誰もいないはずの空き家から、物音が聞こえてきたら…あなたはどうしますか?
樺太(からふと)のアイヌの人々にとって、それは単なる気のせいではなかったかもしれません。
空き家には、毛むくじゃらの恐ろしい妖怪が住み着いているという言い伝えがあったのです。
この記事では、アイヌに伝わる凶暴な妖怪「オハチヱ」について、その不気味な姿や伝承を詳しくご紹介します。
概要
オハチヱは、樺太アイヌの人々に伝わる妖怪です。
その名前は「空き家の番人」という意味を持っています。
なぜ「空き家」なのかというと、アイヌの人々の暮らしが深く関係しているんです。
狩猟や漁を生業としていた樺太アイヌは、季節によって住む場所を移動していました。春から秋にかけては海辺の夏村で魚を取り、秋の終わりには山側の冬村へと移り住む生活を送っていたんですね。
つまり、一時的に誰もいなくなる空き家が生まれるわけです。
オハチヱは、そうした人のいなくなった家に無断で忍び込んで住み着くという、なんとも厄介な存在として恐れられてきました。
オハチヱの外見的特徴
- 体全体:毛むくじゃらで覆われている
- 顔つき:老人(爺)のような姿
- 服装:魚の皮で作った粗末な衣を着ている
- 武器:切れ味抜群の刀を持っている
魚皮の衣というのは、北方アジアの一部の民族が実際に作っていた伝統的な衣服なんです。鮭などの皮をなめして縫い合わせたもので、防水性に優れていたとされています。
性格は非常に凶暴で、その鋭い刀を使って多くの人や家畜を殺傷したという恐ろしい話が、樺太各地に伝わっています。
伝承
動作を真似する不気味な習性
オハチヱには、凶暴さとは別に奇妙な特徴があります。
それは、出会った人間の動作を何でも真似するという習性なんです。
たとえば、こんな話が伝わっています。
ある人がオハチヱと遭遇したとき、煙草を吸ってみせました。するとオハチヱも同じように煙草を吸う仕草をしたそうです。
さらに「煙〜ッ」と言いながら灰皿を叩いて灰を落とすと、オハチヱもまったく同じ動作を繰り返したのだとか。
人間ではないのに、人間の動きをそっくり真似るという点が、かえって不気味さを際立たせているんですね。
襲われたらどうなる?
もしオハチヱに立ち向かおうとしたら、どうなるのでしょうか?
伝承によると、オハチヱが持つ刀は恐ろしく切れ味が良く、襲いかかった人間はたちまち切り刻まれてしまうといいます。
ある話では、オハチヱに襲われた人が、なんとか別の体で逃げ出したという不思議な言い伝えも残っています。
空き家に何かがいる感覚
興味深いことに、ロシアにも「誰もいない風呂場に現れる妖怪」の伝承があるそうです。
オハチヱがこうした系統の存在なのかは分かりませんが、「空き家には何かがいる」という感覚は、洋の東西を問わず人々の心に共通して存在するものなのかもしれません。
まとめ
オハチヱは、樺太アイヌの季節移動という生活様式から生まれた、独特の妖怪です。
重要なポイント
- 名前の意味は「空き家の番人」
- 樺太アイヌの人々に伝わる妖怪
- 全身毛むくじゃらで、老人のような姿をしている
- 魚皮で作った衣を身にまとっている
- 切れ味鋭い刀を持ち、人畜を殺傷する凶暴な性格
- 人間の動作を何でも真似するという不思議な習性がある
- 季節移動で空いた家に勝手に住み着く
空き家を見ると、なんとなく不気味な気配を感じることがありますよね。
もしかしたらその感覚は、遠い昔から人々が抱いてきた本能的な恐怖なのかもしれません。


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