熱帯雨林の奥深く、木々の間を素早く駆け抜ける小さな人影を見たことはありますか?
インドネシアのスマトラ島では、何世紀にもわたって「背の低い人」の目撃談が語り継がれてきました。現地の人々が恐れ、そして尊重してきたこの謎の生物は、科学者たちをも魅了し続けています。
この記事では、スマトラ島に棲むとされる小型の獣人「オラン・ペンデク」について、その不思議な姿や習性、数々の目撃談を詳しくご紹介します。
概要

オラン・ペンデク(Orang Pendek)は、インドネシアのスマトラ島に生息するとされる未確認動物です。
現地の言葉で「背の低い人」を意味するこの名前が示すとおり、人間よりもずっと小さな体を持つ獣人として知られています。
最も古い記録では13世紀から目撃談が残されており、700年以上も前から人々に目撃されてきた存在なんですね。特に、スマトラ島中央部のケリンチ・セブラット国立公園周辺での目撃例が多く報告されています。
この国立公園は、赤道から南へわずか2度の位置にあり、世界でも最も手つかずの熱帯雨林が広がる地域です。低地の熱帯雨林から、インドネシア第二の高峰ケリンチ山の火山性高地まで、多様な環境を持つこの場所が、オラン・ペンデクの生息地だと考えられています。
姿・見た目
オラン・ペンデクの見た目は、小さな類人猿のような姿をしているんです。
オラン・ペンデクの外見的特徴
体格
- 身長:80cm~1.5m程度
- 体型:樽のような、ずんぐりとした体形
- 腹部:大きめでがっしりしている
体毛と顔
- 体色:茶色、灰色、または褐色の体毛で全身が覆われている
- 頭髪:顔の周りに長く垂れ下がったたてがみのような髪の毛
- 体毛の長さ:比較的短い
手足
- 腕:脚部に比べて長い
- 足:幅広で短い形状
- 足跡:長さ約20cm、指は4本並んでおり、親指は足の側面から直角に出ている
目撃者たちの証言によると、顔つきは決して醜くはなく、むしろ穏やかな印象を与えるそうです。オランウータンやテナガザルに似ているという声もありますが、後述するように生活様式が大きく異なります。
特徴

オラン・ペンデクには、他の類人猿とは違う独特の特徴があります。
生活様式の特徴
地上生活を送る獣人
オラン・ペンデクの最大の特徴は、地上で生活しているということなんです。
スマトラ島に生息するオランウータンやテナガザルは主に木の上で生活しますが、オラン・ペンデクは地面を二足歩行で移動します。目撃者の証言では、後ろ足で地面を蹴って素早く走り去る姿が報告されています。
この習性の違いが、オラン・ペンデクが既知の類人猿とは別種である可能性を示す重要な証拠となっているんですね。
食性と好物
オラン・ペンデクは雑食性で、さまざまなものを食べます。
主な食料
- 果実(特にドリアンを好む)
- 若い芽や草(パフールと呼ばれる草を好む)
- 軟体動物
- 昆虫
- ヘビ
時には農場に現れて、バナナやサトウキビを食い荒らすこともあるそうです。ドリアンは強い甘みを持つ果物で、「果物の王様」とも呼ばれています。
性格と行動
臆病だが力持ち
オラン・ペンデクの性格は、一言で言えば「臆病」です。人間と遭遇すると、すぐに逃げ出してしまいます。
しかし、食べ物を得るためには驚くべき力を発揮するんです。
- 岩をひっくり返す
- 巨木を移動させる
- 木々を倒すほどの力
小さな体からは想像できないほどの怪力を持っているため、油断して近づくと危険かもしれません。
伝承

オラン・ペンデクの目撃談は、現代まで続いています。
先住民族の伝説
スク・アナク・ダラムの言い伝え
スマトラ島の熱帯雨林で伝統的な生活を送る先住民族、スク・アナク・ダラム(「森の内側の子どもたち」という意味)は、オラン・ペンデクを「ハントゥ・ペンデク(背の低い幽霊)」と呼んでいます。
彼らの伝説によると、ハントゥ・ペンデクは5~6人の集団で旅をし、野生のヤマイモを掘ったり、小さな斧で動物を狩ったりして生活しているそうです。
興味深いことに、先住民族の間では単なる動物ではなく、超自然的な存在や精霊として認識されています。マケカル川沿いでは、祖先がこの生物を知恵で出し抜いた伝説が語り継がれているんですね。
20世紀の科学的調査
1917年:最初の科学的記録
博物学者エドワード・ヤコブソンがオランダからインドネシアに移住した際、スマトラ島の山麓でオラン・ペンデクを目撃しました。
彼はオランダの科学雑誌に『オラン・ペンデク遭遇談』を寄稿し、地元ガイドの証言をもとに「これはオランウータンではない」と結論づけています。オランウータンなら木の枝を伝って逃げるはずが、地面を蹴って逃げたからなんです。
1923年:ファン・ヘールヴァルデンの遭遇
土地測量士のファン・ヘールヴァルデン氏は、調査中に木の枝の上でオラン・ペンデクを目撃しました。
彼の詳細な証言によると、その生物は暗く毛深い体を持ち、髪の毛は肩甲骨あたりまで垂れ下がっていたそうです。「顔は醜くもなく、類人猿のようでもなかった」と述べています。
現代の調査活動
1989~1993年:デボラ・マーティルの調査
イギリスの自然保護派ジャーナリスト、デボラ・マーティルは、約4年間にわたってケリンチ山でオラン・ペンデクの調査を実施しました。
調査開始から3ヶ月後、彼女は36mにもわたって続く足跡を発見し、石膏で型を採取することに成功しました。
そして1993年9月、ついにマーティル自身がオラン・ペンデクを目撃したんです。彼女は興奮気味にこう述べています。
「それはどのような図鑑にも載っていない、どこの動物園にもいない、未知の霊長類だった」
2001年:イギリス科学者チームの調査
イギリスの科学者アンドリュー・サンダーソン、キース・トゥリー、アダム・デイビスの3人が、ガナン・トゥジュ湖周辺を調査しました。
彼らは足跡を発見して石膏で採取し、その様子はイギリスのBBCで放映されて大きな話題となりました。
2003年:DNA鑑定と体毛分析
リチャード・フリーマン率いる調査チームが、足跡だけでなく体毛も採取しました。
アメリカの人類学者トッド・ディッソテルがDNA鑑定を行ったところ、ヒト科のDNAが検出されたんです。
さらに、オーストラリアの法医学者ハンス・ブラーが体毛を分析した結果、既知の霊長類や動物のものとは一致せず、「未知の霊長類」のものだと判定されました。
起源
オラン・ペンデクの正体については、非常に興味深い仮説があります。
ホモ・フローレシエンシスとの関連
小さな古代人類の発見
2003年9月、同じインドネシアのフローレス島の洞窟で、小型の人類の頭蓋骨化石が発見されました。
この古代人類は「ホモ・フローレシエンシス」と名づけられ、次のような特徴を持っていました。
ホモ・フローレシエンシスの特徴
- 身長:約1m
- 脳:小さいが知能は現代人並み
- 技術:高度な石器を製造・使用
- 年代:約2万年以上前に絶滅したとされる
頭蓋骨が人間のものよりひとまわり以上小さく、まさに「小さな人」だったんですね。
エブゴゴ伝説との一致
フローレス島には、「エブゴゴ」と呼ばれる小型の獣人の伝承があります。
驚くべきことに、この伝説では20世紀ごろまで目撃されていたとされているんです。
つまり、こういうことになります:
- ホモ・フローレシエンシス(化石)
- エブゴゴ(フローレス島の伝説)
- オラン・ペンデク(スマトラ島の目撃例)
これらは同じ系統の生物、あるいは古代人類の末裔が現代まで生き延びている可能性を示唆しているんですね。
新種人属の生き残り説
現在、最も有力とされているのが「フローレスマンに近い進化をした新種人属の生き残り説」です。
インドネシアの島々では、オラン・ペンデクやエブゴゴのような小型の獣人の目撃情報や伝説が数多く残されています。これらの島々で独自の進化を遂げた小型人類が、人里離れた熱帯雨林で今も生き延びているのかもしれません。
まとめ
オラン・ペンデクは、スマトラ島の熱帯雨林に潜む謎の獣人です。
重要なポイント
- インドネシアのスマトラ島に生息するとされる未確認動物
- 現地語で「背の低い人」を意味する
- 体長80cm~1.5m、茶色や灰色の体毛に覆われている
- 地上で生活する二足歩行の生物
- 臆病だが驚異的な力を持つ
- 13世紀から目撃記録が続いている
- DNA鑑定でヒト科のDNAが検出された
- ホモ・フローレシエンシスの末裔である可能性が高い
700年以上にわたって目撃され続け、21世紀になってもなお科学者たちを魅了し続けるオラン・ペンデク。スマトラ島の深い熱帯雨林のどこかで、今もひっそりと暮らしているのかもしれませんね。


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