仏教を守護する8柱の龍神!「八大竜王」とは?その名前・特徴・伝承をやさしく解説

神話・歴史・伝承

お寺の天井に描かれた迫力ある龍の絵を見たことはありませんか?

実は仏教には、釈迦の教えを守る8柱の偉大な龍の王がいるとされています。

彼らは「八大竜王(はちだいりゅうおう)」と呼ばれ、古代インドから伝わる蛇神ナーガが仏教に取り入れられて誕生した存在なんです。

雨を降らせる力を持ち、仏法を守護する神聖な龍たち。その姿は日本各地の寺院で今も大切に祀られています。

この記事では、八大竜王の起源から各竜王の特徴、そして日本での信仰まで詳しくご紹介します。


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八大竜王の概要

八大竜王は、仏教経典『法華経(ほけきょう)』に登場する8柱の龍王のことです。

釈迦が法華経を説いたとき、その教えを聴くために集まった龍の王たちとされています。彼らは仏法を守護する「天龍八部衆(てんりゅうはちぶしゅう)」という護法神グループの一員でもあります。

八大竜王の基本情報

  • 出典:『法華経』序品
  • 役割:仏法の守護、雨や水の支配
  • 姿:人面蛇身(上半身が人間、下半身が蛇)
  • 起源:インド神話の蛇神ナーガ

もともとは古代インドで信仰されていた蛇の神様「ナーガ」がルーツになっています。仏教が中国に伝わる際、ナーガは「龍」と訳され、龍王という神格として定着したのです。


八大竜王の起源と由来

八大竜王のルーツは、インド神話に登場する蛇神「ナーガ」にあります。

ナーガとは?

ナーガは、インドで古くから信仰されてきた蛇の精霊です。コブラを神格化した存在で、水や雨を司る力を持つとされてきました。

ナーガの特徴として、頭が7つある姿で描かれることが多く、地底界「パーターラ」に棲むと信じられていました。

仏教への取り込み

釈迦が悟りを開こうとしたとき、ナーガは彼を守護したと伝えられています。この功績から、ナーガは仏法の守護神として仏教に組み込まれることになりました。

仏教がインドから中国へ伝わる過程で、サンスクリット語の「ナーガラージャ(蛇の王)」は「龍王」と漢訳されます。そしてインドの蛇神は、中国の龍のイメージと融合していったのです。

コブラが生息していない中国では、蛇よりも馴染み深い「龍」という想像上の生き物に置き換えられたというわけですね。


八柱の竜王とその特徴

『法華経』に名前が挙げられている八大竜王を一柱ずつ紹介していきましょう。

1. 難陀竜王(なんだりゅうおう)

「歓喜」を意味する名を持つ龍王

八大竜王の筆頭格とされる存在です。弟の跋難陀とともに護法竜王の上長(リーダー)を務めています。

釈迦が生まれたとき、清らかな水を注いで祝福したのがこの難陀竜王だと伝えられています。

2. 跋難陀竜王(ばつなんだりゅうおう)

難陀の弟にあたる龍王

難陀竜王の弟で、兄とともに釈迦の誕生を祝福しました。兄弟揃って護法竜王として重要な役割を担っています。

3. 娑伽羅竜王(しゃがらりゅうおう)

雨乞いの本尊として信仰される龍王

「海」を意味する名前を持ち、海の龍王として知られています。日本では特に雨乞いの本尊として崇められてきました。

『法華経』の提婆達多品には、娑伽羅竜王の8歳の娘(龍女)が成仏したという有名なエピソードが記されています。この話は、女性でも悟りを開けることを示す重要な説話として知られています。

4. 和修吉竜王(わしゅきつりゅうおう)

多くの頭を持つ龍王

サンスクリット語で「ヴァースキ」と呼ばれる龍王です。複数の頭を持つ姿が特徴的で、インド神話では乳海攪拌(にゅうかいかくはん)という世界創造の神話に登場する重要な存在でもあります。

5. 徳叉迦竜王(とくしゃかりゅうおう)

視線に毒を持つ恐ろしい龍王

和修吉の兄弟とされる龍王です。多くの舌を持ち、その視線には強力な毒があるとされています。

怒りをこめて凝視されると、人も動物も命を落としてしまうという恐ろしい力の持ち主です。

6. 阿那婆達多竜王(あなばだったりゅうおう)

ヒマラヤの聖なる池に棲む龍王

「無熱悩」という意味の名前を持ちます。ヒマラヤ山脈北方にある阿耨達池(あのくだっち)という聖なる池に棲むとされています。

馬の形をした龍で、この池からはインドの四大河川が流れ出ていると伝えられています。

7. 摩那斯竜王(まなしりゅうおう)

徳に優れた龍王

「大身」または「大意」を意味する名前の龍王です。ヒキガエルのような姿をしているとも伝えられ、徳が特に優れていると評されています。

8. 優鉢羅竜王(うはつらりゅうおう)

青い蓮華に由来する龍王

「青蓮華」を意味するウトパラという名を持つ龍王です。美しい青い蓮の花にちなんだ名前からも、気品のある存在であることがうかがえます。


仏教における八大竜王の役割

八大竜王は、仏教の世界観において重要な役割を担っています。

仏法の守護者

八大竜王は「天龍八部衆」の一員として、仏法を外敵から守る護法神です。

天龍八部衆とは、天・龍・夜叉・乾闘婆・阿修羅・迦楼羅・緊那羅・摩睺羅伽の8種族のこと。龍はこの中でも特に重要な存在として位置づけられています。

雨と水の支配

龍王たちは雨を降らせる力を持っています。ただし、その力は無制限ではありません。

多くの伝承では、龍王は玉皇大帝(天帝)の命令に従って雨を降らせているとされています。勝手に雨を降らせると罰を受けることもあったようです。

釈迦との関わり

八大竜王と釈迦の関係は深いものがあります。

  • 誕生時:難陀・跋難陀が清らかな水を注いで祝福
  • 修行時:悟りを開く際に龍王が守護
  • 成道時:7日間の暴風雨から釈迦を守った
  • 入滅時:仏舎利(遺骨)を納める塔を守護

このように、釈迦の生涯の節目には常に龍王が関わっていたのです。


日本における八大竜王信仰

八大竜王は日本でも古くから信仰されてきました。

雨乞いの神様として

日本では農耕が生活の中心だった時代、雨は非常に重要でした。そのため、雨を司る八大竜王は雨乞いの神様として各地で祀られるようになります。

平安時代、空海(弘法大師)が神泉苑で祈りを捧げ、善女龍王を呼んで雨を降らせたという逸話は特に有名です。

祀られている主な場所

八大竜王を祀る寺社は日本各地に存在します。

  • 竹生島(滋賀県)
  • 和泉葛城山八大龍王神社(大阪府)

これらの場所では、現在も八大竜王への信仰が続いています。

密教との結びつき

真言宗や天台宗などの密教では、八大竜王は請雨経法(しょううきょうほう)という雨乞いの儀式で重要な役割を果たします。

請雨経曼荼羅には八大竜王が描かれ、旱魃(かんばつ)のときに雨を祈願する修法が行われてきました。


まとめ

八大竜王は、古代インドの蛇神ナーガを起源とする仏教の護法神です。

重要なポイント

  • 『法華経』に登場する8柱の龍王
  • インド神話の蛇神ナーガが仏教に取り入れられた存在
  • 天龍八部衆の一員として仏法を守護
  • 雨や水を司る力を持つ
  • 日本では雨乞いの神様として信仰されてきた
  • 難陀・跋難陀・娑伽羅・和修吉・徳叉迦・阿那婆達多・摩那斯・優鉢羅の8柱

お寺で龍の絵を見かけたら、それは仏教を守る八大竜王の姿かもしれません。古代インドから日本まで、長い歴史を経て伝えられてきた龍王たちの存在に、ぜひ思いを馳せてみてください。

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