中国の神話に登場する竜といえば、青竜を思い浮かべる人が多いかもしれません。
でも実は、その青竜よりもさらに格上の竜がいることをご存知でしょうか?
それが、東西南北を守る四神の中心に位置し、「四竜の長」とも呼ばれる「黄竜(こうりゅう)」です。
黄色く輝くこの竜は、皇帝の権威を象徴し、その出現は国家にとって大変めでたい吉兆とされてきました。
この記事では、中国神話における最高位の霊獣「黄竜」について、その姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

黄竜(こうりゅう)は、中国の伝承や五行思想に登場する黄色い竜です。
中国語では「黄龍(ホアンロン/Huánglóng)」と呼ばれ、古くから神聖な霊獣として崇められてきました。
四神(青竜・朱雀・白虎・玄武)が東西南北を守護するのに対して、黄竜は「中央」を守る存在として位置づけられています。
『瑞応記』という古い書物では「黄龍は神の精にして、四龍の長なり」と記されており、数ある竜の中でも最高位に位置する特別な存在なのです。
また、黄竜は瑞獣(ずいじゅう)と呼ばれる縁起の良い動物の一種でもあり、その出現は国が栄える前兆として大変喜ばれました。
姿・見た目
黄竜の姿は、基本的には中国の竜と同じ特徴を持っています。
ただし、その名の通り体の色が黄色(または黄金色)をしているのが最大の特徴です。
一説では、単なる黄色ではなく、まばゆいばかりの黄金に輝く姿だったともいわれています。
黄竜の外見的特徴
- 体色: 黄色または黄金色
- 体形: 蛇のように長い胴体
- 四肢: 4本の足を持つ
- 鱗(うろこ): 全身を覆う
- 髭(ひげ): 口元に長い髭を蓄える
中国の竜は「九似(きゅうじ)」といって、9種類の動物の特徴を併せ持つとされています。ラクダの頭、鹿の角、牛の耳、蛇の首、魚の鱗、鷹の爪、虎の掌などを組み合わせた姿で、黄竜もこうした特徴を備えていると考えられます。
特徴

黄竜には、ほかの竜とは異なる特別な性質があります。
五行思想における位置づけ
中国には「五行思想」という考え方があります。
これは、世界のあらゆるものが「木・火・土・金・水」の5つの要素から成り立っているという思想のことです。
五行では、黄色は「土」の要素に対応します。そして土に割り当てられた方角は「中央」です。
だから黄竜は、四神が守る東西南北の真ん中に位置し、すべてを統べる存在として考えられていました。
四神との関係
有名な四神(青竜・朱雀・白虎・玄武)は、それぞれ東西南北を守護する聖獣です。
四神と黄竜の方位
- 青竜(せいりゅう): 東
- 朱雀(すざく): 南
- 白虎(びゃっこ): 西
- 玄武(げんぶ): 北
- 黄竜(こうりゅう): 中央
また、四神が春夏秋冬の季節を表すのに対し、黄竜は各季節の変わり目にあたる「土用(どよう)」を象徴するとされています。
土用といえば「土用の丑の日」でおなじみですが、実は夏だけでなく各季節にあるのですね。
伝承
黄竜にまつわる伝承はいくつか残されています。
黄帝と黄竜
中国神話に登場する伝説の帝王「黄帝(こうてい)」は、黄竜と深い関わりを持っています。
伝説によると、黄帝の母である附宝(ふほう)は、北斗七星の周りを回る黄色い光を見て身ごもったといいます。そして24ヶ月もの妊娠期間を経て黄帝が誕生しました。
また、黄帝は生涯を終える際に黄竜の姿となって天に昇ったとも伝えられています。
中国人が自らを「竜の子孫」と呼ぶことがありますが、これは黄帝を祖先とする考えに由来しているのです。
伏羲と黄竜
もう一人の伝説的な帝王「伏羲(ふくぎ)」にも黄竜は現れています。
角のない状態で洛河(らくが)から姿を現し、伏羲に文字の基礎となる要素を教えたという伝承が残されています。
瑞獣としての出現
古代中国では、黄竜のような瑞獣が現れると国を挙げての慶事とされました。
実際に、黄竜が出現したことを記念して「黄龍」という元号に改元されたこともあったほどです。
日本でも黄竜は吉兆の獣として知られており、宇多天皇(887年即位)のときに黄竜が出現したと伝えられています。
応竜との関係
黄竜を語るうえで欠かせないのが、「応竜(おうりゅう)」との関係です。
応竜は、古代中国の書物『山海経』に登場する翼を持った竜で、黄帝に仕えていたとされています。
『述異記』という書物には、竜の成長過程についてこう記されています。
竜の成長過程
- 水に住む蝮(まむし)が500年で蛟(みずち)になる
- 蛟が1000年で竜になる
- 竜が500年で角竜になる
- 角竜が1000年で応竜になる
- 年老いた応竜は黄竜と呼ばれる
つまり、黄竜は竜の最終形態であり、数千年もの時を経て到達する究極の姿なのかもしれません。
麒麟との関係
興味深いことに、黄竜は「麒麟(きりん)」と入れ替わることがあります。
四神と中央の霊獣を合わせて「五獣」と呼ぶことがありますが、中央に黄竜を置く説と、麒麟を置く説が存在するのです。
また、時代が下るにつれて黄竜は皇帝の権威を象徴する竜として位置づけられましたが、後に麒麟と置き換えられたり、同一視されるようになったという記録も残っています。
黄竜と麒麟、どちらも最上位の瑞獣として尊ばれてきた点では共通しているといえるでしょう。
まとめ
黄竜は、中国神話において最も格式の高い竜として崇められてきた存在です。
重要なポイント
- 五行思想で「土」を象徴し、中央を守護する竜
- 四神(青竜・朱雀・白虎・玄武)の長として位置づけられる
- 黄帝や伏羲といった伝説の帝王と深い関わりを持つ
- 出現は国家の繁栄を告げる吉兆とされた
- 応竜が年を経て到達する最終形態という説もある
- 麒麟と同一視されることもある
青竜は日本でもよく知られていますが、その上に立つ黄竜の存在を知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
中国の竜文化を理解するうえで、この「中央の守護者」である黄竜は欠かせない存在といえます。


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