夜道を歩いていると、目の前に突然、山のように巨大な黒い影が現れたら…あなたはどう感じるでしょうか?
日本全国に伝わる妖怪「大入道(おおにゅうどう)」は、大きな僧の姿をした不気味な存在として、古くから人々に恐れられてきました。
見た者を病気にさせたり、気を失わせたりする恐ろしい妖怪ですが、地域によっては人助けをする優しい一面も持っているんです。
この記事では、全国各地で語り継がれる巨大妖怪「大入道」について、その正体と興味深い伝承を詳しくご紹介します。
概要(大入道ってどんな妖怪なの?)

大入道(おおにゅうどう)は、日本全国に伝わる巨大な妖怪です。
名前の由来は「大きな僧(お坊さん)」という意味なんですが、実は地方によって姿や大きさがまったく違うんですね。
大坊主(おおぼうず)と呼ばれることもあります。
姿・見た目
大入道の見た目は、場所によって本当にバラバラなんです。
大入道の外見パターン
- 僧の姿タイプ:お坊さんのような格好をしている
- 黒い影タイプ:実体がはっきりしない、巨大な真っ黒い影
- 巨人タイプ:僧とは限らず、ただの大きな人間の姿
大きさの違い
- 小型:2メートル程度(人間より少し大きい)
- 中型:4〜8メートル(2階建ての家くらい)
- 大型:15〜18メートル(5〜6階建てのビルくらい)
- 超大型:山を跨ぐほど巨大(数千メートル級)
この大きさの違いは、出現する場所や伝承によるものなんですね。どの大入道も人間よりは大きいのが共通点です。
特徴
大入道には、恐ろしい特徴があります。
主な能力と性質
- 人を脅かす:突然現れて人間を驚かせる
- 病気にする:見た者や睨まれた者が病気になったり、気を失ったりする
- 不吉な存在:災いの前兆として現れることがある
正体は何なの?
実は、大入道の正体については色々な説があるんです。
- 動物が化けたもの:イタチ、カワウソ、狐、狸、鵺(ぬえ)など
- 石塔が化けたもの:古い石塔に霊が宿った
- 人間の霊:戦死した兵士や自殺した人の霊が化けた
- 正体不明:何なのか分からない場合も多い
多くの場合、その正体は謎のままとされています。
伝承
人を害する大入道
北海道の恐怖の眼差し
嘉永年間(1848年〜1854年)、北海道の支笏湖畔にある不風死岳(ふっぷしだけ)近くのアイヌ集落に大入道が現れました。
この大入道は巨大な目玉で人を睨みつけるのが特徴で、睨まれた人は気が触れたようになり、その場で倒れてしまったそうです。
東京の兵隊大入道
昭和12年(1937年)、日中戦争の最中に起きた不思議な事件があります。
赤羽駅(東京都北区)近くの八幡神社踏切で、召集令状(赤紙)を配りに行った人が兵隊姿の大入道に襲われました。
4日後、その人は同じ場所で変死体となって発見されたんです。
この大入道の正体は、自殺した工兵隊の新兵の霊とか、上官に撲殺された兵士の霊だと噂されました。
不思議なことに、その周辺では召集令状を受け取った人は誰もいなかったそうです。
滋賀県・伊吹山の巨大大入道
江戸時代、滋賀県の伊吹山で目撃された大入道は、特に巨大だったことで知られています。
ある秋の夜、大雨と地震のような揺れの後、野原から山のように巨大な大入道が現れました。
体の左右に松明(たいまつ)のような明かりを灯して、ずんずんと山頂に向かって歩いていったそうです。
翌朝、山頂まで続く道の草が全て焼け焦げていました。
村の古老によると、この大入道は明神湖から伊吹山の山頂まで歩いていったとのことです。
人を助ける大入道
すべての大入道が恐ろしいわけではありません。中には人助けをする優しいタイプもいるんです。
徳島県の働き者大入道
徳島県名西郡石井町(旧・阿波国高川原村)に現れた大入道は、身長約8.5メートルもありましたが、とても働き者でした。
小川の水車に米などを置いておくと、夜中に大入道が現れて米を搗いて(ついて)くれたそうです。
ただし、作業中の姿を見ようとすると脅かされてしまうというルールがありました。
つまり、姿を見なければ親切に手伝ってくれる、ちょっと恥ずかしがり屋な大入道だったんですね。
動物が化けた大入道
岩手県のイタチ大入道
岩手県紫波郡(現・矢巾町)の高伝寺に、毎晩怪火と恐ろしい大入道が現れるようになりました。
村人たちは「狐か狸の仕業だろう」と噂していましたが、ある冬の朝、雪に残った足跡を追うと、古いイタチの巣が見つかりました。
巣の中から年老いた大きなイタチを捕らえて退治すると、その夜から大入道は現れなくなったそうです。
宮城県のカワウソ大入道
仙台市の荒巻伊勢堂山(現・青葉区)に、夜ごと唸り声を発する大岩がありました。
さらに、その岩が雲に届くほどの大入道に化けるという噂が広まったんです。
家来たちが調査に行きましたが、誰も青ざめて帰ってくるばかり。
そこで藩主の伊達政宗自ら退治に向かい、弓矢で大入道の足元を射ると、断末魔の叫びとともに消えました。
岩のそばには子牛ほどもある巨大なカワウソが倒れており、これが大入道の正体だったのです。
以来、この坂は「唸坂(うなりざか)」と呼ばれるようになりました。
富山県の七色大入道
富山県の黒部峡谷にある鐘釣温泉では、16体もの大入道が現れて湯治客を驚かせました。
身長は約15〜18メートルで、七色の美しい後光が差していたそうです。
この正体について、温泉の湯気に映った湯治客の影(ブロッケン現象)だという説もあります。
三重県・四日市祭の大入道
三重県四日市市では、毎年10月の諏訪神社の祭礼「四日市祭」で、大入道の巨大なからくり人形が登場します。
この人形は首が伸縮して前に曲がる仕組みになっていて、身の丈3.9メートル、伸びる首の長さは2.2メートルもあるんです。
民話によると、昔、醤油屋の蔵に住み着いた古い狸が大入道に化けて人々を脅かしていました。
困った村人たちは大入道の人形を作って対抗しましたが、狸はもっと大きく化けてしまいます。
そこで人形の首が伸縮する仕掛けを作り、狸との大入道対決で首を長く伸ばして見せると、狸は降参して逃げていったそうです。
現在、この大入道山車は三重県の有形民俗文化財に指定されており、四日市市のシンボルキャラクターになっています。
まとめ
大入道は、日本全国で語り継がれる巨大な妖怪です。
重要なポイント
- 全国各地に伝わる巨大な妖怪で、地域によって姿や大きさが大きく異なる
- 大きな僧の姿が基本だが、黒い影や単なる巨人のこともある
- サイズは2メートル程度から山のように巨大なものまで様々
- 人を脅かしたり、見た者を病気にする恐ろしい存在
- 正体は動物(イタチ、カワウソ、狐狸)や人間の霊、石塔など諸説ある
- 中には人助けをする優しい大入道もいる
- 三重県四日市市の祭礼では今も大入道が親しまれている
もし夜道で巨大な影を見かけたら、それは大入道かもしれません。でも、地域によっては親切に手伝ってくれる優しい大入道の可能性もありますから、一概に恐れる必要はないかもしれませんね。


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