「インターネットってどうやって世界中のネットワークをつないでいるんだろう?」
そう思ったことはありませんか?実は、インターネットは「自律システム(Autonomous System、略してAS)」という単位で構成されているんです。
この記事では、インターネットの基盤を支えるASについて、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
自律システム(AS)とは?基本を理解しよう

まずは、自律システムの基本的な概念から見ていきましょう。
自律システムの定義
自律システム(Autonomous System)とは、単一の管理組織の下で、統一されたルーティングポリシー(経路制御方針)によって運営されるネットワークの集合のことです。
もう少し噛み砕いて説明すると:
「同じルールでネットワークを管理している、IPアドレスのかたまり」と考えると分かりやすいでしょう。
インターネットは「ネットワークのネットワーク」
よく「インターネットはネットワークのネットワーク」と言われます。これはどういう意味でしょうか?
インターネットは、世界中の何万もの独立したネットワークが相互接続してできています。この独立したネットワークの単位が、まさに「自律システム」なんです。
たとえ話で理解しよう
郵便システムで例えてみましょう。
- 各国には独自の郵便サービスがある(日本郵便、USPS、Royal Mailなど)
- 国内での配送は各国の郵便サービスが独自のルールで処理
- 国際郵便では、国と国の間で決められたルールに従う
- 最終的には宛先の国の郵便サービスが配達
インターネットも同じです:
- 各組織が独自のネットワーク(AS)を運営
- AS内部では独自のルールでデータを転送
- AS間では共通のプロトコル(BGP)を使ってデータを交換
- 最終的には宛先のASがデータを配送
どんな組織がASを持っているの?
自律システムを持つ代表的な組織:
インターネットサービスプロバイダ(ISP)
- NTTコミュニケーションズ
- ソフトバンク
- KDDI
- IIJmio
大企業
- Google(AS15169)
- Amazon(AS16509)
- Cloudflare(AS13335)
- Microsoft
教育機関
- 大学
- 研究機関
政府機関
- 各省庁
- 地方自治体
CDNプロバイダ
- Akamai
- Fastly
これらの組織は、それぞれ独自のASを持ち、インターネットの一部を形成しています。
AS番号(ASN):ASの身分証明書
各自律システムには、世界で唯一の番号が割り当てられます。これを「AS番号(Autonomous System Number、ASN)」と呼びます。
AS番号の形式
AS番号には2つの形式があります。
16ビットAS番号(2オクテット)
古い形式で、以下の範囲があります:
- 1~64495:グローバルに使用可能なパブリックAS番号
- 64512~65534:プライベートAS番号(組織内専用)
- 64496~64511:ドキュメント用に予約
- 0、65535:予約済み(使用不可)
合計で約65,000個しかなく、枯渇の問題がありました。
32ビットAS番号(4オクテット)
2007年から導入された新しい形式:
- 0~4,294,967,295:約43億個のAS番号が利用可能
- 4,200,000,000~4,294,967,294:プライベート用
- その他の予約範囲あり
AS番号の表記方法
AS番号は通常、以下のように表記します:
標準的な表記(asplain形式)
- AS13335(Cloudflare)
- AS2516(KDDI)
- AS2497(IIJ)
- AS15169(Google)
32ビット番号の別表記(asdot+形式)
- 131072 → 2.0の形式で表記
- x.yの形式(xとyはそれぞれ16ビット)
AS番号の役割
AS番号は、インターネット上で以下の重要な役割を果たします:
1. ASの識別
郵便番号のように、各ASを一意に識別します。
2. ルーティング情報の交換
BGPプロトコルでAS番号を使って経路情報を交換。
3. ループ防止
データが同じASを何度も通過しないようにする仕組みに使われます。
4. ルーティングポリシーの適用
AS番号を見て、「このASを経由したい/したくない」といった制御が可能。
BGPとの関係:ASをつなぐプロトコル
自律システムを理解する上で、BGP(Border Gateway Protocol)は切り離せない存在です。
BGPとは何か?
BGP(Border Gateway Protocol)は、異なる自律システム間でルーティング情報を交換するためのプロトコルです。
インターネットの「道路地図」を作り、データがどの経路を通って目的地に到達すべきかを決める、極めて重要なプロトコルなんです。
EGPとIGP:2種類のルーティングプロトコル
ルーティングプロトコルには大きく2種類あります:
EGP(Exterior Gateway Protocol)
- AS間(外部)のルーティング
- BGPが代表的(実質的に唯一)
- インターネット全体のルーティング
- 約95%のASがBGPを使用
IGP(Interior Gateway Protocol)
- AS内(内部)のルーティング
- OSPF、RIP、EIGRP、IS-ISなど
- 各組織が自由に選択
例えるなら:
- IGP = 市内の配送ルート(各配送会社が独自に決める)
- EGP = 都市間・国際配送ルート(共通ルールに従う)
BGPがどう動くか:簡単な例
具体的な例で見てみましょう。
シナリオ:
東京のユーザーがニューヨークのウェブサイトにアクセス
データの流れ:
- ユーザーのISP(AS-A)
- 「ニューヨークのサーバー(IPアドレス)に行きたい」
- BGPテーブルを確認
- AS-Aの判断
- 「AS-B経由が最短」または「AS-C経由が安定」
- ルーティングポリシーに基づいて経路を選択
- 複数のASを経由
- AS-A → AS-B → AS-D → AS-E(ニューヨークのISP)
- 目的のAS-E
- サーバーにデータを配送
この一連の流れを、BGPが自動的に管理しているんです。
パスベクトル型プロトコル
BGPは「パスベクトル型」と呼ばれるアルゴリズムを使います。
これは、目的地までにどのASを経由するかという「ASパス」を使って経路を決定する方式です。
ASパスの例:
目的ネットワーク:203.0.113.0/24
ASパス:AS-100 → AS-200 → AS-300 → AS-400
このパス情報を見て:
- 経由するAS数(ホップ数)
- 各ASのポリシー
- その他の属性
これらを総合的に判断して、最適な経路を選びます。
ループ防止の仕組み
BGPには賢いループ防止機能があります。
仕組み:
受信した経路情報に自分のAS番号が含まれていたら、その経路を破棄する
例:
- AS-100が経路情報を受信
- ASパスを見ると:AS-200 → AS-300 → AS-100 → AS-400
- 「あれ?自分(AS-100)が既にパスに入っている」
- 「これはループだ!」→ 経路を拒否
この単純だけど効果的な仕組みで、データが無限ループに陥るのを防いでいます。
ASの種類:3つのタイプ
自律システムは、その接続形態によって3種類に分類されます。
1. スタブAS(Stub AS)
定義:
1つの他のASにのみ接続しているAS
特徴:
- 最もシンプルな構成
- トラフィックは接続先ASを経由するのみ
- 他のASへの中継は行わない
典型例:
- 中小企業のネットワーク
- 大学のキャンパスネットワーク
- 1つのISPだけを使っている組織
メリット:
- 設定がシンプル
- 管理が容易
- コストが低い
デメリット:
- 接続先ASに障害が発生すると、インターネットに繋がらなくなる
- 冗長性がない
2. マルチホームAS(Multihomed AS)
定義:
2つ以上の他のASに接続しているAS(ただし、他のASの中継は行わない)
特徴:
- 複数のISPに接続
- 冗長性を確保
- 一方のISPに障害が起きても、もう一方で通信継続
- トランジットトラフィック(中継)は受け入れない
典型例:
- 大企業のネットワーク
- 可用性を重視する組織
- 金融機関、データセンター
メリット:
- 高い可用性
- ISP障害時も継続稼働
- ISP間で負荷分散可能
- ルーティングポリシーの柔軟性
デメリット:
- 複数のISP契約が必要(コスト増)
- BGP設定が複雑
- 運用管理の難易度が上がる
3. トランジットAS(Transit AS)
定義:
複数のASに接続し、他のASのトラフィックを中継するAS
特徴:
- ISPの典型的な構成
- 自組織のトラフィックだけでなく、顧客のトラフィックも転送
- インターネットのバックボーンを形成
典型例:
- 大手ISP(NTT、KDDI、IIJなど)
- Tier 1プロバイダ(全世界を結ぶ基幹ISP)
- リージョナルISP
メリット:
- トランジット料金で収益化
- インターネットの重要な一部となる
- 高速なバックボーン接続
デメリット:
- 膨大なトラフィック処理が必要
- 高度な技術と設備が必要
- セキュリティ責任が大きい
AS番号の取得方法:どうやって手に入れる?
自律システムを運用するには、AS番号を取得する必要があります。
管理組織の階層構造
AS番号は、以下の階層構造で管理されています:
IANA(Internet Assigned Numbers Authority)
↓ ブロック単位で割り当て
RIR(Regional Internet Registry)地域インターネットレジストリ
↓ 個別に割り当て
NIR(National Internet Registry)国別インターネットレジストリ / LIR / ISP
↓
エンドユーザー組織
5つの地域インターネットレジストリ(RIR)
世界は5つの地域に分かれており、それぞれRIRが管理しています:
APNIC(Asia-Pacific Network Information Centre)
- アジア太平洋地域
- 日本、中国、韓国、オーストラリアなど
- ウェブサイト:https://www.apnic.net/
ARIN(American Registry for Internet Numbers)
- 北米地域
- アメリカ、カナダなど
- ウェブサイト:https://www.arin.net/
RIPE NCC(Réseaux IP Européens Network Coordination Centre)
- ヨーロッパ、中東、中央アジア
- ウェブサイト:https://www.ripe.net/
LACNIC(Latin American and Caribbean Network Information Centre)
- 中南米とカリブ海地域
- ウェブサイト:https://www.lacnic.net/
AFRINIC(African Network Information Centre)
- アフリカ地域
- ウェブサイト:https://www.afrinic.net/
日本でAS番号を取得する方法
日本では、2つの方法があります:
方法1:JPNICに申請
日本のNIRであるJPNIC(Japan Network Information Center)に直接申請します。
- 公式サイト:https://www.nic.ad.jp/
- 費用:初回割り当て契約料 275,000円(税込)+ 年間維持費
- 条件:統一された運用ポリシーでネットワークを管理すること
方法2:APNICに申請
日本を管轄するRIRであるAPNICに申請します。
- APNICメンバーになる必要がある
- 国際的な組織の場合はこちらが適切
申請に必要な条件
AS番号を取得するには、以下の要件を満たす必要があります:
技術的要件
- 複数のISPに接続する計画(マルチホーム)
- または、他のASと相互接続する明確な理由
- BGPを運用する技術力
ポリシー要件
- 統一されたルーティングポリシーを持つこと
- AS内のネットワークを適切に管理できること
正当な理由
- 単に「AS番号が欲しい」だけでは不十分
- ビジネス上の必要性や技術的な理由が必要
プライベートAS番号という選択肢
インターネットに直接接続しない場合、プライベートAS番号を自由に使えます。
16ビット範囲:64512~65534
32ビット範囲:4,200,000,000~4,294,967,294
使用例:
- 企業内のWANネットワーク
- データセンター間の接続
- MPLS VPN サービス
注意点:
プライベートAS番号は、インターネット上に流してはいけません。ISPとの接続点で必ず除去される必要があります。
ルーティングポリシー:ASの「経路方針」

自律システムの重要な特徴の1つが、「ルーティングポリシー」です。
ルーティングポリシーとは?
ルーティングポリシーとは、「どの経路を使ってデータを送受信するか」についての方針のことです。
具体的には:
管理するIPアドレス空間のリスト
- 「このASは、203.0.113.0/24というIPアドレス範囲を持っている」
接続している他のASのリスト
- 「AS-100はAS-200とAS-300に接続している」
経路選択の優先順位
- 「AS-200経由を優先し、AS-300はバックアップ」
- 「特定のトラフィックはAS-200を使う」
ポリシーの例
具体的なポリシーの例を見てみましょう。
例1:コスト重視のポリシー
優先順位:
1. 自社のピアリング先(無料)
2. 安価なトランジットISP
3. 高価だが高速なトランジットISP(緊急時のみ)
例2:パフォーマンス重視のポリシー
優先順位:
1. レイテンシが最小の経路
2. 帯域幅が最大の経路
3. ホップ数が最小の経路
例3:地域別ポリシー
- アジア向けトラフィック → AS-A経由
- 欧州向けトラフィック → AS-B経由
- 米国向けトラフィック → AS-C経由
BGP属性によるポリシー制御
BGPでは、経路情報に様々な「属性(Attribute)」を付加して、細かくポリシーを制御できます。
主要なBGP属性:
AS_PATH
- 経由するASのリスト
- ホップ数で経路を評価
LOCAL_PREF(Local Preference)
- AS内での経路の優先度
- 値が大きいほど優先
MULTI_EXIT_DISC(MED)
- 同じAS内の複数の入口のうち、どれを使って欲しいかを示す
- 値が小さいほど優先
COMMUNITIES
- 経路にタグを付けて、グループ管理
- 柔軟なポリシー適用が可能
これらの属性を組み合わせることで、非常に高度なトラフィック制御が実現できます。
IPアドレス空間の管理
自律システムのもう1つの重要な役割が、IPアドレス空間の管理です。
IPアドレス空間とは?
IPアドレス空間とは、そのASが管理・使用しているIPアドレスの範囲のことです。
例:
- 203.0.113.0/24(256個のIPアドレス)
- 2001:db8::/32(IPv6の巨大な範囲)
プレフィックスとは?
ネットワークの世界では、IPアドレスの範囲を「プレフィックス」と呼びます。
表記方法:
- IPアドレス/サブネットマスク長
- 例:192.0.2.0/24
意味:
- 192.0.2.0から192.0.2.255までの256個のアドレス
- /24は、最初の24ビットがネットワーク部分
ASによるIPアドレスのアナウンス
各ASは、BGPを使って自分が持っているIPアドレス空間を「アナウンス(告知)」します。
具体例:
AS-12345が以下のプレフィックスを持っている場合:
203.0.113.0/24
198.51.100.0/24
BGPで全世界に向けて:
「AS-12345は、203.0.113.0/24と198.51.100.0/24を持っています」
とアナウンスします。
これにより、世界中のルーターが:
「203.0.113.5に送りたいデータは、AS-12345に送ればいいんだな」
と分かるわけです。
経路集約(Route Aggregation)
効率化のため、複数の小さなプレフィックスを1つの大きなプレフィックスにまとめることがあります。
例:
元々:
192.0.2.0/25(128個のアドレス)
192.0.2.128/25(128個のアドレス)
集約後:
192.0.2.0/24(256個のアドレス)
メリット:
- BGPテーブルのエントリ数を削減
- ルーティング処理の効率化
- インターネット全体の負荷軽減
実際のインターネットの規模
自律システムとAS番号が、実際にどれくらいの規模で運用されているのか見てみましょう。
AS番号の使用状況
歴史的な推移:
- 1999年:5,000個超
- 2008年後半:30,000個超
- 2010年中頃:35,000個超
- 2012年後半:42,000個超
- 2016年中頃:54,000個超
- 2019年初頭:60,000個超
- 現在:90,000個以上
現在の状況:
世界中で約90,000以上のASNが使用されています。
インターネットの構造
Tier 1プロバイダ
- 世界のインターネットバックボーンを形成
- 他のTier 1と無料でピアリング(相互接続)
- 約10~15社
Tier 2プロバイダ
- 地域ISP、大手ISP
- Tier 1からトランジット購入
- 一部でピアリングも実施
Tier 3プロバイダ
- 地域の小規模ISP
- 上位ISPからのみトランジット購入
この階層構造により、世界中のネットワークが相互接続されています。
BGPのセキュリティ問題
BGPは強力ですが、セキュリティ上の課題もあります。
歴史的な大規模障害
2004年:トルコのTTNet事件
- トルコのISP、TTNetが誤った経路情報をアナウンス
- 「すべてのトラフィックは自分に送って」と誤った広告
- 世界中のインターネットトラフィックが影響を受けた
- 数時間にわたる大規模障害
2008年:パキスタンのYouTubeブロック事件
- パキスタンのISPが国内でYouTubeをブロックしようとした
- 誤ってその経路情報を世界中に広告
- 数時間、世界中でYouTubeにアクセスできなくなった
2019年:ペンシルベニアの小企業事件
- 小さな会社がVerizonネットワークの優先経路になってしまった
- インターネットの大部分が一時的に利用不能に
BGPハイジャック
BGPハイジャックとは、悪意を持って(または誤って)他のASのIPアドレス空間をアナウンスしてしまうことです。
影響:
- トラフィックの傍受
- サービス妨害(DDoS)
- なりすまし
対策技術:
RPKI(Resource Public Key Infrastructure)
- 暗号技術を使って、AS番号とIPアドレスの所有権を証明
- 正当な経路かどうかを検証
ROA(Route Origin Authorization)
- 「このIPアドレス範囲は、このAS番号からのみアナウンスされるべき」という証明書
BGPsec
- BGPメッセージそのものに署名を付ける
- 経路情報の改ざん防止
これらの技術により、BGPのセキュリティは徐々に向上しています。
ASと他の技術との関係
自律システムは、インターネットの様々な技術と密接に関係しています。
IXP(Internet Exchange Point)とAS
IXPは、複数のASが集まって直接トラフィックを交換する場所です。
日本の主要IXP:
- JPIX(Japan Internet Exchange)
- JPNAP(Japan Network Access Point)
- BBIX(Broadband Internet Exchange)
メリット:
- 低レイテンシ(遅延が少ない)
- トランジットコストの削減
- 国内トラフィックを国内で完結
CDNとAS
CDN(Content Delivery Network)事業者は、通常大規模なASを運用しています。
例:
- Cloudflare(AS13335)
- Akamai
- Fastly
これらのCDNは、世界中にサーバーを配置し、複数のIXPにも接続することで、高速なコンテンツ配信を実現しています。
クラウドプロバイダとAS
大手クラウドプロバイダも巨大なASを持っています:
Amazon Web Services
- AS16509(メイン)
- 他にも複数のAS番号
Google Cloud Platform
- AS15169(メイン)
- AS36040、AS36384など
Microsoft Azure
- AS8075(メイン)
- 他にも多数
これらのASは、世界中のデータセンターを結ぶプライベートバックボーンネットワークを構成しています。
ASを使った情報の確認方法
自分や他の組織のAS情報は、公開されているツールで確認できます。
whoisデータベース
WHOISを使うと、AS番号の所有者情報が分かります。
確認方法:
whois -h whois.radb.net AS2516
取得できる情報:
- AS番号
- 組織名
- 連絡先情報
- 登録日
BGPルッキンググラス
BGPルッキンググラスは、実際のBGPテーブルを見られるウェブサービスです。
有名なサイト:
- Route Views Project(http://www.routeviews.org/)
- Hurricane Electric BGP Toolkit(https://bgp.he.net/)
- RIPEstat(https://stat.ripe.net/)
確認できる情報:
- IPアドレスがどのASに属しているか
- AS間の接続関係
- 経路情報の伝播状況
tracerouteでASパスを確認
tracerouteコマンドで、データがどのASを経由しているか確認できます。
実行例:
traceroute -A www.google.com
出力例:
1 [AS????] 192.168.1.1
2 [AS2516] xxx.xxx.xxx.xxx
3 [AS2516] xxx.xxx.xxx.xxx
4 [AS15169] xxx.xxx.xxx.xxx (Google)
各ホップでどのASを経由しているかが分かります。
ASを持つべきか?判断基準
「自分の組織はAS番号を取得すべきか?」と悩む方も多いでしょう。
AS番号が必要なケース
以下の場合、AS番号の取得を検討すべきです:
マルチホーム接続をしたい
- 複数のISPに接続して冗長性を確保
- ISP障害時もサービス継続
独自のルーティングポリシーが必要
- トラフィックの流れを細かく制御したい
- 特定のISPやピア先を優先したい
IXPに参加したい
- IXPでピアリングするにはAS番号が必須
- 国内トラフィックを効率化
グローバルな可視性が欲しい
- 世界中のBGPテーブルに自社が表示される
- ネットワークとしての独立性を示せる
ビジネス要件
- 顧客から要求される
- SLA(Service Level Agreement)の要件
AS番号が不要なケース
以下の場合、AS番号は必要ありません:
単一ISP接続で十分
- 冗長性が不要な小規模組織
- コストを抑えたい
ISPのサービスで代用可能
- ISPが冗長構成を提供
- マネージドサービスで対応
技術的リソースが不足
- BGP運用の専門知識が社内にない
- 24時間365日の監視体制が難しい
小規模ネットワーク
- IPアドレス数が少ない
- トラフィック量が少ない
代替案:プライベートAS + ISPのサポート
AS番号取得の代わりに、以下の方法もあります:
ISPのマネージドBGPサービス
- ISPがBGP設定を代行
- ISPのAS番号を使用
- 技術サポート付き
プライベートAS番号の使用
- ISPとの接続にのみプライベートAS番号を使用
- インターネットからはISPのAS番号が見える
- コストを抑えられる
よくある質問Q&A
自律システムについて、よくある質問をまとめました。
Q1:AS番号がないとインターネットに接続できませんか?
A:いいえ、接続できます。
一般的な企業や家庭のインターネット接続では、AS番号は不要です。
ISPのAS番号の下でインターネットに接続できます。AS番号が必要になるのは、以下のような場合です:
- 複数のISPに接続してBGPを使いたい
- IXPでピアリングしたい
- 独自のルーティングポリシーを持ちたい
Q2:プライベートAS番号は自由に使っていいの?
A:はい、条件付きで自由に使えます。
使用条件:
- インターネット上に流さないこと
- 組織内部、またはISPとの接続でのみ使用
- ISPがフィルタリングして除去する必要がある
プライベートAS番号の範囲:
- 16ビット:64512~65534
- 32ビット:4,200,000,000~4,294,967,294
Q3:AS番号の費用はどのくらいですか?
A:日本の場合、JPNICから取得すると以下の費用がかかります。
初回費用:
- AS番号割り当て契約料:275,000円(税込)
年間費用:
- 維持費が別途必要(IPアドレスの保有状況などによる)
注意点:
- これに加えて、BGP運用のためのネットワーク機器や人件費も必要
- ISP接続費用も通常より高額になる
Q4:16ビットAS番号と32ビットAS番号、どちらを選ぶべき?
A:現在は32ビットAS番号が推奨されます。
理由:
- 16ビット番号は枯渇に近づいている
- 32ビット番号の方が割り当てやすい
- 将来性がある
互換性:
- 最近のルーターは両方に対応
- 32ビット番号でも問題なく運用可能
ただし、古い機器と接続する可能性がある場合は、互換性を確認しましょう。
Q5:BGPの設定は難しいですか?
A:はい、正直に言うと難易度は高いです。
必要な知識:
- TCP/IPの深い理解
- ルーティングプロトコルの知識
- BGP特有の概念(AS_PATH、MED、コミュニティなど)
- セキュリティの知識
必要なスキル:
- ルーター設定の経験
- トラブルシューティング能力
- 24時間365日の監視・対応体制
学習方法:
- ネットワーク資格(CCNP、CCIE)の勉強
- 実機またはシミュレータでの練習
- 専門書や公式ドキュメントの熟読
自信がない場合は、ISPのマネージドサービスを利用するのも賢明な選択です。
Q6:ASの接続関係はどうやって確認できますか?
A:いくつかの公開ツールで確認できます。
Hurricane Electric BGP Toolkit
- URL:https://bgp.he.net/
- AS番号を入力すると、詳細情報が表示される
- 接続しているASのリスト
- アナウンスしているプレフィックス
- グラフ表示
RIPEstat
- URL:https://stat.ripe.net/
- AS番号やIPアドレスの統計情報
- ルーティングの歴史
PeeringDB
- URL:https://www.peeringdb.com/
- IXPでのピアリング情報
- 各ASの接続ポリシー
これらのツールで、インターネットの構造が可視化できます。
Q7:AS番号は返却できますか?
A:はい、返却できます。
AS番号が不要になった場合、取得元(JPNICやAPNIC)に返却申請ができます。
手順:
- 返却申請フォームを提出
- BGPでのアナウンスを停止
- 承認後、正式に返却
注意点:
- 返却しても、費用は返金されない
- 返却後、同じAS番号を再取得することは基本的にできない
使わなくなったAS番号は、インターネット資源の有効活用のため、できるだけ返却しましょう。
まとめ:インターネットを支える縁の下の力持ち
長い記事を読んでいただき、ありがとうございました!
自律システム(AS)は、インターネットの根幹を支える重要な仕組みです。
この記事のポイントをまとめます:
自律システムとは
✅ 単一の管理ポリシーの下で運営されるネットワークの集合
✅ 各ASには固有のAS番号(ASN)が割り当てられる
✅ インターネットは数万のASで構成されている
AS番号
✅ 16ビット(1~65535)と32ビット(0~約43億)の形式がある
✅ IANA → RIR → NIR/LIRの階層構造で管理
✅ 日本ではJPNICまたはAPNICから取得
BGPプロトコル
✅ AS間でルーティング情報を交換するプロトコル
✅ パスベクトル型アルゴリズムを使用
✅ インターネット全体の経路を管理
ASの種類
✅ スタブAS:1つのASにのみ接続
✅ マルチホームAS:複数のASに接続(冗長性)
✅ トランジットAS:他のASの中継も行う(ISP)
取得の判断
✅ マルチホーム接続やIXP参加が必要なら取得を検討
✅ 単一ISPで十分なら不要
✅ 技術力とコストも考慮
普段、何気なく使っているインターネット。その裏側では、世界中の何万ものASが、BGPというプロトコルを使って協調動作しています。
この記事が、インターネットの仕組みを理解する一助になれば幸いです!


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