Outlookで繰り返し作業を自動化したい。メール送信の誤送信防止機能を追加したい。こんな要望を実現するのが「マクロ」です。
しかし、Outlookの初期設定ではセキュリティのためマクロが無効になっています。「マクロを実行しようとしてもエラーが出る」「設定方法が分からない」という声をよく聞きます。
この記事では、Outlookでマクロを有効にする具体的な手順から、セキュリティリスクへの対処、実際の活用方法まで、分かりやすく解説していきます。
マクロとは?基本を理解しよう

マクロの定義
マクロとは、Outlookでの操作を自動化するプログラムのことです。
Excelでよく使われる機能ですが、Outlookでも同じようにマクロを活用できます。VBA(Visual Basic for Applications)というプログラミング言語を使って、さまざまな操作を自動実行できるようになります。
マクロでできること
Outlookのマクロを使うと、以下のような便利な機能を追加できます。
メール送信の自動化
定型メールを自動生成し、指定した時間に送信することが可能です。
誤送信防止機能
送信前に宛先や件名を確認するダイアログを表示させられます。
メールの整理・分類
受信メールを自動的に特定のフォルダに振り分けることができるでしょう。
添付ファイルの自動保存
受信した添付ファイルを自動的に指定フォルダへ保存できます。
予定表の管理
定期的な予定を自動登録したり、リマインダーを設定したりすることが可能です。
なぜマクロは初期設定で無効なのか
セキュリティリスクへの対策
Outlookでマクロが初期設定で無効になっているのには、重要な理由があります。
マクロウイルスの存在
過去に、マクロを悪用したウイルスが大流行しました。メールの添付ファイルにマクロウイルスを仕込み、開いただけで感染するという手口です。
ランサムウェアのダウンローダー
最近では、マクロを実行すると外部からランサムウェアをダウンロードするタイプも増えています。このため、Microsoftは安全性を優先してマクロを無効にしているのです。
信頼できるマクロだけを実行
セキュリティリスクがあるとはいえ、業務効率化のためにマクロは非常に便利な機能です。
大切なのは、信頼できるマクロだけを有効にすること。自分で作成したマクロや、信頼できる組織が提供するマクロであれば、適切な設定で安全に使用できます。
開発タブを表示する(事前準備)
マクロを有効にする前に、まず「開発」タブをリボンに表示させる必要があります。
開発タブの表示手順
手順1:オプションを開く
- Outlookを起動
- 画面左上の「ファイル」タブをクリック
- 左メニューから「オプション」を選択
手順2:リボンのユーザー設定を開く
- 「Outlookのオプション」ウィンドウが開く
- 左メニューから「リボンのユーザー設定」をクリック
- 画面右側に「クラシックリボンのユーザー設定」が表示される
手順3:開発タブにチェックを入れる
- 右側のリストから「開発」を探す
- 「開発」の左にあるチェックボックスにチェックを入れる
- 「OK」をクリックして設定を保存
これで、Outlookのリボンに「開発」タブが表示されます。
マクロを有効にする方法
開発タブの表示が完了したら、次はマクロのセキュリティ設定を変更します。
マクロ有効化の手順
手順1:トラストセンターを開く
- 「ファイル」タブをクリック
- 左メニューから「オプション」を選択
- 「Outlookのオプション」の左メニューから「トラストセンター」をクリック
- 右側の「トラストセンターの設定」ボタンをクリック
手順2:マクロの設定を選択
- トラストセンターのウィンドウが開く
- 左メニューから「マクロの設定」をクリック
- 右側に4つのセキュリティレベルが表示される
手順3:適切なセキュリティレベルを選ぶ
目的に応じて以下から選択してください。
「警告を表示せずにすべてのマクロを無効にする」
すべてのマクロが完全に無効になります。マクロを使わない場合はこれを選びましょう。
「警告を表示してすべてのマクロを無効にする」(推奨)
マクロを実行するたびに警告が表示され、その都度許可するか選択できます。初めてマクロを使う方におすすめです。
「デジタル署名されたマクロを除き、すべてのマクロを無効にする」
デジタル署名された信頼できるマクロのみ自動実行されます。企業環境で推奨される設定です。
「すべてのマクロを有効にする」(推奨されない)
すべてのマクロが警告なしで実行されます。セキュリティリスクが高いため、通常は選択しないでください。
手順4:設定を保存
選択したら「OK」をクリックして設定を保存します。
推奨されるセキュリティレベルの選び方
用途別の推奨設定
どのセキュリティレベルを選ぶべきか迷う方のために、用途別の推奨設定を紹介します。
個人で自作マクロを使う場合
「警告を表示してすべてのマクロを無効にする」を選択しましょう。自分で作成したマクロを実行する際、確認メッセージが表示されるため安全です。
企業で管理されたマクロを使う場合
「デジタル署名されたマクロを除き、すべてのマクロを無効にする」が推奨されます。IT部門が提供するデジタル署名付きマクロは自動実行され、それ以外は警告が出るため安全性が高まります。
マクロを頻繁に活用する場合
「すべてのマクロを有効にする」は便利ですが、セキュリティリスクがあります。どうしても必要な場合のみ選択し、ウイルス対策ソフトを必ず最新状態に保ってください。
セキュリティと利便性のバランス
マクロは便利な反面、セキュリティリスクも伴います。
基本方針
- 信頼できないマクロは絶対に実行しない
- 外部から受け取ったマクロは内容を確認してから使用
- ウイルス対策ソフトを常に最新状態に保つ
- 定期的にOSとOfficeをアップデート
この方針を守れば、マクロの利便性を享受しながらセキュリティも確保できるでしょう。
デジタル署名について
セキュリティレベルで「デジタル署名されたマクロ」という言葉が出てきました。これについて詳しく説明します。
デジタル署名とは
デジタル署名とは、マクロの作成者が信頼できることを証明する電子的な証明書のことです。
マクロに署名を付けることで、「このマクロは確かに私が作成したもので、改ざんされていません」と証明できます。
デジタル署名の作成方法
自分で作成したマクロにデジタル署名を付けることもできます。
手順
- 「開発」タブをクリック
- 「Visual Basic」をクリックしてVBAエディタを開く
- メニューバーから「ツール」→「デジタル署名」を選択
- 証明書を選択して「OK」をクリック
デジタル証明書は、Windowsに付属の「SelfCert.exe」というツールで自己署名証明書を作成できます。ただし、自己署名証明書は本人しか信頼できないため、組織内で使用する場合は正式な証明書の取得をおすすめします。
マクロが実行できない場合の対処法

設定を変更してもマクロが動かない場合、以下のトラブルシューティングを試してください。
アドインが無効になっている
「Microsoft VBA for Outlook Addin」というアドインが無効になっていると、マクロが使えません。
確認方法
- 「ファイル」→「情報」をクリック
- 「無効になったCOMアドインの表示」をクリック
- 「Microsoft VBA for Outlook Addin」が表示されたら、設定を展開
- 「次の30日間このアドインの監視を行わない」にチェック
- 「適用」をクリック
この操作で、マクロ実行に必要なアドインが再度有効になります。
新しいOutlookではマクロが使えない
重要な注意点
Windows用の「新しいOutlook」では、現時点でマクロがサポートされていません。マクロを使用する場合は、従来版(クラシック版)のOutlookを使用する必要があります。
確認方法
画面右上に「新しいOutlookを試す」というトグルスイッチがある場合、それがオフ(従来版)になっていることを確認してください。
エラーメッセージが表示される
「このプロジェクト内のマクロは無効になっています」というエラーが出る場合、マクロのセキュリティ設定を再確認しましょう。
また、デジタル署名の検証エラーが出る場合は、署名を一度削除して再度作成することで解決することがあります。
インターネットから入手したマクロの注意点
2022年以降、Microsoftはセキュリティ強化のため、インターネットからダウンロードしたファイルのマクロをブロックするようになりました。
新しいセキュリティ動作
Web のマーク
インターネットからダウンロードしたファイルには「Webのマーク」が自動的に付けられます。このマークが付いているファイルは、マクロが自動的にブロックされます。
表示されるメッセージ
「潜在的に危険なマクロがブロックされました」というセキュリティバナーが表示され、「コンテンツを有効にする」ボタンは表示されません。
ブロック解除の方法
信頼できるファイルの場合、以下の手順でマクロを有効にできます。
手順
- ファイルを右クリックして「プロパティ」を開く
- 「全般」タブの下部に「セキュリティ」セクションがある
- 「ブロックの解除」にチェックを入れる
- 「OK」をクリック
この操作により、Webのマークが削除され、マクロが実行できるようになります。ただし、信頼できるファイルにのみこの操作を行ってください。
信頼できる場所の設定
特定のフォルダに保存されたファイルのマクロを常に有効にする「信頼できる場所」という機能もあります。
設定方法
手順
- 「ファイル」→「オプション」→「トラストセンター」
- 「トラストセンターの設定」をクリック
- 左メニューから「信頼できる場所」を選択
- 「新しい場所の追加」をクリック
- フォルダのパスを入力
- 必要に応じて「この場所のサブフォルダーも信頼する」にチェック
- 「OK」をクリック
重要な注意
信頼できる場所に保存されたファイルは、インターネットから入手したものでも自動的にマクロが実行されます。絶対に信頼できるフォルダのみを指定してください。
マクロの作成と実行
マクロを有効にした後の基本的な使い方を紹介します。
マクロの作成手順
Outlookでは、Excelのような「マクロの記録」機能はありません。VBAエディタで直接コードを記述する必要があります。
手順
- 「開発」タブをクリック
- 「Visual Basic」をクリック
- VBAエディタが開く
- 「ThisOutlookSession」をダブルクリック
- コードを記述
- 「Ctrl + S」で保存
簡単なマクロの例
メッセージボックスを表示する簡単なマクロを紹介します。
Sub TestMacro()
MsgBox "Outlookマクロのテストです"
End Sub
このコードをVBAエディタに貼り付けて保存すれば、最初のマクロが完成です。
マクロの実行方法
VBAエディタから実行
- VBAエディタでマクロを開く
- カーソルをマクロ内に置く
- 「F5」キーを押すか、「実行」ボタンをクリック
Outlookから実行
- 「開発」タブをクリック
- 「マクロ」をクリック
- 実行したいマクロを選択
- 「実行」ボタンをクリック
企業環境での推奨設定
企業でOutlookのマクロを使用する場合、IT部門は以下の点に注意してください。
グループポリシーでの管理
集中管理の利点
グループポリシーを使えば、組織全体のマクロ設定を統一できます。ユーザーごとに設定する手間が省けるでしょう。
推奨設定
- デジタル署名されたマクロのみ許可
- 信頼できる場所を社内ファイルサーバーに限定
- ユーザーによるセキュリティレベル変更を制限
ユーザー教育の重要性
技術的な対策だけでなく、ユーザー教育も重要です。
教育すべき内容
- 身に覚えのないメールの添付ファイルは開かない
- マクロの警告が出たら、安易に有効化しない
- 不審なファイルはIT部門に報告する
これらを徹底することで、マクロウイルスによる被害を大幅に減らせます。
マクロ活用の実践例
実際にマクロを活用すると、どのような業務効率化ができるか紹介します。
例1:誤送信防止マクロ
メール送信前に確認ダイアログを表示するマクロです。
機能
- 宛先に「社外」のドメインが含まれていないか確認
- 件名が空欄でないか確認
- 添付ファイルの有無を確認
このマクロを「Application_ItemSend」イベントに設定すれば、すべてのメール送信時に自動チェックされます。
例2:定型メール自動生成
よく使う定型メールをボタン一つで作成できます。
活用シーン
- 日報や週報の送信
- 会議招集メールの作成
- 定期報告メールの作成
マクロで宛先、件名、本文を自動入力すれば、数秒で完成します。
例3:添付ファイル自動保存
受信した添付ファイルを自動的に指定フォルダへ保存します。
メリット
- 手動保存の手間が省ける
- ファイル命名規則を統一できる
- 保存場所を統一して管理しやすくなる
よくある質問
マクロを無効に戻すには?
トラストセンターの「マクロの設定」で「警告を表示せずにすべてのマクロを無効にする」を選択すれば、マクロが無効になります。
マクロが勝手に無効になることはある?
はい、あります。マクロ実行中にOutlookがクラッシュした場合や、マクロの処理に時間がかかりすぎた場合、安全のため自動的に無効化されることがあります。
Web版やモバイル版でもマクロは使える?
いいえ、使えません。マクロはWindowsまたはMac版のデスクトップアプリケーションでのみ利用可能です。
まとめ:安全にマクロを活用しよう
Outlookのマクロ機能は、業務効率化に大きく貢献する便利なツールです。
この記事のポイント
- 開発タブの表示:リボンのユーザー設定から「開発」にチェック
- マクロの有効化:トラストセンターで適切なセキュリティレベルを選択
- 推奨設定:「警告を表示してすべてのマクロを無効にする」が初心者向け
- セキュリティ対策:信頼できないマクロは実行しない、ウイルス対策ソフトを最新に保つ
- デジタル署名:企業環境では署名付きマクロの使用を推奨
- 新しいOutlook:現時点ではマクロ非対応、従来版を使用
マクロは確かにセキュリティリスクを伴いますが、適切な設定と運用を行えば安全に活用できます。
自分で作成したマクロや、信頼できる組織が提供するマクロに限定すれば、誤送信防止や定型作業の自動化など、多くのメリットを得られるでしょう。セキュリティと利便性のバランスを取りながら、マクロを上手に活用してください。

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