夜空を見上げて「あの星座って誰がモデルなの?」と思ったことはありませんか?
実は、私たちが見上げる星座の多くには、世界各地の神話に登場する英雄たちの姿が刻まれています。
ギリシャ神話の勇者はもちろん、中国の伝説的人物、日本の神話、エジプトの神々まで。
彼らの物語は、何千年も前から夜空に輝き続けているんです。
この記事では、世界中の神話に登場する英雄たちの星座を一覧形式で詳しくご紹介します。
【名前だけ一覧】英雄の星座リスト

まずはパッと見てわかる、シンプルな一覧です。
ギリシャ神話
- ペルセウス座 → ペルセウス
- ヘルクレス座 → ヘラクレス
- オリオン座 → オリオン
- ふたご座 → カストル、ポルックス
- へびつかい座 → アスクレピオス
- ケンタウルス座 → ケイロン
- いて座 → ケイロン(別説)
- ぎょしゃ座 → エリクトニオス
- アンドロメダ座 → アンドロメダ姫
- カシオペヤ座 → カシオペア王妃
- ケフェウス座 → ケフェウス王
- こと座 → オルフェウス
中国・日本の神話
- わし座(アルタイル) → 牽牛/彦星
- こと座(ベガ) → 織女/織姫
- 北斗七星 → 北斗星君(中国)/七剣星(日本)
- 南斗六星 → 南斗星君
- プレアデス星団 → 昴(すばる)
エジプト神話
- オリオン座 → オシリス神
- おおいぬ座(シリウス) → イシス女神/ソティス
メソポタミア神話
- しし座 → ギルガメシュ
- ヘルクレス座 → ギルガメシュ(別説)
- みずがめ座 → エンキ神/エア神
その他の文化
- プレアデス星団 → 七姉妹(世界各地)
- オリオン座 → ベライ・ベライ(アボリジニ)
- 北極星 → ヌートイトック(イヌイット)
世界の神話と星座──なぜ同じ星に違う物語があるのか?
星座は「世界共通」ではない
現在使われている88星座は、主にギリシャ神話をベースにしています。
しかし、これは国際天文学連合が1922年に統一したもの。
それ以前は、世界各地でまったく異なる星座が使われていました。
| 文化圏 | 星座の数 | 特徴 |
|---|---|---|
| ギリシャ | 48(プトレマイオス) | 神話の神々・英雄・怪物 |
| 中国 | 約280 | 宮廷・官職・国家体系 |
| インド | 27〜28宿 | 月の通り道に配置 |
| アラビア | 独自体系 | ギリシャ星座を翻訳・改良 |
| 日本 | 和名多数 | 中国の影響+独自の呼び名 |
同じ星、違う英雄
同じ星の並びでも、文化によってまったく違う英雄が見出されています。
オリオン座の三ツ星
| 文化圏 | 呼び名 | 見立て |
|---|---|---|
| ギリシャ | オリオンの帯 | 狩人の腰帯 |
| エジプト | サフ | オシリス神の住処 |
| 日本 | 三ツ星 | 酒枡、唐鋤 |
| 中国 | 参(しん) | 二十八宿の一つ |
| ミャンマー | マゥンインサンイダン | 天秤を担いだ少年 |
| アボリジニ | ベライ・ベライ | 若者たち |
中国・東アジアの英雄と星座

牽牛と織女──七夕伝説
星の情報
| 星名 | 現在の星座 | 明るさ |
|---|---|---|
| 牽牛星(彦星) | わし座α星アルタイル | 0.8等星 |
| 織女星(織姫) | こと座α星ベガ | 0.0等星 |
七夕伝説のあらすじ
天帝の娘・織女は、毎日真面目に機を織る働き者でした。
天帝は娘を不憫に思い、同じく真面目に牛を飼う青年・牽牛と結婚させます。
ところが、結婚すると二人は仲が良すぎて仕事をしなくなってしまいました。
怒った天帝は二人を天の川の両岸に引き離し、年に一度、7月7日の夜だけ会うことを許したのです。
この物語は中国で生まれ、日本や韓国にも伝わりました。
夏の夜空で天の川を挟んで輝く二つの一等星は、まさに離ればなれの恋人たちの姿そのものです。
日本での七夕
日本では奈良時代に中国から伝わり、日本古来の「棚機津女(たなばたつめ)」信仰と融合しました。
短冊に願い事を書く風習は、江戸時代に庶民の間で広まったものです。
北斗七星──死を司る神
星の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所属 | おおぐま座の一部 |
| 見える時期 | 一年中(北半球) |
| 和名 | 四三の星、七剣星、柄杓星 |
中国での信仰:北斗星君
中国では、北斗七星は人間の寿命を司る「北斗星君」として信仰されてきました。
「北斗は死を司り、南斗は生を司る」
北斗七星が人の死を、いて座の南斗六星が人の生を管理すると考えられていたのです。
道教では北斗七星の各星に神が宿るとされ、それぞれに名前がつけられています。
日本での呼び名
- 四三の星:4つと3つに分けて見た呼び名
- 七剣星:7本の剣に見立てた武運の星
- 柄杓星:ひしゃくの形から
ギリシャ神話との違い
ギリシャ神話では、北斗七星は「おおぐま座」の一部。
ゼウスに愛された女性カリストが、嫉妬したヘラによってクマに変えられた姿とされています。
同じ星でも、東洋では「運命を司る神」、西洋では「悲劇の女性」と、まったく違う物語が語られているんですね。
プレアデス星団(昴・すばる)──世界中で語られる星
星の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所属 | おうし座 |
| 見える時期 | 秋〜春 |
| 肉眼での見え方 | 6〜7個の星がまとまって見える |
プレアデス星団は、世界中でもっとも多くの神話を持つ星の一つです。
世界各地での呼び名と物語
| 文化圏 | 呼び名 | 物語 |
|---|---|---|
| 日本 | 昴(すばる) | 「統まる」=まとまる、の意 |
| ギリシャ | プレアデス | アトラスの7人の娘たち |
| アボリジニ | メイヤーメーイ | 7人姉妹 |
| タイ | ダーオ・ルーク・ガイ | ひよこ星(7羽のひよこ) |
| インド | クリッティカー | カルティッケーヤ神の起源 |
| 中国 | 昴宿 | 二十八宿の一つ |
清少納言は『枕草子』で「星はすばる」と、その美しさを讃えています。
1000年以上前の平安時代の人々も、同じ星を見上げていたんですね。
エジプト神話の英雄と星座
オシリス神とオリオン座
星の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現在の名称 | オリオン座 |
| エジプトでの名称 | サフ |
| 関連する神 | オシリス |
オシリス神話
オシリスは、古代エジプトで最も重要な神の一人です。
農耕と文明をエジプトにもたらした偉大な王でしたが、弟セトの嫉妬によって殺されてしまいます。
妻イシスは夫の遺体を集め、魔法で復活させました。
復活したオシリスは冥界の王となり、死者を裁く神として崇められるようになります。
オリオン座との関係
古代エジプト人は、オリオン座をオシリス神の住処と考えていました。
特に三ツ星の部分が重要視され、ファラオは死後オシリスと一体化して星になると信じられていました。
ピラミッドとの関係
ギザの三大ピラミッドがオリオン座の三ツ星の配置に対応しているという説があります。
真偽は議論されていますが、古代エジプト人が星と死後の世界を深く結びつけていたことは確かです。
シリウスとイシス女神
星の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現在の名称 | おおいぬ座α星シリウス |
| エジプトでの名称 | ソティス |
| 関連する神 | イシス女神 |
シリウスは全天でもっとも明るい恒星です。
古代エジプトでは、シリウスの出現がナイル川の氾濫を予告する重要なサインでした。
イシスはオシリスの妻であり、魔法の女神。
夫を復活させ、息子ホルスを育てた偉大な母でもあります。
オリオン座(オシリス)のすぐそばにシリウス(イシス)があるのは、夫婦が寄り添う姿そのものですね。
メソポタミア神話の英雄と星座
ギルガメシュ──人類最古の英雄物語
関連する星座
| 現在の星座 | 関連性 |
|---|---|
| しし座 | ライオンを倒す英雄 |
| ヘルクレス座 | 原型の可能性あり |
ギルガメシュ叙事詩
ギルガメシュは、人類最古の文学作品『ギルガメシュ叙事詩』の主人公です。
古代メソポタミアの都市ウルクの王であり、三分の二が神、三分の一が人間という半神の英雄。
親友エンキドゥとともに怪物フンババを退治し、「天の牡牛」を倒すなど、数々の冒険を繰り広げました。
エンキドゥの死後、ギルガメシュは不死を求めて旅に出ます。
しかし不死は得られず、人間として偉大な業績を残すことの大切さを悟って帰還しました。
しし座との関係
古代バビロニアでは、しし座はギルガメシュがライオンを倒す姿と関連づけられていました。
後のギリシャ神話でヘラクレスがネメアの獅子を退治する話は、この影響を受けている可能性があります。
エンキ神とみずがめ座
星の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現在の名称 | みずがめ座 |
| メソポタミアでの関連 | エンキ神(エア神) |
| 象徴 | 水を注ぐ神 |
エンキ(シュメール語)またはエア(アッカド語)は、知恵と水の神です。
みずがめ座は、水瓶から水を注ぐ姿で描かれますが、これはエンキ神が人類に知恵と豊かさをもたらす姿を表しているとされています。
メソポタミア文明では、ティグリス・ユーフラテス川の水が生命の源であり、エンキはその象徴でした。
ギリシャ神話の英雄星座
ペルセウス座──メドゥーサを倒した救世の英雄
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Perseus |
| 見える季節 | 秋〜春 |
| 主な星 | アルゴル(β星)、ミルファク(α星) |
どんな英雄?
ペルセウスは、大神ゼウスと人間の王女ダナエの間に生まれた半神半人の英雄です。
見る者を石に変える怪物メドゥーサを退治し、海の怪物ケートスからアンドロメダ姫を救い出しました。
アルゴル──悪魔の星
ペルセウス座には「悪魔の星」アルゴルがあります。
この名前はアラビア語で「悪魔の頭(ラス・アル・グル)」を意味し、メドゥーサの首の位置にあたります。
アルゴルは約2.9日周期で明るさが変わる変光星で、古代の人々はこの不気味な明滅を恐れていました。
ペルセウス座流星群
毎年8月中旬に極大を迎えるペルセウス座流星群は、三大流星群の一つとして人気があります。
ヘルクレス座──最強の英雄
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Hercules |
| 見える季節 | 春〜秋 |
| 面積 | 1225平方度(全天5位) |
どんな英雄?
ヘルクレス(ギリシャ語ではヘラクレス)は、ゼウスと人間の女性アルクメネの間に生まれたギリシャ神話最強の英雄です。
十二の功業
ヘルクレス最大の冒険は、12の難行です。退治した怪物の多くが星座になっています。
| 功業 | 関連星座 |
|---|---|
| ネメアの獅子退治 | しし座 |
| レルネーのヒュドラ退治 | うみへび座 |
| ヒュドラ戦でカニを踏み潰す | かに座 |
| ラドン(竜)を倒す | りゅう座 |
オリオン座──冬の王者
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Orion |
| 見える季節 | 冬 |
| 主な星 | ベテルギウス(α星)、リゲル(β星) |
どんな英雄?
オリオンは海神ポセイドンの息子で、ギリシャ神話最高の狩人です。
女神アルテミスと恋に落ちましたが、兄アポロンの策略により、アルテミス自身の矢で命を落としてしまいました。
世界各地でのオリオン座
| 文化圏 | 呼び名・解釈 |
|---|---|
| ギリシャ | 狩人オリオン |
| エジプト | オシリス神の住処 |
| 日本 | 鼓星、源氏星・平家星 |
| ミャンマー | 天秤を担いだ少年 |
ふたご座──不滅の兄弟愛
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Gemini |
| 見える季節 | 冬〜春 |
| 主な星 | カストル(α星)、ポルックス(β星) |
どんな英雄たち?
ふたご座のモデルは、双子の兄弟カストルとポルックスです。
兄カストルは人間の血を引き、弟ポルックスは神の血を引いて不死身でした。
カストルが戦死した時、ポルックスは「兄と一緒にいられるなら、不死の体などいらない」とゼウスに懇願。
ゼウスは息子の願いを聞き入れ、二人を永遠に寄り添う星座として天に上げました。
インド・ペルシャの英雄と星座
クリッティカー(プレアデス星団)
インドでは、プレアデス星団は「クリッティカー」と呼ばれ、軍神カルティッケーヤの養母とされています。
カルティッケーヤはシヴァ神の息子で、6つの顔と12本の腕を持つ戦いの神。
6人の養母(クリッティカー)に育てられたため、この名がつきました。
二十七宿(ナクシャトラ)
インドには独自の星座体系「二十七宿(ナクシャトラ)」があります。
月が約27日で天球を一周することから、月の通り道に27の「宿」が設定されました。
それぞれの宿には神話的な意味があり、生まれた時に月がどの宿にあったかで運勢を占います。
英雄と怪物──対になる星座
英雄が退治した怪物も、しばしば星座になっています。
| 英雄 | 怪物の星座 | 関係 |
|---|---|---|
| ヘルクレス | しし座 | ネメアの獅子を退治 |
| ヘルクレス | うみへび座 | レルネーのヒュドラを退治 |
| ヘルクレス | かに座 | ヒュドラ戦でカニを踏み潰した |
| ペルセウス | くじら座 | 海の怪物ケートスを石化 |
| オリオン | さそり座 | オリオンを殺したサソリ |
オリオン座とさそり座は、決して同時に夜空に現れません。
オリオンが沈む頃にさそりが昇り、さそりが沈む頃にオリオンが昇る。
神話の因縁が、今も星の動きに刻まれているんです。
季節別・英雄星座の見つけ方

冬(12月〜2月)
- オリオン座:三ツ星を目印に、最も見つけやすい
- ふたご座:オリオン座の北東、カストルとポルックスが並ぶ
春(3月〜5月)
- しし座:レグルスを目印に
- うしかい座:アルクトゥルスを目印に
夏(6月〜8月)
- ヘルクレス座:こと座のベガの近く
- へびつかい座:さそり座の上方
- こと座・わし座:夏の大三角(七夕の星)
秋(9月〜11月)
- ペルセウス座:カシオペア座(Wの形)の近く
- アンドロメダ座:ペガスス座の四辺形から探す
まとめ
世界中の神話に登場する英雄たちは、今も夜空で輝き続けています。
ギリシャ神話だけでなく、中国の牽牛・織女、エジプトのオシリス、メソポタミアのギルガメシュ、日本の昴や北斗七星。
同じ星を見上げながら、それぞれの文化が異なる物語を紡いできました。
それこそが、星座の魅力なのかもしれません。
晴れた夜、ぜひ空を見上げてみてください。
あなたの頭上には、何千年も語り継がれてきた英雄たちの物語が輝いています。

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