの宝物が生まれたんです。
イズン(Iðunn)──若さの女神
基本情報
- 司る分野:若さ、不老
- 象徴:黄金のリンゴ
どんな女神?
詩の神ブラギの妻で、神々に永遠の若さを与える黄金のリンゴを管理しています。
神々はこのリンゴを食べることで、老いることなく若さを保っているんです。イズンがいなくなると、神々は急速に老いてしまいます。
イズン誘拐事件
巨人シャチにそそのかされたロキが、イズンを巨人の国に連れ去ってしまったことがあります。神々は急に老け込み、慌てたロキがイズンを救出しに行くという物語が『エッダ』に残されています。
ヴァン神族の神々

フレイヤ(Freyja)──愛と美、戦いの女神
基本情報
- 別名:ヴァナディース(ヴァン神族の女神)
- 司る分野:愛、美、豊穣、戦争、魔術(セイズ)
- 象徴:首飾りブリーシンガメン、二匹の猫が引く戦車、鷹の羽衣
- 住む場所:フォルクヴァング(戦士の野)
どんな女神?
北欧神話で最も美しいとされる女神。フリッグと並ぶ大女神です。
愛と美を司る一方で、戦いと死にも深く関わっています。戦場で倒れた勇敢な戦士たちの半分をオーディンと分け合い、自分の館「セッスルームニル」に迎え入れるんです。
セイズ魔術
フレイヤはヴァン神族がアース神族に伝えた魔術「セイズ」の使い手。運命を見通し、変える力を持つ強力な魔法でした。
涙が黄金に
行方不明になった夫オーズを探して世界中を旅したフレイヤ。そのとき流した涙は黄金になり、海に落ちた涙は琥珀になったと言われています。
現代への影響
英語の「Friday(金曜日)」の語源の一つとされ、元素のバナジウム(Vanadium)もフレイヤの別名ヴァナディスが由来です。
フレイ(Freyr)──豊穣と太陽の神
基本情報
- 司る分野:豊穣、繁栄、太陽、平和
- 象徴:黄金のイノシシ「グリンブルスティ」、折りたためる船「スキーズブラズニル」
- 住む場所:アールヴヘイム(エルフの国)
どんな神様?
フレイヤの双子の兄(または弟)で、豊穣と繁栄を司る神です。
エルフ(妖精)の国の支配者でもあり、農民たちから広く崇拝されていました。戦いを好まず、平和と繁栄をもたらす穏やかな神として知られています。
愛のために剣を手放す
フレイは巨人の娘ゲルズに恋をし、彼女を妻にするために自分の魔法の剣を手放してしまいます。この剣がないため、ラグナロクでは炎の巨人スルトに倒される運命にあるんです。
ニョルズ(Njörðr)──海と風の神
基本情報
- 司る分野:海、風、漁業、航海、富
- 住む場所:ノアトゥーン(船の庭)
どんな神様?
フレイとフレイヤの父親で、海と風を司る神です。
漁師や船乗りから崇拝され、航海の安全と豊かな漁獲を願う人々に信仰されました。ヴァン神族とアース神族の和平の際、子どもたちとともにアースガルズに移り住んだ人質でもあります。
冥界と運命の神々
ヘル(Hel)──冥界の女王
基本情報
- 司る分野:死者の国、病死者・老衰で死んだ者の魂
- 住む場所:ヘルヘイム(ヘルの国)
どんな存在?
ロキとアングルボザの娘で、半身は美しい女性、もう半身は腐った死体という姿をしています。
生まれてすぐオーディンによって冥界に投げ落とされましたが、そこで死者の国の支配者となりました。戦死者以外の死者、つまり病気や老衰で亡くなった人々の魂を受け入れます。
ヘルヘイムでの彼女の権力は絶対的で、オーディンでさえ彼女の決定を覆すことはできません。光の神バルドルの復活も、ヘルの条件を満たせなかったために失敗しました。
ノルン(Nornir)──運命の三女神
基本情報
- メンバー:ウルズ(過去)、ヴェルザンディ(現在)、スクルド(未来)
- 司る分野:運命、時間
- 住む場所:世界樹ユグドラシルの根元、ウルズの泉
どんな存在?
神々や人間、すべての存在の運命を紡ぐ三姉妹です。
世界樹ユグドラシルの根元にある「ウルズの泉」のほとりに住み、毎日泉の水を世界樹にかけて養っています。彼女たちが紡ぐ運命の糸は、神々さえも逃れることができません。
ギリシャ神話の運命の三女神「モイラ」に似ていますね。
ワルキューレ──戦場の乙女たち
基本情報
- 別名:ヴァルキリー、戦乙女
- 司る分野:戦死者の選別、ヴァルハラへの案内
- 主な名前:ブリュンヒルデ、シグルドリーヴァなど
どんな存在?
オーディンに仕える女性たちで、戦場で勇敢に戦って死んだ戦士たちをヴァルハラに連れていく役目を担っています。
戦場を駆け巡り、オーディンの命令で戦いの勝敗を決めることもあります。「ワルキューレ」という名前は「戦死者を選ぶ者」という意味なんです。
彼女たちはヴァルハラで戦士たちに蜜酒を注ぐ給仕も行い、ラグナロクに向けて戦士たちを準備させています。
巨人族と怪物たち
ユミル(Ymir)──原初の巨人
世界が始まる前、最初に生まれた存在です。
オーディンと彼の兄弟たちに殺され、その体から世界が創造されました。肉体は大地に、血は海に、骨は山に、髪は木々になったと言われています。
フェンリル(Fenrir)──滅びの巨狼
ロキの子で、神々を滅ぼす運命を持つ巨大な狼。
魔法の紐「グレイプニル」で縛られていますが、ラグナロクで解き放たれ、オーディンを飲み込みます。その後、オーディンの息子ヴィーザルに倒されます。
ヨルムンガンド(Jörmungandr)──世界蛇
ロキの子で、世界を一周するほど巨大な蛇。
「ミッドガルドの大蛇」とも呼ばれ、自分の尻尾を咥えて世界の海を囲んでいます。トールとは宿敵の関係にあり、ラグナロクで相打ちになります。
スルト(Surtr)──炎の巨人
炎の世界ムスペルヘイムを支配する炎の巨人。
燃え盛る剣を持ち、ラグナロクで世界を炎で焼き尽くす役目を担っています。フレイと戦い、フレイを倒します。
九つの世界と世界樹ユグドラシル
世界樹ユグドラシル
北欧神話の宇宙の中心には、巨大なトネリコの木「ユグドラシル」が立っています。
この世界樹は九つの世界をつなぎ、支えています。その枝は天空にまで伸び、三つの根は異なる世界に達しているんです。
ユグドラシルに住む生き物たち
- ニーズヘッグ:根元で根をかじる竜
- ラタトスク:上下を行き来するリス。頂上の鷲と根元の竜の間で悪口を伝える役目
- 鷲:頂上に住む知恵の象徴
- 四頭の鹿:枝の新芽を食べる
九つの世界一覧
| 世界名 | 日本語名 | 説明 |
|---|---|---|
| アースガルズ(Asgard) | 神々の国 | アース神族が住む世界。ヴァルハラやビフレストがある |
| ヴァナヘイム(Vanaheim) | ヴァン神の国 | ヴァン神族の故郷。豊穣と自然に満ちた世界 |
| ミッドガルズ(Midgard) | 人間界 | 人間が住む世界。現在の「地球」にあたる |
| ヨトゥンヘイム(Jotunheim) | 巨人の国 | 巨人族が住む荒々しい世界 |
| アールヴヘイム(Alfheim) | エルフの国 | 光のエルフが住む美しい世界。フレイが支配 |
| ニダヴェリール(Nidavellir) | 小人の国 | ドワーフ(小人)が住む地下の工房の世界 |
| ヘルヘイム(Helheim) | 死者の国 | 女神ヘルが支配する、戦死者以外の死者が行く世界 |
| ニヴルヘイム(Niflheim) | 霧の国 | 原初の氷と霧の世界。極寒の地 |
| ムスペルヘイム(Muspelheim) | 炎の国 | 原初の炎の世界。炎の巨人スルトが住む |
ビフレスト──虹の橋
アースガルズとミッドガルズをつなぐ虹の橋です。
ヘイムダルが見張り番を務め、巨人族の侵入を防いでいます。ラグナロクでは、この橋を渡って敵が攻めてくると予言されています。
ラグナロク──神々の黄昏

ラグナロクとは?
北欧神話の終末、「神々の運命」を意味する最終戦争です。
すべての神々が滅亡するこの壮大な戦いは、北欧神話最大のクライマックス。重要なのは、神々自身もこの運命を知っていながら、逃げることなく立ち向かうという点です。
ラグナロクの前兆
世界の終わりの前には、いくつかの前兆が現れます。
- 光の神バルドルの死:すでに起きた出来事
- フィンブルの冬:夏のない、3年続く厳しい冬
- 道徳の崩壊:兄弟同士の争い、秩序の崩壊
- 太陽と月の消滅:二匹の狼スコルとハティが太陽と月を飲み込む
最終戦争の展開
ラグナロクでは、以下のような戦いが繰り広げられます。
主な対決
| 神/存在 | 敵 | 結末 |
|---|---|---|
| オーディン | フェンリル | オーディンがフェンリルに飲み込まれる |
| ヴィーザル | フェンリル | ヴィーザルがフェンリルの顎を引き裂いて倒す |
| トール | ヨルムンガンド | 相打ち。トールは蛇を倒すが、毒で9歩歩いて死亡 |
| フレイ | スルト | フレイが剣なしで戦い、スルトに倒される |
| テュール | ガルム | 相打ち |
| ヘイムダル | ロキ | 相打ち |
滅びと再生
世界は炎に包まれ、海に沈みます。
しかし、物語はここで終わりではありません。やがて新しい大地が海から浮かび上がり、緑豊かな世界が再生するんです。
生き残る者たち
- 神々:ヴィーザル、ヴァーリ、モーディ、マグニ(トールの息子たち)、復活したバルドルとヘズ
- 人間:リーヴとリーヴスラシル(世界樹に隠れていた男女)
新しい世界では、生き残った神々が再び集まり、黄金の時代が訪れると言われています。
北欧神話の現代文化への影響
エンターテイメントでの登場
北欧神話は現代のポップカルチャーに大きな影響を与えています。
映画・ドラマ
- 『マイティ・ソー』シリーズ(マーベル)
- 『ヴァイキング~海の覇者たち~』
- Netflixドラマ『ラグナロク』
ゲーム
- 『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズ
- 『アサシン クリード ヴァルハラ』
- 『ヴァルキリープロファイル』
- 『ファイナルファンタジー』シリーズ(オーディン、フレイヤなど)
小説・ファンタジー
J・R・R・トールキンの『指輪物語』は北欧神話に大きく影響を受けており、エルフやドワーフ、指輪、竜などの設定は北欧神話由来のものが多いんです。
言葉への影響
英語の曜日名には北欧神話の神々の名前が残っています。
| 曜日 | 英語 | 語源 |
|---|---|---|
| 火曜日 | Tuesday | テュールの日 |
| 水曜日 | Wednesday | オーディン(ウォーデン)の日 |
| 木曜日 | Thursday | トールの日 |
| 金曜日 | Friday | フリッグまたはフレイヤの日 |
北欧神話の神々 完全一覧
アース神族
| 神名 | 読み方 | 司る分野・役割 |
|---|---|---|
| オーディン | Odin | 知恵、戦争、詩、死者、最高神 |
| トール | Thor | 雷、嵐、農耕、人類の守護 |
| バルドル | Baldr | 光、美、純粋、喜び |
| テュール | Týr | 戦争、正義、契約、法 |
| ヘイムダル | Heimdall | 警備、監視、夜明け |
| ブラギ | Bragi | 詩、音楽、雄弁 |
| ヘズ | Höðr | 闘、冬(盲目の神) |
| ヴィーザル | Víðarr | 復讐、沈黙、森 |
| ヴァーリ | Váli | 復讐(バルドルの仇を討つ) |
| フォルセティ | Forseti | 正義、和解 |
| ウル | Ullr | 狩猟、弓術、スキー |
| ヘルモーズ | Hermóðr | 使者(ヘルへバルドルを迎えに行った) |
アース女神(アーシニュル)
| 女神名 | 読み方 | 司る分野・役割 |
|---|---|---|
| フリッグ | Frigg | 結婚、母性、家庭、予言、神々の女王 |
| シヴ | Sif | 大地、豊穣、収穫 |
| イズン | Iðunn | 若さ、不老(黄金のリンゴの管理者) |
| ナンナ | Nanna | 喜び、バルドルの妻 |
| サガ | Sága | 詩、歴史 |
| エイル | Eir | 医療、治癒 |
| ゲフィオン | Gefjun | 処女、農耕 |
| フッラ | Fulla | フリッグの侍女 |
| シン | Syn | 番人、拒絶 |
| リン | Hlín | 保護 |
| スノトラ | Snotra | 知恵、礼儀 |
| グナー | Gná | フリッグの使者 |
| ヴァール | Vár | 誓い、契約 |
| ヴォル | Vör | 知恵、探求 |
ヴァン神族
| 神名 | 読み方 | 司る分野・役割 |
|---|---|---|
| ニョルズ | Njörðr | 海、風、漁業、航海、富 |
| フレイ | Freyr | 豊穣、繁栄、太陽、平和 |
| フレイヤ | Freyja | 愛、美、豊穣、戦争、魔術 |
巨人族・怪物
| 名前 | 読み方 | 説明 |
|---|---|---|
| ユミル | Ymir | 原初の巨人、世界の材料 |
| ロキ | Loki | いたずらの神(巨人出身) |
| フェンリル | Fenrir | 巨狼、オーディンを殺す |
| ヨルムンガンド | Jörmungandr | 世界蛇、トールの宿敵 |
| ヘル | Hel | 冥界の女王 |
| スルト | Surtr | 炎の巨人 |
| スカジ | Skaði | 山と狩猟の女巨人 |
| エーギル | Ægir | 海の巨人 |
| ラーン | Rán | 海の女巨人、溺死者を集める |
その他の存在
| 名前 | 読み方 | 説明 |
|---|---|---|
| ノルン | Nornir | 運命の三女神 |
| ワルキューレ | Valkyrie | 戦場の乙女、戦死者を選ぶ |
| エインヘリアル | Einherjar | ヴァルハラの戦士たち |
| ドワーフ | Dvergr | 小人、優れた職人 |
| エルフ | Álfar | 妖精、光のエルフと闇のエルフがいる |
まとめ
北欧神話の神々は、単なる古代の物語の登場人物ではありません。
北欧神話が私たちに伝えるもの
- 運命を受け入れる勇気:神々でさえラグナロクという滅びの運命から逃れられません。しかし彼らは逃げずに立ち向かいます
- 滅びと再生の循環:すべてが終わっても、また新しい始まりがあるという希望
- 知恵の追求:オーディンは片目や苦痛を代償にしてでも知識を求めました
- 約束を守ること:テュールは自分の腕を犠牲にしても約束を守りました
北欧神話は、厳しい自然環境の中で生きた古代スカンジナビアの人々の世界観を反映しています。
神々が人間らしい感情を持ち、失敗もすれば欲望にも負ける。完璧ではない神々の姿が、かえって私たちに親しみを感じさせるのかもしれません。
興味を持った神様がいたら、ぜひその神様が登場する神話のエピソードも読んでみてください。きっと新たな発見があるはずです。


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