インド神話に興味を持ったものの、
「どの本から読めばいいかわからない」
「登場人物が多くて難しそう」
と悩んでいませんか?
実は、インド神話はギリシャ神話や北欧神話と比べて圧倒的に情報量が多いんです。二大叙事詩『マハーバーラタ』だけでも約10万詩節という途方もないボリューム。いきなり原典に挑むと、古代インド特有の世界観や難解な用語で挫折してしまいます。
この記事では、初心者でも楽しく読める入門書から、本格的に学びたい人向けの専門書まで、レベル別に詳しくご紹介します。
学習方法の基本:ステップを踏んで読み進めよう

なぜ段階的に学ぶべきなのか
インド神話には、他の神話にはない特徴があります。
- 神様の名前が複数ある(シヴァだけでも「マハーデーヴァ」「シャンカラ」など多数)
- 同じ神が別の姿で登場する(ヴィシュヌの十化身など)
- 哲学的・宗教的な教えが物語に織り込まれている
これらを一度に理解しようとすると、まず間違いなく混乱します。
「せっかくだから原典を読もう」と考えていきなり難しい本に手を出すのは、古文を習っていないのに『源氏物語』の原文を読むようなもの。
読むこと自体が苦痛になってしまいます。
おすすめの学習ステップ
- イラストや図解が豊富な入門書で全体像をつかむ
- やさしい解説書で基本的な神々や物語を学ぶ
- 叙事詩のダイジェスト版でストーリーを把握する
- 専門書や原典でより深く学ぶ
この順序で進めれば、無理なく知識を積み重ねていけます。
初心者向け:最初の一冊におすすめの入門書

まずはここから始めましょう。イラストが豊富で、活字が苦手な人でも読み進められる本を厳選しました。
『いちばんわかりやすいインド神話』天竺奇譚 著
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:インド神話を初めて学ぶ人、ビジュアル重視の人
- 特徴:美麗なイラスト満載で、神々の個性が一目でわかる
著者の天竺奇譚さんは、長年Webサイト『天竺奇譚』でインド神話を発信してきた研究家。シヴァ、ヴィシュヌ、ガネーシャ、ラーマ、クリシュナといった主要な神々の特徴や逸話が、物語調でわかりやすく解説されています。
二大叙事詩『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』の世界観から、神々が登場するインドの祭りや風習まで網羅。巻末には漫画やゲームでインド神話が登場する作品紹介もあり、サブカルチャーが好きな人にもおすすめ。
まさに「最初の一冊」に最適な入門書です。
『インド神話』沖田瑞穂 著(岩波少年文庫)
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:中高生から大人まで幅広い層
- 特徴:少年文庫だが内容は本格的、漢字にふりがな付き
対象年齢は小学5・6年生以上となっていますが、内容は大人が読んでも十分な深さがあります。
ヴェーダの神話、ヒンドゥー教の神話、女神たち、人間と神々の物語の5部構成。ガネーシャがなぜ象の頭になったのか、シヴァが3つの目を持つ理由など、有名なエピソードがしっかり収録されています。
著者の沖田瑞穂さんは神話学者で、学術的な正確さと読みやすさを両立させた名著。
『インド神話入門』長谷川明 著(とんぼの本/新潮社)
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:写真や図版で神像を見たい人
- 特徴:大衆宗教画や神像のカラー写真が豊富
1987年発売のロングセラー。実際のインドで崇拝されている神像や宗教画がカラーで掲載されており、視覚的にインド神話の世界を理解できます。
インド旅行を予定している人にもおすすめ。現地の寺院やお祭りで目にする神々の姿を予習できるので、旅の体験がぐっと深まります。
『ゼロからわかるインド神話』(文庫ぎんが堂)
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:手軽に持ち歩ける文庫サイズが欲しい人
- 特徴:コンパクトながら主要な神話を網羅
文庫サイズで持ち運びやすく、通勤・通学中にも読める一冊。インドラ、シヴァ、ヴィシュヌ、ラクシュミー、ガネーシャなど、主要な神々のエピソードがまとまっています。
「なぜインドでこういう神話が生まれたのか?」という文化的背景にも触れており、単なる物語紹介にとどまらない深みがあります。
中級者向け:しっかり学びたい人に

入門書を読んで「もっと詳しく知りたい!」と思ったら、次のステップへ進みましょう。
『インド神話 マハーバーラタの神々』上村勝彦 著(ちくま学芸文庫)
- おすすめ度:★★★★★(最もおすすめ!)
- こんな人におすすめ:正確な情報を求める人、出典を確認したい人
- 特徴:原典に基づいた信頼性の高い解説書
著者の上村勝彦さんは東京大学東洋文化研究所の教授だった方で、サンスクリット語の専門家。すべてのエピソードに明確な出典が記されているのが最大の特徴です。
ヴェーダの神話から、叙事詩の神話、ヴィシュヌ神話、クリシュナ伝説まで4章構成。「乳海攪拌」「一角仙人伝説」「ヴィシュヌの十化身」など有名な神話を可能な限り網羅しています。
インド神話を学術的に正しく理解したい人には必携の一冊。ただし入門書と比べると文章は堅めなので、先に入門書を読んでからがおすすめ。
『マハーバーラタ入門 インド神話の世界』沖田瑞穂 著
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:マハーバーラタのストーリーを把握したい人
- 特徴:約10万詩節の大叙事詩を1冊にわかりやすくまとめた入門書
全18巻という膨大な『マハーバーラタ』の内容を、「主筋」と「挿話」に分けてわかりやすく解説。従兄弟同士の王族の争い(本筋)と、その間に語られる多くの神話(挿話)の両方が理解できます。
神話学者ならではの視点で、他地域の神話との類似点や相違点を解説したコラムも充実。英雄たちの系図や登場人物一覧も付いているので、複雑な人間関係も整理しやすい構成になっています。
『[ヴィジュアル版]インド神話物語百科』
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:ビジュアル重視で体系的に学びたい人
- 特徴:美麗な図版と挿絵で神話世界を視覚化
文章だけではイメージしにくい神々や魔物、戦いの場面が、まるで映画のワンシーンのように描かれています。
宇宙創造の哲学から『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』まで膨大な情報を体系立てて収録。図鑑的に使える永久保存版として手元に置いておきたい一冊です。
叙事詩を読みたい人向け:物語として楽しむ
インド神話の二大叙事詩『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』を物語として読みたい人向けの本を紹介します。
『インド神話物語マハーバーラタ』上下巻 デーヴァダッタ・パトナーヤク著
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:物語として読みたい人、現代的な視点で楽しみたい人
- 特徴:インドの神話学者による再話、挿絵付きで読みやすい
著者のパトナーヤクはインドで最も有名な神話学者の一人。原典を忠実に再話しながらも、現代的な価値観から両陣営を見つめ直す姿勢が興味深い作品です。
インドの様々な地域に伝わるマハーバーラタのバージョンも紹介されており、神話がどのように語り継がれてきたかがわかります。
『インド神話物語ラーマーヤナ』上下巻 デーヴァダッタ・パトナーヤク著
- おすすめ度:★★★★★
- こんな人におすすめ:ラーマーヤナを物語として楽しみたい人
- 特徴:マハーバーラタの姉妹編、コラムで文化背景も解説
ヴィシュヌ神の化身である英雄ラーマが、魔王ラーヴァナに奪われた妻シーターを取り戻す冒険譚。挿絵付きで読みやすく、背景となる神話やインドの文化をコラムで解説しています。
ラーマーヤナ入門として最適な一冊。
『マハーバーラタ』上中下巻(第三文明社)
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:原典に近い形で読みたい人
- 特徴:インド人著者による再話、詳細なストーリー
チャクラヴァルティ・ラージャーゴーパーラーチャリ著。インド人の視点から書かれた再話で、原典の雰囲気を保ちながら読みやすくまとめられています。
『ラーマーヤナ』上下巻(レグルス文庫)
- おすすめ度:★★★★☆
- こんな人におすすめ:古典的な翻訳で読みたい人
- 特徴:1971年発売のロングセラー、挿絵付き
発行から50年以上経った今も売れ続けている古典的名著。
上巻は「一の巻」から「四の巻」まで17話、下巻は「五の巻」から「六の巻」まで17話を収録。
上級者向け:原典に挑戦する

入門書や解説書を読み、叙事詩のストーリーも把握したら、いよいよ原典に挑戦してみましょう。
『原典訳マハーバーラタ』上村勝彦 訳(法蔵館文庫/旧ちくま学芸文庫)
- レベル:上級
- こんな人におすすめ:サンスクリット原典の翻訳を読みたい人
- 特徴:日本を代表するサンスクリット学者による原典訳
上村勝彦教授が平易な日本語で訳した原典訳。残念ながら著者の逝去により全18巻中8巻途中までで未完となっていますが、原典の雰囲気を日本語で味わえる貴重な翻訳です。
原典特有の言い回しや詩的な表現を体験できます。ただし、いきなり読むと人物関係が複雑で混乱するので、先にダイジェスト版でストーリーを把握しておくのがおすすめ。
『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦 訳(岩波文庫)
- レベル:中級〜上級
- こんな人におすすめ:インド哲学の核心に触れたい人
- 特徴:詳細な解説と丁寧な注釈付き
『マハーバーラタ』の中でも最も重要な部分とされる「神の詩」。主人公アルジュナの苦悩と、クリシュナ神による教えを通じて、インド哲学の根幹を学べます。
上村教授の学者としての慎重な姿勢が表れた、解説・注釈が充実した名訳です。
『いちばんていねいでいちばん易しいインド哲学 超入門「バガヴァッド・ギーター」』大塚和彦 著
- レベル:中級(原典を読む前の準備に)
- こんな人におすすめ:バガヴァッド・ギーターの予習をしたい人
- 特徴:イラスト・図表付きで挫折しにくい構成
原典を読む前の準備として最適。舞台設定や登場人物を整理してから本編に入れるので、挫折しにくい構成になっています。
レベル別・目的別の本選びガイド

あなたはどのタイプ?
とにかく手軽に始めたい人
→『いちばんわかりやすいインド神話』天竺奇譚
中高生・若い世代
→『インド神話』沖田瑞穂(岩波少年文庫)
写真や神像のビジュアルで学びたい人
→『インド神話入門』長谷川明
学術的に正確な情報が欲しい人
→『インド神話 マハーバーラタの神々』上村勝彦
マハーバーラタのストーリーを把握したい人
→『マハーバーラタ入門』沖田瑞穂
物語として叙事詩を楽しみたい人
→『インド神話物語マハーバーラタ』パトナーヤク
おすすめの読む順序
ステップ1:まずは1冊読み切る
イラスト豊富な入門書でOK。とりあえず楽しむことを優先しましょう。
ステップ2:興味のある分野を深掘り
- 特定の神様(シヴァ、ヴィシュヌ、ガネーシャなど)
- 特定の物語(マハーバーラタ、ラーマーヤナ)
- インドの文化や宗教との関連
ステップ3:体系的に学ぶ
上村勝彦の『インド神話』などで正確な知識を身につける。神々の関係性や物語の背景を整理する。
ステップ4:原典に挑戦
現代語訳から始めて、徐々に原典に近い翻訳へ。複数の翻訳を比較してみるのも面白いです。
よくある疑問と回答
Q: インド神話とヒンドゥー教神話の違いは?
A: ほぼ同じ意味で使われます。
インド神話は大きく分けて「ヴェーダ神話」と「ヒンドゥー教神話」に分類されます。時代によって主役となる神が変化し、古いヴェーダ時代にはインドラ(帝釈天)が主神でしたが、後のヒンドゥー教時代にはシヴァやヴィシュヌが中心になりました。
Q: 日本の仏教とインド神話の関係は?
A: 多くの仏教の神々はインド神話がルーツです。
- 帝釈天=インドラ
- 梵天=ブラフマー
- 弁財天=サラスヴァティー
- 毘沙門天=クベーラ
- 韋駄天=スカンダ
- 大黒天=シヴァ(マハーカーラ)
仏教がインドから伝わる際に、これらの神々も一緒に日本に入ってきました。
Q: 現代でも役立つ知識?
A: 思っている以上に役立ちます!
- 映画・アニメ・ゲーム:『RRR』『バーフバリ』などインド映画、FGOやメガテンなどのゲームでインド神話のキャラクターが多数登場
- 美術鑑賞:東南アジアの寺院彫刻や絵画の理解が深まる
- ヨガ・瞑想:ヨガの哲学的背景にはインド神話・哲学がある
- 比較神話学:他の神話との共通点を発見できる
まとめ
学習のポイント
- 無理をしない
いきなり難しい本から始めず、自分のレベルに合った本を選びましょう。 - 楽しむことを最優先
「勉強」と思わず、「物語」として楽しみましょう。神々の人間臭さや壮大なスケールを味わってください。 - 完璧を求めない
登場人物の名前をすべて覚えようとしなくて大丈夫。最初は名前を気にせず、ストーリーを追うことを優先しましょう。 - 関連する文化も楽しむ
映画、ゲーム、美術館なども活用して、多角的に神話を楽しみましょう。『RRR』や『バーフバリ』を観てからインド神話を学ぶのもおすすめです。
おすすめの最初の3冊
超初心者の方
- 『いちばんわかりやすいインド神話』天竺奇譚
- 『インド神話』沖田瑞穂(岩波少年文庫)
ある程度読書に慣れている方
- 『インド神話 マハーバーラタの神々』上村勝彦
- 『マハーバーラタ入門』沖田瑞穂
- 『インド神話物語マハーバーラタ』パトナーヤク
紹介したせ書籍一覧
記事内で紹介されている書籍をリストにまとめました。
初心者向け入門書
- 『いちばんわかりやすいインド神話』 天竺奇譚 著
- 『インド神話』 沖田瑞穂 著(岩波少年文庫)
- 『インド神話入門』 長谷川明 著(とんぼの本/新潮社)
- 『ゼロからわかるインド神話』(文庫ぎんが堂)
中級者向け
- 『インド神話 マハーバーラタの神々』 上村勝彦 著(ちくま学芸文庫)
- 『マハーバーラタ入門 インド神話の世界』 沖田瑞穂 著
- 『[ヴィジュアル版]インド神話物語百科』
叙事詩を物語として楽しむ
- 『インド神話物語マハーバーラタ』上下巻 デーヴァダッタ・パトナーヤク 著
- 『インド神話物語ラーマーヤナ』上下巻 デーヴァダッタ・パトナーヤク 著
- 『マハーバーラタ』上中下巻 チャクラヴァルティ・ラージャーゴーパーラーチャリ 著(第三文明社)
- 『ラーマーヤナ』上下巻(レグルス文庫)
上級者向け(原典)
- 『原典訳マハーバーラタ』 上村勝彦 訳(法蔵館文庫/旧ちくま学芸文庫)
- 『バガヴァッド・ギーター』 上村勝彦 訳(岩波文庫)
- 『いちばんていねいでいちばん易しいインド哲学 超入門「バガヴァッド・ギーター」』 大塚和彦 著
最後に
インド神話は、約4500年もの長い歴史を持つ人類の貴重な文化遺産です。
他の神話と比べて情報量が多く、最初は「難しそう」と感じるかもしれません。でも、一度その世界に入り込めば、人間味あふれる神々の物語に夢中になるはず。
ぜひ、自分に合った一冊からインド神話の世界に足を踏み入れてみてください。



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