【オーストラリアの水辺に潜む怪物】バンイップとは?その姿・特徴・伝承をやさしく解説!

神話・歴史・伝承

オーストラリアの沼地や川のほとりで、突然「キューン」という不気味な鳴き声が聞こえてきたら、あなたはどうしますか?

現地の先住民アボリジニたちは、その声を聞くと決して水辺に近づこうとしません。

なぜなら、そこには人や動物を襲う恐ろしい怪物「バンイップ」が潜んでいるかもしれないからです。

この記事では、オーストラリア大陸で古くから恐れられてきた謎の水棲獣「バンイップ」について、その姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。


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概要

バンイップ(Bunyip)は、オーストラリア南東部のアボリジニの間で古くから語り継がれてきた伝説上の怪物です。

「バンイップ」という名前は、ビクトリア州のウェンバウェンバ語またはウェルガイア語に由来するとされています。現代のアボリジニの言葉では「悪魔」や「悪霊」を意味することが多いんですね。

この怪物は沼地、ビラボン(三日月湖)、川、水たまりなど、淡水域に潜んでいると信じられてきました。アボリジニたちは見慣れない水辺には近づかないようにしていたそうです。なぜなら、その水の底にバンイップが潜んでいるかもしれないから。

1812年、シドニー・ガゼット紙に「バンイップ」という言葉が初めて文献に登場しました。「黒くてアザラシのような大きな動物で、恐ろしい声を出し、先住民たちを震え上がらせる」と記されています。


姿・見た目

バンイップの姿は、目撃者によって大きく異なるのが特徴です。

実は、目撃報告を分析すると、2つのタイプに分けられることが分かっています。

アザラシ型(目撃例の約60%)

  • 体長:約1.2〜1.8メートル
  • 外見:アザラシや泳ぐ犬に似ている
  • 毛皮:黒または茶色でふさふさしている
  • 頭部:ブルドッグのような丸い頭
  • 特徴:目立つ耳、ヒゲがある、尾はない

長い首型(目撃例の約20%)

  • 体長:約1.5〜4.5メートル
  • 外見:長い首と小さな頭を持つ
  • 毛皮:黒または茶色
  • 頭部:馬やエミューに似ている
  • 特徴:小さな牙、たてがみのある首、馬のような尾

1845年のジーロング・アドバタイザー紙には、さらに奇妙な姿が記録されています。「エミューのような頭と長いくちばし、ワニのような胴体と脚、後ろ足は非常に太く、鋭い爪を持つ」という、まるで複数の動物を合成したような描写なんです。


特徴

バンイップには、いくつかの共通した特徴があります。

生息環境

  • 湖、川、沼地、ビラボンなど淡水域に生息
  • 水陸両棲で、主に水中で暮らす
  • 夜行性で、人目を避ける傾向がある

行動パターン

  • 大きな轟くような鳴き声を出す
  • ヒレやフリッパーで素早く泳ぐ
  • 普段はザリガニなどを食べるとされる

恐れられた理由

アボリジニの伝承では、バンイップは特に女性や子どもを好んで襲うとされていました。水辺に近づきすぎた子どもがバンイップに連れ去られるという話は、子どもたちへの戒めとして語り継がれてきたんですね。

ナリンジェリ族の伝承では、「ムルヤウォンク」という水の精霊として登場します。川から魚を取りすぎた者や、水辺に近づきすぎた子どもを連れ去るという話は、自然との共存や子どもの安全を教える役割も担っていました。


伝承

バンイップにまつわる伝承は数多く残されています。

太古の壁画

バンイップの姿は、アボリジニが描いた古代の壁画にも残されているといわれています。これは、この伝説がヨーロッパ人の入植よりもはるかに古い時代から存在していたことを示しているんですね。

チャリカム・バンイップ

1851年、ビクトリア州アララット近郊のファイアリー・クリーク川岸で、アボリジニがバンイップの輪郭を地面に刻んだ記録があります。伝承によると、このバンイップはアボリジニの男性を殺した後に槍で仕留められたそうです。

当時の記録では、この図は「約10メートルの長さ、幅約3.6メートル」もあったとか。アボリジニたちは1850年代半ばまで毎年この場所を訪れ、輪郭を描き直す習慣があったそうですが、残念ながら現在この図は残っていません。

謎の頭骨事件(1846-1847年)

1846年1月、ニューサウスウェールズ州バルラナルド近郊のマランビジー川岸で、奇妙な頭骨が発見されました。

この頭骨を見たアボリジニたちは口をそろえて「バンイップだ」と言ったそうです。1847年7月、この頭骨はシドニーのオーストラリア博物館で2日間だけ公開され、大勢の人が詰めかけました。シドニー・モーニング・ヘラルド紙によると、多くの来場者が自分もバンイップを見たことがあると語ったといいます。

しかし、専門家の鑑定結果は意外なものでした。自然科学者のW.S.マクレイは「巨大な鳥の骨」と判定。ところが、後の動物学者による再鑑定では「子牛か馬の胎児の変形した頭骨」という結果に。

そして不思議なことに、詳しい分析を行う前に、この頭骨は忽然と姿を消してしまったのです。唯一の物的証拠が消えた理由は、バンイップの正体とともに今も謎のままです。


起源・正体

バンイップの正体については、150年以上にわたってさまざまな説が唱えられてきました。

アザラシ説

1933年、チャールズ・フェナーは「バンイップ神話の起源は、時折マレー川やダーリング川を遡ってくるアザラシではないか」と提唱しました。実際に、内陸部でアザラシが目撃された記録は複数あります。滑らかな毛皮、大きな目、轟くような鳴き声はアザラシの特徴と一致するんですね。

絶滅した大型有袋類の記憶説

1871年、オーストラリア博物館のジョージ・ベネット博士は、バンイップがかつてオーストラリアに生息していた大型有袋類の記憶ではないかと提唱しました。

候補として挙げられているのは以下の動物たちです。

  • ディプロトドン:体長3メートルを超える巨大なウォンバットの仲間
  • ザイゴマトゥルス:大型の草食有袋類
  • パロルケステス:「有袋類のバク」とも呼ばれる動物

アボリジニが先史時代の骨を見つけたとき、それを「バンイップ」と呼んだという記録もあります。

ヒクイドリ説

2017年、カール・ブラントは、アボリジニが南部ヒクイドリ(オーストラリア北部に生息する大型の飛べない鳥)と遭遇した経験がバンイップ伝説を生んだのではないかと提唱しました。1845年の最初の詳細な記述にある「薄青色の巨大な卵」「致命的な爪」「強力な後ろ足」「エミューのような頭」といった特徴は、確かにヒクイドリと一致します。

サンカノゴイ説

湿地に生息する鳥「サンカノゴイ」もバンイップの正体候補の一つです。繁殖期のオスは低く轟くような鳴き声を出すため、「バンイップ・バード」と呼ばれることもあるんですよ。


まとめ

バンイップは、オーストラリアの水辺に潜む謎の怪物として、アボリジニの間で古くから恐れられてきた存在です。

重要なポイント

  • アボリジニの神話に登場する水陸両棲の怪物
  • 「悪魔」「悪霊」を意味する名前を持つ
  • アザラシ型と長い首型の2タイプが目撃されている
  • 女性や子どもを襲うとされ、水辺の危険を教える役割も担った
  • 1847年に発見された頭骨は謎の消失を遂げた
  • 正体はアザラシ、絶滅した大型有袋類、ヒクイドリなど諸説ある

19世紀には目撃情報が相次ぎ、新聞でも大きく取り上げられたバンイップ。その正体は今も解明されていません。

もしオーストラリアの静かな水辺を訪れる機会があったら、耳を澄ませてみてください。もしかしたら、水の底から不気味な鳴き声が聞こえてくるかもしれませんよ。

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