クトゥルフ神話に登場する邪神たちには、実は複雑な家族関係があることをご存知でしょうか?
「名状しがたきもの」と呼ばれるハスターと、「門にして鍵」の異名を持つヨグ=ソトース。
この二柱の神には、驚くべき血縁関係があるんです。
この記事では、クトゥルフ神話における最強クラスの神々であるハスターとヨグ=ソトースの関係について、その系譜や神話的な意味を分かりやすく解説していきます。
概要

ハスターとヨグ=ソトースの関係を一言で言うと、親子関係にあります。
ヨグ=ソトースが父親、ハスターが息子という位置づけなんですね。この設定を確立したのは、アメリカの作家リン・カーターで、1976年に発表した『陳列室の恐怖』という作品の中で明らかにされました。
ただし、二柱の神は存在としての格が大きく異なります。
| ヨグ=ソトース | ハスター | |
|---|---|---|
| 分類 | 外なる神 | 旧支配者(グレート・オールド・ワン) |
| 司る元素 | 時空そのもの | 風(大気) |
| 異名 | 門にして鍵、全にして一 | 名状しがたきもの、黄衣の王 |
| 関連する場所 | あらゆる次元 | 牡牛座・ヒアデス星団 |
父であるヨグ=ソトースは時間と空間を超越した最強クラスの神ですが、息子のハスターは旧支配者という、いわば「地方の支配者」のような存在。親子でありながら、その力の差は歴然としているんです。
系譜から見る二柱の関係
クトゥルフ神話の神々には、きちんとした家系図が存在します。
この系譜は、創始者H.P.ラヴクラフトが友人への手紙の中で冗談めかして語ったものが元になっているんですね。
神々の家系図
宇宙の始まりから順に見ていくと、次のようになります。
アザトース(盲目にして白痴の神・万物の祖)
↓
無名の霧・闇・ナイアーラトテップ
↓
ヨグ=ソトース(無名の霧から誕生)
↓
ハスター・クトゥルフ・ヴルトゥームなど(異母子たち)
つまり、ハスターから見ると祖父にあたるのがアザトースで、父親がヨグ=ソトースということになります。
ハスターとクトゥルフは兄弟
興味深いのは、ハスターとクトゥルフが異母兄弟だということ。
二柱とも父親はヨグ=ソトースですが、母親が異なるとされています。クトゥルフの場合は、ヌグという神がシュブ=ニグラス(千匹の仔を孕みし森の黒山羊)との間に生まれ、そのヌグが単為生殖でクトゥルフを産んだという複雑な経緯があるんです。
でも、この兄弟仲は最悪。水を司るクトゥルフと風を司るハスターは、宿命的に対立しているとされています。
父ヨグ=ソトースとは何者か
息子ハスターとの関係を理解するために、まず父親について詳しく見てみましょう。
時空を超越した究極の存在
ヨグ=ソトースは、クトゥルフ神話における最強クラスの神です。
「外なる神」の副王として君臨し、過去・現在・未来のすべての時間に同時に存在するという、人間の理解を完全に超えた存在なんですね。
その姿は「虹色に輝く球体の集合体」として描かれることが多く、絶えず形を変えながら玉虫色の光を放っているとされます。
「門にして鍵」の意味
ヨグ=ソトースには「門にして鍵」という異名があります。
これは、他の邪神や旧支配者たちが別の次元から私たちの世界に来るとき、必ずヨグ=ソトースという「門」を通らなければならないという設定から来ているんです。
息子であるハスターも、地球に降臨する際には父の力を借りることになるのかもしれません。
息子ハスターの特徴
では、息子のハスターはどのような存在なのでしょうか。
風を司る旧支配者
ハスターは四大元素のうち「風」を司る神とされています。
「名状しがたきもの」「黄衣の王」などの異名を持ち、その真の姿を見た者はいないと言われるほど謎めいた存在です。黄色い衣をまとった姿で現れることが多いのですが、その衣の下に何があるのかは誰も知らないんですね。
父との違い
父ヨグ=ソトースと比べると、ハスターには以下のような違いがあります。
- 活動範囲が限定的:ヨグ=ソトースがあらゆる時空に存在するのに対し、ハスターは主に牡牛座のヒアデス星団に関連付けられる
- 性格が気まぐれ:父は超越的で感情が読めないが、ハスターは兄弟クトゥルフへの憎悪から人類に協力することもある
- 眷属を従える:バイアクヘーという有翼生物や、イタクァなどの風の精霊を配下に持つ
父親譲りの強大な力を持ちながらも、より「個性的」な性格を持っているのがハスターの特徴と言えるでしょう。
なぜ親子設定が生まれたのか

実は、ハスターとヨグ=ソトースが親子だという設定は、最初からあったわけではありません。
設定の変遷
1891年〜1895年:アンブローズ・ビアスとロバート・W・チェンバースがハスターという名前を創造。この時点では、ヨグ=ソトースとの関係はなかった。
1927年〜1930年:H.P.ラヴクラフトがヨグ=ソトースを創造し、ハスターも自作に取り入れる。ただし、二柱の関係は明示されていなかった。
1939年以降:オーガスト・ダーレスがハスターを旧支配者として体系化。クトゥルフとの対立関係が設定される。
1976年:リン・カーターが『陳列室の恐怖』で、ハスター・クトゥルフ・ヴルトゥームがヨグ=ソトースの異母息子であるという設定を発表。
神話体系を整える試み
リン・カーターがこの親子設定を作った背景には、クトゥルフ神話全体を一つの体系として整理したいという意図がありました。
バラバラに存在していた神々を家系図で結びつけることで、神話としての一貫性と深みを持たせようとしたんですね。ギリシャ神話やエジプト神話のように、神々の間に血縁関係があるほうが、物語として説得力が増すという考え方です。
神話的な意味
ハスターとヨグ=ソトースの親子関係には、神話学的に見ても興味深い意味があります。
超越と限定の対比
父ヨグ=ソトースは「時空を超越した存在」であり、あらゆる場所に偏在しています。
一方、息子ハスターは特定の星域(ヒアデス星団)に結びつけられ、「風」という限定された元素を司っている。
これは、究極の抽象から具体的な現象への降下を表しているとも解釈できます。父が「すべて」であるなら、息子は「その一部」として現れているわけです。
世代間の対立構造
また、ハスターが異母兄弟クトゥルフと対立しているという設定は、神話によくある兄弟間の争いのモチーフを反映しています。
ギリシャ神話のゼウスとポセイドン、日本神話のアマテラスとスサノオなど、兄弟神の対立は世界中の神話に見られるテーマ。クトゥルフ神話もその伝統を受け継いでいるんですね。
まとめ
ハスターとヨグ=ソトースの関係について、ポイントを整理しましょう。
重要なポイント
- ヨグ=ソトースはハスターの父親にあたる
- この設定は1976年にリン・カーターが確立した
- 父は「外なる神」、息子は「旧支配者」と格が異なる
- ハスターとクトゥルフは異母兄弟だが、対立関係にある
- 父は時空を超越し、息子は風の元素を司る
- 複数の作家によって段階的に関係性が構築された
クトゥルフ神話の神々は、一見バラバラに存在しているように見えて、実は複雑な家族関係で結ばれています。
ハスターとヨグ=ソトースの親子関係を知ることで、この壮大な神話世界がより深く理解できるようになるはずです。
もし夜空に牡牛座を見つけたら、そこには風の神ハスターが潜み、その背後には時空を超えた父ヨグ=ソトースの影が広がっている——そんなことを想像してみるのも面白いかもしれませんね。


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