お寺で「オン・アボキャ・ベイロシャノウ…」という不思議な言葉を聞いたことはありませんか?
これは真言(しんごん)と呼ばれる仏教の祈りの言葉です。
サンスクリット語ではマントラ(Mantra)といい、「仏の真実の言葉」という意味を持っています。
真言は単なるお経とは違い、唱えることで仏様とつながり、功徳(くどく=良い報い)を得られると信じられてきました。実際、日本では1200年以上前から、人々の心の支えとして親しまれています。
「どの仏様にどんな真言があるの?」「自分に合った真言を知りたい」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、仏様別の真言を一覧形式でまとめ、それぞれの意味やご利益をわかりやすくご紹介します。
真言(マントラ)とは何か?

真言の基本的な意味
真言とは、古代インドのサンスクリット語で書かれた仏様の言葉を音写したものです。
「真言」という漢字を見ると「真実の言葉」という意味がわかりますね。
密教(みっきょう)では、この言葉に神秘的な力が宿っていると考えられています。
真言には主に3つの種類があります。
- 真言:比較的短い呪文的な語句
- 陀羅尼(だらに):長い呪文
- 種子(しゅじ)真言:一字または二字の最も短い真言
真言の歴史と起源
真言の歴史は、仏教が生まれる前のインドにまで遡ります。
古代インドのアーリア人は、火の神(アグニ)にマントラを捧げて敵を退け、病を癒していました。
この風習がバラモン教に受け継がれ、やがて仏教にも取り入れられていったのです。
日本に真言が本格的に伝わったのは平安時代初期のこと。
弘法大師空海が唐(現在の中国)から密教を持ち帰り、真言宗を開きました。
「真言宗」という名前は、まさにマントラ(真言)を重視する宗派であることを表しているんです。
真言を唱える効果
真言を唱えることで、以下のような効果があるとされています。
- 心の浄化:雑念を払い、心を落ち着かせる
- 集中力の向上:瞑想的な効果により精神が統一される
- 功徳を積む:繰り返し唱えることで善い報いを得る
- 願望成就:仏様の力をお借りして願いを叶える
真言は「反復」が重視されており、数多く唱えることで効果を発揮すると説かれています。三遍、七遍、百八遍、千遍など、回数にも意味があるんです。
最も重要な真言一覧
光明真言(こうみょうしんごん)──最強の真言
光明真言は、正式名称を「不空大灌頂光真言(ふくうだいかんぢょうこうしんごん)」といい、密教で最も重要視される真言の一つです。
真言
オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン
特徴
23の梵字から成り立つこの真言には、五智如来(ごちにょらい)と呼ばれる5体の仏様の力が込められています。
| 真言の一部 | 対応する仏様 |
|---|---|
| アボキャ | 不空成就如来 |
| ベイロシャノウ | 大日如来 |
| マカボダラ | 阿閦如来 |
| マニ | 宝生如来 |
| ハンドマ | 阿弥陀如来 |
ご利益
- 一切の罪障を除滅する
- 病や災いを消し去る
- 先祖供養に効果がある
- 厄除け・魔除け
光明真言は「どの仏様に祈ればよいかわからないとき」にも有効とされ、真言宗では日々の勤行で重要視されています。宗派を問わず一般の方が唱えても問題ありません。
如来(にょらい)の真言一覧
如来とは「悟りを開いた仏」のことで、仏様の中で最高位の存在です。サンスクリット語では「タターガタ」といい、「真実から来た者」という意味があります。
大日如来(だいにちにょらい)
密教における最高位の仏様で、宇宙の真理そのものを体現する存在です。
胎蔵界の真言
オン アビラウンケン
(oṃ a vi ra hūṃ khaṃ)
金剛界の真言
オン バザラダトバン
(oṃ vajra-dhātu vaṃ)
ご利益
- あらゆる心願の成就
- 智慧の開発
- 現世・来世の安楽
大日如来は「遍照金剛(へんじょうこんごう)」とも呼ばれ、全宇宙を照らす光そのものとされています。
阿弥陀如来(あみだにょらい)
西方極楽浄土の教主であり、「南無阿弥陀仏」の念仏で広く知られる仏様です。
真言
オン アミリタ テイセイ カラ ウン
(oṃ amṛta-teje hara hūṃ)
ご利益
- 極楽往生
- 現世安穏
- 罪障消滅
阿弥陀如来は「無量光仏」「無量寿仏」とも呼ばれ、限りない光と命を持つ仏様です。戌年・亥年生まれの守り本尊でもあります。
薬師如来(やくしにょらい)
正式名称は「薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)」。病気を治し、命を延ばす仏様として信仰されています。
小咒(しょうしゅ)
オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ
(oṃ huru huru caṇḍāli mātaṅgi svāhā)
中咒
オン ビセイゼイ ビセイゼイ ビセイジャサンボリギャテイ ソワカ
ご利益
- 病気平癒
- 身体健全
- 延命長寿
薬師如来は左手に薬壺(やっこ)を持った姿で描かれることが多く、「お薬師さん」の愛称で親しまれています。
釈迦如来(しゃかにょらい)
仏教の開祖であるお釈迦様(ゴータマ・シッダールタ)が悟りを開いた姿です。
真言
ノウマク サンマンダ ボダナン バク
(namaḥ samanta-buddhānāṃ bhāḥ)
ご利益
- 悟りへの導き
- 苦しみからの解放
- 智慧の開発
阿閦如来(あしゅくにょらい)
東方妙喜世界の教主で、怒りや憎しみを克服した仏様です。
真言
オン アキシュビヤ ウン
(oṃ akṣobhya hūṃ)
ご利益
- 誘惑に負けない強い心
- 精神力の向上
- 無病息災
宝生如来(ほうしょうにょらい)
「宝より生まれたもの」という名を持ち、人々に福徳をもたらす仏様です。
真言
オン アラタンノウ サンバンバ タラク
ご利益
- 財運向上
- 浄罪
- 無病息災
菩薩(ぼさつ)の真言一覧

菩薩とは「菩提薩埵(ぼだいさった)」の略で、悟りを求めて修行する存在のことです。如来になる前の段階ですが、人々を救うためにあえて現世にとどまっている菩薩もいます。
観音菩薩(かんのんぼさつ)
世の中の声を聞いて救いに向かう慈悲の菩薩様。さまざまな姿に変身して人々を救うことから、多くの種類があります。
聖観音の真言
オン アロリキャ ソワカ
(oṃ ārolik svāhā)
千手観音の真言
オン バザラ タラマ キリク
(oṃ vajra-dharma hrīḥ)
十一面観音の真言
オン マカキャロニキャ ソワカ
ご利益
- 慈悲による救済
- 災難除去
- 病気平癒
- 安産祈願
千手観音は子年生まれの守り本尊です。
六字真言(ろくじしんごん)──観音菩薩の最も有名な真言
チベット仏教で最も広く唱えられている真言で、観音菩薩(アヴァローキテーシュヴァラ)に関連しています。
真言
オン マニ ペメ フン
(オーム・マニ・パドメー・フーム)
(oṃ maṇi padme hūṃ)
各音節の意味
| 音節 | 意味 | 浄化される煩悩 |
|---|---|---|
| オン | 宇宙の根源の音 | 傲慢 |
| マ | 布施の完成 | 嫉妬 |
| ニ | 持戒の完成 | 欲望 |
| パド | 忍耐の完成 | 無知 |
| メ | 精進の完成 | 貪欲 |
| フン | 智慧の完成 | 憎悪 |
この真言は「蓮華の中の宝珠よ」という意味で解釈されることが多く、六道輪廻(ろくどうりんね)すべての世界を浄化する力があるとされています。
地蔵菩薩(じぞうぼさつ)
お地蔵さんとして親しまれ、特に子供の守り神として信仰されています。
真言
オン カカカ ビサンマエイ ソワカ
(oṃ ha ha ha vismaye svāhā)
「カカカ」の意味
「カ」は喜びを表す言葉です。喜びが最高潮に達すると「カ」という声になるといわれ、地蔵菩薩の真言には喜びの音が3回も続いています。
ご利益
- 子供の安全
- 交通安全
- 地獄からの救済
- 延命長寿
文殊菩薩(もんじゅぼさつ)
「三人寄れば文殊の知恵」ということわざでも知られる、智慧を司る菩薩様です。
真言
オン アラハシャノウ
(oṃ arapacana)
ご利益
- 学業成就
- 合格祈願
- 智慧の開発
文殊菩薩は卯年生まれの守り本尊です。
普賢菩薩(ふげんぼさつ)
慈悲と修行の菩薩で、白象に乗った姿で描かれることが多いです。
真言
オン サンマヤ サトバン
(oṃ samaya-satvaṃ)
ご利益
- 成功
- 誓願成就
- 交通安全
- 長寿
普賢菩薩は辰年・巳年生まれの守り本尊です。
虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)
虚空(大空・宇宙)のように広大無辺な徳と知力を持つ菩薩様です。
真言
ノウボウ アキャシャ キャラバヤ オン アリキャ マリボリ ソワカ
(namo ākāśagarbhāya oṃ ārya kamari mauli svāhā)
ご利益
- 記憶力増進
- 学業成就
- 願望成就
空海が修行した「虚空蔵菩薩求聞持法(ぐもんじほう)」は、この真言を100万遍唱えると抜群の記憶力と智慧を得られるとされています。
虚空蔵菩薩は丑年・寅年生まれの守り本尊です。
勢至菩薩(せいしぼさつ)
阿弥陀如来の脇侍(わきじ)として知られ、智慧の光で人々を照らす菩薩様です。
真言
オン サンザンサク ソワカ
(oṃ saṃ jaṃ jaḥ svāhā)
ご利益
- 智慧の開発
- 家内安全
- 除災招福
勢至菩薩は午年生まれの守り本尊です。
弥勒菩薩(みろくぼさつ)
お釈迦様の入滅後、56億7000万年後に現れて人々を救うとされる未来の仏様です。
真言
オン マイタレイヤ ソワカ
(oṃ maitreya svāhā)
ご利益
- 慈悲の心を育む
- 未来への希望
- 衆生救済
明王(みょうおう)の真言一覧
明王は、仏法に従わない者を強引に説き伏せる役割を持つ存在です。怒りの形相をしていますが、これは人々を正しい道へ導くためなんです。
不動明王(ふどうみょうおう)
「お不動さん」の愛称で親しまれる、五大明王の中心的存在です。大日如来の化身ともいわれています。
小咒
ノウマク サンマンダ バザラダン カン
慈救咒(じくしゅ)──最もよく唱えられる真言
ノウマク サンマンダ バザラダン センダマカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン
(namaḥ samanta-vajrāṇāṃ caṇḍa-mahāroṣaṇa sphoṭaya hūṃ traṭ hāṃ māṃ)
火界咒
ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン
ご利益
- 煩悩退散
- 立身出世
- 厄除け
- 怨敵退散
不動明王は酉年生まれの守り本尊です。成田山新勝寺をはじめ、全国各地で深く信仰されています。
愛染明王(あいぜんみょうおう)
恋愛や良縁を司る明王で、赤い体と三目六臂(さんもくろっぴ)の姿が特徴です。
真言
オン マカラギャ バゾロシュニシャ バザラサトバ ジャクウンバンコク
ご利益
- 恋愛成就
- 良縁祈願
- 夫婦円満
- 家内安全
孔雀明王(くじゃくみょうおう)
他の明王が怒りの形相なのに対し、孔雀明王は慈悲深い穏やかな表情をしています。
真言
オン マユラキランデイ ソワカ
ご利益
- 病気平癒
- 災難除去
- 安産
天部(てんぶ)の真言一覧
天部とは、古代インドの神々が仏教に取り入れられ、仏教を守護する存在となったものです。
毘沙門天(びしゃもんてん)
四天王の一人で、財宝と戦いの神として信仰されています。
真言
オン ベイシラマンダヤ ソワカ
(oṃ vaiśravaṇāya svāhā)
ご利益
- 金運向上
- 商売繁盛
- 勝負運
- 厄除け
弁財天(べんざいてん)
音楽・芸術・財運を司る女神で、七福神の一人としても知られています。
真言
オン ソラソバテイエイ ソワカ
(oṃ sarasvatyai svāhā)
ご利益
- 芸能上達
- 財運向上
- 学業成就
大黒天(だいこくてん)
七福神の一人で、財運と五穀豊穣の神として親しまれています。
真言
オン マカキャラヤ ソワカ
(oṃ mahākālāya svāhā)
ご利益
- 財運向上
- 五穀豊穣
- 商売繁盛
十二支(干支)別 守り本尊と真言一覧

日本では、生まれ年の干支によって「守り本尊」が決まっています。自分の守り本尊の真言を唱えることで、より強い加護を受けられるとされています。
| 干支 | 守り本尊 | 真言 |
|---|---|---|
| 子(ね) | 千手観音菩薩 | オン バザラ タラマ キリク |
| 丑(うし)・寅(とら) | 虚空蔵菩薩 | ノウボウ アキャシャ キャラバヤ オン アリキャ マリボリ ソワカ |
| 卯(う) | 文殊菩薩 | オン アラハシャノウ |
| 辰(たつ)・巳(み) | 普賢菩薩 | オン サンマヤ サトバン |
| 午(うま) | 勢至菩薩 | オン サンザンサク ソワカ |
| 未(ひつじ)・申(さる) | 大日如来 | オン バザラダトバン |
| 酉(とり) | 不動明王 | ノウマク サンマンダ バザラダン センダマカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン |
| 戌(いぬ)・亥(い) | 阿弥陀如来 | オン アミリタ テイセイ カラ ウン |
十三仏と真言一覧
十三仏とは、死後の魂が極楽浄土へ導かれる過程で、それぞれの段階で導きを与える13体の仏様のことです。法事の際によく唱えられます。
| 仏様 | 法要 | 真言 |
|---|---|---|
| 不動明王 | 初七日 | ノウマク サンマンダ バザラダン カン |
| 釈迦如来 | 二七日 | ノウマク サンマンダ ボダナン バク |
| 文殊菩薩 | 三七日 | オン アラハシャノウ |
| 普賢菩薩 | 四七日 | オン サンマヤ サトバン |
| 地蔵菩薩 | 五七日 | オン カカカ ビサンマエイ ソワカ |
| 弥勒菩薩 | 六七日 | オン マイタレイヤ ソワカ |
| 薬師如来 | 七七日(四十九日) | オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ |
| 観音菩薩 | 百か日 | オン アロリキャ ソワカ |
| 勢至菩薩 | 一周忌 | オン サンザンサク ソワカ |
| 阿弥陀如来 | 三回忌 | オン アミリタ テイセイ カラ ウン |
| 阿閦如来 | 七回忌 | オン アキシュビヤ ウン |
| 大日如来 | 十三回忌 | オン アビラウンケン バザラダトバン |
| 虚空蔵菩薩 | 三十三回忌 | ノウボウ アキャシャ キャラバヤ オン アリキャ マリボリ ソワカ |
真言の正しい唱え方
基本的な心構え
真言を唱える際に最も大切なのは、心を込めて誠実に唱えることです。
唱える前に意識したいこと:
- 心を静め、深呼吸をして落ち着く
- 仏様への敬意を持つ
- 私欲のためではなく、正しい願いを持つ
唱え方のポイント
- 姿勢を正す:正座でも椅子でも構いませんが、背筋を伸ばします
- 合掌する:両手を胸の前で合わせます
- ゆっくりと唱える:急がず、一音一音を丁寧に発音します
- 回数を決める:7回、21回、108回など、7の倍数がよいとされています
唱える回数について
密教では真言の「反復」が重視されています。
- 3遍・7遍:日常的な祈りに
- 21遍・28遍:少し丁寧に唱えたいときに
- 108遍:本格的に功徳を積みたいときに
108という数字は煩悩の数とされ、108遍唱えることで煩悩を滅することができるといわれています。
唱える時間帯
特に決まりはありませんが、以下の時間帯がおすすめです。
- 朝:心を整えて一日を始める
- 夜:一日の終わりに感謝を込めて
静かな環境で、集中できる時間を選びましょう。
真言に関するよくある質問
一般の人が真言を唱えても大丈夫?
はい、問題ありません。真言は本来、誰でも唱えることができます。お寺の公式サイトでも、一般の方が唱えることで功徳を受けられると説明されています。
大切なのは、正しい心構えで唱えること。私欲や他人を害する目的で唱えることは避けましょう。
光明真言は「危険」って本当?
これは誤解です。光明真言は強力な真言ですが、「唱えたら危険」ということはありません。
光明真言には「私たちの進む道を無量の光で照らし、成就するように」という意味があります。正しい心で唱えれば、良い方向に導いてくれるものです。
発音を間違えても効果はある?
現在日本で唱えられている真言は、サンスクリット語を漢訳したものを音写しているため、本来の発音とは異なっています。
しかし、心を込めて唱えることが最も重要とされており、多少発音が異なっていても功徳は得られるとされています。
宗派が違っても唱えて良い?
基本的に問題ありません。光明真言などは、宗派を超えて広く唱えられています。
ただし、浄土真宗では真言を用いない伝統があります。気になる方は、ご自身の菩提寺に確認してみてください。
まとめ
真言(マントラ)は、1200年以上にわたって日本人の心の支えとなってきた仏教の祈りの言葉です。
この記事でご紹介した主な真言:
- 光明真言:あらゆる災いを取り除く最強の真言
- 六字真言(オン マニ ペメ フン):観音菩薩の慈悲を象徴する真言
- 大日如来の真言:宇宙の真理とつながる真言
- 不動明王の真言:煩悩を打ち払い、正しい道へ導く真言
どの真言を唱えるか迷ったときは、まず自分の干支の守り本尊の真言から始めてみてはいかがでしょうか。
真言は意味を完全に理解しなくても、心を込めて唱えることが大切です。日々の生活の中で、心を落ち着けたいとき、願いを叶えたいとき、真言を唱えてみてください。
仏様の言葉は、きっとあなたの心に静けさと力を与えてくれることでしょう。


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