ある日、浜辺を歩いていたら、見たこともない巨大な肉の塊が打ち上げられていたら、あなたはどう思うでしょうか?
1988年、バミューダ諸島の浜辺に、そんな不気味な「何か」が流れ着きました。
科学者たちも頭を悩ませ、巨大ダコの死骸なのか、それとも未知の生物なのか、さまざまな憶測が飛び交ったのです。
この記事では、浜辺に漂着した謎の肉塊「バミューダのブロブ」について、その発見から正体の解明まで詳しくご紹介します。
概要

ブロブ(Blob)とは、「正体不明の肉の塊」を意味する言葉です。
バミューダのブロブは、1988年と1997年にバミューダ諸島の浜辺に打ち上げられた、2つの謎の物体を指します。
発見当初は未確認生物(クリプティッド)の死骸ではないかと考えられ、世界中の研究者たちの注目を集めました。科学的な分析が進むにつれて、その正体が徐々に明らかになっていったのです。
こうした謎の肉塊は、世界各地で発見されており、グロブスター(Globster)とも呼ばれています。
1988年の発見
1988年5月、バミューダ諸島のマングローブ湾で最初の事件は起こりました。
浜辺を歩いていた漁師で宝探しでも知られるティー・タッカー(Teddy Tucker)が、奇妙な物体を発見したのです。
発見時の状況
タッカーが発見した物体には、次のような特徴がありました。
発見時の特徴
- 大きさ:約2.4~2.7メートル
- 厚さ:約60~90センチメートル
- 色:非常に白く、繊維質
- 形:5本の腕または脚のような突起がある
- 質感:星型に変形したような不規則な形
タッカーは写真を撮影し、ナイフで組織の一部を切り取って保管しました。切り取る際、この物体は予想外に硬く、かなり苦労したといいます。
不思議なことに、普通の生物の死骸なら強烈なはずの腐敗臭がほとんど感じられなかったのです。
謎を深める特徴
この物体には、科学者たちを困惑させる特徴がいくつもありました。
不可解な点
骨が見当たらない
- 表面を調べても、骨のような硬い組織が混ざっていない
- 通常の海洋動物の死骸とは明らかに異なる構造
腐敗の兆候が少ない
- 海に漂っていたはずなのに、腐敗臭がほとんどしない
- 分解が進んでいないように見える
白く繊維質の組織
- まるで筋肉の繊維が集まったような質感
- これまで見たことのない組織構造
タッカーはこの謎の解明を求めて、サメ研究の世界的権威であるユージーン・クラーク博士(アメリカ・メリーランド大学)に調査を依頼します。
しかし、クラーク博士も独自に調査を試みましたが、正体を特定することはできませんでした。さらに国際標本動物学会にも写真を送って調査を依頼しましたが、すでに物体が捨てられた後の写真だったため、決定的な手がかりは得られなかったのです。
科学的分析の開始

発見から7年後の1995年、保管されていた組織サンプルに対して、ようやく本格的な科学分析が行われました。
最初の分析結果
研究チームは、この組織が変温性の海洋生物(体温が周りの環境温度によって変わる生物)のものである可能性を指摘しました。
候補として挙がったのは次の生物です。
正体候補
- 硬骨魚類:一般的な魚の仲間
- 軟骨魚類:サメやエイの仲間
しかし、これだけでは決定的な証拠とは言えませんでした。真相はまだ霧の中だったのです。
2003年・チリの巨大ブロブ
バミューダでの発見から15年後の2003年、今度はチリのロスムエルモス海岸に、さらに巨大な怪物体が打ち上げられます。
チリのブロブの特徴
この肉塊は、バミューダのものをはるかに上回る大きさでした。
チリのブロブ
- 全長:約12メートル
- 重さ:推定数トン
- 外観:ザトウクジラの死骸に似ている
海洋学者のエルザ・カブレラは、これを「無脊椎動物(背骨を持たない動物)の死骸」と推測しました。
しかし、サンティアゴ自然史博物館の調査チームは、詳しい分析の結果、マッコウクジラの死骸から分離した一部という結論を発表します。クジラの死骸が海中で分解される過程で、脂肪組織などの一部が切り離され、独立した肉塊として漂着したと考えられたのです。
1896年の伝説の怪物
実は、バミューダやチリの事件よりもっと昔、1896年にアメリカのフロリダ州セント・オーガスティンで、似たような事件が起きていました。
セント・オーガスティン・モンスター
この時に発見された怪物体は、当時の科学者によって巨大ダコの死骸と鑑定されたのです。
セント・オーガスティン・モンスターの特徴
- 推定全長:約25メートル(触手を含む)
- 重さ:約5~7トン
- 名前:オクトパス・ギガンテウス(巨大なタコの意味)と命名された
この鑑定結果は、長い間「未発見の巨大ダコが実在する証拠」として語り継がれてきました。
バミューダやチリのブロブとの共通点も多く、一部の研究者は「これらはすべて同じ種類の生物、つまりオクトパス・ギガンテウスの死骸ではないか」と主張したのです。
真相の解明
では、これらのブロブの正体は、本当に未知の巨大生物だったのでしょうか?
遺伝子分析による決着
技術の進歩が、この長年の謎に終止符を打ちました。
以前は利用できなかった高度な遺伝子解析技術を使って、バミューダのブロブを再分析したところ、決定的な証拠が得られたのです。
最終的な結論
- バミューダのブロブ(1988年):クジラの死骸の一部
- バミューダのブロブ(1997年):クジラの大きな脂肪組織の塊
- チリのブロブ(2003年):マッコウクジラの死骸の一部
- セント・オーガスティン・モンスター(1896年):後の再分析でクジラの脂肪組織と判明
つまり、これらはすべてクジラの死骸が分解される過程で生じた組織だったのです。
なぜこんな形になるのか?
クジラが海で死ぬと、その巨大な体は徐々に分解されていきます。
特に皮下脂肪の層(ブラバー)は、非常に厚く丈夫な組織です。骨や内臓が先に分解されても、この脂肪層だけが残って海を漂い、最終的に浜辺に打ち上げられることがあるのです。
ブロブができる仕組み
- クジラが海で死ぬ
- 時間とともに骨や内臓が分解される
- 丈夫な脂肪層だけが残る
- 波や潮流で変形しながら漂流
- 浜辺に打ち上げられる
こうして、元の姿がまったく分からない「謎の肉塊」が誕生するわけです。
巨大ダコ説の否定
セント・オーガスティン・モンスターについても、2004年の再分析で、タコではなくクジラの組織であることが確定しました。
オクトパス・ギガンテウスは存在しなかったのです。
当時の科学技術では正確な鑑定が難しく、研究者たちも未知の生物への期待から、誤った結論に至ってしまったと考えられています。
まとめ
バミューダのブロブは、長年にわたって科学者たちを悩ませた海の謎でした。
重要なポイント
- 1988年と1997年にバミューダ諸島で発見された謎の肉塊
- 発見当初は未確認生物の死骸と考えられた
- 大きさは2~12メートルと巨大
- 白く繊維質で、骨がなく、腐敗臭も少ない
- 1896年のセント・オーガスティン・モンスターとの関連が議論された
- 遺伝子分析の結果、すべてクジラの脂肪組織と判明
- 巨大ダコ「オクトパス・ギガンテウス」は存在しなかった
科学技術の進歩によって、ロマンあふれる謎は解明されてしまいました。しかし、広大な海にはまだまだ私たちが知らない不思議がたくさん眠っているはずです。
次に浜辺で奇妙な何かを見つけたら、それは新たな謎の始まりかもしれませんね。


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