「VPNを使うとインターネットが遅くなる」「VPNをオンにすると特定のアプリが動かない」「複数のVPNが競合してしまう」そんな経験はありませんか?
VPN(Virtual Private Network:仮想専用線)は、インターネット上で安全な通信を行うための便利な技術です。しかし、他のソフトウェアやネットワーク設定と干渉を起こし、思わぬトラブルが発生することがあります。
VPNの干渉問題は、セキュリティソフトとの競合、ネットワーク設定の衝突、複数のVPNアプリの同時使用など、さまざまな原因で起こるんです。
今回は、VPNが引き起こす干渉問題の種類と原因、そして具体的な解決方法を詳しく解説していきます。
VPNの干渉とは?基本を理解しよう

まず、VPNの干渉がどういうものか、基本的な仕組みから理解しましょう。
VPNが通信経路を変更する仕組み
VPNを使うと、あなたのデバイスから送信されるすべての通信が、いったんVPNサーバーを経由するようになります。
通常の通信経路は「あなたのデバイス → インターネット → 目的のサーバー」ですが、VPN使用時は「あなたのデバイス → VPNサーバー → インターネット → 目的のサーバー」となるわけです。
この経路変更が、他のソフトウェアやサービスとの干渉を引き起こす主な原因になります。
干渉が起こる主な理由
VPNは通信全体を管理しようとするため、以下のような干渉が発生しやすくなります:
- ネットワーク設定の競合
- セキュリティソフトとの衝突
- DNSサーバー設定の上書き
- ポート番号の重複
- ファイアウォールルールとの不一致
これらが組み合わさることで、予期しない動作やエラーが発生するんです。
VPNの干渉で起こる代表的な問題
VPNの干渉によって、実際にどんな問題が起こるのか見ていきましょう。
インターネット接続が遅くなる・不安定になる
VPN接続時に通信速度が極端に低下したり、接続が頻繁に切れたりする現象です。
原因:
- VPNサーバーの位置が遠い
- 暗号化処理による負荷
- 他のソフトウェアとの競合で通信が阻害される
特定のウェブサイトやサービスにアクセスできない
VPNをオンにすると、一部のサイトが開けなくなることがあります。
原因:
- VPN使用を検知してアクセスをブロックしている
- DNS設定の競合
- ジオブロック(地域制限)との衝突
社内システムやクラウドサービスに接続できない
会社のVPNと個人用VPNを併用している場合や、特定の業務システムが使えなくなることがあります。
原因:
- 複数のVPNが同時に動作して競合している
- IPアドレス範囲の重複
- ルーティングテーブルの混乱
セキュリティソフトが警告を出す
VPN接続時にウイルス対策ソフトやファイアウォールが警告を表示するケースです。
原因:
- VPNの通信をセキュリティソフトが不審な動きと判断
- ファイアウォールルールとの競合
- SSL証明書の検証エラー
セキュリティソフトとの干渉を解決する
VPNとセキュリティソフトの干渉は、最も頻繁に発生する問題の一つです。
ファイアウォールの例外設定を追加する
多くの場合、VPNアプリをファイアウォールの許可リストに追加することで解決します。
Windows Defenderファイアウォールの場合:
- 設定を開く:Windowsの設定から「プライバシーとセキュリティ」→「Windowsセキュリティ」を選びます
- ファイアウォールを開く:「ファイアウォールとネットワーク保護」をクリックしましょう
- 詳細設定を選択:「ファイアウォールの詳細設定」を開きます
- 受信規則を追加:VPNアプリケーションを許可する規則を作成します
ウイルス対策ソフトの除外設定
ウイルス対策ソフトがVPNの通信をスキャンすることで、速度低下や接続エラーが起こる場合があります。
対処法:
- 除外リストにVPNアプリを追加:ウイルス対策ソフトの設定で、VPNアプリケーションを除外対象に指定します
- ネットワークスキャンを調整:リアルタイム保護の設定で、VPN通信のスキャン強度を下げます
注意点:
セキュリティレベルを下げすぎないよう、必要最小限の除外設定にとどめましょう。
SSL検査機能を無効化する
一部のセキュリティソフトは、SSL/TLS通信を検査する機能を持っています。これがVPNと競合することがあるんです。
VPN使用時のみ、SSL検査を一時的に無効にすることで問題が解決する場合があります。
複数のVPNアプリが競合する場合の対処法
仕事用と個人用で異なるVPNを使っている場合、干渉が発生しやすくなります。
同時に起動しない
最も確実な方法は、複数のVPNアプリを同時に起動しないことです。
ベストプラクティス:
- 使用しないVPNアプリは完全に終了させる
- 自動起動設定を見直す
- 必要な時だけVPNを起動する習慣をつける
ネットワークアダプターの優先順位を設定する
複数のVPNを使い分ける必要がある場合、ネットワークアダプターの優先順位を調整しましょう。
Windowsでの設定方法:
- コントロールパネルを開く:「ネットワークと共有センター」に進みます
- アダプター設定を変更:左側のメニューから選択しましょう
- 詳細設定を開く:メニューバーの「詳細設定」をクリックします
- 優先順位を調整:アダプターの順序を並べ替えて優先度を設定します
スプリットトンネリングを活用する
スプリットトンネリングとは、特定の通信だけVPNを経由させ、それ以外は通常の接続を使う機能のことです。
設定方法(VPNアプリによって異なります):
- VPNアプリの設定を開く:詳細設定またはオプションを確認します
- スプリットトンネリングを有効化:機能がある場合はオンにしましょう
- 除外するアプリを指定:VPNを通さないアプリケーションを選択します
これにより、業務システムは会社のVPN経由、その他は個人用VPN経由、といった使い分けができます。
DNSの競合を解決する

VPN接続時のDNS(Domain Name System:ドメイン名とIPアドレスを変換するシステム)の競合も、よくある問題です。
DNS設定の確認方法
現在使用されているDNSサーバーを確認しましょう。
Windowsの場合:
- コマンドプロンプトを開く:スタートメニューから「cmd」と検索します
- コマンドを実行:
ipconfig /allと入力してEnterを押します - DNS情報を確認:表示された情報からDNSサーバーのアドレスを確認しましょう
DNSリークのチェック
VPN使用中に、本来なら隠されるべきDNS情報が漏れている「DNSリーク」が起きていないか確認します。
確認方法:
- VPNに接続する:使用しているVPNアプリで接続します
- DNSリークテストサイトにアクセス:ブラウザで「DNS leak test」と検索し、テストサイトを開きましょう
- テストを実行:「Start Test」などのボタンをクリックします
- 結果を確認:表示されたDNSサーバーがVPN提供元のものであることを確認します
自分のISP(インターネットサービスプロバイダ)のDNSサーバーが表示された場合、DNSリークが発生しています。
DNS設定を手動で変更する
VPNアプリの設定で、DNS設定を強制的にVPNのDNSサーバーのみを使用するように変更できる場合があります。
一般的な設定手順:
- VPNアプリの設定を開く:詳細設定や接続設定を確認します
- DNS設定を探す:「DNS」「Name Resolution」などの項目を見つけましょう
- 専用DNSを使用する設定に変更:「VPN DNSのみを使用」といったオプションを有効にします
ネットワーク設定の競合を解決する
VPNとローカルネットワークの設定が競合している場合の対処法です。
IPアドレス範囲の重複を避ける
VPNが割り当てるIPアドレスと、ローカルネットワークのIPアドレス範囲が重複していると、接続トラブルが発生します。
一般的な問題例:
- 自宅のルーターが192.168.1.xを使用
- 会社のVPNも192.168.1.xを使用
- この場合、どちらに接続すべきかデバイスが混乱します
解決方法:
ルーターの設定画面にアクセスし、ローカルネットワークのIPアドレス範囲を変更します(例:192.168.1.xから192.168.2.xへ)。
ルーティングテーブルの確認と修正
ルーティングテーブルとは、通信をどの経路で送るかを決めるための情報です。
確認方法(Windows):
route print
このコマンドで、現在のルーティング情報が表示されます。VPNと通常接続で矛盾するルートがないか確認しましょう。
問題がある場合の対処:
専門的な知識が必要になるため、VPNサービスのサポートに相談することをおすすめします。
アプリケーション固有の干渉問題
特定のアプリケーションがVPNと干渉する場合の対処法です。
オンラインゲームとの干渉
VPN使用時にオンラインゲームが接続できなくなることがあります。
原因:
- VPNによる遅延増加
- ゲームがVPN接続を拒否
- ポート転送の問題
対処法:
- ゲームをスプリットトンネリングの除外リストに追加
- VPNサーバーをゲームサーバーに近い場所に変更
- ゲーム時はVPNを無効化する
ビデオ会議アプリとの干渉
ZoomやTeamsなどのビデオ会議アプリがVPN接続時に不安定になることがあります。
対処法:
- スプリットトンネリングで除外:ビデオ会議アプリをVPN経由にしない設定にします
- VPNサーバーを変更:より近いサーバーに接続して遅延を減らしましょう
- プロトコルを変更:UDP接続が可能なVPNプロトコルに変更します
ストリーミングサービスとの干渉
NetflixやAmazon Prime Videoなどが、VPN接続を検知してブロックすることがあります。
対処法:
- ストリーミング対応のVPNサーバーに接続する
- VPNサービスのストリーミング専用サーバーを利用
- 視聴時のみVPNを無効化する(プライバシーとのバランスを考慮)
VPNの設定を最適化する
VPN自体の設定を見直すことで、干渉問題を軽減できます。
接続プロトコルの変更
VPNには複数の接続プロトコルがあり、それぞれ特性が異なります。
主なプロトコル:
- OpenVPN:安定性が高く、ファイアウォールを通過しやすい
- WireGuard:高速で軽量、モダンな設計
- IKEv2/IPsec:モバイル接続に適し、接続の再確立が速い
- L2TP/IPsec:古い標準だが互換性が高い
プロトコルを変更することで、干渉が解消される場合があります。
キルスイッチ機能の調整
キルスイッチとは、VPN接続が切れた時に自動的にインターネット接続を遮断する機能です。
この機能が過敏に反応すると、頻繁に接続が切れてしまうことがあります。
調整方法:
- VPNアプリの設定でキルスイッチの動作を確認
- 必要に応じて一時的に無効化して動作を確認
- 安定性とセキュリティのバランスを考慮して設定
自動接続設定の見直し
VPNが常に自動接続する設定になっていると、不要な干渉を引き起こすことがあります。
推奨設定:
- 必要な時だけVPNを起動する手動接続に変更
- 特定のWi-Fiネットワーク接続時のみ自動接続するよう設定
- 信頼できるネットワークでは自動接続をオフにする
よくある質問とトラブルシューティング
Q1:VPNを使うと特定のサイトだけ開けない
原因と対処法:
VPN接続を検知してアクセスをブロックしているサイトの可能性があります。
- そのサイトだけVPN接続を除外する(スプリットトンネリング)
- 別のVPNサーバーに接続してみる
- VPNが必要ない場合は一時的に無効化する
Q2:VPNとアンチウイルスソフトが競合する
対処手順:
- VPNアプリをアンチウイルスソフトの除外リストに追加
- アンチウイルスソフトのネットワーク保護機能を調整
- それでも解決しない場合は、一方のソフトウェアを別の製品に変更することを検討
Q3:会社のVPNと個人用VPNが同時に必要
推奨される方法:
- スプリットトンネリングを活用して、トラフィックを分ける
- 業務時間と個人時間で使い分ける
- 仮想マシンを使って環境を分離する
同時使用はトラブルの元なので、できるだけ避けましょう。
Q4:VPN接続後にプリンターが使えなくなった
原因:
ローカルネットワーク上のプリンターに、VPN経由ではアクセスできなくなっています。
対処法:
- プリンターのIPアドレスをスプリットトンネリングの除外に追加
- ローカルネットワークトラフィックをVPN経由にしない設定に変更
- VPNアプリの「ローカルネットワークアクセスを許可」設定を有効化
Q5:VPNを切っても問題が続く
VPNの設定が残っている可能性があります。
対処手順:
- VPNアプリを完全に終了:タスクマネージャーからプロセスを確認
- ネットワーク設定をリセット:Windowsの「ネットワークのリセット」機能を使用
- デバイスを再起動:設定を完全にクリアします
- 必要に応じてVPNアプリを再インストール
まとめ
VPNの干渉問題は、原因を特定して適切に対処すれば解決できます。
重要なポイントをおさらいしましょう:
- VPNとセキュリティソフトの干渉は、除外設定で解決できることが多い
- 複数のVPNは同時使用を避け、スプリットトンネリングを活用する
- DNS設定の競合はDNSリークテストで確認できる
- ネットワーク設定の重複を避けることが重要
- 特定アプリの問題はスプリットトンネリングで対処
- VPNプロトコルの変更で干渉が解消される場合がある
VPNは便利なツールですが、正しく設定しないと様々な問題が発生します。
この記事で紹介した方法を順番に試して、自分の環境に合った設定を見つけてください。それでも解決しない場合は、VPNサービスのサポートチームに相談することをおすすめします。適切に設定されたVPNは、安全で快適なインターネット環境を提供してくれますよ!

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