応竜と黄竜の違い ― 中国神話が語る二つの霊竜の正体

神話・歴史・伝承

中国の神話には、数えきれないほどの竜が登場します。

その中でも「応竜(おうりゅう)」と「黄竜(こうりゅう)」は、特に重要な存在として古くから語り継がれてきました。

どちらも強大な力を持つ霊獣ですが、「何が違うの?」「同じ竜じゃないの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

実は、この二つの竜には明確な違いがあり、さらに意外な関係性も存在するんです。

この記事では、応竜と黄竜それぞれの特徴や役割、そして両者の違いと関係性について分かりやすくご紹介します。


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概要

応竜と黄竜は、どちらも中国神話における最高位の竜として知られています。

しかし、その性質は大きく異なります。

応竜は翼を持ち、戦いや雨を司る「行動する竜」。古代の神話で英雄たちと共に戦った、いわば「戦士型」の竜なんです。

一方の黄竜は、五行思想における中央を守護し、皇帝の権威を象徴する「存在そのものが尊い竜」。こちらは「象徴型」といえるでしょう。

興味深いことに、古い文献には「年老いた応竜は黄竜と呼ばれる」という記述もあり、両者には深いつながりがあることが分かります。


応竜とは ― 翼を持つ戦いの竜

応竜は、中国最古の地理書『山海経(せんがいきょう)』に登場する伝説の竜です。

四霊(しれい)と呼ばれる四種の霊獣の一つに数えられることもあります。

応竜の姿

応竜の最大の特徴は、翼を持っているという点。

一般的な中国の竜には翼がありませんが、応竜だけは蝙蝠(こうもり)や鷹のような翼を備えています。

応竜の外見的特徴

  • 4本の足を持つ
  • 蝙蝠または鷹のような翼がある
  • 足の指は3本
  • 蛇のような長い体

この翼のおかげで、応竜は天と地を自由に行き来できたとされています。

応竜の能力と役割

応竜には、水を蓄えて雨を降らせる力があります。

古代中国では、農耕に欠かせない雨をもたらす存在として、とても重要視されていました。

応竜が活躍した神話

応竜は、伝説上の帝王・黄帝(こうてい)に仕えた竜として有名です。

黄帝が怪物・蚩尤(しゆう)と戦った際、応竜は嵐を起こして黄帝の軍を助けました。また、古代の英雄・禹(う)が大洪水を治めた時には、尻尾で地面に線を引いて水路を示したという伝説も残っています。

ただし、蚩尤との戦いで殺生を行ったため、応竜は邪気を帯びてしまい、天に戻れなくなってしまいました。以降は中国南方に棲むようになり、そのため南方には雨が多いのだと言い伝えられています。


黄竜とは ― 中央を守る至高の竜

黄竜は、五行思想(ごぎょうしそう)と深く結びついた竜です。

五行思想とは、この世のすべてを「木・火・土・金・水」の五つの要素で説明する中国古来の考え方のこと。黄竜は、このうち「土」の要素を象徴しています。

黄竜の姿と位置づけ

黄竜は、その名の通り黄色い体を持つ竜です。黄金に輝くとする説もあります。

黄竜の位置づけ

  • 五行思想において「土」を象徴
  • 東西南北の中央を守護する
  • 四神(青竜・朱雀・白虎・玄武)の長
  • 春夏秋冬それぞれの「土用」を司る

東の青竜、南の朱雀、西の白虎、北の玄武という四神がそれぞれの方角を守るのに対し、黄竜は中央に位置します。すべての方角の中心、つまり最も重要な場所を守護しているわけですね。

皇帝の象徴としての黄竜

黄竜は、やがて皇帝の権威を象徴する存在となっていきます。

五行思想で「黄」は「土」を表し、「土」は中央を意味するため、天下の中心に立つ皇帝にふさわしい色とされました。

実際に、黄竜が出現したことを記念して「黄龍」と改元された時代もあります。日本でも、宇多天皇(887年即位)の時代に黄竜が現れたという記録が残っているんです。

また、黄竜は伝説の帝王・黄帝の化身ともされています。黄帝は生涯の終わりに黄竜の姿となって天に昇ったという神話があり、中国人が自らを「竜の子孫」と呼ぶのは、この伝説に由来するとも言われています。

後の時代になると、黄竜は麒麟(きりん)と同一視されることも増えていきました。


応竜と黄竜の違い

ここで、両者の違いを整理してみましょう。

外見の違い

項目応竜黄竜
最大の特徴翼を持つ黄色い体
4本(指は3本)一般的な竜と同様
あり(蝙蝠・鷹型)なし

役割の違い

項目応竜黄竜
主な役割戦いの支援、雨を降らせる中央の守護、皇帝の象徴
登場する場面神話の戦闘シーン思想・象徴としての言及
性質行動的・能動的象徴的・概念的

位置づけの違い

  • 応竜:『瑞応記(ずいおうき)』では「四竜の長」とされる。四竜とは青竜(蒼竜)・赤竜・白竜・黒竜のこと。
  • 黄竜:同じく『瑞応記』で「神の精、四龍の長」と記される。四神(青竜・朱雀・白虎・玄武)の中心的存在。

つまり、応竜は「竜族の中でのトップ」、黄竜は「四方を守る神獣たちの中心」という、少し異なる意味での「長」なんですね。


両者の意外な関係 ― 応竜が黄竜になる?

実は、応竜と黄竜には興味深い関係があります。

南朝時代の書物『述異記(じゅついき)』には、竜の成長段階について次のように記されています。

竜の成長過程

  1. 水に棲む虺(き)※小さな蛇 → 500年で蛟(こう)に
  2. 蛟 → 1000年で竜に
  3. 竜 → 500年で角竜(かくりゅう)に
  4. 角竜 → 1000年で応竜に
  5. 年老いた応竜 → 黄竜と呼ばれる

この記述によれば、応竜は竜の成長の最終段階であり、その応竜がさらに年を重ねると黄竜になるというわけです。

ただし、この説はあくまで『述異記』に見られるもので、すべての文献で共通しているわけではありません。

『瑞応記』のように、黄竜を「神の精」として応竜とは別の存在として記す文献もあります。また、黄竜を黄帝の化身とする伝承では、応竜との関係性は語られていません。

このように、応竜と黄竜の関係は文献によって異なる解釈が存在するんです。


まとめ

応竜と黄竜は、どちらも中国神話における最高位の竜ですが、その性質は大きく異なります。

応竜の特徴

  • 翼を持つ唯一の竜
  • 黄帝や禹を助けた「戦士」
  • 雨を司り、具体的な神話に登場する
  • 四竜(青・赤・白・黒)の長

黄竜の特徴

  • 黄色い体を持つ
  • 五行思想で中央を守護
  • 皇帝の権威の象徴
  • 四神(青竜・朱雀・白虎・玄武)の長
  • 黄帝の化身ともされる

両者の関係

  • 『述異記』では「年老いた応竜が黄竜になる」とされる
  • ただし、別の存在として記す文献も多い

応竜が「行動する英雄的な竜」なら、黄竜は「存在そのものが権威を示す竜」。

どちらも中国の人々にとって、畏敬の念を抱く特別な存在だったことは間違いありません。

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