「ソニーのヘッドホンに『DSEE Extreme』という機能があるけど、これって何?」
「音質が良くなるって聞いたけど、どういう仕組みなの?」
ソニーの高級ヘッドホンやイヤホンに搭載されている「DSEE Extreme(ディーエスイーイー・エクストリーム)」。音楽好きなら一度は耳にしたことがあるかもしれません。
この記事では、DSEE Extremeの基本から仕組み、使い方、対応機種まで詳しく解説します。
DSEE Extremeとは?基本を理解しよう

まずは、DSEE Extremeの基本的な概念を押さえましょう。
DSEE Extremeの定義
DSEE Extreme(ディーエスイーイー・エクストリーム)とは、ソニーが開発したAI(人工知能)技術を使った音質向上技術です。
正式名称は「Digital Sound Enhancement Engine Extreme」で、日本語に訳すと「デジタルサウンド強化エンジン・エクストリーム」となります。
この技術は、MP3やAACなどの圧縮音源を、AI技術でハイレゾ音源相当の高音質にアップスケーリング(高品質化)する機能です。
どんな問題を解決するの?
音楽ファイルは、スマートフォンやパソコンに保存するとき、ファイルサイズを小さくするために「圧縮」されます。
圧縮による影響:
- ファイルサイズが小さくなる(便利!)
- でも、高音域や微細な音が失われる(音質が劣化)
SpotifyやApple Music、YouTubeなどで聴く音楽も、データ通信量を減らすために圧縮されています。
DSEE Extremeの役割:
圧縮によって失われてしまった音の情報を、AIで予測・補完して、元の音源に近い自然で広がりのある音を再現します。
レストアに例えると
分かりやすく例えるなら、DSEE Extremeは古い写真の「レストア(修復)」に似ています。
古い写真(圧縮音源):
- 色あせている
- 細部がぼやけている
- 一部の情報が失われている
AIによるレストア(DSEE Extreme):
- 失われた色を予測して復元
- ぼやけた部分を鮮明にする
- 元の写真に近い状態に復元
音楽でも同じように、圧縮で失われた「音の細部」をAIが予測して復元するというわけです。
DSEEシリーズの進化
DSEE Extremeは、ソニーが長年開発してきた技術の最新版です。その歴史を見てみましょう。
初代DSEE(2007年〜)
最初のDSEEは、MP3などの圧縮音源を、非圧縮のCD音源並みに改善する技術でした。
主な機能:
- 圧縮で失われた高音域を補完
- 消え際の微小な音を再現
DSEE HX(2013年〜)
DSEE HXでは、「ビット拡張技術」が追加されました。
主な機能:
- CD音質(44.1kHz/16bit)のデータを、ハイレゾ音源相当(最大192kHz/24bit)にアップスケーリング
- より細かい音の表現が可能に
- いくつかの高音域特性パターンを持ち、音源に合わせて最適な処理を選択
搭載製品:
- ウォークマンA30シリーズ(2016年)
- ウォークマンWM1シリーズ(2016年)
- 多数のヘッドホン・イヤホン
DSEE HX(AI技術搭載版)(2018年〜)
2018年のウォークマンA50シリーズから、AI技術が搭載されました。
進化のポイント:
- AIが楽曲のタイプを自動判別
- 楽曲に最適な高音域補正を実施
- より自然で正確な音質向上
DSEE Extreme(2020年〜)
そして2020年、WH-1000XM4ヘッドホンで初めて搭載されたのがDSEE Extremeです。
革新的なポイント:
- ディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)技術を採用
- リアルタイムで曲のタイプを分析
- 楽器やボーカルの特性に合わせて、瞬時に最適なアップスケーリングを実施
- LDACコーデック使用時でも機能する
アップスケーリング性能:
- サンプリング周波数:最大96kHz
- ビット深度:最大24bit
DSEE Ultimate(2020年〜)
スマートフォンのXperia 1 II以降に搭載された、さらに進化したバージョンです。
DSEE Extremeとの違い:
- サンプリング周波数:最大192kHz(Extremeは96kHz)
- ビット深度:24bit(同じ)
- ストリーミングサービスや動画、ゲームにも対応
- 有線ヘッドホンとLDAC対応ワイヤレスヘッドホンの両方で使用可能
搭載製品:
- Xperia 1・5・10シリーズ(2020年以降)
- 一部のウォークマン
DSEE Extremeの仕組み
もう少し詳しく、DSEE Extremeの技術的な仕組みを見ていきましょう。
従来のDSEE HXの弱点
DSEE HXでは、あらかじめ用意されたいくつかの音質特性パターンから、最適なものを選んで処理していました。
問題点:
- ボーカル向けの調整をすると、打楽器の音が弱くなる
- 打楽器向けの調整をすると、ボーカルに不自然さが出る
- 複雑な音楽では、すべての楽器に最適な処理ができない
DSEE Extremeの解決策:AI(DNN)
DSEE Extremeでは、AI技術のディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)を使って、この問題を解決しました。
DNNの働き:
- リアルタイム解析
- 再生中の音楽を瞬時に解析
- ボーカル、ギター、ピアノ、ドラムなど、各楽器の特性を判別
- スペクトル包絡(エンベロープ)の予測
- 音の振幅の外形パターンを無数に予測
- 楽器の演奏方法やボーカルのマイキングによる音の違いを細かく解析
- 動的な最適化
- ボーカルにはボーカル向けのアップスケーリング
- 打楽器には打楽器向けのアップスケーリング
- 曲の中で、瞬時に処理を切り替えながら適用
具体的にどう変わる?
従来のDSEE HX:
「この曲全体を、パターンAで処理しよう」
DSEE Extreme:
「この瞬間はボーカルが中心だからパターンA、次の瞬間はドラムが強いからパターンB、さらに次はギターソロだからパターンC…」というように、曲の中で細かく処理を変更
結果として、ボーカルの声を美しく響かせながら、同時に打楽器の迫力ある立ち上がりも再現できるようになりました。
周波数だけでなく空間も再現
DSEE Extremeは、単に高音域を補完するだけではありません。
追加の処理:
- タイムドメイン(時間軸)の揺らぎや残響をAIで再現
- 観客の歓声やホールの残響音を補強
- 左右だけでなく、前後方向の奥行きも演算的に付加
効果:
ライブ音源やクラシック録音では、ステージの空気感まで蘇ります。まるで「目を閉じると部屋がコンサートホールになる」ような没入感が得られます。
対応機種

DSEE Extremeが使える製品をまとめます。
ヘッドホン
1000Xシリーズ:
- WH-1000XM4(2020年)← DSEE Extreme初搭載
- WH-1000XM5(2022年)
- WF-1000XM4(完全ワイヤレスイヤホン、2021年)
- WF-1000XM5(完全ワイヤレスイヤホン、2023年)
ホームシアターシステム・サウンドバー
- HT-A9(ホームシアターシステム)
- HT-A7000(サウンドバー)
- HT-A5000(サウンドバー)
- HT-A3000(サウンドバー)
スマートフォン(DSEE Ultimate)
Xperiaシリーズには、DSEE Extremeの上位版「DSEE Ultimate」が搭載されています。
対応機種:
- Xperia 1シリーズ(1 II以降、2020年〜)
- Xperia 5シリーズ(5 II以降、2020年〜)
- Xperia 10シリーズ(10 II以降、2020年〜)
ウォークマン
一部の高級ウォークマンには、DSEE HX(AI技術搭載版)またはDSEE Ultimateが搭載されています。
DSEE Ultimate搭載:
- NW-A300シリーズ(2023年)
- NW-ZX700シリーズ(2023年)
DSEE Extremeの使い方
ソニーのヘッドホン・イヤホンでDSEE Extremeを使う方法を説明します。
1. Sony | Headphones Connectアプリをインストール
まず、スマートフォンに専用アプリをインストールします。
ダウンロード:
- iPhone/iPad:App Store
- Android:Google Playストア
検索窓で「Sony Headphones Connect」と検索してインストールしてください。
2. ヘッドホンとスマートフォンを接続
- ヘッドホンまたはイヤホンの電源を入れる
- スマートフォンのBluetooth設定を開く
- ヘッドホンを選択して接続
- Sony | Headphones Connectアプリを起動
3. DSEE Extremeを有効にする
アプリで以下の手順で設定します:
- アプリのホーム画面で「DSEE Extreme」の項目を探す
- スイッチをONにする
- 「自動(Auto)」または「有効(Enable)」を選択
推奨設定:
- 自動(Auto):音源の種類やビットレートを検知して、自動的にON/OFFを切り替えます。320kbps以上の高音質な音源では処理を緩めるため、バッテリーを節約できます。
- 有効(Enable):常にDSEE Extremeを適用します。
4. イコライザーとの併用
最新のファームウェアでは、DSEE Extremeとイコライザーを同時に使用できます。
注意点:
- 両方をONにすると、バッテリー消費が増えます
- アプリで警告メッセージが表示されます
バッテリー消費への影響
DSEE Extremeは、AIプロセッサを常時動作させるため、バッテリーに負荷がかかります。
実際の消費量
WH-1000XM5の場合:
- ノイズキャンセリングON + DSEE Extreme OFF:約34時間
- ノイズキャンセリングON + DSEE Extreme ON:約30時間
- 差:約4時間(約12%の減少)
WF-1000XM5の場合:
- DSEE Extreme OFF:最長8時間
- DSEE Extreme ON:最長7時間
- 差:約1時間(約12%の減少)
実使用では約5〜15%の追加消費が目安です。
バッテリーを長持ちさせるコツ
- 「自動(Auto)」設定を使う
- 320kbps以上の高音質音源では自動的に処理を緩める
- 体感差が小さいまま省電力化
- 音質優先→接続安定優先に切り替える
- Bluetooth送信ビットレートが下がる
- AI演算量が減少して最大5%の省電力化
- ストリーミング品質を「標準」に設定
- 必要に応じてDSEE Extremeが働く
- 高音質音源では処理を緩める
- スタンバイタイマーを設定
- 30分設定にすると、未操作時に自動でDSEEを含む全処理が休止
- LDACの代わりにAACを使う
- LDAC(990kbps)+ DSEE Extremeは最も電力を消費
- 外出先ではAACに切り替えると再生時間を稼げる
DSEE Extremeが効果的なシーン

どんな場面でDSEE Extremeが活躍するのかを紹介します。
1. ストリーミングサービス
効果的な場合:
- Spotify(320kbps以下の音質設定)
- YouTube Music
- Amazon Music(HD以外)
- Apple Music(ロスレス以外)
これらのサービスは、データ通信量を減らすために圧縮されているため、DSEE Extremeの恩恵を受けやすいです。
2. 古い音源・低ビットレートのMP3
効果的な場合:
- 昔ダウンロードした128kbps〜320kbpsのMP3
- 古いCDからリッピングした音源
- ポッドキャスト
- オーディオブック
圧縮率が高いほど、DSEE Extremeの効果が実感しやすくなります。
3. ライブ音源
DSEE Extremeは、観客の歓声やホールの残響音を補強します。
効果:
- ライブの臨場感が増す
- コンサートホールの空気感を再現
- 前後方向の奥行きも感じられる
4. クラシック音楽
オーケストラの演奏では、多数の楽器が同時に鳴っています。
効果:
- 各楽器の音を分離して再現
- ホールの残響が美しく響く
- ステージの空間を感じられる
5. 効果が薄い場合
以下のような場合は、DSEE Extremeの効果が小さいか、ほとんど感じられません:
- すでに高音質な音源(320kbps以上、ロスレス音源)
- ハイレゾ音源(そもそも圧縮されていない)
- FLACやALACなどの可逆圧縮音源
これらの場合は、DSEE ExtremeをOFFにするか、「自動(Auto)」設定にしておくのがおすすめです。
よくある質問
Q. DSEE ExtremeとDSEE Ultimateの違いは?
A. 主な違いは以下の通りです:
DSEE Extreme:
- 搭載製品:ヘッドホン、イヤホン、ホームシアター
- サンプリング周波数:最大96kHz
- ビット深度:最大24bit
- Bluetooth接続のみで動作
DSEE Ultimate:
- 搭載製品:Xperia、一部のウォークマン
- サンプリング周波数:最大192kHz
- ビット深度:最大24bit
- 有線接続とLDAC接続の両方で動作
- ストリーミング、動画、ゲームにも対応
基本的な技術は同じですが、Ultimateの方がより高度な処理が可能です。
Q. DSEE ExtremeとDSEE HXの違いは?
A. 最大の違いは、AI技術の進化です:
DSEE HX:
- あらかじめ用意された複数のパターンから最適なものを選択
- 曲全体に対して1つのパターンを適用
- AIは搭載されていないか、シンプルなAI
DSEE Extreme:
- ディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)を使用
- 曲の中で瞬時にパターンを切り替えながら適用
- より自然で正確な音質向上が可能
Q. DSEE Extremeをオンにしても違いが分からない
A. 以下の理由が考えられます:
- 音源がすでに高音質
- 320kbps以上のビットレート
- ロスレスやハイレゾ音源
→ 補完できる情報が少ないため、変化が小さい
- ヘッドホンやイヤホンの性能
- 音質が良くないヘッドホンでは、細かい違いが分かりにくい
- ハイレゾ対応ヘッドホンで聴くと違いが分かりやすい
- 聴取環境
- 騒音が多い場所では違いが分かりにくい
- 静かな場所で集中して聴くと違いが分かる
- 音源の種類
- シンプルな音楽(ボーカルのみなど)では違いが小さい
- 複雑な音楽(オーケストラ、ライブ音源)では違いが大きい
Q. 常にONにしておくべき?
A. 状況によります:
ONがおすすめ:
- ストリーミングサービスで音楽を聴く
- 低ビットレートのMP3を聴く
- 自宅などバッテリーを気にしない場所
OFFがおすすめ:
- すでに高音質な音源を聴く
- バッテリーを節約したい
- 外出先で長時間使用する
「自動(Auto)」がおすすめ:
- いろいろな音質の音源を聴く
- バッテリーと音質のバランスを取りたい
Q. DSEE ExtremeとLDACは併用できる?
A. はい、WH-1000XM4以降のモデルでは併用できます。
ただし、両方をONにすると最も電力を消費します。バッテリーを長持ちさせたい場合は、AACコーデックに切り替えることを検討してください。
Q. 有線接続時にDSEE Extremeは使える?
A. いいえ、DSEE Extremeは有線接続時には動作しません(Bluetooth接続専用)。
有線接続時に音質向上技術を使いたい場合は:
- Xperiaの場合:DSEE Ultimateが使える
- ウォークマンの場合:DSEE HXまたはDSEE Ultimateが使える
- ヘッドホン単体の場合:使えない
Q. すべてのコーデックで使える?
A. DSEE Extremeは、以下のBluetoothコーデックで使用できます:
- SBC
- AAC
- LDAC
ただし、製品によっては対応コーデックが異なる場合があります。
Q. DSEE Extremeは音を「作り出している」の?それとも「復元している」の?
A. どちらも正解です。正確には「予測して補完している」と言えます。
圧縮で失われた情報は完全には復元できませんが、AIが「元の音はこうだったはず」と予測して、それに近い音を生成します。
完全に元の音と同じにはなりませんが、圧縮音源よりもはるかに自然で豊かな音になります。
Q. DSEE Extremeを使うと音が不自然になることはある?
A. 基本的には自然な音質向上を目指していますが、以下の場合に不自然に感じることがあります:
- 極端に低ビットレートの音源(64kbps以下など)
- ノイズが多い音源
- 特殊な音響効果が施された音源
このような場合は、DSEE ExtremeをOFFにするか、「自動(Auto)」に設定すると良いでしょう。
Q. Windowsパソコンで使える?
A. ヘッドホンに搭載されたDSEE Extremeは、Bluetooth接続であればWindowsパソコンでも使えます。
ただし、設定にはスマートフォンの「Sony | Headphones Connect」アプリが必要です。
Q. 音楽以外(動画、ゲーム)にも効果がある?
A. ヘッドホン搭載のDSEE Extremeは、音楽以外にも効果があります:
- YouTube動画
- Netflix、Amazon Prime Videoなどの動画配信
- ゲーム
- 通話
ただし、Xperiaの「DSEE Ultimate」の方が、動画やゲームにより最適化されています。
まとめ
DSEE Extremeは、ソニーが長年開発してきた音質向上技術の最新版です。
DSEE Extremeのポイント:
- AI(ディープ・ニューラル・ネットワーク)技術を使った音質向上
- 圧縮で失われた高音域や微細な音を予測・補完
- リアルタイムで曲を解析し、楽器ごとに最適な処理を適用
- サンプリング周波数96kHz、ビット深度24bitまでアップスケーリング
- ライブ音源では空間の奥行きや残響も再現
- バッテリー消費は約5〜15%増加
対応製品:
- WH-1000XM4/XM5(ヘッドホン)
- WF-1000XM4/XM5(完全ワイヤレスイヤホン)
- 一部のホームシアターシステム・サウンドバー
- Xperiaシリーズ(DSEE Ultimate)
- 一部のウォークマン(DSEE Ultimate)
効果的なシーン:
- ストリーミングサービス
- 低〜中ビットレートのMP3
- ライブ音源
- クラシック音楽
- ポッドキャスト
おすすめの使い方:
- 「自動(Auto)」設定にしておく
- 高音質音源を聴くときはOFFまたは自動
- バッテリーを節約したいときはOFF
DSEE Extremeは、日常的に聴いている音楽をより高音質で楽しめる便利な機能です。特にストリーミングサービスを使っている方には、ぜひ試していただきたい技術です。
Sony | Headphones Connectアプリで簡単にON/OFFできるので、音源に合わせて使い分けてみてください!

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