会社でたくさんのパソコンにOfficeをインストールしなければならない――そんな状況に直面したことはありませんか?
1台ずつ手作業でインストールしていたら、何時間もかかってしまいますよね。しかも、WordとExcelだけインストールしたい、日本語版が欲しい、といった細かい要望に応えるのも大変です。
そこで役立つのが「Office展開ツール(ODT)」です。このツールを使えば、Officeのインストールを細かくカスタマイズして、効率的に展開できます。
この記事では、Office展開ツールの基本から使い方、設定方法までを、初心者の方にも分かりやすく解説します。IT管理者の方はもちろん、これから複数台にOfficeをインストールする予定がある方も、ぜひ参考にしてください。
Office展開ツール(ODT)とは?

ODTの基本
Office展開ツール(ODT)は、「Office Deployment Tool」の略称です。
簡単に言うと、Microsoft 365 AppsやOffice 2019、Office 2021などを、コマンドライン(文字入力)でダウンロードしてインストールできるツールのこと。
通常のインストール方法と違って、以下のような細かい設定ができるんです。
ODTでできること:
- インストールするアプリを選択(WordとExcelだけ、など)
- 言語の選択(日本語版、英語版など)
- ビット数の指定(32ビット版、64ビット版)
- 更新チャネルの設定(最新版か安定版か)
- 複数台への一括インストール
- インストール画面の表示/非表示
ODTが必要な場面
ODTは、主に以下のような状況で使われます。
こんな時にODTが役立つ:
- 会社で複数台のパソコンにOfficeをインストールする
- 「WordとExcelだけ」など特定のアプリだけ入れたい
- すでに入っている古いOfficeを削除しながら新しいOfficeを入れたい
- オフライン環境(インターネットに繋がっていない環境)でインストールしたい
- インストール設定を統一して管理したい
個人で1台だけインストールするなら、通常の方法で十分です。でも、複数台や特殊な設定が必要な場合は、ODTが強力な味方になります。
ODTの構成と仕組み
ODTは、主に2つのファイルで動きます。
1. setup.exe
これが実際にインストールを実行するプログラムファイルです。
コマンドプロンプト(黒い画面)から、このファイルを実行してOfficeをダウンロードしたりインストールしたりします。
2. configuration.xml
設定ファイルです。XML形式(テキストファイルの一種)で、インストールの詳細を記述します。
設定ファイルに書く内容:
- インストールする製品(Microsoft 365 Apps、Office 2021など)
- インストールするアプリ(Word、Excel、PowerPointなど)
- 言語(日本語、英語など)
- ビット数(32ビット、64ビット)
- 更新方法
- インストール画面の表示設定
この2つを組み合わせて、自分の好きなようにOfficeをインストールできるわけですね。
Office展開ツールのダウンロード方法
まずは、ODTを入手しましょう。
手順1:Microsoft公式サイトにアクセス
以下のMicrosoft公式サイトからダウンロードできます。
ダウンロードURL:
https://www.microsoft.com/en-us/download/details.aspx?id=49117
注意:
ODTは英語版のみの提供です。ただし、インストールされるOfficeは設定ファイルで指定した言語になるので、日本語版Officeもインストールできます。
手順2:ダウンロードと実行
- ダウンロードページで「Download」をクリック
- ダウンロードした実行ファイル(.exe)をダブルクリック
- ライセンス条項が表示されるので、チェックを入れて「Continue」をクリック
- ファイルの保存先を選ぶ(例:C:\ODT)
- 「OK」をクリック
手順3:ファイルの確認
指定したフォルダに、以下のファイルが展開されます。
主なファイル:
- setup.exe:実行ファイル
- configuration-Office365-x64.xml:Microsoft 365 Apps(64ビット)用テンプレート
- configuration-Office365-x86.xml:Microsoft 365 Apps(32ビット)用テンプレート
- configuration-Office2021Enterprise.xml:Office 2021用テンプレート
- その他のテンプレートファイル
これらのテンプレートファイルを参考にして、自分用の設定ファイルを作成します。
設定ファイル(configuration.xml)の作成
ODTの核心部分である設定ファイルを作りましょう。
方法1:Office Customization Toolを使う(推奨)
Microsoftが提供する公式のウェブツールを使えば、GUIで簡単に設定ファイルを作れます。
Office Customization Tool:
https://config.office.com/deploymentsettings
使い方:
- 上記URLにアクセス
- インストールしたいOffice製品を選択
- 言語を選択(日本語など)
- インストールするアプリを選択(Wordだけ、Excelだけ、など)
- 更新チャネルを選択
- その他の設定を行う
- 「エクスポート」ボタンで設定ファイル(.xml)をダウンロード
この方法なら、XMLの知識がなくても簡単に設定ファイルを作れます。
方法2:テンプレートを編集する
展開されたテンプレートファイルを、メモ帳などのテキストエディタで開いて編集する方法もあります。
編集手順:
- configuration-Office365-x64.xmlを右クリック
- 「プログラムから開く」→「メモ帳」を選択
- 必要な部分を編集
- 名前をつけて保存(例:MyOffice.xml)
設定ファイルの記述例
以下は、基本的な設定ファイルの例です。
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
<Display Level="None" AcceptEULA="TRUE" />
</Configuration>
この設定の意味:
- OfficeClientEdition=”64″:64ビット版をインストール
- Channel=”Current”:最新チャネル(最新版)を使用
- Product ID=”O365ProPlusRetail”:Microsoft 365 Appsをインストール
- Language ID=”ja-jp”:日本語版
- Display Level=”None”:インストール画面を表示しない
- AcceptEULA=”TRUE”:ライセンス条項に自動で同意
主な設定項目の解説

設定ファイルで指定できる項目を詳しく見ていきましょう。
OfficeClientEdition(ビット数)
設定値:
- “64”:64ビット版
- “32”:32ビット版
どちらを選ぶ?
- パソコンのメモリが4GB以上なら、基本的に64ビット版がおすすめ
- 古いアドインを使う必要がある場合は32ビット版
Channel(更新チャネル)
更新チャネルは、Officeの更新頻度を決める設定です。
主なチャネル:
- Current:最新チャネル(毎月更新、新機能がすぐ使える)
- MonthlyEnterprise:月次エンタープライズチャネル(毎月更新、安定性重視)
- SemiAnnual:半期エンタープライズチャネル(年2回更新、最も安定)
どれを選ぶ?
- 常に最新機能を使いたい:Current
- 安定性を重視したい:SemiAnnual
- バランスを取りたい:MonthlyEnterprise
Product ID(製品)
インストールする製品を指定します。
主な製品ID:
- O365ProPlusRetail:Microsoft 365 Apps(旧Office 365 ProPlus)
- ProPlus2021Volume:Office LTSC Professional Plus 2021
- VisioProRetail:Visio
- ProjectProRetail:Project
Language ID(言語)
インストールする言語を指定します。
主な言語ID:
- ja-jp:日本語
- en-us:英語(米国)
- zh-cn:中国語(簡体字)
複数の言語を同時にインストールすることもできます。
ExcludeApp(除外するアプリ)
特定のアプリをインストールしたくない場合に使います。
例:OneNoteを除外する
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
<ExcludeApp ID="OneNote" />
</Product>
除外できるアプリID:
- Access
- Excel
- OneNote
- Outlook
- PowerPoint
- Publisher
- Teams
- Word
Display Level(画面表示)
インストール中の画面表示を制御します。
設定値:
- None:何も表示しない(サイレントインストール)
- Full:通常の画面を表示
AcceptEULA(ライセンス条項)
ライセンス条項への同意を自動化します。
設定値:
- TRUE:自動で同意
- FALSE:ユーザーに表示して同意を求める
Officeのダウンロード手順
設定ファイルができたら、まずOfficeのインストールファイルをダウンロードします。
手順1:コマンドプロンプトを開く
- スタートメニューで「cmd」と検索
- 「コマンドプロンプト」を右クリック
- 「管理者として実行」を選択
手順2:ODTのフォルダに移動
コマンドプロンプトで、ODTを展開したフォルダに移動します。
cd C:\ODT
(フォルダのパスは、自分が保存した場所に置き換えてください)
手順3:ダウンロードコマンドを実行
以下のコマンドを入力します。
setup.exe /download configuration.xml
説明:
- setup.exe:実行ファイル名
- /download:ダウンロードモードで実行
- configuration.xml:設定ファイル名(自分がつけた名前に置き換える)
手順4:ダウンロード完了を確認
コマンドを実行すると、ODTのフォルダ内に「Office」というフォルダが作成され、その中にインストールファイルがダウンロードされます。
所要時間:
インターネット速度によりますが、5分~1時間程度かかります。
Officeのインストール手順
ダウンロードが完了したら、インストールを実行します。
手順1:コマンドプロンプトで実行
先ほどと同じように、管理者権限でコマンドプロンプトを開き、ODTフォルダに移動します。
手順2:インストールコマンドを実行
以下のコマンドを入力します。
setup.exe /configure configuration.xml
説明:
- setup.exe:実行ファイル名
- /configure:インストールモード(構成モード)で実行
- configuration.xml:設定ファイル名
手順3:インストール完了を待つ
設定で画面表示を「Full」にしている場合は、インストール画面が表示されます。
「None」に設定している場合は、バックグラウンドで静かにインストールが進みます。
手順4:完了確認
インストールが完了すると、コマンドプロンプトに「正常に構成された製品」と表示されます。
スタートメニューから、WordやExcelが起動できるか確認してみましょう。
複数台への展開方法
ODTの真価は、複数台のパソコンへの一括展開で発揮されます。
方法1:ネットワーク共有フォルダを使う
- ダウンロードした「Office」フォルダとODTを、ネットワーク上の共有フォルダに配置
- 各パソコンから、共有フォルダ上のsetup.exeを実行
例:
\\server\share\ODT\setup.exe /configure \\server\share\ODT\configuration.xml
方法2:グループポリシーを使う
Active Directoryのグループポリシーを使えば、ドメインに参加している全パソコンに自動でインストールできます。
手順概要:
- グループポリシー管理エディタを開く
- スタートアップスクリプトにODTのコマンドを追加
- パソコンを再起動すると自動でインストールされる
方法3:バッチファイルを作る
バッチファイル(.bat)を作成して、ダブルクリックするだけでインストールできるようにする方法もあります。
install.bat の例:
@echo off
cd /d %~dp0
setup.exe /configure configuration.xml
pause
このファイルをODTと同じフォルダに保存して、右クリック→「管理者として実行」すればインストールが始まります。
トラブルシューティング
よくあるトラブルと解決方法をまとめました。
エラー:「アクセスが拒否されました」
原因:
管理者権限でコマンドプロンプトを実行していない
解決方法:
コマンドプロンプトを「管理者として実行」で開き直す
エラー:インストールが途中で止まる
原因:
インターネット接続が不安定、または古いバージョンのODTを使っている
解決方法:
- 最新版のODTをダウンロードし直す
- ファイアウォールやセキュリティソフトを一時的に無効化
- %temp%フォルダ内のログファイルを確認
設定ファイルが正しく読み込まれない
原因:
XMLの構文エラー
解決方法:
- Office Customization Toolで作り直す
- メモ帳で開いて、全角スペースや記号がないか確認
- サンプルファイルと比較して、タグの閉じ忘れがないかチェック
言語パックがダウンロードできない
原因:
ネットワーク帯域の問題、または指定した言語が対応していない
解決方法:
- Fallback属性を設定して、バックアップ言語を指定
- AllowCdnFallBack=”True”を追加して、CDNからのダウンロードを許可
既存のOfficeと競合する
原因:
古いOfficeが残っている
解決方法:
設定ファイルに以下を追加して、古いOfficeを自動削除
<RemoveMSI All="TRUE" />
応用的な使い方
特定のアプリだけをインストール
WordとExcelだけをインストールする例:
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
<ExcludeApp ID="Access" />
<ExcludeApp ID="OneNote" />
<ExcludeApp ID="Outlook" />
<ExcludeApp ID="PowerPoint" />
<ExcludeApp ID="Publisher" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
既存のOfficeを残したまま追加インストール
VisioやProjectを既存のOfficeに追加する場合は、以下のように設定します。
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="VisioProRetail">
<Language ID="MatchInstalled" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
Language ID=”MatchInstalled”で、既存のOfficeと同じ言語が自動選択されます。
オフライン環境へのインストール
インターネットに接続できないパソコンにインストールする場合:
- インターネットに接続できるパソコンでOfficeをダウンロード
- 「Office」フォルダとODTをUSBメモリなどにコピー
- オフラインのパソコンでUSBメモリから実行
よくある質問
ODTは誰でも使えますか?
はい、無料で誰でも使えます。ただし、Officeのライセンスは別途必要です。
ODTで個人版のMicrosoft 365もインストールできる?
できます。Product IDを「O365HomePremRetail」などに設定すれば、個人向けMicrosoft 365もインストール可能です。
Windows 7でも使えますか?
Office展開ツール自体は使えますが、最新のMicrosoft 365 AppsはWindows 10以降が必要です。
Macでも使えますか?
いいえ、ODTはWindows専用です。Mac版Officeには別のインストール方法があります。
設定ファイルは何度も使い回せる?
はい、一度作った設定ファイルは、何度でも、別のパソコンでも使えます。
組織で標準的な設定を決めて、その設定ファイルを共有するのがおすすめです。
インストール後に設定を変更できる?
できます。設定ファイルを編集して、もう一度setup.exe /configureを実行すれば、設定が更新されます。
まとめ
Office展開ツール(ODT)の使い方を解説しました。
おさらい:
- ODTはMicrosoft公式の無料ツール
- コマンドラインでOfficeをインストールできる
- 設定ファイル(XML)で細かくカスタマイズ可能
- インストールするアプリ、言語、ビット数などを自由に選べる
- 複数台への一括展開に最適
- Office Customization Toolを使えばGUIで簡単に設定できる
基本的な流れ:
- ODTをダウンロード
- 設定ファイルを作成(Office Customization Tool推奨)
setup.exe /downloadでインストールファイルをダウンロードsetup.exe /configureでインストール実行
ODTを使えば、会社や学校での大規模なOffice展開が、驚くほどスムーズになります。最初は少し難しく感じるかもしれませんが、一度設定ファイルを作ってしまえば、後は何度でも使い回せます。
まずはテスト環境で試してから、本番環境に適用するのがおすすめですよ。ぜひチャレンジしてみてください!

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