パソコンを紛失したり盗まれたりしたとき、中のデータが見られてしまったら…と考えると怖いですよね。
BitLockerは、Windowsに標準搭載されているディスク暗号化機能です。簡単に言えば、パソコンのハードディスクやSSDの中身を「暗号」に変えてしまう機能のこと。これによって、万が一パソコンを紛失しても、第三者にデータを読み取られる心配がなくなります。
この記事では、BitLockerの基本的な仕組みから、メリット・デメリット、設定時の注意点まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
BitLockerって何?基本をサクッと理解しよう

BitLockerの正体
BitLockerは2006年にWindows Vistaとともに登場した暗号化技術で、それ以降のWindowsに搭載されています。「暗号化」というと難しく聞こえますが、要するに「データを特殊な鍵がないと読めない形に変換する」ということです。
たとえば、ノートパソコンを電車に置き忘れてしまったとしましょう。通常なら、拾った人がハードディスクを取り出して別のパソコンにつなげば、中のデータを見ることができてしまいます。
しかしBitLockerで暗号化されていれば、ハードディスクを取り出しても、中身は意味不明な文字列にしか見えません。正しい「鍵」を持っている本人しか、データを元の状態に戻せないのです。
どんな暗号化方式を使ってるの?
BitLockerは、AES(Advanced Encryption Standard)という暗号化アルゴリズムを使用しており、128ビットまたは256ビットの鍵を利用します。
AESは世界中で使われている信頼性の高い暗号化方式で、銀行のオンラインシステムなどでも採用されているものです。128ビットでも十分に強力ですが、より高いセキュリティを求める場合は256ビットを選ぶこともできます。
TPMって何?BitLockerとの関係は?
BitLockerの説明でよく出てくるのが「TPM(Trusted Platform Module)」という言葉です。
TPMは、暗号化に使う鍵を安全に保管するための専用チップのことで、多くのパソコンのマザーボードに組み込まれています。TPMがあると、BitLockerはより安全に動作します。
具体的には、TPMがパソコンのハードウェアが改ざんされていないかをチェックし、問題がなければ自動的に暗号を解除してくれるのです。これにより、普段使いではパスワード入力などの手間なくパソコンを使えます。
TPMがないパソコンでもBitLockerは使えますが、その場合はUSBメモリに起動キーを保存したり、毎回パスワードを入力したりする必要があります。
どのWindowsで使えるの?エディションによる違い
利用できるWindowsのバージョン
BitLockerは、すべてのWindowsで使えるわけではありません。エディションによって使える機能が異なるので注意が必要です。
BitLocker ドライブ暗号化が使えるエディション
Windows Pro、Enterprise、Educationの各エディションで利用できます。これらのエディションでは、システムドライブ(Cドライブ)だけでなく、Dドライブや外付けHDD、USBメモリなども暗号化可能です。
Windows Homeの場合は?
Windows Homeでは「デバイス暗号化」という機能が利用できます。これはBitLockerの簡易版のようなもので、自動的に暗号化してくれますが、手動での細かい設定はできません。
また、デバイス暗号化はシステムドライブと内蔵の固定ドライブのみが対象で、USBメモリなどの外部ドライブは暗号化されません。
最新のWindows 11での変化
Windows 11のバージョン24H2以降では、Microsoftアカウントでサインインすると、BitLockerが自動的に有効化されるようになりました。これまでは手動で設定する必要がありましたが、新しいバージョンではセキュリティがより強化されています。
ただし、この変更によって「回復キーの管理」がより重要になってきました。後ほど詳しく説明しますが、回復キーを失くすとデータにアクセスできなくなる可能性があるため注意が必要です。
BitLockerのメリット:なぜ使うべきなのか
1. データの盗難・紛失対策になる
最大のメリットは、やはりセキュリティ面です。
ノートパソコンやUSBメモリを紛失したり盗まれたりしても、暗号化されているため第三者がデータにアクセスできません。特に仕事で使うパソコンに顧客情報や機密データが入っている場合、BitLockerは必須級のセキュリティ対策と言えます。
2. Windowsに標準搭載で追加費用ゼロ
市販の暗号化ソフトを購入すると数千円から数万円かかることもありますが、BitLockerはWindowsに最初から入っています。
対応エディションを使っていれば、追加料金なしですぐに使えるのは大きな魅力です。設定も比較的簡単で、初心者でも10分程度で有効化できます。
3. 外付けデバイスも暗号化できる
「BitLocker To Go」という機能を使えば、USBメモリや外付けハードディスクなどの取り外し可能なデバイスも暗号化できます。
持ち運ぶことが多いUSBメモリは紛失リスクが高いため、重要なデータを入れる場合は暗号化しておくと安心です。
4. 普段使いでは意識する必要がない
TPMを搭載したパソコンでBitLockerを有効にすると、普段の使用では暗号化されていることを意識する必要がありません。
パソコンを起動すれば自動的に暗号が解除され、シャットダウンすれば自動的に暗号化されます。手間なくセキュリティを強化できるのは便利ですね。
BitLockerのデメリット・注意点:使う前に知っておきたいこと
1. 回復キーを失くすとデータが取り出せなくなる
これが最も重要な注意点です。
BitLockerの回復キーを紛失すると、暗号化されたデータにアクセスできなくなる可能性があります。回復キーは48桁の数字で構成されており、パソコンに何か問題が起きたときに必要になります。
回復キーが必要になる場面
- パソコンのハードウェアを大きく変更したとき(マザーボード交換など)
- BIOSやUEFIをアップデートしたとき
- TPMに問題が発生したとき
- システムファイルが破損したとき
回復キーはメモ帳や紙に書き写して保管するなど、複数の方法でバックアップを取っておくことが重要です。Microsoftアカウントに保存されている場合は、別のデバイスからアクセスして確認できます。
2. 暗号化中にパソコンの電源を切るのは厳禁
暗号化の実行中にパソコンを強制終了すると、データが破損してパソコンが起動できなくなる可能性があります。
暗号化にはドライブのサイズやデータ量によって数十分から数時間かかることがあります。その間は、できるだけパソコンを安定した電源に接続し、作業中でも構いませんが強制終了は避けましょう。
停電などの不意の電源断に備えて、UPS(無停電電源装置)を使うのも良い対策です。
3. データ復旧が難しくなる
通常、ハードディスクが故障してもデータ復旧業者に依頼すればデータを取り出せることがあります。しかし、BitLockerで暗号化されているとデータ復旧が非常に困難になります。
特に回復キーが分からない場合は、ほぼ復旧不可能です。だからこそ、BitLockerを使う場合は定期的なバックアップがより重要になります。
4. 暗号化を解除し忘れると困ることも
システムの復元やパソコンの初期化を行う前には、必ずBitLockerを無効化してから作業を行う必要があります。有効化したまま作業すると、データが取り出せなくなる可能性があるのです。
また、ハードウェアの交換やBIOSの更新を行う場合も、事前にBitLockerを無効化することが推奨されます。
5. 暗号化されたデバイスの共有は手間がかかる
BitLockerで暗号化した外付けデバイスを他人と共有するには、暗号化キーの共有や事前の無効化が必要になります。
頻繁に人とUSBメモリを共有するような使い方には向いていません。セキュリティと利便性はトレードオフの関係にあることを理解しておきましょう。
BitLockerの設定方法:基本的な流れ
ここでは、Windows Pro以上のエディションでBitLockerを有効にする基本的な流れを紹介します。

有効化の手順(概要)
- コントロールパネルを開く
スタートメニューから「コントロールパネル」を検索して開きます。 - BitLocker ドライブ暗号化を選択
「システムとセキュリティ」から「BitLocker ドライブ暗号化」をクリックします。 - 暗号化するドライブを選ぶ
通常はCドライブを選択し、「BitLockerを有効にする」をクリックします。 - 回復キーの保存方法を選択
Microsoftアカウントに保存するか、ファイルとして保存するかを選びます。両方選択してバックアップを取るのが最も安全です。 - 暗号化の範囲を選択
使用済みの領域のみを暗号化するか、ドライブ全体を暗号化するかを選びます。新しいパソコンなら使用済み領域のみで十分ですが、中古パソコンや以前使っていたドライブの場合は全体を暗号化する方が安全です。 - システムチェックと再起動
「BitLockerシステムチェックを実行する」にチェックを入れて「続行」をクリックし、パソコンを再起動します。 - 暗号化の開始
再起動後、バックグラウンドで自動的に暗号化が始まります。暗号化中もパソコンは普通に使えますが、完全に終わるまで電源を切らないように注意しましょう。
無効化の方法
BitLockerを解除したい場合も簡単です。
コントロールパネルから「BitLocker ドライブ暗号化」を開き、対象ドライブの「BitLockerを無効にする」をクリックします。確認画面で再度「BitLockerを無効にする」を選ぶと、暗号化の解除が始まります。
解除にも時間がかかりますが、完了すればドライブは通常の状態に戻ります。
よくある疑問:BitLockerについてのQ&A
Q1. Windows Homeでは本当に使えないの?
完全に使えないわけではありません。Windows Homeには「デバイス暗号化」という機能があり、条件を満たすパソコンなら自動的に暗号化されます。
ただし、手動での細かい設定や外付けデバイスの暗号化はできません。より柔軟な使い方をしたい場合は、Proエディションへのアップグレードやサードパーティ製の暗号化ソフトを検討することになります。
Q2. 暗号化すると動作が遅くなる?
最近のパソコンではほとんど体感できるほどの速度低下はありません。特にTPMを搭載したパソコンでは、暗号化処理が効率的に行われるため、通常の作業で遅さを感じることはまずないでしょう。
さらに2026年以降は、ハードウェアアクセラレーション機能を持つ新しいBitLockerが登場する予定で、より高速で安全な暗号化が可能になります。
Q3. 企業で使う場合の管理は大変?
台数が多い場合、各PCの回復キー管理や暗号化状態の確認が大変になることがあります。
そのため、企業ではMicrosoft Endpoint ManagerやIT資産管理ツールなどを使って、BitLockerの設定や回復キーを一元管理するのが一般的です。個人レベルなら1~2台程度なので、手動管理でも問題ありません。
Q4. 回復キーはどこに保存されている?
Microsoftアカウントに保存した場合、別のデバイスから https://aka.ms/myrecoverykey にアクセスすることで確認できます。
ファイルとして保存した場合は、指定した場所(USBメモリや別のドライブなど)に「BitLocker回復キー」というテキストファイルが作成されます。このファイルは絶対に失くさないよう、複数の場所にバックアップを取っておきましょう。
まとめ:BitLockerで大切なデータを守ろう
BitLockerは、Windows標準の強力なセキュリティ機能です。特にノートパソコンを持ち歩く機会が多い方や、重要なデータを扱う方には必須と言える機能でしょう。
この記事のポイント
- BitLockerはWindowsに標準搭載された暗号化機能で、データの盗難や紛失に備えられる
- Windows Pro、Enterprise、Educationで利用可能(Homeは制限あり)
- TPMチップがあれば、普段使いでは暗号化を意識する必要がない
- 回復キーの管理が最重要で、失くすとデータが取り出せなくなる
- 暗号化中の強制終了は絶対にNG
- 外付けデバイスもBitLocker To Goで暗号化できる
セキュリティ対策は「転ばぬ先の杖」です。データを失ってから後悔しないよう、まだBitLockerを使っていない方は、ぜひこの機会に設定を検討してみてください。
ただし、回復キーのバックアップと定期的なデータバックアップは忘れずに!これさえ守れば、BitLockerは非常に頼もしいセキュリティパートナーになってくれます。

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